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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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自民党提言を読む

2020年10月18日


 2020年 8 月 4 日、自民党は「国民を守るための抑止力向上に関する提言」を政府に提出しました。自民党提言はわずか 3 ページの簡単なものです。すでにアップされている「敵基地攻撃能力保有論の行方」の続編として、この自民党提言を分析しました。

 自民党提言は【はじめに】で、25大綱、30大綱が、ミサイル発射手段等に対する我が国の対応能力のあり方については、検討の上、必要な措置を講ずると明記したことを挙げて、いまだその結論が得られていないと述べて、政府に防衛大綱での方針の履行を迫っています。その背景として北朝鮮の弾道ミサイルの脅威の一層の増大を指摘し、北朝鮮の脅威を挙げています。

 【現状認識と課題】では、我が国を取り巻く安全保障環境として、中国の脅威を述べます。ここでは北朝鮮脅威論は登場していません。

 次にミサイル脅威の増大として、北朝鮮が我が国を射程に収める弾道ミサイル数百発を保有し、新型弾道ミサイルの発射、弾道ミサイル関連技術や運用能力の向上を指摘しています。ロシア・中国は従来のミサイル防衛を突破するようなゲームチェンジャーとなる新しいタイプのミサイル (極超音速滑空ミサイル) 開発を進めている、北朝鮮も変則的な軌道で飛行するミサイル発射実験をしている、極超音速巡航ミサイルや大量の小型無人機による攻撃といった新たな経空脅威を挙げて、従来の弾道ミサイル防衛では対処できないことを述べます。

これを踏まえて、ミサイル防衛の課題として、イージスアショア配備計画廃止により代替機能が必要とし、現在のミサイル防衛 (イージス艦とPAC3) で当面は大丈夫だが、警戒監視等の任務増大から課題もあり、新たな経空脅威への対処も必要課題であると断定します。

 日米同盟と抑止力・対処力につき、これまでの日米の役割分担による、我が国がミサイルを迎撃するだけでは防護しきれないと述べています。その上で、日米の対応オプションが重層的なものとなるよう、我が国の主体的な取り組みにより抑止力のさらなる向上が必要であると結論付けています。

 以上を踏まえて自民党提言は具体的な提言を行います。

 「 1 (総合ミサイル防空能力の強化) は、従前からのミサイル防衛を強化するための提言であり、「 2 (抑止力向上のための新たな取り組み) 」が敵基地攻撃能力保有の提言となっています。もっとも自民党提言はこれまで言い慣らされてきた「敵基地攻撃能力」という言葉を避け、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」と述べています。憲法 9 条の下での防衛政策を根本的に転換させる提言を言葉でごまかすのであれば、いかにも姑息と言わざるを得ません。国民的な議論を避けようとしているとしか思えません。

 自民党提言が弾道ミサイル等と述べている意味は、弾道ミサイルだけではなく、巡航ミサイル、極超音速兵器、無人機のスウォーム飛行等を含むものだからでしょう。イージスアショア配備計画廃止という結果を受けた「焼け太り」に思えます。

 【総合ミサイル防空能力の強化】
( 1 ) イージスアショア代替機能の確保
 イージスアショアの代替機能として提言が求める総合ミサイル防空能力は30大綱で登場した概念です。30大綱では「弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機等の多様化・複雑化する経空脅威に対して、最適な手段による効果的・効率的な対処を行う」と述べています。

 2020年度防衛白書は総合ミサイル防空について、「ミサイル防衛にかかる各種装備品に加え、従来、各自衛隊で個別に運用してきた防空のための各種装備品も併せ、一体的に運用する体制」とし、各種レーダー、AWACS ( ★ ) 、戦闘機、 イージス艦、PAC-3 ( ★ )、中 SAM 等 ( ★ ) 、あらゆる対空・ 防空アセットを JADGE ( ★ ) による一元的な指揮統制 により一体的に運用するとしている (防衛研究所 NIDS コメンタリー第135号 「多次元統合防衛力の構築に向けて― 6」より引用) 。

※ 用語解説
AWACS (Airborne Warning and Control System, 早期警戒機)
 https://www.mod.go.jp/asdf/equipment/keikaiki/E-767/index.html を参照

PAC3 (Patriot Advanced Capability3)
米国製パトリオット地対空ミサイルの発展型で、弾道ミサイル対処能力がある。航空自衛隊に配備。
 https://www.mod.go.jp/asdf/equipment/other/Patriot/index.html を参照

