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【判決全文】ネットメディアvs記者クラブ~官邸前抗議行動・記者クラブ拒否事件

2014年10月17日

OurPlanetTVが、官邸前で行われている脱原発の抗議行動を取材するため、国会記者会に国会記者会館屋上からの撮影を求めたところ、記者クラブに所属していないとの理由で屋上への立ち入りを拒否された。また国に対して国会記者会館の使用許可申請をしたが使用不許可処分を受けた。以上の国会記者会および国の拒絶行為により報道機会の喪失を被ったとして損害賠償を請求いていた訴訟の第一審判決が14日、東京地裁であった。その全文(ただし、当事者、証拠の摘示は省略)を掲載する。

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1.被告国は、原告に対し、被告国会記者会と連帯して120万円及びこれに対する平成24年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2.被告国会記者会は、原告に対し、220万円及びこれに対する平成24年24年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし120万円及びこれに対する平成24年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告国と連帯して)を支払え。

第2 事案の概要

本件は、原告が、報道機関である原告は、取材の自由の一環として、被告国が所有し、被告国会記者会(以下「被告記者会」という。)が占有使用している国会記者会館(被告国の使用する名称は「国会記者事務所」。以下「本件建物」という。)への立入請求権を有するにもかかわらず、①本件建物の管理権限を有する衆議院事務局庶務部長(以下「衆議院庶務部長」という。)が、原告による本件建物の屋上(以下「本件屋上」という。)の使用許可申請に対し不許可処分をしたことが、国家賠償法上違法であるなどと主張して、被告国に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金120万円(報道機会喪失に係る損害100万円、弁護士費用20万円)及びこれに対する平成24年9月3日(最終の不許可処分の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、②被告記者会が、原告に対し本件屋上の使用を拒絶するとともに、衆議院庶務部長に対し原告による本件屋上の使用につき不相当との意見を述べたことが、不法行為を構成するなどと主張して、被告記者会に対し、民法709条に基づき、損害賠償金220万円(報道機会喪失に係る損害200万円、弁護士費用20万円。うち120万円の限度で被告国と連帯〉及びこれに対する平成24年9月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1. 前提事実(争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる。)

(1)原告は、「従来のマスメディアでは放送されにくい、市民の視点に立った情報を収集し、映像を媒体としてインターネットやそのほかできうる方法で発信すること」を目的とする特定非営利活動法人であり、インターネット放送局である「OurPlanet-TV」を運営し、制作した番組をインターネットで動画として配信している。

(2)被告記者会は、「国会に関する取材、報道について、会員の共同の便益をはかり、また会員相互の親睦と向上をめざすこと」を目的とする権利能力なき社団であり、日本新聞協会員である新聞、通信、放送各社で幹事会の承認を経て入会を認められた会員をもって構成される。被告記者会の会員は、全国のテレビ局、新聞社等153社である。原告は、被告記者会の会員ではない。

(3)本件建物は、東京都千代田区永田町1丁目6番2号所在の地上4階建ての建物であり、国有財産法2条1項の国有財産のうち、同法3条2項の行政財産に当たり、衆議院の所管に属する。本件建物の管理は、衆議院事務局事務分掌規程に基づき、衆議院議長から衆議院庶務部長に委任されている。

本件建物は、衆議院の所管する敷地内に衆議院第二別館に隣接して建てられており、道路を挟んで北側の向かいに国会議事堂、西側の向かいに内閣総理大臣官邸(以下「官邸」という。)があり、本件屋上からは、国会議事堂及び官邸とその周辺を見渡すことができる。

(4)被告記者会は、昭和44年3月15日付けで、衆議院事務総長から、次のとおりの条件により、本件建物の使用承認(以下「本件使用承認」という。なお、使用承認範囲に本件屋上は含まれていない。)を受け、以後、本件建物を無償で使用している。

