2011.6.17更新

シリーズ 原発


東電記者会見傍聴記 6月13日(月)
[NPJ 原発特別取材班] 学生記者


  東京電力本店、午後6時スタート
  6月13日(月)、学生記者として初めて東京電力の記者会見に参加した。新橋駅から徒歩で約8分、記者会見場の東電本店に着く。 東電前にはNHKとフジテレビの中継車。東電の建物に入ると、建物の中は節電中で暗い。記者会見場内の記者の数はおよそ50〜60人ぐらい。 記者の多くが携帯で連絡をとり、パソコンで記事を書き、メールをチェックするなど、慌ただしく仕事をしながら会見の始まりを待っている。

  厳しい内容が淡々と報告される
  東京電力からの報告内容は下記の点についてであった。
1.福島原子力発電所の状況
2.チャコールフィルターをつけ忘れたままマスクで作業を行ったことの報告
3.福島第一原子力発電所敷地内における空気中の放射性物質の各種分析の結果
4.福島第一原子力発電所付近の海水からの放射性物質の検出について
5.福島第一原子力発電所取水口付近で採取した海水中に含まれる放射性物質の各種分析の結果について
6.福島第一原子力発電所の地震発生時におけるプラントデータに関する報告書の訂正について
7.福島第一原子力発電所緊急作業に伴う作業者の被ばく線量の評価状況について
8.雑個体廃棄物減容処理建屋(高温焼却炉設備)付近における土壌試料の採取について

  このなかで、印象に残ったこと3点について、お伝えする。

  3月12日の報告を東電はなぜ訂正するのか
  6.福島第一原子力発電所の地震発生時におけるプラントデータに関する報告書の訂正について。──この報告書に下記の訂正があった。
    東電資料より
訂正前
訂正後
・3/12 19:04より海水による注水開始、19:25停止。
・3/12 19:04より海水による注水開始(20:45頃よりホウ酸投入作業開始)
・3/12 20:20より海水およびホウ酸によるによる注水開始
  東電が、3/12の作業内容を3カ月後に訂正することに、疑問を感じた。この海水注入続行は、東電の現場が安全性を考慮して実行したといわれる。 ある新聞社の記者から、8時20分の報告はなんだったのか。発信は第一原子力発電所の吉田さんか。虚偽の報告をなぜ東電はしたのか。 以上の質問があった。これに対し東電は、「所長の吉田にあまり確認しないで、やって(報告)しまった。虚偽ではない」 と答えた。 海水注入を停止しない判断については、私は正しかったと思う。しかし、あの緊急時に、うっかりやってしまった。 という東電の答に情報開示への真摯な姿勢は感じられなかった。

  なぜ被ばくしてしまったのか。
  被ばくの限度250ミリシーベルト超えの作業員が合計8名に
  東京電力は福島第一原子力発電所で働いていた作業員のうち被ばくの可能性のある3726人を調べたところ、 8人(うち2人は6月10日に600ミリシーベルトの限度を超えたことが確定済み)が、 被ばく線量の合算値が緊急作業時に認められていた限度量である250ミリシーベルトを超えた恐れがあること、 また6人が200〜250ミリシーベルトの被ばくの可能性があると、厚生労働省に報告したと発表した。

外部被ばく線量 ※1 と内部被ばく線量(一次評価) ※2 の合算値
東電の6月13日資料より抜粋
区分(mSv)
東電社員
協力企業
250超え
8
0
8
200超え〜250以下
4
2
6
150超え〜200以下
19
2
21
100超え〜150以下
59
8
67
50超え〜100以下
179
36
215
20超え〜50以下
271
146
417
10超え〜20以下
232
160
392
10以下
637
604
1241
   計
1409
958
2367

  これらの作業員は、3月12日の事故対応直後に、被ばく原子炉の計測機器の復旧、補修作業や運転、保安などの作業にあたっていたところ、 空気中の放射性物質を体内に吸い込んだとみられる。 今のところ健康に異常は見られないが、今後日本原子力研究開発機構で詳細なホールボディカウンタ ※3 により測定を実施する。 東電の現在の規定では150ミリシーベルト(日本経済新聞6月14日朝刊には170ミリシーベルトと記載)を超えると現場作業から離れる。 200ミリシーベルトを超えると福島原発の敷地から離れることとなっている。 また、東電によると、測定機器の不足により1359名はまだ被ばく量が測定できていない。 これに対して厚生労働省は、6月20日までに1359名の測定と評価を終えるように指導した。

  記者からは、なぜ吸引などによる内部被ばくをしたのか。現場に線量管理者はいなかったのか。これらの質問が寄せられた。 これに対して東電側は調査が必要であること。そして事故直後は電源喪失によりモニタリング(線量調査)ができなかったと答えた。 他の記者からは、いつ平常時の被ばくの限度量である100ミリシーベルトに戻すのか、事故発生はまだ終っていないのではないか。 このような状態が続いた場合、原発での作業員の交代要員はあるのか、安全管理に問題があるのではないか、などの質問が寄せられた。 この限度量超えは、あきらかに被ばくである。今後、福島第一原子力発電所の復旧作業は長期になることが予測される。 ホールボディカウンタを数多く設置して、線量計とマスクの徹底が必須である。

※1 外部被ばく線量 東電資料より抜粋
  外部被ばく線量は日々の作業毎に個々人に貸与した個人線量計(APD)の指示値を合算したもので、 現在APDは福島第一原子力発電所の入口拠点となっているJヴィレッジか、免震重要棟で貸し出しておりますが、今回の集計は、両者の合計によるものです。
※2 内部被ばく線量(一次評価) 東電資料より抜粋
  体内に摂取した放射性物質は、時間とともに減衰し (半減期)、同時に新陳代謝で排出されていきます。 このため、内部被ばく線量は、全身カウンタ(ホールボディカウンタ:WBC)で体内に残留する放射性物質を測定するとともに、 摂取した時期をヒアリング等により特定し、体内残留量から、想定される摂取時期に体内摂取した放射性物質の量を測定することにより被ばく線量を評価します。 内部被ばくを評価する場合は、体内摂取量から、50年間に受けるであろう放射線による影響を全て合算して示しています。
  一次評価では全ての人の詳細な作業実績等によるヒアリングを行うことができないため、 一律、作業開始日(当初から作業に携わった人は3月12日)に放射性物質を摂取したと推定して評価しているため、 一次評価の値は最大の評価値を示しています。
※3 ホールボディカウンタ
  または全身カウンターとも言う。 人体内の放射能汚染を測定する装置で人体をそのまま測定することができる大型(複数)の NaI シイチレーション検出器からなる装置。 主にガンマ線を出す核種を想定する。


  原発災害を日常化させないために。
  14日の朝、朝日新聞を見た。「原発さえなければ」 と書き置きして、自ら命を断った酪農業の50代の男性の記事。 あまりにつらい現実と、東電記者会見で見た原発災害の事実の日常化との対比に身震いがする。
  東電の会見は静かであった。記者と東電とのやりとりも淡々としたものであり、そこには私が予想していた緊張感はない。 まるで日常のワンシーンのようだ。しかし、東電の会見の内容は極めて深刻であった。 例えば、汚染水の海洋放出の問題。東電側が 「未来永劫汚染水を貯めておくわけにはいかない。いつか海洋放出はある」 と言った。 未来永劫、原発災害で続くなんて私は現実として考えていなかった。 しかし、原発災害が長期間続くことは、間違いない。だからこそ原発災害を日常のことにしない、そう強く思った。