中SAM (中距離地対空ミサイル Surface Air Missile)
 陸上自衛隊へ配備されている。
 https://www.mod.go.jp/gsdf/equipment/fire/index.html の中の中距離地対空誘導弾の画像を参照
 対中国軍を想定した島しょ部防衛用として、現在奄美大島と宮古島へ配備されている。石垣島へも配備予定。

JADGE (自動警戒監視システム Japan Aerospace Defense Ground Environment)
 航空自衛隊の警戒監視システム。全国28か所の固定レーダーサイト (ガメラレーダーと称する弾道ミサイル探知レーダーもある) 、AWACS, E2-C 早期警戒機、移動式 3 次元レーダーによる目標を探知し、横田基地にある航空総隊へ情報が集められる。これにより領空侵犯等の我が国領空を警戒監視する。航空総隊は弾道ミサイル防衛の司令部を兼ね、海自イージス護衛艦の弾道ミサイル対処行動を指揮する。米軍と情報を共有する。
 30大綱で導入する総合ミサイル防空能力は、JADGE システムと海上、空中、陸上の対空、弾道ミサイル防衛の部隊・装備をリンクして統合指揮するシステムとする構想。

 
2020年度防衛白書256頁のポンチ絵がイメージしやすいので以下に貼り付けました。

 
 総合ミサイル防空能力は、次の項で述べている米国の統合防空ミサイル防衛 ( IAMD ) とほぼ同じものと考えてよいものです。

( 2 ) 経空脅威の増大・多様化への対応
 経空脅威の増大・多様化として提言が指摘するのは、極超音速兵器 (音速の 5 倍以上の速度で、大気圏内を滑空する兵器) や無人機等のスォーム飛行などを挙げます。無人機のスォーム飛行とは、多数の小型無人攻撃機が編隊を組んで自爆攻撃をするというもので、サウジアラビアの石油精製基地が複数の無人機で攻撃されたことを想起すればわかりやすいと思います。

 高度100キロ以下の大気圏内を極超音速で滑空飛行する兵器は、現在のミサイル防衛のレーダーでは探知が困難であり、近距離で発見しても、極超音速で飛行経路が変化するので迎撃が不可能といわれています。早期警戒衛星でも探知はむつかしいと言われています。赤外線探知衛星でも困難と言われています。そのため、提言が検討を求める低軌道衛星コンステレーションが必要になるというのです。

 米国宇宙開発局が発表している衛星コンステレーション構想では、なんと1458基の小型衛星を配備するものです。

  ※ 米宇宙開発局作成衛星コンステレーション概念図

 コンステレーションは星座の意味で、夜空の星座のように小型衛星を多数多層的に配備して、車載移動発射ミサイルや極超音速兵器を早期に発見し、変化する軌道を探知しようというものです。ですから敵基地攻撃能力の一部になります。衛星コンステレーションは2020年 6 月30日閣議決定した「宇宙基本計画」の中でも、開発、利用促進、米国との連携を掲げています。

  ※ 宇宙基本計画概要

 経空脅威の増大・多様化への対応では、米国の統合防空ミサイル防衛 ( IAMD) との連携を確保するとしています。この点は30大綱への自民党提言 (2018年 5 月29日) の中で、「③ IAMD・BMDの強化  多様化・深刻化する弾道・巡航ミサイル等の経空脅威からの防衛に万全を期すため、領域横断的な統合防空ミサイル防衛 ( IAMD) の態勢を構築する。このため、 E-2Dへの共同交戦能力 (CEC ) の導入等による陸海空自衛隊の情報共有を進め、SM-6ミサイルやイージス・アショアの早期整備など、経空脅威の迎撃に必要な新規アセットを導入するとともに、基地等の抗堪化を推進する。」と述べています。

 30大綱では IAMDという言葉はなく、その代わりに総合ミサイル防空能力という言葉が登場しています。この自民党提言からも総合ミサイル防空能力が IAMDとほぼ同じものを目指していることが理解されるでしょう。
IAMDとはどのようなものか。少し詳しく説明します。

 この概念は,弾道ミサイル・巡航ミサイル・航空機・無人機・短距離ロケット弾・野戦砲弾・迫撃砲弾までも防護対象にします。「敵の航空・ミサイル能力から悪影響を及ぼしうる力を無効にすることにより、米本土と国益を防衛し、統合部隊を防護し、行動の自由を可能にするために行う諸能力と重層的な諸作戦の統合」と定義されています。