ア.使用の目的

国会関係取材のための新聞、通信、放送等の記者事務用室

イ.使用料

無料とする。ただし、衆議院において必要と認めた場合は、使用料を徴するものとする。

ウ.経費の負担

(ア)建物及び附帯設備について、通常必要とする維持修繕は被告記者会が、その負担において行うものとする。

(イ)電気、水道、ガスの使用料金は、被告記者会の負担とする。

(ウ) 電気、通信、機械、冷暖房、衛生等の附帯設備の運転、管理並びにこれに伴う消耗品及び部品は、被告記者会の負担において行うものとする。

(エ)建物及び構内の清掃、見廻り等の管理は、被告記者会の負担において行い、常に遺漏のないよう留意するものとする。

エ.建物等使用上の制限

(ア) 被告記者会は、常に善良なる管理者の注意をもって建物等を維持保存しなければならないものとする。

(イ)被告記者会は、使用目的以外の用途に供してはならないものとする。

(ウ)被告記者会は、修繕、模様替、その他の行為をしようとするときは、事前に衆議院の承認を受けなければならないものとする。

(エ)建物及び構内の平常の管理は、被告記者会において行うものとするが、国会警備上その他必要がある場合は、衆議院の指示に従うものとする。

オ.その他

(ア) 本条件に関し疑義のあるとき、その他使用に関し疑義が生じたときは、すべて衆議院の決定するところによるものとする。

(イ)建物の使用目的に鑑み、被告記者会加盟社以外についても衆議院が必要と認めるものは、使用できるものとし、この場合においても被告記者会が運営管理に当たるものとする。

(5)平成24年3月29日以降、毎週金曜日の午後6時頃ないし午後8時頃に、官邸周辺の歩道上で、福井県大飯原子力発電所の再稼働に反対する大規模な抗議活動(以下「本件抗議活動」という。)が行われていた。

(6)原告は、平成24年7月6目、同日午後6時頃から開催予定の本件抗議活動の様子を本件屋上から撮影するため、被告記者会に対し、口頭で本件屋上の使用許諾を求めたが、被告記者会はこれを拒んだ。また、原告は、同月12日、同月13日に開催予定の本件抗議活動の様子を本件屋上から撮影するため、被告記者会に対し、書面により本件屋上の使用許諾を求めたが、被告記者会はこれも拒んだ。

さらに、原告は、平成24年7月17日、本件抗議活動の一環として同月29日に開催が予定されていた「国会大包囲」の様子を本件屋上から撮影するため、被告らを相手方として、被告らは同日午後6時から午後9時まで本件屋上を原告に使用させなければならない旨の仮の地位を定める仮処分の申立てをしたが、被告らは申立ての却下を求めて争い、東京地方裁判所は、同月26日、原告の申立てをいずれも却下した。

(7)原告は、平成24年7月27日、衆議院庶務部長に対し、本件抗議活動の取材を理由として、岡年8月の毎金曜目午後5時ないし午後9時に本件屋上のうち5㎡を使用したい旨の行政財産使用許可申請書を提出した。同申請書には、各使用日の午後5時から本件屋上に撮影・中継機材を搬入し、午後5時30分から午後8時30分まで本件抗議活動の撮影・中継を行い、午後9時までに退出する予定であること、当日持ち込む機材は、ビデオカメラ2台、中継用パソコン、携帯電話等であること、使用人数は3名を予定していることなどが記載されていた。

