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『心さわぐ憲法9条—護憲派が問われている』

2017年12月26日

自著を語る
 『心さわぐ憲法9条—護憲派が問われている』について

                大塚茂樹 (ノンフィクション作家・元岩波書店編集者)
 

 

 「心さわぐ」とは藪から棒ですが、まず自己紹介を。法律家の先生が主宰するこのサイトの緻密な論考に刺激を受けている一読者です。約三〇年間岩波書店に勤務、その大半は編集者でしたが、このたび憲法九条についての自著を緊急出版させていただきました。
 『心さわぐ憲法9条—護憲派が問われている』(花伝社) という一冊です (本体1500円)。
 憲法の初学者である私が、いかなる視角から執筆したのか。サブタイトルは何を意味するのかと懸念をお持ちの方もいるでしょう。
 学生時代は文学部の史学科 (日本現代史) だったので、教養課程で憲法の講義を受講した程度です。でも一九七七年九月二七日の米軍機墜落事件 (横浜) に衝撃を受けたように、憲法と現実との乖離については、若き日から問題意識を持ってきました。二〇一七年五月三日の安倍首相による改憲メッセージにどう抗えるかを必死に考えてきました。
 要するに学問的蓄積も乏しく、権威とも無縁です。でも憲法学・法律学から隔たった地点に佇んでいればこそ、書ける一冊があります。九条を守ろうという運動に関わってきた一人として、リーダーではない立場ゆえに大胆に発言できる点があります。
 権威を持たず、無名であることを逆手にとって執筆できた一冊なのです。

 安倍政権の九条改憲構想に対して、敏速な反対行動が展開されています。だがその担い手はまだそれなりに限られています。九条の一項、二項を維持した上で、自衛隊を明記する「加憲」方式のわかりにくさがその背景に存在しているでしょう。
 九条改憲に反対する三千万署名について、二年前の安保法制 (戦争法) に反対した人たちのごく一部からは、自衛隊明記だけならば九条改正に賛成するという反応も示されているようです。もちろん全体としては三千万署名が順調にとりくまれていても、改憲案について迷っている人は多いという、現状の複雑さは自覚したいものです。
 もちろん法律家の方々からは、 (九条三項や九条の二という形での) 自衛隊明記が何を意味するかについて、的確な批判がなされています。しかし専門知を持つプロフェッショナルの批判が広範な市民に届いていくと楽観できるでしょうか。
 やや挑発的な問題提起をすれば、ここで広範な護憲派市民が眼をさまさなければ、九条に自衛隊を明記するという「悩ましいプラン」を提示してくれた伊藤哲夫氏 (日本会議系のシンクタンク・日本政策研究センター代表) らと安倍首相の「決断」に報いられません。その構想が巧妙で「意義」を持っていることを確認する必要があるのではないでしょうか。それを反転させて勝利への展望を開くことが護憲派に求められていると思います。そのようなアプローチはまだ誰からも示されていません。
 本書はまさにそのような問題意識で執筆した一冊です。

