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全国民必読 東京電力と原子力ムラの人々への論告の書
書評 添田孝史『原発と大津波 警告を葬った人々』(2014 岩波新書)

寄稿:海渡雄一(脱原発弁護団全国連絡会共同代表)

2014年12月4日

1 検察審査会議決は大津波は予測できたとしていた

2014年7月31日、東京第5検察審査会は、東京地検が昨年9月9日に不起訴処分とした東電元幹部ら42人のうちの3人について、業務上過失致死傷罪で「起訴相当」とする議決書を公表した。

2013年10月16日、告訴団が検察審査会へ申し立てていた。福島原発告訴団の申立人らは、東京電力の原発関係の業務に就いていた役員6名に対象を絞っていた。検察審査会が「起訴相当」としたのは、勝俣恒久元会長、武藤栄、武黒一郎の両元副社長である。小森明生元常務については「不起訴不当」とした。検察の再捜査は三ヶ月の期間が三ヶ月延長され、来年2月2日まで再捜査のうえであらためて判断を示すこととされている。仮に再度不起訴となっても、起訴相当の検察審査会議決が2回続けば、強制起訴となる。

告訴団は、検察による起訴を求めて、繰り返し要望を行ってきた。12月12日にも検察庁への激励・要請行動が取り組まれることとなっている。起訴が現実のものとなれば、公開の裁判で福島原発事故についての刑事責任の有無が論議される、画期的な裁判が開かれることとなる。

そのようなおり、11月20日に添田孝史著の岩波新書『原発と大津波 警告を葬った人々』が出版された。我々にとっては待望の書である。

まず、本書の内容を理解するために、本年7月に公表された検察審査会議決にしたがって、基本的事実関係を整理しておく。

平成14年(2002年)7月,政府の地震調査研究推進本部(推本)は,福島第一原発の沖合を含む日本海溝沿いでマグニチュード8クラスの津波地震が30年以内に20%程度の確率で発生すると予測した。

平成18年(2006年)9月,原子力安全委員会が耐震設計審査指針を改定し,津波については極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,安全性が確保できることが求められた。

平成19年(2007年)11月ころ,東京電力の土木調査グループにおいて,耐震バックチェックの最終報告における津波評価につき,推本の長期評価の取扱いに関する検討を開始し,推本の長期評価を踏まえ,明治三陸地震の波源モデルを福島県沖海溝沿いに設定するなどして津波水位を試算したところ,平成20年(2008年)3月,福島第一原発の敷地南側においてO.P.+15.7mとなる旨の結果を得た。

武黒は,平成20年(2008年)2月の「中越沖地震対応打合せ」で,福島第一原子力発電所の想定津波高が上昇する旨の資料を確認するとともに,参加者から「14m程度の津波が来る可能性あるという人もいる」という発言を受け,「女川や東海はどうなっている」という質問をしている。

平成20年(2008年)6月,土木調査グループから武藤栄らに対してO.P.+15.7mの試算結果が報告された。武藤栄は,非常用海水ポンプが設置されている4m盤への津波の遡上高を低減する方法,沖合防波堤設置のための許認可について,機器の対策の検討を指示した。

平成20年(2008年)7月,武藤栄から土木調査グループに対し,耐震バックチェックにおいては推本の見解を取り入れず,従来の土木学会の津波評価技術に基づいて実施し,推本の長期評価については土木学会の検討に委ねることとし,これらの方針について,津波評価部会の委員や保安院のワーキンググループ委員の理解を得ることなどを指示した。(議決書4頁~6頁)

2 岩波新書『大地震と津波警告を葬った人々』の告発

原発事故について明らかにすべき点は多いが、本書は、大津波の事前想定が可能であったかどうかに的を絞って刊行された珍しい本である。

著者は添田孝史氏である。大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了のサイエンスライターである。「1990年朝日新聞社入社。大津支局、学研都市支局を経て大阪本社科学部、東京本社科学部などで科学・医療分野を担当。97年から原発と震災についての取材を続ける。2011年に退社、以降フリーランス。東電福島原発事故の国会事故調査委員会で協力調査員として津波分野の調査を担当した。」という経歴の持ち主である。