(8)衆議院庶務部長は、平成24年7月31日付けで、被告記者会に対し、原告による本件屋上の使用が相当か否かにっいて意見を求めた。

これに対し、被告記者会は、①本件屋上は一般人が立ち入ることを想定した場所ではなく、送信用アンテナや受水槽などの重要設備があるため通常は施錠しており、重量の限界や防護柵がない構造であることによる危険性や警備当局の要請に配慮して管理を行ってきたこと、②被告記者会に加盟しない取材者の屋上使用希望については、国会から記者記章を貸与されている専門紙記者、BBC(英国放送協会)委託の日本人取材者など、信頼できる取材機関に所属する者について認めた例があるが、インターネットを利用するジャーナリストは、平時の場合でも、取材・発信方法が多種多様で人数も多く、屋上取材を認める合理的基準の設定が困難なだけでなく、管理に従わない行為があった場合や事故が起きた場合の責任問題も明確でないため認めてこなかったことなどを理由として挙げた上、結論として、上記使用許可申請については、本件抗議活動が開催され騒然とした雰囲気になる時間帯であるため官邸前取材者の安全や近隣の公的機関との関係に影響を及ぼすおそれがあることから、許可することができない旨回答した。

(9)衆議院庶務部長は、平成24年8月24日付けで、原告に対し、①本件建物の平常の管理を行うのは被告記者会であるので、被告記者会に対し上記申請に係る本件屋上の使用につき意見を求めたところ、不相当との意見であったことからすると、本件屋上の使用を認めた場合に必要となる管理事務等に関して被告記者会からの協力を得ることは事実上不可能であり、衆議院事務局職員において、原告の本件建物への立入りから退出に至るまでの一切の管理事務に従事しなければならないこと、②本件屋上については、外周部に転落防止柵が設置されていないなど安全管理上又は施設管理上看過できない問題が存在していることなどに鑑みると、少なくとも、本件屋上の整備や本件建物全体の管理に係る見直し、個別的使用者に対する管理体制の構築等が未了である現時点においては、上記申請に係る使用は本件建物の用途又は目的を妨げるとして、国有財産法第18条6項を根拠として、上記申講を許可しない旨の処分をした。

(10)原告は、平成26年8月29日、衆議院庶務部長に対し、同年9月の毎金曜日午後5時ないし午後9時の本件屋上の使用について、上記申請書と同様の内容の行政財産使用許可申請書を提出したが、衆議院庶務部長は、これについても、被告記者会に対し求意見した上、同月3日、原告に対し、上記処分と同様の理由により、許可しない旨の処分をした(以下、これら2回の行政財産使用許可申請を併せて「本件使用許可申請」といい、その不許可処分を併せて「本件不許可処分」という。)。

2.争点及びこれに関する当事者の主張

(1)本件不許可処分をした行為が国家賠償法上違法であるか否か

(原告の主張)

ア.報道機関は、憲法上の権利として、報道の自由及び報道のための取材の自由が保障され、その実質的な保障のため、一定の範囲で取材に必要な機会提供の請求権を有する。本件建物は、被告国が、自発的に報道機関の取材浩動の場所として設置し利用に供してきた公共の場所であり、報道の自由のための特別なパブリックフォーラムに当たるから、報道機関は、立入りの目的が適正な取材行為であり、立入りの態様が目的達成に必要なものである限り、憲法21条に基づき、本件建物への立入請求権を保障され、被告国が当該請求を拒絶することは原則として許されない。

原告は、実績を有する報道機関であり、原告が本件建物への立入りを求めたのは本件抗議活動の取材のためであるから、原告には本件建物への立入請求権が認められる。

衆議院庶務部長による本件不許可処分は、正当な理由なく、原告の本件建物への立入請求権を制約するものであるから、国家賠償法上違法である。

イ.国有財産法18条6項は、行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができると規定している。

本件建物は、報道機関の取材の拠点たる事務スペースをその用途とし、報道機関による国会取材活動を促進し、報道の自由を保障し、もって国民の知る権利に資することを目的として設置されたものであり、国家が特定の報道機関のみの取材に対して便宜を供与し、他の報道機関にこれを供与しないという不平等取扱いは許されないから、本件建物の使用許可申請があった場合、処分庁は、その使用によって本件建物の用途又は目的に具体的な支障が生じるおそれがない限り、本件建物の使用を許可しなければならない。

