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警戒すべき維新の存在

寄稿:飯室勝彦

2021年11月19日


 改憲を主張し続ける安倍晋三元首相が自民党最大派閥の長になり “表舞台” に復帰した。このニュースとほぼ同じ時期に日本国憲法を尊び、平和を訴えた瀬戸内寂聴さんの死去が伝えられたのは象徴的だった。さらに自民党の補完勢力とみられている日本維新の会も衆院選で議席を増やし、早速自民の後押しとみられかねない動きを始めた。寂聴さんの死は憲法を大切に思う人たちにとって警戒すべき状況になったことを暗示しているようだった。

◎負けて勝ち取った憲法
 99歳で亡くなった寂聴さんは晩年まで護憲、平和を訴え続けた。高齢にもかかわらず市民とともにデモや集会にも加わった。
 「(日本国憲法は) 米国に押しつけられたというけれど負けて勝ち取ったものですよ」「すごい犠牲の上にできた憲法なのだから、もしも日本が9条を守らないようなことがあれば世界を欺き、嘘をついたことになる」
 その主張は終始一貫していた。
 片や安倍元総理は「戦後レジーム」からの脱却を唱え、日本国憲法は米国に押しつけられたとの立場で改憲を主張し続けている。衆院選の結果、衆院議長についた細田博之氏の後任として自民党細田派 (清和政策研究会) の会長になり、晴れて安倍派が誕生すると早速「清和会が改憲の議論の先頭に立とう」と檄を飛ばした。
 持病を理由に 2 度目の政権放り出しをして以来表舞台に登場しなかったが、久しぶりに脚光を浴びて安倍カラー全開、所属議員93人、党内最大派閥をバックに改憲を押し進める構えを示したと言える。

◎維新の躍進で勇気 ?
 安倍氏の元気の背景には日本維新の会の躍進があるのだろう。維新は改憲賛成派、今度の選挙で議席を30増やし41になった。衆議院に関する限り自民、公明、維新を合わせれば改憲発議に必要な 3 分の 2 を超える。自民独自で国会運営の主導権を持つ安定多数を選挙で得たとは言え 3 分の 2 は依然高いハードルだっただけに安倍氏にとって待望久しかった朗報だ。
 もちろん同じ改憲でもどこをどう変えるかは各党まちまちだが、「 3 分の 2 」に勇気づけられたに違いない。
 衆院選投票日の直前、維新の会代表である松井一郎大阪市長は「来年夏の参院選までに改憲原案を国会が発議し、国民投票を参院選と同じ日に実施すべきだ」とぶち上げた。これに対して自民の茂木敏充幹事長は「さまざまな政党と議論を進めてゆきたい」と打ち返していたが、選挙後、維新側は「国会の憲法審査会を開会中は毎週開くべきだ」と主張しだした。これには 3 議席増やして11議席になった国民民主党も同意した。立憲民主党の抵抗で開かれないことが多く、開かれても本格的議論に入れない審査会の現状を打開しようとの狙いだ。

◎補完勢力か独自色発揮か
 維新や国民の動きをどうみるか、立場、人によって異なる。――独自色を発揮して存在感を強めようとしているとも取れるが、護憲陣営からみれば「自民の補完勢力」としての動きに映る。
 いずれにしろ安倍氏らは「援軍来る」と受け取っているだろう。

◎楽観できない調査数値
 そこで今回の衆院選に劣らず重要なのは来年夏の参院選だ。現状では自公 + 維新でも 3 分の 2 には足りない。来夏の選挙で改憲陣営が議席を積みまして 3 分の 2 を超えるようなら改憲ゾーンは危険領域に入るかもしれない。
 そこで気になるのが世論調査である。野党の頼りなさを指摘する声が大きい。選挙後の2021年11月 8 日付け朝日新聞が報じた世論調査によると「自民党が過半数を大きく超えたことが「よかった」が47%、「よくなかった」が34%だった。過半数超えの理由は「自公の連立政権が評価されたから」が19%で「野党に期待できないから」が65%だった。これに反して維新が躍進した理由は「維新への期待から」という答えが40%だった。経済停滞、コロナ問題など閉塞状態の中で世論が保守化していることがうかがわれる。

◎地に足のついた政治を
 安倍氏は秘蔵っ子の高市早苗氏が自民党総裁選で 2 位と健闘し、高市氏を党政調会長に押し込むことに成功して存在感を増している。その高市氏のもとで決まった選挙公約には「敵基地攻撃能力保持の検討」「国民総生産比 2 %への防衛費倍増」など安倍カラーが盛り込まれた。野党がしっかりしないと安倍氏の政権への影響力は大きくなる一方だろう。
 野党陣営、とりわけ野党第 1 党の立憲民主党の責任は大きい。代表が変わっても中身が変わらなければ国民の支持は得られない。日々の食事さえままならない路上生活者らに援助の手を延べる具体的政策を打ち出したり、コロナ禍による収入源で学業を途中で断念せざるを得ない若者に学費を支給するなど、地に足をつけた政治を展開しないと、自民党 + 維新に既成事実を積み重ねられ「気がついたら・・・」となりかねない。

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