この著書は、著者自らの取材と政府に対する情報公開請求にもとづいて、国会事故調の報告書を補充した内容であるといえる。そして、同書は、不起訴処分の基礎となる事実認識に2点の重大な事実誤認があることを指摘し、検察による不起訴決定を強く批判し、検察審査会の議決は「明快」であると評価している。

3 1997年7省庁手引は、福島県沖の津波地震を想定していた

添田氏の批判の第一点は福島県沖海溝沿いにおける津波地震の発生を予測した専門的知見が、長期評価以前に存在していたということである。

検察庁の判断の誤りの「一つは、東京地検が「長期評価のほかには、福島県沖海溝沿いにおける津波地震の発生を予測した専門的知見は見当たらない」としている点だ。第1章で述べたように、一九九七年の七省庁手引きは、福島県沖の津波地震を想定している。政府の公式報告書を見落とすような捜査では、告発した被災者の納得は得られないだろう。」(同書183頁)

ここに指摘されている7省庁手引きとは、1997年に建設省など7つの省庁がまとめた津波想定方法で、「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査」とされる。ここでは、日本海溝の津波地震を予測していた(同書18ページ)。

この手引きについて、翌1998年3月には、政府は、「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」と「地域防災計画における津波防災対策の手引き」を各自治体に通知している(同書23ページ)。

1997年7月25日の電事連津波対応WG資料では、福島第一で8.6メートルの想定がなされている(これは後の計算では13.6メートルとされている)(『科学』2014年12月添田孝史報告「吉田調書をめぐるシンポジウムより」1280頁)。

この報告書について電事連は「プレート境界において地震地体構造上考えられる最大規模の地震津波も加えている。」「この考えを原子力発電所に適用すると、一部原子力発電所において、津波高さが敷地高さを超えることになる」と正確に分析している(同書25ページ)。

また、電事連は次のように分析している。「この調査委員会(七省庁手引きをとりまとめた委員会)の委員には、MITI顧問(通産省原子力発電技術顧問)でもある教授が参加されているが、これらの先生は、津波数値解析の精度は倍半分(二倍の誤差がありうる)と発言している。」「この考えを原子力発電所に適用すると、一部原子力発電所を除き、多くの原子力発電所において津波高さが敷地高さ更には屋外ポンプ高さを超えることとなる」と正確に分析していた(同書27ページ)。

ここに記載されている顧問とは、首藤伸夫東北大教授と阿部勝征東大教授の二人である(同書29ページ)。

4 2000年電事連報告では福島第一は日本一津波に脆弱であることが示されていた

さらに、同書において、衝撃的な報告書が公にされている。それは2000年に作成された電事連の「津波に関するプラント概略影響評価」である。

この報告は、1997年6月の通産省の指示に対応して、2002年2月に電事連内の総合部会に提出されたものである。解析誤差を考慮して想定値の1.2倍、1.5倍、2倍の津波高さで原発がどう影響を受けるか調べている。同書の31ページに掲載された評価結果は衝撃的である。

全国の原発の中で、想定値の1.2倍で影響があるとされているのは福島第一と島根1,2号の二原発だけなのである。想定値の1.5倍で影響があるとされているのは、この二原発に加えて女川、浜岡、伊方、東海第二である。想定値の2倍で影響があるとされているのは、6原発に加えて、東通、柏崎1-4,美浜、川内、となっている(同書30-32ページ)。

つまり、東電は、既に2000年の段階で、福島第一原発は全国の原発の中で、最も津波に脆弱な原発であることを知っていたこととなる。しかし、この報告書が通産省に提出されたかどうかは明らかになっていないという(同書32ページ)。

5 土木学会は完全に電力によってコントロールされていた

この影響評価をなきものとするための工作の場が土木学会の津波評価部会における検討であった。

まず、この津波評価部会には、津波の専門家である首藤氏が参加していたが、委員幹事合計31名のうち地震学者は一名しかおらず、13人が電力会社、5人は電力の関連団体に所属していた(同書98頁)。まさに、電力関係者に牛耳られている組織であった。

2000年11月3日の第6回会合に評価部会幹事団(10人中2人が東電社員、一人は東電子会社員、三人は電力中央研究所員)は、数値誤差を見込まない安全率一倍とする基準を提案した(同書35ページ)。電力関係者が過半数を占める幹事会で、首藤、阿部両顧問の「倍半分」を否定した基準を否定したものだ。