 「重層的な諸作戦」は、① 敵の航空機・ミサイル攻撃を未然に防止する (敵基地攻撃の意味) ② 攻撃してくる敵の航空機・ミサイルを破壊 (防空作戦やミサイル防衛の意味) ③ 攻撃を受けた場合の影響を最小にする (基地の抗堪化、被害復旧の迅速化の意味) 。クロスドメインの一角を構成すると思われます。30大綱でも「領域横断作戦に必要な能力の強化における優先事項」の一つに総合ミサイル防空能力を挙げていることからも、クロスドメイン ( ★ ) の一部を構成することが窺えます。

※ 用語解説
クロス・ドメイン (領域横断作戦)
 ドメインとは作戦領域のこと。従来からの戦場である陸・海・空に、宇宙、サイバー空間、電磁波領域を統合した軍事作戦。これにより、わが方の能力が不足するドメインがあっても、領域横断作戦によりそれをカバーする (クロス・ドメイン・シナジーと称する) という作戦構想。米軍が開発しており、2015年 4 月ガイドラインで合意され、30大綱の主要な中身となっている。

 IAMD 構想は同盟国のアセットを組み込むことにも積極的です。自衛隊はこ
れへ参加することを検討しています。米海軍が運用を始めている共同交戦能力 (CEC) は IAMDの構成要素ですが、海上自衛隊も導入し始めています。30大綱で導入を決めた E2D や、現在建造中の新しいイージス護衛艦には CEC を搭載する予定
です。F35 にも CEC 能力があります。

 30大綱が領域横断作戦能力を最も重視し、総合ミサイル防空能力もそれの一角に位置づけていることは、いずれの作戦概念でも、自衛隊は米軍の後追いになること、装備の共通化を進めること、圧倒的な C3ISR (指揮・管制・通信・情報・監視・偵察の略) 能力を持つ米軍に自衛隊は丸ごと組み込まれることになるでしょう。

 日米の敵基地攻撃能力も一体化されます。専守防衛政策は、必要最小限度の我が国防衛を自衛隊が担当し (拒否的抑止=楯) 、敵国への攻撃は
米軍が分担する (懲罰的抑止=矛) という日米の役割分担の上に成り立つ防衛政策です。攻撃・防御が不可分となっている領域横断・ IAMD へ自衛隊が組み込まれれば、もはやこの役割分担は失われるでしょう。

※ 防衛研究所紀要20巻第 1 号「米国における IAMD (統合防空ミサイル防衛) に関する取り組み」

 【抑止力向上のための新たな取り組み】
 この項の中で「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組みが必要である。」として、政府に対し早急の検討と結論を出すことを求めています。
 
 提言は「憲法の範囲内で、国際法を順守しつつ、専守防衛の考え方の下」と述べて、これが憲法・国際法、専守防衛政策に適合すると述べます。しかしこれはいわば枕詞に過ぎません。安倍前首相も同じ言葉を述べます。
なぜ憲法・国際法に適合し、専守防衛政策に反しないといえるか何らの説明はないのです。これが憲法9条、国際法、専守防衛に反することはすでに述べたとおりです。

 提言の 3 (関連施策の推進) は、さらっと書かれていますが、その意味を考えるとぞっとするものです。「地方公共団体と連携した避難施設 (既存の地下施設の利用を含む、シェルター等) やその関連技術の確保を含む、国民保護のための態勢強化に取り組むこと。」と述べ、敵基地攻撃能力の行使により、敵国から我が国領土への攻撃を想定していると思われる記述になっています。この点は私もそうなるであろうと考えています。しかし、中国にしても北朝鮮にしても、はたまたロシアにしても核兵器で攻撃してくることを想定せざるを得ないのです。

 いわゆる国民保護法が施行されてから各自治体が国民保護計画の策定を進めました。広島市は国民保護計画を策定するため、「核兵器攻撃被害想定専門部会報告書」 (2007年11月 9 日) を発表しました。

 報告書の結論は、「今まで述べてきたように、核兵器攻撃によってもたらされる被害を回避することは 不可能であり、行政が最善の対処措置を講じることができたとしても、被害をわずか に軽減する程度の効果しか発揮し得ない。核兵器の破壊力はあまりにも巨大であり、 また放射能汚染が対処活動を著しく制約するからである。 (中略) したがって、本部会としては、当初の疑問に対し、核兵器攻撃から市民を守ることは できず、市民を守るには、意図的であるか偶発的であるかを問わず、核兵器攻撃の発生を防止する他に方策はなく、そのためには唯一、核兵器の廃絶しかないと答えざるを得ない。」と結論付けたことを強調しておきます。

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