【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照
(63) トランプ大統領からメールが来た ! ―米大統領選挙後、予断不能の新世界の到来か―
今、このコラムを11月 1 日に書いている。
コラムが掲載された時には、アメリカ大統領選挙の結果が出ているはずだが、最終結果はどうなるのだろうか。
私は、インターネットでは連絡用に email を使い、資料検索にはヤフーと動画情報を得るために YouTube を使う他は、ツイッターもフェイスブックも利用したことがない。
しかし、どうしたことか今年の初め頃からだろうか、アメリカの保守系らしいいくつかの発信源からトランプ大統領を支持するメールが、毎週のようにやってくるようになった。
影響力のある政治評論家でもなければ、ましてやアメリカ人ではない自分に、なぜメールが来るのだろうか。
無名の私にメールが来るくらいだから、著名な政治評論家やジャーナリストたちは、トランプ氏やバイデン氏からメールを受け取っているのだろうと思うが、どうなのだろうか。
最近は毎日のように配信されてきて、ついにトランプ大統領自身からメールがやってきた。
応援してほしい、資金援助してほしい、と訴えてきた。
それにしても、世界最大の権力者、米大統領自らが世界中にメールでメッセージを発信するトランプという人物は、実にアメリカ的現象というべきで、日本人さえもが、国境と国籍を超えてアメリカの大統領選挙の熱気に参加できるのだ。
しかし、このことはアメリカの問題を超えて、われわれがインターネットの世界、つまり75億人の人間の網の目の一切が連動している縁起的世界に生きていることを意味している。
しかも、コロナパンデミックが、国際政治、各国の国内政治、産業界、医療関係者、インターネット空間などなどを通して人間社会の網の目の隅々まで浸透しているのだから、全世界の人々が世界史を同時共有できる時代になったということだ。
ともかく、トランプ氏から頻繁にメールが来るようになった。
以下は、彼からの最新のメールの一つ。
差出人: “Donald J. Trump” <email@rightandfree.com>
件名: I need you to see this
日付: 2020年10月21日 3:32:12 JST
宛先: muraishiesho@me.com
返信先: email@rightandfree.com
Friend,
I just emailed the Trump Fundraising Director and I knew that I needed to update you right away.
My team is working around the clock to make sure we stay on track, but they can’t do it alone. Reaching millions of voters across the Nation requires having the proper resources, and that’s why I’m coming to you now.
I need every Patriot to step up if we’re going to WIN BIG on Election Day. Your support is so crucial that I’ve decided to EXTEND your FEC 800%-MATCH ONE MORE TIME.
The future of our Country is at stake right now. I know you won’t let me down.
Please contribute ANY AMOUNT RIGHT NOW to fight for your Nation and help our movement have the resources to WIN AGAIN. >>
DONOR FILE
SUPPORTER:muraishiesho@me.com
ACCOUNT NUMBER: 89451256 – 2020
800%-MATCH: EXTENDED
DEADLINE: 1 HOUR
CONTRIBUTE $45 = $405
CONTRIBUTE $250 = $2250
CONTRIBUTE $100 = $900
CONTRIBUTE $50 = $450
CONTRIBUTE $45 = $405
CONTRIBUTE ANY AMOUNT
You’ve always been one of my strongest supporters and I need to know that I can count on you right now.I’ve requested a list of all supporters who step up to help us stay on track to WIN.
Step up NOW to make sure I see your name FIRST.Please contribute $45 IMMEDIATELY to help us WIN BIG and to get on the list of supporters I see.
Thank you,
Donald J. Trump
President of the United States
トランプ大統領のフルネームは Donald John Trump だから、差出人の名前は本人のものだろう。
しかし実際のメールアドレスは email@rightandfree.com で、Right&Freeという団体が配信している。
メールの終わりにはトランプ大統領の顔写真がある。
Right&Free はホームページで次のように自己紹介している。
We are conservatives. We are libertarians. We are Reaganites. We are patriots. We are mothers, fathers, young, old, black, white, and everything in between.
But above all else, we are Americans.・・・
私は、トランプ陣営ではトランプ大統領の SUPPORTER であり、アメリカ人であることになっている。
では、民主党のバイデン氏側の組織は、どのような PR 活動をしているのだろうか?
「一水四見・歴史曼荼羅」で、トランプ大統領に関する記事をこれまでに 3 点書いた。
(33) 「ドナルド・トランプ」という危険なゲーム (2016.03.20)、
(36) 「トランプという危険なゲーム」の新たな展開 (2016.07.30)、そして
(40) トランプ新大統領と予断不能の新世界秩序」 (2017.02.06)。
その時は対ヒラリー・クリントン氏との関係でトランプ氏を扱ったが、現在のトランプ氏についての見立ては、そこに書いたとうりだ。
クリントン氏の敗退後、民主党のバイデン氏については調べたこともないし、メールも来ないからよくわからない。
トランプ大統領が再選されれば、米国とイスラエルとの関係、ユダヤ・キリスト連合 vs イスラム教圏の緊張関係などを勘案して、トランプ大統領は 4 年間で習得してきた大統領の権力を、様々な意表を突く形で行使する可能性が大いにあるだろう。
そして国際政治の観点から、また東アジアに位置する日本にとってもっとも注目すべきことは、トランプ大統領の対中政策である。
米中関係は、有史以来の文明的価値観の対立を帯びているのだ。
大統領は国民の投票によって選ばれる、というのが一般的理解であるが、厳密に言えば、アメリカ憲法において大統領を選ぶ “権利” は国民にあるのではなく各州の立法府に全面的に委ねられているという。 (GregPalast: 3 Ways Trump Can Overturn the Vote ー The Constitution includes no right of citizens to vote for President. Rather, in Article II, Madison gave 100% of that power to each state’s legislature.)