この基準について首藤氏は、「補正係数の値としては議論もあるかと思うが、現段階では、とりあえず1.0としておき、将来的に見直す余地を残しておきたい」と述べたとされる(同書35ページ)。同書の41頁以下には、このような基準を最終的に是認した首藤氏に対する、インタビューが掲載されている。まさに、首藤氏は電力の虜となり、自らの科学的良心をも裏切って警告を葬ったと言わなければならない。そして、首藤氏が約束した、このような見直しがなされることもないままに、我々は3.11を迎えたのであった。

そして、この土木学会手法に従って、2002年3月には福島第一原発で想定される津波高さを5.7メートルに見直し、これに合わせて6号機の非常用海水ポンプ電動機をわずか20センチかさ上げする工事を行った(同書40ページ)。まさに、アリバイ的な対策が講じられたのである。この馬鹿げた対策工事の経過そのものが、東電の「長期評価」つぶしの一環であったことがわかる。

6 武藤武黒らの土木学会への検討依頼は時間稼ぎと断定した検察審査会議決は正当である

以上の経過を見れば、2008年の段階で、この問題をもう一度土木学会に投げて検討を依頼するようなやり方が、まともな態度であるはずがない。土木学会とは、電力関係者の虜となり、その意見を第三者的な意匠のもとに行動するための操り人形に過ぎなかったことは、以上の経過から明らかである。

この経過について,議決は次のように判断していた。

「東京電力は,推本の長期評価等について土木学会での検討を依頼しているが,最終的には,想定津波水位が上昇し,対応を取らざるを得なくなることを認識してワーキンググルーブを開催していることから,土木学会への依頼は時間稼ぎであったといわざるを得ない。…東京電力は,推本の予測について,容易に無視できないことを認識しつつ,何とか採用を回避したいという目論見があったといわざるを得ない。/地震・津波の予測は,不確実性を伴う自然現象に対するものであり,そもそも,いつどこで起きるかまで具体的に言い当てることは不可能である。推本の長期予測に基づく津波高の試算を確認している以上,原発事業者としては,これを襲来することを想定し,対応をとることが必要であった。」(議決書8頁)

東京電力は,推本の予測に基づいて行った数々の津波の試算についても試算が現実に起きるとは思わなかった,念のために土木学会に検討を依頼しただけであるなどと言い訳していた。検察庁はこのような不合理きわまりないいいわけをそのまま認めてしまった。

これに対して,検察審査会は,市民的良識を発揮し,東電の役員たちは,対策が必要であることはわかっていて,途中まではその検討や準備もしたのに,改良工事のために原発が長期停止になることをおそれ,時間稼ぎのために土木学会に検討を依頼して,問題の先送りをしたと認定している。

土木学会手法の問題点は、そもそも電力関係者に支配された組織構成の下で、もとより公正な審査は望みようがないものであった。さらに、先に見たように、土木学会手法は福島沖のプレート境界地震を否定していること、安全率を全く考慮していないことなど、科学的にも著しく不合理なものであった。このような誤った手法が採用されたのは東電関係者などの電力関係者の工作によるものである。この手法に科学的合理性がないことは、工作者である電力関係者自身が十分認識していたはずである。

まさに,武藤と武黒は明らかに本件事故のような深刻な災害を予見し,その回避のために必要な対策とその予算についても具体的に検討しながら,その対策に要するコストと時間,そして一定期間の運転休止を見込まなければならないという事態のなかで,自社の利益のために問題を先送りするためにみずからの配下ともいうべき土木学会に検討を委ねたのである。これは,故意にも近い極めて重大かつ明白な過失である。

7 他の電力は長期評価を踏まえて対策を講じていた

東京地検が「他の電力事業者においても、地震本部の長期評価の公表を踏まえた津波対策を講じたことはなかった」としている点も間違っている。

茨城県は独自の津波浸水予測を2007年10月に公表した。もとになったのは、地震本部が津波地震の一つと判断した延宝房総沖地震(1677年)だ。茨城県は、この津波地震が房総沖から茨城沖まで伸びる震源域で発生した場合(M8.3)を予測。その結果、東海第二原発(日本原電)の地点では、予想される津波高さが5・72メートルとなり、原電が土木学会手法で想定していた4.86メートルを上回った。茨城県に自社より厳しい津波想定を公表されてしまい、原電は対策見直しを余儀なくされる。