本件使用許可申請は、本件抗議活動の全景を撮影するために本件屋上への4時間の立入りを求めるものであり、本件建物の用途に何ら支障を来すものではなく、安全管理上又は施設管理上生じ得る支障は使用許可に条件を付すことで回避可能であったから、衆議院庶務部長は.これを許可しなければならなかった。本件不許可処分は、本来考慮すべきでない被告記者会の違法な協力拒否を前提として考慮したものである点、それ自体軽微であるか又は許可条件を付すことで解消可能な問題を管理上の支障として考慮する一方、原告にとっての本件屋上利用の必要性が極めて高いことを考慮していない点等において合理性を欠く。

したがって、衆議院庶務部長が本件不許可処分をしたことは、その裁量権の逸脱又は濫用であり、国家賠償法上違法である。

(被告国の主張)

ア.本件建物は、国会審議の状況等の公共的情報を迅速かつ広範に国民に周知させ、もって国の広報に関する事務を円滑に遂行することを行政目的として設置された公用財産(国有財産法3条2項1号)であって、私人による自由な使用が予定されているものではなく、原告は本件建物の使用につき法的な権利又は利益を有していないから、衆議院庶務部長が本件不許可処分をしたことによる原告の法的権利・利益の侵害はなく、そのことが国家賠償法上違法とされる余地はない。

イ.本件使用許可申請は、国有財産法18条6項に基づき、公用財産である本件建物の目的外使用の許可を求めるものであり、その許否の判断は、本件建物の管理者である衆議院庶務部長の合理的な裁量に委ねられている。

衆議院庶務部長は、本件使用許可申請について、①本件建物の平常の管理を行っている被告記者会の協力なくして第三者に本件屋上の使用を認めることは現実的に困難であるところ、被告記者会は許可不相当との意見を述べ、その協力が得られないと考えられたこと、②本件屋上の構造上の制約や使用者等の安全確保の困難性を考慮すると、本件屋上に不特定多数者の出入りを認めた場合、本件建物の安全管理上又は施設管理上看過できない問題が発生すると考えられたことなどから、本件使用許可申請に応じて本件屋上の目的外使用を許可することが、本件建物の用途又は目的を妨げることになると判断して、本件不許可処分をしたものであって、その判断は合理的である。なお、被告国は、取材目的での本件屋上の使用など、これまで誰にも認めたことがなく、衆議院庶務部長が本件不許可処分をしたことは平等原則に反するものでもない。

したがって、衆議院庶務部長が本件不許可処分をしたことに裁量権の逸脱又は濫用はなく、国家賠償法上の違法はない。

(2)被告記者会による不法行為の成否

(原告の主張)

ア.被告記者会は、平成24年7月6日から同月29日までの間に、本件建物の入口に立入禁止の看板を設置し、門扉に係員を設置して原告が本件建物に立ち入ることを妨害し、前提事実のとおり、原告の使用許諾の求めに対してこれを拒み、本件屋上を使用させることを求める仮処分申立事件において申立ての却下を求めて争った(以下、このような被告記者会の一連の対応を併せて「本件使用拒絶」という。)。

また、被告記者会は、前提事実のとおり、本件使用許可申請に関する被告国からの求意見に対し、許可不相当との回答をした。

イ.原告は、前記のとおり、憲法上の権利としての本件建物への立入請求権を有する。また、本件使用承認における使用条件には、本件建物の使用目的に鑑み、被告記者会加盟社以外についても衆議院が必要と認めるものは使用できると規定されており、本件建物は、報道機関の適切な取材行為との関係では、一定の公共用物性を有するから、報道機関である原告は、適正な取材行為のためであれば、他人の共同吏用を妨げない限度において、本件建物を自由に使用する法的利益を有する。

