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「ルポ 不法移民 アメリカ国境を越えた男たち」(岩波新書・田中研之輔著)

2017年12月25日

                                       飯室勝彦

 「ルポ 不法移民 アメリカ国境を越えた男たち」(岩波新書・田中研之輔著)はタイムリーで興味深い本です。
 社会学者である筆者はメキシコから仕事を求め正規の手続きを経ないでアメリカに入った人たちと一緒に暮らし、彼らの背景事情とアメリカでの暮らしをドキュメンタリーふうに報告し、同時にアメリカ社会の変化を分析しています。

 トランプ大統領は「アメリカ人の雇用を奪う不法移民は犯罪者であり、福祉を食い物にする」と言います。こう聞くといかにもメキシコ移民がハローワークで正規に職を得て正当な賃金の支払いを受けているかのように考えてしまいます。
 しかし、著者が描くのは旧山谷地区や旧釜が崎地区にいた日雇い労働者のように特定の街角やレンタカー会社の前、日曜大工店の前に立って雇い主が声をかけてくれるのを待つ移民たちです。
 レンタカー会社の前では引っ越しのためにトラックを借りに来た人が助っ人を、日曜大工店では家のペンキ塗りやリフォームの手伝いを求めてくれたりするからです。
 賃金は低く、雇用も数時間、翌日はまたあてもない立ちん坊をしなければなりません。「家族に仕送りを」と思ってメキシコからやってきても仕送りできる人は稀です。

 密入国、あるいは超過滞在ですから気まぐれな警官に目をつけられればたちまち収監です。橋の下で寝起きし、公園の施設でバーベキューをしてビールを飲んでいるのを見つかれば「公共施設の不正使用」で罰金です。
 それでもメキシコから国境を不法に越える人は後を絶ちません。アメリカとメキシコの経済格差がメキシコで恵まれない人たちに夢を抱かせるからです。彼らはアメリカ入国後、厳しい現実を知りながらも仲間と共に生を紡ぐコミュニティーを築こうとしています。
 著者はそんな彼らを見て「不法移民とひとくくりにして犯罪者化するのには違和を感ずる」「トランプ体制になって不法移民を対象とした厳罰化が刑罰国家化する道程である」と書いています。

 著書の後半は国際的、社会的背景の分析です。新自由主義の旗の下、多くの国で福祉政策の見直しが進み、刑罰・懲罰部門の役割が拡大している。安定的賃金労働者の減少とそれに反比例して不安定賃金労働者が激増してゆく中で専門家、社会の指導者層が不安を煽り、メディアと一般市民がそれを受容し過熱化させ底辺層を監視し処罰する傾向がグローバルな社会傾向だ、と著者は指摘している。
 驚いたことにアメリカでは過去25年間に刑務所と収監者の数が4倍から5倍になっているという。

 こうした指摘を読むと、大量の移民という問題はないとは言えよそ事とはおもえず日本の将来を暗示しているような気もします。

                 「ルポ 不法移民 アメリカ国境を越えた男たち」
                  (岩波新書・田中研之輔著)
                   定価 本体820円+税

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