そこで津波に備えて側壁をかさ上げする工事を2009年7月に開始し、工事が終了したのは東北地方太平洋沖地震のわずか二日前だった。長期評価にもとづく茨城県の予測に備えていなければ、東海第二原発もメルトダウンしていた可能性が高い(同書183-184ページ)。

「東北電力の女川原発も、地震本部が津波地震の一つとしてとりあげた三陸沖地震(1611年)がもっとも大きな津波をもたらすとして、以前から対策をとっていた。したがって長期評価の津波地震に備えていなかったのは東電だけだった」(同書184ページ)。

「中央防災会議が津波地震を防災の対象にしていなかったから、福島第一原発も備える義務はないとする東京地検の考え方も不合理だ。中央防災会議は住宅など一般的な施設の防災を対象にし、災害を想定している。一方、原発はもっと発生頻度の低い、厳しい災害まで想定する必要がある。前述したように原電も東北電力も、中央防災会議が想定からはずしていた津波地震を想定していた。中部電力の浜岡原発も、中央防災会議の想定より厳しい揺れを想定していた。ほかの多くの原発は中央防災会議より厳しい災害を想定していたのに、東電だけが中央防災会議レベルで留まっていたにすぎない。」(同書184ページ)

検察による不起訴決定は誤った事実認識のもとになされたものであり、その見直しは必須である。

8 保安院は2006年には津波対策について「不作為の責を問われる可能性がある」としていた

(1)土木学会による津波高さの1.5倍程度の想定を求めていた保安院

2006年6月29日にまとめられたとみられる「内部溢水及び外部溢水の今後の検討方針(案)」には次のように記されている。

「土木学会手法による津波高さ評価がどの程度の保守性を有しているか確認する。」

「土木学会による津波高さの1.5倍程度の(例えば、一律の設定ではなく、電力が地域特性を考慮して独自に設定する)を想定し、必要な対策を検討し、順次措置を講じていくこととする(AM対策との位置づけ)。

「対策を講じる場合、耐震指針検討に伴う地盤調査を各社が開始し始めているが、その対応事項の中に潜り込ませれば、本件単独の対外的な説明が不要となるのではないか。そうであれば、二年以内の対応となるのではないか。」(同書131頁)

前記の2000年の電事連の試算から明らかなように、福島第一は1.2倍の想定でもアウトであった。1.5倍では確実にアウトであり、この対策が確実に実施されていれば、福島第一原発事故は避けられた可能性が高い。

(2)「必要ならば対策を立てるように指示する。」

2006年9月13日に、保安院の青山伸、佐藤均、阿部清治の三人の審議官らが出席して開かれた安全情報検討会では、津波問題の緊急度及び重要度について「我が国の全プラントで対策状況を確認する。必要ならば対策を立てるように指示する。そうでないと「不作為」を問われる可能性がある。」と報告されている(第54回安全情報検討会資料)(同書131-132頁)。

06年1月の勉強会立ち上げ時点の資料では、保安院は06年度に想定外津波による全プラントの影響調査結果をまとめ、それに対するAM対策を2009-10年度に実施する予定としていた(同書132頁)。

この保安院の対策が徹底されていれば、事故は防ぐことができた。

対策がなされなかったことは、東電など電事連の圧力に保安院が屈したためである。

(3)貞観地震の津波対策がバックチェックの最大の不確定要素だったことは保安院と東電との共通理解だった

この本には、もっと驚くべき証拠も掲載されている。それは、2010年3月24日午後8時6分に保安院の森山善範審議官が、原子力発電安全審査課長らに送ったメールである。

「1F3の耐震バックチェックでは、貞観の地震による津波評価が最大の不確定要素である旨、院長(寺坂信昭)、次長(平岡英治)、黒木(愼一)審議官に話しておきました。」