一方、被告記者会は、適正な対価を支払うことなく国有財産を記者クラブの便宜のためのみに利用しており、本件使用承認は国有財産法上の根拠を欠き違法無効というべきであって、被告記者会に本件建物を管理する権限はない。仮に被告記者会に本件建物の管理権限があるとしても、その権限は被告国から委託されたものであるから本件建物の設置目的に照らして合理的に行使されなければならないし、被告記者会は第三者による本件屋上の使用の諾否を決定する権限までは有していない。したがって、被告記者会は、本件建物を適正な取材行為を目的として使用しようとする報道機関に対しては、それが被告記者会に加盟していない者であっても、原則として本件建物の使用を認めなければならない。

ところが、被告記者会は、被告記者会に所属する報道機関には使用目的を問わずに本件建物の使用を認めているほか、BBC等の被告記者会に所属していない一部の報道機関に対しても本件屋上の使用を認めた例があるのに、原告に対しては、管理上具体的な支障は生じないにもかかわらず、本件使用拒絶をした。これは、被告記者会に所属する報道機関の既得権益を守るという不正な動機に基づき、インターネットメディアに対し不平等な取扱いをするものである。

以上によれば、本件使用拒絶は、原告の憲法上の権利である本件建物への立入請求権又は原告の本件建物を自由に使用する法的利益を侵害する行為であって、不法行為を構成する。

ウ.本件建物は行政財産であるから、原告は、国有財産法18条6項の手続を経て本件建物の使用許可を受けることができるところ、前記のとおり、本件建物は報道機関の取材行為との関係では公共用物性を有するから、衆議院は、報道機関から取材行為を目的とした適切な使用申請を受けた場合には、原則としてこれを許可しなければならない。そして、本件使用承認における使用条件には、本件建物の使用目的に鑑み、被告記者会加盟社以外についても衆議院が必要と認めるものは使用できると規定されているから、被告記者会は、衆議院が必要と認めた揚合には、衆議院に対し本件建物の運営管理に協力する義務を負う。

ところが、被告記者会は、本件使用許可申請に関する被告国からの求意見に対し、安全上の問題や管理上の問題を理由として、許可不相当との回答をした。このような被告記者会の対応は、実質的には、衆議院の使用許可に先立ち、本件建物の運営管理への協力を拒んだものと評価され、衆議院に対する上記義務に違反するとともに、原則として本件建物の使用許可を受け得る原告の法的利益を侵害する目的でされたものであることが明らかであるから、原告との関係でも不法行為を構成する。

(被告記者会の主張)

ア.取材の自由から、取材のための一定の行為を請求できるという積極的な権利ないし法的利益が当然に認められるものではなく.原告には、取材目的であっても、本件建物を管理している被告記者会の意思に反して本件屋上に立ち入ることを請求し得る具体的な権利ないし法的利益は存在しない。

イ.被告記者会は、衆議院から庁舎管理権に基づき本件建物の使用承認を受け、本件建物及びその構内の平常の管理を義務付けられており、その一環として、本件屋上に誰を立ち入らせ、誰を立ち入らせないかの判断を委ねられている。

被告記者会は、本件建物の平常の管理の一環として、本件屋上への部外者の立入りの危険性等を総合考慮して、本件使用拒絶及び求意見回答をしたものであって、ことさら不平等な取扱いをしたものではなく、被告記者「、会の対応に違法なところはない。

(3)原告が被った損害の有無及び額

(原告の主張)

原告は、被告記者会による本件使用拒絶により、平成24年7月29日に行われた「国会大包囲」を報道する機会を失い、100万円を下らない損害を被った。

また、原告は、被告国による本件不許可処分及び被告記者会による本件協力拒否により、平成24年8月及び9月の本件抗議活動を報道する機会を失い、100万円を下らない損失を被った。

このほか、弁護士費用相当額の損害は20万円を下らない。

(被告らの主張)

争う。

第3 当裁判所の判断

1.争点(1)について

(1)前提事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件建物は、被告国が、従前、国会記者事務用室として被告記者会に使用させていた建物が手狭となったことから、これに代わる国会記者事務用室として被告記者会に使用させることを目的として、衆議院の所管する敷地上に新築した建物であり、その完成直後の昭和44年3月15日に、衆議院事務総長が被告記者会に対し本件使用承認をして本件建物を引き渡し、以後、現在に至るまで被告記者会がその会員である報道機関の国会取材の拠点として本件建物を使用してきたこと、被告国は、本件建物を、国の広報事務を円滑に遂行するために提供する施設であると位置付けて、被告記者会にその無償使用を認めているものであることが認められる。

