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IHI(旧石川島播磨重工業)粉飾決算損害賠償訴訟の判決要旨を掲載します

2014年11月28日

造船・重機大手のIHI(旧石川島播磨重工業)が有価証券報告書に虚偽記載をしたことで、株価が下がり損失が出たとして、株主192人が同社に計約4億1900万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は11月27日、原告ら146人について損害を認め、計約4800万円の支払いを命じる判決をしました。

判決はIHIの虚偽記載を認定する一方で、虚偽記載以外に株価が下がる要因があったなどとして損害賠償額を減額。株主46人については、株価が上昇した結果損害がなくなったとして、請求を退けました。

以下、判決要旨を掲載します。

第1 当事者

原告 Xほか191名(合計192名)

被告 株式会社IHI

第2 裁判体

東京地方裁判所民事第31部

舘内比佐志(裁判長)(代読・永谷典雄),小川弘持,中田萌々

第3 請求額総額

4億1854万6253円

第4 認容額総額

4817万6110円(原告146名につき)

第5 事案の概要

被告の株式を流通市場又は発行市場において取得した原告らが,被告の提出した平成18年9月中間期の半期報告書及び平成19年3月期の有価証券報告書(以下「本件各報告書」という。)に「虚偽の記載」があったとして,被告に対し,民法709条,会社法350条,金融商品取引法(旧証券取引法。以下「金商法」という。)21条の2第1項・同2項又は18条1項・19条1項等等に基づき,損害賠償を求める事案。

第6 中心的争点に関する理由の要旨

1 「虚偽の記載」の有無

金商法の規定により提出すべき上記各報告書に含まれる財務書類は,一般に公正妥当であると認められる企業会計の基準に従って作成されなければならないところ、これを逸脱した場合には,金商法18条,21条の2にいう「虚偽の記載」に該当するというべきである。

本件においては,被告自身が上記各報告書について訂正報告書により過年度訂正(過年度の財務諸表の内容を遡って訂正すること)をしていること,その訂正額も極めて大きな額(平成18年中間期半期報告書につき連結営業利益約98億円,平成19年3月期有価証券報告書につき連結営業利益約302億円の訂正)に達していること,被告内部における調査結果や証券取引等監視委員会の作成に係る検査報告書において,被告が工事進行基準会計(収益を実現した時点(工事が完成して相手方に引渡しを行った時点)で計上する(「工事完成基準」)のではなく,工事の進行に応じて収益を見積り計上していく会計処理の方法)を適用する複数の工事において,不適正な減価の圧縮や,期末に計上すべき原価の把握漏れがあったことが指摘されている上,その内容も十分合理的であって終始一貫しており,その内容は信用できること,被告が金融庁長官による課徴金納付命令を自認して多額の課徴金の支払をしていることなどに照らすと,上記各報告書の過年度訂正は,工事進行基準会計において,不適正な原価の圧縮や,期末に計上すべき原価の把握漏れにより工事の総発生原価見通しが過少に見積もられ,これに伴う工事進捗率の上昇により売上が過大に計上されたこと等により,利益が過大に計上されたことが原因となっているというべきであり,企業会計準則の裁量を逸脱するものであったということができるから,本件各報告書には,金商法18条1項,21条の2第1項にいう「虚偽の記載」(以下「本件虚偽記載」という。)があったと認めるのが相当である。

2 被告の賠償責任

(1) 流通市場において株式を取得した株主について(金商法21条の2第2項)

金商法21条の2第2項による推定損害額(公表日前一月間の有価証券の市場価額の平均額から公表後一月間の有価証券の市場価額の平均額を控除した額)は69.66円(一株当たり)である。

本件においては,平成19年9月28日に,本件虚偽記載の公表がされるとともに,業績予想の下方修正が開示されたところ,業績予想の下方修正による値下がり分は,本件虚偽記載によって生ずべき値下がり以外の事情による値下がりであると認められ,同条5項に基づき,これによる賠償の責めに任じない損害の額は,上記推定額の5割(34.83円)を相当と認める。

また,本件においては,本件各報告書のそれぞれに虚偽記載があったところ,平成19年3月期有価証券報告書の開示以前に株式を取得していた株主については,同有価証券報告書に係る虚偽記載によって株価が「かさ上げ」される前に被告の株式を取得したことになるから,平成19年3月期有価証券報告書の虚偽記載によって生ずべき値下がりは,虚偽記載によって生ずべき値下がり以外の事情による値下がりであると認められ,その額は,上記で算定した額(34.83円)の4割(13.93円)を相当と認める(金商法21条の2第5項)。

以上により,金商法21条の2第2項に基づく推定損害額から,虚偽記載によって生ずべき値下がり以外の事情による値下がり分を減額すると,平成19年3月期有価証券報告書の開示の日である平成19年6月27日より前に被告株式を取得した株主については20.90円(34.83円-13.93円),同日以降に被告株式を取得した株主については,34.83円を一株当たりの損害額と認める。

(2) 発行市場において被告株式を敢得した株主について(金商法18条・19条)

発行市揚において株式を取得した株主は,いずれも平成19年1月19日から同月23日の間に,一株当たり391円で取得しているから,金商法18条1項,同19条1項の規定に基づき,上記価格と処分価格の差額を請求することができるところ,虚偽記載によって生ずべき値下がり以外の事情による値下がりに相当する額を減額すべきである(金商法19条2項,民事訴訟法248条)。

本件においては,公表日直前までの値下がり(30円),業績予想の下方修正による値下がり(前記(1)のとおり,5割を相当とする。)及び平成19年3月期有価証券報告書に係る虚偽記載によって生ずべき値下がり(前記のとおり,上記原告らは,平成19年6月27日の平成19年3月期有価証券報告書の開示より前に被告の株式を取得しているから,当該値下がりを控除すべきであり,その額は,前記(1)のとおり,4割を相当とする。)を控除すべきである。

以上より,361円(391円-30円)と各処分価格との差額の3割(0.5×(1-O.4))が一株当たりの損害額となる。

(3) 被告のその余の賠償責任

原告らは,上記金商法21条の2第2項又は19条1項に基づくもの以外にも,不法行為等に基づく請求をしているところ,これらの請求はいずれも理由がない。

なお,原告らのうち,被告の株式を保有していた株主で,口頭弁論終結時の株価が474円であったために株価が取得時の株価を上回った者等については,これらの原告らは,上記金商法21条の2第2項又は18条1項,19条1項に基づく請求額をO円としているため,同請求は棄却される。

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