「貞観の地震についての研究はもっぱら仙台平野の津波堆積物を基に実施されているが、この波源をそのまま使うと、福島に対する影響は大きいと思われる。」

「福島は、敷地があまり高くなく、もともと津波に対して注意が必要な地点だが、貞観の地震は敷地高を大きく超える恐れがある。」

「津波の問題に議論が発展すると、厳しい結果が予想されるので評価にかなりの時間を要する可能性は高く、また、結果的に対策が必要になる可能性も十二分にある。」

「東電は役員クラスも貞観の地震による津波は認識している。」

「というわけで、バックチェックの評価をやれと言われても、何が起こるかわかりませんよ、という趣旨のことを伝えておきました」(同書143-145頁)

このメールは、福島第一のバックチェックが容易に進まなかったのは津波対策による追加工事が必要になることがほぼ確実に予測され、そのことを東電がいやがったためであることがわかる。保安院は東電の虜となり、まさに共犯とも言うべき状況で、バックチェックの先延ばしを進めていたのである。

「東電は役員クラスも貞観の地震による津波は認識している。」とされているように、審議官クラスと東電役員の間で、津波対策のための追加対策はバックチェックを完了するには必須であることが話し合われていたのである。

ここまでの証拠がありながら、検察が被告訴人らを起訴できないはずがないではないか。

9 マグニチュード9の地震を想定した者がいないことは言い訳とならない

9月に公開された吉田調書(077-1-3)では、地震学者の中にマグニチュード9の地震を想定した者はいないことを理由に、東電には責任がないという判断を示している。

○質問者 今、この原発で貞観津波を考えているのに、1Fで考えていないのはおかしいとかね。

○回答者 それは全然論理がおかしくて、貞観津波を考えて調査をしたら、4mとかそれぐらいしか来ていないから、貞観津波があの場所で波源となってくれば、それはそのレベルだから、我々としてはいいだろう。だけれども、貞観津波を起こした地震のマグニチュードよりももっと大きなものが来たわけですから、マグニチュード9が来た。日本の地震学者、津波学者のだれがあそこにマグニチュード9が来るということを事前に言っていたんですか。貞観津波を考えた先生たちもマグニチュード9は考えていないです。それを言い始めると、結局、結果論の話になりますと言いたいです。

今回、貞観津波のお話をされる方には、特に言いたいんですけれども、貞観津波の波源で考えたときにも、うちの敷地は3mか4mぐらいしか来ないから、これは今の基準で十分もつという判断を1回しているわけです。貞観津波の波源のところに、マグニチュード9が来ると言った人は、今回の地震が来るまではだれもいないわけですから、それを何で考慮しなかったんだというのは無礼千万だと思っています。そんなことを言うんだったら、日本全国の原子力発電所の地形などは関係なく、先ほどおっしゃったように、全部15mの津波が来るということで設計し直せということと同じことですね。(21頁)

○回答者 もう一ついうと、貞観津波で想定していたマグニチュードよりもっと大きいものが来たというのが違うところがあるわけです。

2つあって、マグニチュード9が来たという大きさの部分は、今まで地震学者も津波学者もだれも想定していなかった。

それから、3つのプレートがほぼ同時に動く。これもだれも言っていなかったんです。1つ動けばあとは寝ている。連動しないというのが学会の常識だったのが、連動したわけです。(22頁)

このような判断は、原子力の安全性評価のあり方として、完全に誤っている。しかし、このような誤った認識が記録され、公表されたことに大きな価値がある。

この点について、添田氏は次のように論評している。

確かにマグニチュード9を予想した人はいなかったのですが, 2008年の論文ではマグニチュード8.4は考えていた。その予測でも津波は敷地高さを越えていたわけです。原発の被害を考える時,マグニチュード9まで予測する必要はまったくなかったのです。このあたりの吉田さんの話は支離滅裂なのですが,政府事故調で質問している人は,気づいていないのか,突っこんで聞いていません。(『科学』2014年12月添田孝史報告「吉田調書をめぐるシンポジウムより」1281頁)

 このとおりである。つまり、確かにマグニチュード9の地震が起きると予測した研究者はいなかった。しかし、福島沖を含めて、マグニチュード8クラスの地震が起きることは地震調査研究推進本部も予測していたし、さかのぼれば、7省庁手引きでも同じことが指摘されていた。吉田氏はこのことを知ってか知らずか、混同して話しているのである。そして、予測されていた福島沖のM8クラスの地震に対する対策がとられていれば、高さ15メートルという津波の高さが一致していたのであるから、原発は守れたのである。