上記の事実によれば、本件建物は、国有財産法3条2項1号の公用財産(国において国の事務、事業又はその職員の住居の用に供し、又は供すると決定したもの)に当たる行政財産であると認められるのであって、本件建物は、被告国において直接公共の用に供することが予定されている建物であるとはいえない。

そして、報道の自由は憲法21条の保障の下にあり、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分に尊重されるべきものであることは原告の主張するとおりであるが、そのことから当然に、報道機関がその取材目的を達成するために必要な機会の提供を請求する権利の保障が導かれるものではなく、原告が取材のための本件建物への立入請求権又は本件建物を自由に使用する法的利益を有するものと解すべき法的根拠を見出すことはできない。

したがって、原告の取材目的での本件建物への立入りが原則的に認められるべきであることを前提として、衆議院庶務部長が本件不許可処分をもってこれを制約したことが国家賠償法上違法であるという原告の主張は、採用することができない。

(2)行政財産は、原則として、その本来の用途及び目的に沿って使用されるべきものであるところ、国有財産法18条6項は、行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができると規定しているが、その許否の基準等を定めた法令の規定は特にないことからすると、私人から同項に基づく使用の許可を求められた場合にこれを許可するか否かは、当該行政財産を管理する行政庁の裁量に委ねられていると解するのが相当である。

したがって、原告が本件建物の管理権根を有する衆議院庶務部長に対して取材のために本件建物を使用することの許可を求めたからといって、衆議院庶務部長においてこれを許可しなければならない義務を負うものではなく、衆議院庶務部長が本件不許可処分をしたことが国家賠償法上違法とされるのは、そのことが管理者としての裁量権の逸脱又は濫用であると認められる場合に限られる。

(3)本件使用許可申請は、本件抗議活動の撮影・中継を行うために、本件建物のうち本件屋上への立入りの許可を求めるものであるが、前記認定のとおり、本件建物は、被告記者会に記者事務用室を提供するために建築され、使用承認がされたものであって、被告記者会に対する使用承認範囲に本件屋上は含まれておらず、本件屋上でその眺望を活かした撮影・中継を行うことは、本件建物の用途として本来予定されているものではない。

証拠によれば、本件屋上は、床面には軽歩行用の露出防水仕上げが施されているに過ぎず、外周部のパラペットの高さは約lmしかなく、転落防止の柵等は設けられていないなど、多数人の出入りや重量物の持込みを想定した構造とはなっておらず、被告記者会においてその会員等に対し本件屋上に機材を持ち込んで撮影等を行うことを認めてきた結果として、本件屋上は、立入者が足を掛けたために生じたと思われる設備配管の潰れや、機材の搬出入等に起因すると思われる防水シートの劣化が目立つ状況となっていることが認められる。

また、本件屋上が上記のとおり立入者の安全管理に配慮した構造となっていないことに加えて、本件屋上が官邸及び国会議事堂を見渡す位置にあることによる警備上の要請からも、第三者に本件屋上への立入りを認める場合には、本件建物を所管する衆議院又は本件建物を占有管理している被告記者会の職員による立入者の身元及び入退出の確認と立会いが不可欠となると解されるところ、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件使用許可申請がされた当時、本件建物のうち衆議院が自ら使用する地下倉庫を除く部分については、本件使用承認に基づき本件建物の保守管理を行う被告記者会のみが鍵を所持しており、通鴬は施錠されていた本件屋上への立入りについては、被告記者会が可否の判断をした上、立入者の入退出の確認と鍵の開閉を行っていたことが認められる。

