2011.8.25
シリーズ 原発

  福島第一原発から南へ約30qのところにある福島県いわき市に在住し、弁護士をされ、子育てをしている菅波弁護士から寄せられた文章です。 現地の様子を知るために貴重な原稿と思い、掲載します。


福島の子どもたちは今

弁護士 菅波 香織

1.東日本大震災により、東京電力にて原子力災害が起き、福島と周辺地域が広範に亘って放射能汚染されてしまいました。 避難区域を広げる政策が打ち出されずに、多くの子どもたちは、放射性物質が舞い降りてくる中、危険を知らされずに生活させられました。 SPEEDIが公開されていれば、そして、その後避難勧告が速やかに出されていれば、被ばくしなくてすんだ多くの子どもたちがいます。 放射能汚染が知らされた今、自主避難をする家庭もありますが、避難勧告が出ない地域では、多くは経済的、家族問題など様々な事情から、 そこにとどまらざるを得ないのが実情です。


いわき市内の公園の放射線量測定の状況

2.現在も、チェルノブイリで人が住めないとされた程、汚染度の高い地域で、子どもたちが普通に生活を送っています。 政府や行政、そして現場の学校が 「安全」、「直ちに健康への被害なし」 と繰り返しメッセージを送っているからです。 文科省は、4月19日、子どもの年間被ばく許容量を20mSvとするかの通知をだし、教育現場は混乱しました。 不安を持つ親たちや一部の法律家、政治家が、従前の法律では年間の公衆被ばく許容量が1mSvだったこと、 年間被ばくが5mSvの放射線管理区域では児童の労働が禁じられることなどを根拠に、声を上げました。 日弁連もすぐに上記基準の撤廃を求めました。その後、5月27日になって、文科省は、 学校での年間被ばくにつき1mSvを目指すとの新たな通知を出しましたが、除染活動や、内部被ばく防止のための措置は後手に回っており、 今この瞬間も、子どもたちが、避けるできるはずの、更なる被ばくに晒されています。


いわきネットワークという団体(私も参加しています)が
地元の方に声をかけて公園の除染−1

3.さらに、現在、内部被ばくに関して、十分な測定や議論がなされてはいません。 事故直後、大量の放射性物質が流れ出したことから、住民は既に、呼気経由で、相当の内部被ばくをしたものと考えられます。 先日、3月26日、27日に行われたいわき市の子どもの小児甲状腺被ばくの調査結果が、ようやく公開されました。 うち、1名が、甲状腺等価線量35mSv値であったとのことです。事故後の行動によって、被曝量はかなり個人差があるものと思われ、 それ以上の被ばくを受けた子どもがいることが容易に予想されます。

4.また、政府は、食物からの内部被ばくを無視できるものとし、食物経由の内部被曝を考慮していません。 先日、民間団体が、フランスの研究機関に依頼して、福島の子どもの尿の検査を行ったところ、全員からセシウムが検出されました。 この内部被ばくが、呼気由来か、食物由来なのか、そして、総被曝量がどれくらいなのかを、早急に検討しなければ、今後、適切な防護措置はとれないでしょう。


いわきネットワークという団体(私も参加しています)が
地元の方に声をかけて公園の除染−2

5.さらに、食の問題に関して、政府や行政は、ことさらに、いわゆる 「風評被害」 との文言を用いて、流通している食材が、 あたかも放射能で汚染されていないかのアピールを続けています。確かに、農業等を保護すべき視点を否定はできません。 しかし、放射能に汚染されてしまった食材は、流通させることなく国が買い取るなどして、損害を東京電力に賠償請求すべきなのです。 また、放射能汚染食材を流通させる大きな要因となっているのが、WHOや他国の基準と比較して高い暫定基準値にあります。 暫定基準値は、あくまでも、従来、放射能汚染食品の規制に関する国内法がなかったことから、暫定的な基準として運用されているに過ぎない数値です。 放射性物質の流出が止まるまで長期化が予想される現状においては、早急に、安全を確保するための立法をなすべきです。 また、現在の運用にも、大きな問題があります。局地的に汚染度が高い地域があるにも拘わらず全品検査が行われていない実情では、 検査の網をくぐり抜けて、汚染度の高い食品が流通されることを阻止できず、この現実を厚生労働省が自ら認めているのです。 さらに、検査結果には、プルトニウム等のアルファ核種は公表されておらず、検査自体なされていないのです。 流通している食材の安全は保証されてはいません。しかし、学校では、強制的側面を持つ学校給食に、福島県産の食材が使用されています。 一部の家庭では、不安を感じ、子どもに弁当を持たせていますが、それら少数の子どもたちが、からかわれたり、いじめに遭っている現状があります。 この問題は、福島だけの問題ではなく、関東以遠にまで広がっています。 そして、農水副大臣は、先日、この問題について、福島産の食材は、給食に使うべきではないと発言しているのです。


放射線についての勉強会

6.さらに、教育現場では、直接子どもたちと向き合っている教師の対応にも大きな問題が生じています。 ある教師は、保護者に 「国を信じられないなら、日本国民をやめるしかない」 と発言しました。まるで、戦時中を思わせる発言です。 また、不安をあおらないようにとの趣旨で、教師が子どもに対して、友人に放射能についての知識を話すな、聞かれたら嘘をつけと指導しています。 今の福島は、そういった異常な教育がされる状況にあるのです。 一方で、個人的に放射能対策に問題を感じている教師は、国から安全教育をするよう指導されていることから、子どものためを思った行動をとると、 職務規律違反として指導されてしまうのです。

7.放射能の危険性に対しては、住民の間に、大きな温度差を生じさせています。 気をつけて生活したい人に対して、「気にしすぎだ」 とか、「避難するなんて馬鹿だ」 と揶揄する風潮があります。 親しかったコミュニティ内に大きな溝が生じ、至るところで不和が生じているのです。そしてそれが、子どもたちの関係にも反映されています。 可能な限り放射能の危険から子どもを守りたいという思いと、不安を持たずに生活をさせてあげたいという思いの双方とも、子どもを思うが故の気持ちです。 東京電力の原発事故と、その後の行政の対応は、そういった親たち、子どもたちに、深刻な対立を生じさせています。 今、子どもたちにとって必要なのは、可能な限り被ばくをさせない施策と、安心して生活できる環境の双方なのです。