そうであれば、大統領は自分が選ぶのだと熱気を帯びて選挙活動をしているアメリカ国民は、彼らの投票行為が大統領の選定に関わっていることは確かとしても、実は投票権はあっても大統領の選任権はないことになるのだろうか。
アメリカの大統領選挙の仕組みは複雑で、私には十分な理解がない。
さて、だれが次の大統領になるだろうか。
1。トランプ氏
2。バイデン氏
3。第三者
第三者などありえないとして想定しないのは、日本の原発事故同様に思考の怠慢であり想定力の欠如だから、想定上の可能性としてあげておく。
では、トランプ氏かバイデン氏か、第三者か。
最近の期日前投票が6400万人以上あるというが、その内訳がわからない。
本日 (11月 1 日) から現地時間の11月 3 日の投票日まで、当確を左右するようなさらなる突発事件が起きたとしても、起こればどうなるのか。
もしも共和・民主が、文明的思考に配慮のない偏狭な政治的判断のもとに、アングロサクソンの支配情念を継承したアングロアメリカンの世界的植民地政策の総仕上げとばかりに、中国の内政に強引に介入するようなことがあれば、現在かろうじて保たれている世界の秩序の崩壊が起こるかもしれないし、またはアメリカの内政に大混乱が起こるかもしれない。
自由と平等を標榜するアメリカであるが、1860年時点で黒人奴隷人口400万人余を抱えていた “先進文明国” が、外国において対立を煽り自国の軍産複合体の充実に邁進して行けば世界は大変なことになる。
しかし人種的、経済的、宗教的な対立に起因するアメリカ自身の様々な分断現象もさることながら、中国も大きな歴史的曲がり角にあるのではないか。
中国内部にも、中国ファースト派と中国的グローバリスト派の対立を始めとして様々な対立構造があることが知られている。
2018~2019年、アメリカの大学学部で学ぶ留学生の総数は43万人、大学院で学ぶ留学生は同37万人といわれている。
大変な数に見えるかもかもしれないが、現在の中国の国力からすれば当然のことで、このことは同時にアメリカ的価値観が留学した中国人に長期的影響を与えてくることも意味している。
さらに、彼らの一部が帰国後に政権の中枢に影響を与えてゆくとしても、当然であろう。
本年 2 月15日、第56回ミュンヘン安全保障会議があった。
茂木外務大臣も参加した。
そこで傅瑩氏 (前外交副部長<外務次官>、清華大学戦略・安全研究センター長) は「西側の複雑な対中姿勢」を感じ、アメリカの対中関係に対する深い観察があったようだ。
「米国はミュンヘン安全保障会議を、政策を宣伝し、大西洋両岸の足並みを揃えさせる重要な場として、非常に重視している。しかも米側が共和・民主両党の足並みを揃えさせたのは明らかであり、中国の台頭と「中国の脅威」への対応策を、会議出席における主要な「砲弾」とした。」 (人民網日本語版・2020年02月21日・環球時報掲載)
現在進行中の共和・民主の対立を超えて、いずれが大統領になるにせよ、アメリカの政体は一体となって中国に攻勢をかけてくる、との可能性を傅瑩氏は認めているようだ。
アメリカ大統領選挙後に、さらに米中対立が複雑な進化・拡大をして行く可能性がある一方、アメリカには超エリート層と一般市民との歴然とした支配・被支配の構造があること知られている。
アメリカは、コロナパンデミックのウイルスに攻撃されて、これまで歴史的に内部に疼いていた、常に二重義を帯びた自由と平等の倫理の破綻がますます露呈してゆくのではないか。
他方、中国は文明の大転換期にあって、中国当局は責任ある公僕の指南としての儒教と、西欧の識者をも魅了する柔軟な発想の老荘の哲学の学習を特に要路にある人々に奨励し、秩序の指導体制を内面的精神的に充実させるべきではないか。
中国は、秩序第一の歴史的政体の意味と経済発展優先主義を、しばし立ち止まって内省しなければいけない時期にきているのではないか。
中国は “中国の夢” を語るのであれば、それが世界の人々の夢に寄与するものであることを、アジアと西欧の良識ある国民にわかりやすい言説と行動で示す必要がある。
新型コロナパンデミックが世界中に吹き荒れる中、アメリカ大統領選挙後の世界が米中二大大国の根深い誤解に基づいた予断不能の新世界となってはならない。
米中の識者らは、従来の地政学やら対立温存のゲーム理論のイデオロギーをもて遊ぶことをやめて、文明的相互理解を深めながら未来の安定した共存共栄の世界モデルを語るべきではないのか。
(2020年11月 1 日 記)
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