これらの諸事情を考慮すると、衆議院庶務部長が、本件使用許可申請に対し、衆議院事務局職員において原告の本件建物への立入りに係る管理事務に従事しなければならないことの負担や、本件屋上の安全管理上又は施設管理上の問題を考慮した上、本件屋上の整備や本件建物の管理に係る見直しが未了である当該時点においては、当該申請に係る使用は本件建物の用途又は目的を妨げるものであると判断して、本件不許可処分をしたことをもって、明らかに不合理であるとはいえない。

そして、被告国においては、もともと本件使用承認をするに当たっても、本件屋上を使用承認範囲に含めておらず、本件使用許可申請がされる前に他の者から本件屋上の使用許可を求められてこれを許したことがあるとは認められないから、衆議院庶務部長が本件不許可処分をしたことが原告に対する不平等な取扱いに当たるともいえない。

以上によれば、衆議院庶務部長が本件不許可処分をしたことにつき裁量権の逸脱又は濫用があるとはいえない。

(4)したがって、原告の被告国に対する国家賠償法1条1項に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

2. 争点(2)について

(1)原告が取材のための本件建物への立入請求権又は本件建物を自由に使用する法的利益を有するとはいえないことは前記のとおりであって、原告の取材目的での本件建物への立入りが原則的に認められるべきであることを前提とする原告の主張は、その前提において採用することができない。

(2)なお、原告は、被告記者会が、被告記者会に所属する報道機開には使用目的を問わずに本件建物の使用を認めているほか、BBC等の被告記者会に所属していない一部の報道機関に対しても本件屋上の使用を認めた例があるのに、原告に対しては本件使用拒絶をしたことは、被告記者会に所属する報道機関の既得権益を守るという不正な動機に基づき、インターネットメディアに対し不平等な取扱いをするものであると主張する。

しかし、前記認定のとおり、被告記者会は、本件使用許可申請に関する衆議院庶務部長からの求意見に対する回答において、従前、被告記者会に所属する報道機関のほか、国会から記者記章を貸与されている専門紙の記者、BBC委託の取材者等に対しても、取材のための本件屋上への立入りを認めてきた一方、原告を含むインターネット利用のジャーナリストに対しては、取材のための本件屋上への立入りを認めてこなかったことを自認した上で、その理由として、インターネットを利用するジャーナリストは、取材・発信方法が多種多様で人数も多く、屋上取材を認める合理的基準の設定が困難なだけでなく、管理に従わない行為があった場合や事故が起きた場合の責任問題も明確でないことなどを挙げている。その指摘のとおり、被告記者会がその構成員とする新聞、通信、放送各社に比して、インターネットを利用するジャーナリストは、多数かつ多様であって、本件建物を占有管理する被告記者としては、これらのジャーナリストから本件屋上の使用許諾を求められた場合に一定の条件の下でこれに応じるのであれば、本件建物の保守管理上支障を生じることのない範囲で公平かつ妥当な対応をするための諾否の基準はいかにあるべきかを事前に検討しておくことが必要となると解される。そうすると、被告記者会が、そのような基準が存在せず、そのような基準の在り方につき本件建物を所管する衆議院との間で協議したこともなかった当時の状況の下で、上記のような理由により、原告に対し本件屋上の使用を認めなかったことをもって、不正な動機による不平等な取扱いであるということはできない。そして、被告記者会が上記回答において示したのとは別の不正な動機により原告による本件屋上の使用を拒んだものであることは証拠上うかがわれない。

(3)また、これまで説示したところによれば、被告記者会が本件使用許可に関する被告国からの求意見に対して許可不相当との回答をしたことが、原告の法的利益を侵害する違法な行為であるということもできない。

(4)以上によれば、原告の被告記者会に対する不法行為に基づく請求は.その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

3.よって、原告の請求は、いずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第6部

裁判長裁判官 谷 口 園 恵

裁判官    宮 﨑   謙

裁判官    岩 下 弘 毅

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