陸上自衛隊情報保全隊による監視活動に抗議し,
監視活動の中止と全容公開を求める会長声明

1 昨年6月6日,陸上自衛隊情報保全隊及び陸上自衛隊東北方面情報保全隊 (以下併せて 「陸上自衛隊情報保全隊等」 という) が, 自衛隊のイラク派兵に反対する市民や団体の集会等を監視し, 得られた情報を 「イラク自衛隊派遣に対する国内勢力の反対動向」 「情報資料について」 といった資料にまとめ分析していたことが明らかとなった。 そして、当時の久間防衛大臣も、国会における答弁において、概ねそのような情報収集、資料作成等を 「絶えず」 行なってきたことを認めており, 上記資料には,参加者の個人名や発言内容だけでなく,参加者の写真も情報として収集されていた。

  上記のうち,陸上自衛隊東北方面情報保全隊が作成した「情報資料について」には,平成15年10月から平成16年2月までの, 東北地方における市民や団体による集会,街頭宣伝,ビラ配布等の活動や動向に関する情報が記載されており,自衛隊のイラク派遣に反対する活動だけでなく, 消費税値上げや年金制度に関する集会等や、さらには東北地方の市町村議会やマスコミ記者の取材活動までもが監視対象とされていた。

2 もとより,陸上自衛隊情報保全隊等が組織的・系統的・日常的に市民や団体の活動を監視してその情報を収集・分析・管理保管することは, 国民の自由な意見表明に対する不当な圧力となりかねず,表現の自由・集会の自由に対する強い萎縮効果をもたらすものであるから,憲法21条の趣旨に反する。

  また,陸上自衛隊情報保全隊等が,上記集会等の参加者の個人名や発言内容を記録したり写真撮影を行って,これらの情報を収集・分析・管理保管することは, 国家権力が市民の政治的思想に関する情報を取得するもので,思想及び良心の自由を保障した憲法19条の趣旨に反するだけでなく, 個人のプライバシーや肖像権を侵害するもので憲法13条の趣旨に反する。

  また、陸上自衛隊情報保全隊等は,自衛隊の保有する情報の保全のための組織であり,この目的に必要な情報収集活動に関する権限を有するとしても、 上記のような市民や団体に対する監視や情報収集活動に関する権限を自衛隊法その他法令により付与されているものではないことから、 上記監視活動は陸上自衛隊情報保全隊等に与えられた権限を逸脱したものであることが明らかであり、法治行政の原理に照らし、これを正当化する余地はない。

  さらに,上記監視活動は,陸上自衛隊情報保全隊等の情報保全業務のために必要なものでないことも明らかであるから, 法令の定める掌握事務を遂行するために必要な場合に限って個人情報の保有が許されるとした行政機関個人情報保護法3条1項にも反する。

  そして,かかる違憲・違法な監視活動を陸上自衛隊情報保全隊等が行ってきたことは, 国家権力の濫用を抑制し国民の権利自由を保障するという立憲主義にも違反する。

3 以上のとおり,陸上自衛隊情報保全隊及び陸上自衛隊東北方面情報保全隊による市民や団体に対する監視や情報収集は違憲・違法なもので許されない。 当連合会は,政府及び防衛省に対して厳重に抗議するとともに,このような監視活動を直ちに中止し, 第三者機関を設置するなどして陸上自衛隊情報保全隊等の監視活動について調査をして,その全容を公開することを強く求めるものである。

2008年 (平成20年) 2月 1日
東北弁護士会連合会
会 長  佐々木廣充