 本書は斬新な構成になっています。護憲派の一人である私が、敢えて護憲派にとっての弱点や難問と真摯に向きあい、それでも九条を守る道を模索しています。
 第一章では護憲派とは一枚岩ではない。「立憲主義」というキーワードの理解についても認識は分岐していて、一枚岩になりづらいことを示しています。第二章では、多くの市民の憲法認識には盲点が数多く存在している。憲法の制定過程と自衛隊認識を中心に取りあげています。同時に、市民一人ひとりが自らの人生に引きつけて憲法を活かしていく重要性を示唆しています。第三章では憲法の平和主義が深刻に問われている現場として、①自衛隊問題 ②南スーダンの現実 ③沖縄と日本国憲法 ④北朝鮮問題を素描。これらの問題解決に九条が万能ではないことを確認。難問の解決のためには九条とともに平和主義の探求という独自のアプローチが必要であることを認めつつ、九条改憲は絶対にプラスにならないとの結論にたどりついています。
 第四章では井上達夫氏 (東大教授) や加藤典洋氏 (評論家) など知識人の護憲的改憲論を紹介しつつ、九条の改変を求める主張には賛同できないが、日米安保体制の重圧と立憲主義の空洞化という現状への危機感においては傾聴に値する内容を持っている。安倍9条改憲への反対では共同していきたい。同時に護憲派の対抗構想にも大いに学び、国境を超えた平和と人間のための安全保障を希求する多様な議論から学んでいく意義を述べています。
 第五章では護憲派について再論。九条を守る運動が戦後社会運動史の中でいかなる特質を持っているのか。「九条の会」の立脚点について分析。安倍改憲構想にどう抗っていくかを模索しています。第六章では、十月の総選挙を経ても九条改憲必至だと悲観すべきではないこと。自衛隊員との対話、自衛隊員個人への共感を深めた上で、自衛隊員を殺すなという一点を多くの市民に訴えていくことが、九条三項などの「加憲」構想を提唱した人たちへの最良の返答になることを述べています。エピローグでは安倍政権といかに訣別できるかについて、誰も注目していなかったアプローチで接近。安倍晋三論と九条改憲を阻む問題意識が重なり合うダイナミズムを発見しています。
 このような視角で書かれた類書は存在していません。護憲派市民にとっては少しく胸騒ぎがする。でも人間への共感力と共同への願いが、どんな困難にもめげずに九条を守っていく原動力になるという問題意識を読み取っていただけるでしょう。
 今も九条を守るべきか、変えるべきかを思案している広範な中間派の人たちにも興味深く読んでいただけると信じています。ちなみに書名の「心さわぐ」とはロシア民謡として知られる「心さわぐ青春の歌」にあやかっております。

 いま私たちが直面している現実は何とも悩ましいものです。以下の①~⑦について、ご検討いただければそれが明らかになるでしょう。

① 安倍政権を倒せば、九条は守れる。だが安倍政権を打倒したい人たちの力だけでは、政権を追い詰められず、九条も守れない。
② 九条を愛する人のエネルギーは昔も今も心強い。だが九条に百点満点をつける人だけの運動であれば、運動がまだ広がっていないことの証しになってしまう。
③ 自衛隊違憲論の主張は、憲法の平和主義を定着させる上で決定的に重要であり続けてきた。だが現局面では自衛隊の存在を認める人との合意形成がきわめて大事である。
④ 自衛隊への批判的視点は今後も疑いなく重要である。だが個々の隊員に関心も共感も持たない頭ごなしの断罪では、広範な市民の共感を得られない。
⑤ 憲法九条を守る闘いは平和のための最重要課題である。だが九条さえ守れれば日本は平和などという主張は、沖縄の苦難の現実を知っていれば、決して口にできない。
⑥ 私たちは憲法九条を壊そうという動きと闘う。だが自らの問題意識、話法、物腰も問われている。安倍政権と闘うとともに自らの影とも闘わねばならない。
⑦ 憲法と歩んできた高齢世代の方々の努力と奮闘は、九条を守る上で今後もかけがえのない存在。だが高齢世代しか参加しない運動では、安倍九条改憲を阻むことができない。

 以上の各項目について多様な意見をお持ちのことと存じます。ただ憲法九条を守ろうという運動は順風満帆ではない。新たな状況の複雑さを受けとめ、態度を決めていない広範な市民との対話が求められていることは明らかでしょう。長らく九条を心から愛してきた人たちにも、自省と新たな問題意識が求められているかもしれません。本書のサブタイトルはそれを含意しているのです。
 でもこの悩ましい局面での対峙をくぐりぬけて、新たな知恵と人々の出会いが生まれ、安倍九条改憲だけは阻もうという多様な水脈がこの列島の各地でさらに育まれていくでしょう。その一滴の雫が、ゆるやかな流れが九条改憲への賛否を決めていない中間派の人たちに届いていくことを願っています。
 一人の市民として、その流れに棹さしていきたい。安倍政権による九条改憲に反対し、平和主義を求めるために微力を尽くしていければと気持ちを新たにしています。そのために全力で執筆した拙著をご一読、ご批判いただければ幸いです。

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