資料 2007年11月1日に最高裁判決がある、
韓国人被爆三菱重工元徴用工被爆者事件

「広島三菱重工元徴用工在韓被爆者訴訟・最高裁における闘い」
2006年2月15日

  闘いの舞台はいよいよ最高裁に移った。
  現在次のような状況にある。

  広島高裁で1人当たり120万円の支払を命じられた国は、その敗訴を不服として最高裁に「上告受理申立」をしている。 そして私たちは、広島高裁が、三菱重工・菱重に対する原告側の請求を認めなかったこと、そして国に対する請求を不十分にしか認めなかったことに対し、 「上告」「上告受理申立」をしている。
  数年前、日本の裁判制度において「上告制度」が大きく変えられた。周知のように日本の裁判制度は三審制であり、1審判決に対し不服があれば「控訴」、 2審判決に不服があれば「上告」である。その上告の場面で「上告受理申立」という新しい手続が定められた。 基本的には「上告」ができるのは2審判決に憲法違反があるとして不服申立する場合に限られ、それ以外は「上告受理申立」として、 いわば最高裁に対し上告を受け入れてもらえるかどうかの「お伺い」を立て、「よし」となれば最高裁で審理をしてもらえる、という制度になったといえる。
  国は、今回の不服申立の理由の中には「憲法違反」との主張を含めていないことから「上告受理申立」としている。 一方私たちは、三菱重工・菱重の責任を認めなかった、そして国の責任について不十分にしか認めなかった広島高裁の判決には憲法違反の点がある、 という主張であり、「上告」と「上告受理申立」という手続きをとっている。

  このように私たちは「上告」と「上告受理申立」をしているが、不十分ではあるが、戦後補償裁判において控訴審で初めて国の責任を認めた広島高裁の判決は、 その点において非常に高く評価している。正に画期的判決であった。従って、国の「上告受理申立」に対してはこれを最高裁に断じて容れさせることなく、 広島高裁の画期的な判決の部分を死守しなければならない。
  あの広島高裁判決から既に1年以上過ぎた今、以下のような状況にある。
  ひとつの課題として「訴訟承継手続」の問題がある。広島高裁の判決がなされた段階で多くの原告の人たちが他界していた。 裁判が最高裁に移るに当たって、その死亡された原告の人たちの立場を誰が引き継ぐか、ということを決めなければならない。 それが「訴訟承継手続」であり、これまで韓国の弁護士の協力も得ながら死亡された原告の方々の相続関係を調査追跡してきた。 今その手続きがようやく完了しつつある。

  次に「上告受理申立」、「上告」についてである。
  私たちの主張内容は、これまで何度となく展開してきたことであり、ここでの繰り返しは省略する。
  問題は国の「上告受理申立」についての展開であろう。
  国は、広島高裁が、402号通達を出すなどして在韓被爆者の人たちの権利を国が不当に侵害してきた、としたことに対し全面的に反論を展開している。 例えば、402号通達は被爆者法の趣旨に反するものではないとか、あるいは国家賠償法により違法とされる場合は極めて限られた場合であるとか、 被爆者法を海外の被爆者に適用しないという見解に基づいて国のとった施策はそれなりの合理性があるのであり賠償責任まで負うものではない、等々の主張である。 これらの点について改めて広島高裁判決を読み直すと、広島高裁がこうした論議を想定して如何に丁寧に、説得的に判決しているか、がよくわかる。 今私たちは、この国側の「上告受理申立理由」に対し、広島高裁判決の正当性を強調する反論書を準備している。

  最高裁における審理は基本的には「書面審理」である。これまでのように公開の法廷で審理がされる、ということは通常はほとんどない。 あるとすれば、最高裁が原審(広島高裁判決)を覆す判断をする場合や、憲法上の重要な判断を示す場合等に限られる。こうしたことから、 私たちとすれば、これまでのように裁判期日に向けて様々な準備をする、という展開ではなく、基本的には、これまでの私たちの主張の補充的な書面を提出したり、 また国の主張に対する反論を書面にして提出していく、ということになる。
  このように最高裁段階での闘いは非常に限られた形になる。しかし、この広島三菱重工元徴用工在韓被爆者に対する補償問題の解決においては、 いずれにしても多くの世論により今の日本政府、そして三菱重工の対応を改めさせるのが最重要の課題である。 この裁判が1995年に始められて以降、少なくとも在韓被爆者問題に関しては予想もしていなかった大きな前進を勝ち取ることができた。 しかし未だ日本政府は責任を正面から認めたわけではない。また、強制連行・強制労働問題に関しては、日本政府もまた三菱重工も全く何の責任もとっていない。

  韓国では盧武鉉政権の誕生以降、過去の事実の真相究明が次々に実現している。また、釜山地裁での三菱重工を被告とする裁判も再開される動きのようである。 今これに連携する日本における運動が求められている。
  問題の根本的解決を目指す上では、少なくとも日韓の民衆の連帯が最重要の鍵を握っているように思う。