10 吉田所長は土木学会での検討をフォローしていなかった

2008年の東電から土木学会への検討依頼が、真に意味のある検討依頼だったのか、それともたんなる時間稼ぎのための措置に過ぎなかったのかは、検察の起訴・不起訴の判断を分けたポイントである。この点について、吉田調書には次のような興味深いやりとりが残されていた。

○質問者 土木学会に東電が依頼されていますけれども、依頼後に土木学会がどの程度議論していたのかという話です。

○回答者 それは全く知らないです。

○質問者 それはわからないですか。

○回答者 はい。(22頁)

もし、本当に重大な検討を依頼したのなら、当然、フォローするはずである。にもかかわらず、責任者でありながら、全くフォローがなされていない。この答えの中に、この検討依頼が、時間稼ぎでしかなかったことがはしなくも露呈している。

11 検察は被害者とともに泣け、巨悪を眠らせるな

添田氏は、前掲書の「エピローグ」で次のように感想を述べている。極めて重要な指摘であるから、そのまま引用する。

「私は、東電福島原発事故のあともしばらくは、エネルギー政策を急転換させることによる弊害や、原発に依害してきた立地自治体の経済状況を鍛みて、建設年代や立地場所から判断して栢対的にリスクの小さい原発を少数再稼動させることはやむを得ないのではないかと考えていた。

しかし規制当局や東電の実態を知るにつれ、彼らに原発の運転をまかせるのは、とても怖いことを実感した。間違えば国土の半分が使い物にならなくなるような技術を、慎震に謙虚に使う能力が無い。しかも経済優先のため再稼動を主張し、科学者の懸念を無視して「リスクは低い」と強弁する電力会社や規制当局の姿は、事故後も変わっていない。防潮堤をかき上げすれば済む話ではないのだ。

彼らは、柏崎刈羽原発、福島第一原発と二度も大地震に襲われたのだから、しばらくは大きな災害はないだろう、と高を括っているにすぎない。日本列島はマグニチュード9の東北地方太平洋沖地震が起きたことで、地震や火山活動が活発化し、これまでの経験則が必ずしも適用できなくなっている。しかも日本が集団的自衛権を行使するようになれば、テロの脅威も格段に高まるだろう。二度あることは三度あると考えて備えなければならないが、彼らにその自覚があるように見えない。」(同書203-204頁)

まさに、そのとおりである。本書は、まさに全国民必読の東京電力と原子力ムラの人々への論告の書であるといえる。

そして、3.11後に、このような電力事業者の慢心を生んだ最大の原因こそ、検察庁が本件の捜査によって真実を明らかにすることができず、起訴の判断ができなかったためである。どんなひどい事故を起こしても、自分たちは治外法権に守られていると、電力事業者は思い始めている。まさに巨悪を眠らせているのである。

たった一人のジャーナリストが、国会事故調の協力調査員を務めたとはいえ、独力で足で稼いだ調査で、東電、保安院、土木学会、中央防災会議などの組織の真実にここまで迫ることができたのである。

ここに示された東電幹部たちの罪責は灰色どころか、真っ黒ではないか。

武藤や吉田が,津波は来ないと高をくくってしまい,いったん費用まで含めて検討された対策について,土木学会に先送りする形で見送ったことが本件の事故原因の根幹である。そして、被疑者武黒と被疑者勝つ俣はこの判断に明らかに関与し、これを追認していたことが明らかである。

検察審査会の議決もこの点を明確に認定していたが,添田氏の著書と吉田調書は明確にこの議決を裏付けているのである。

検察が不起訴処分を見直さず、次の原発の破局事故がおきたならば、検察も次の事故の共犯となってしまうと言わざるを得ない。

検察はためらってはならない。市民の支持を失ったら検察組織に未来はない。検察は,市民の良識の結晶と言うべき検察審査会の議決に基づき,福島第一原発事故の真実を明らかにし,各被疑者の刑事責任を明らかにするため,被疑者勝俣,武黒,武藤,小森について起訴をするべきである。

検察は「巨悪を眠らせるな、被害者と共に泣け、国民に嘘をつくな」(伊藤栄樹)

そして、添田さん、このような貴重な著書を大切なときに公刊してくれて、本当にありがとう!

 

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