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【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照

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一水四見(11)
――世界は再び、宗教戦争(?)の時代に移行するのか?――

2015年1月19日

30年ほど前から、ほとんど毎年のようにワルシャワを訪れているが、ポーランドの広大な平野のただ中に位置するこの都市に沈殿しているある種の空気を感じる。

この空気の感じ方は、一般の旅行者たちとは関係のない自分独自の思い過ごしかもしれないし、それは自分の宗教である仏教とこの国の宗教に関わるときに生ずる複雑な緊張感かもしれない。

そして、ヨーロッパ史におけるユダヤ人問題の淵源は限りなく深い、と感じる。

もちろんユダヤ人に問題があるというのではない。問題はつねに対峙する人間関係において生ずるものだからである。

“限りなく深い”のは、

1)ユダヤ教がキリスト教とイスラム教の母胎であること、

2)歴史上ユダヤ人がヨーロッパの思想、政治、経済、文学の歴史において特徴的な地位をしめてきたこと、

3)ユダヤ教にかかわるヨーロッパ的情念の深層が、ヨーロッパの識者自身にも明確にわからないこと、

4)そして、歴史の現在は通時的かつ共時的歴史の縁起の接点において、つねに諸行無常で生成変化しているからである。

ナチスの勃興当時のユダヤ人の状況と今日のユダヤ人のおかれた状況が異なるのは当然である。

***

人口約6,500万人のフランスはヨーロッパ最大のユダヤ人(推定約50万人)とイスラム教徒(約470万人;人口の7.5%;ドイツ、410万人;同、5.0%)の人口をかかえている(米国調査機関:ビュー・リサーチ・センター「宗教・生活プロジェクト」2010)。

昨年 7月、フランスではパレスチナ問題に関係する反ユダヤの暴動があって「水晶の夜」をおもわせるようにユダヤ人の商店、事務所などが襲撃された。

そして1,000人以上のユダヤ人が、家財道具を残したまま住み慣れたフランスを去ってイスラエルへと移住した。

フランス政府の発表によれば、2014年の最初の3ヶ月で169件の反ユダヤの事件が発生した。(BREITBART: by Jordan Schachtel,  28 Jul 2014)

王政とキリスト教会の支配からの決別をした世俗主義の下、フランスの学校に壁に記されている「自由、平等、博愛」をもって国家理念とするフランスではある。が、第二次世界大戦後、一般のカトリック信徒はかかわりないとはいえ、バチカンの一部の神父たちは、アイヒマン、メンゲレらのナチスの残党を南米等へ逃亡させた。これにはCIAが深く関わっていたことはドキュメンタリー映画「敵こそ、我が友」で描かれているとおりである。

***

「ヨーロッパ史におけるユダヤ人問題の淵源は限りなく深い」と言ったが、それは、これまでの歴史の大勢においてユダヤ人とキリスト教徒との関係にかかわることであった。

しかし今年(2015)は、新年早々7日、パリでイスラム教の “グループ”による週刊新聞「シャルリー・エブド」の出版社たいする襲撃、そこにいた記者ら12人の殺害で始まった。

そのイスラム教徒の “グループ” は、過激な殺害行動をしたのだから “過激な”グループにちがいないが、現在行われている西欧先進国のイスラム世界への軍事的介入の実体を考えれば 、彼らの殺害行為は是認できないが、それはどのような意味あいにおいて過激なのだろうか?

ほんとうに過激なグループの行動は――その規模と、それぞれの大手メディアで公表される軍事行動の背後で行われている無法規的殺害と拷問の実体を考えれば――先進諸国の軍事介入である。

そして、とくに一部の穏健なイスラム教徒らは、先進国の人々の「二重基準」に対して怒りをぶつけている。

「ガザやシリアで数千人も殺されているのに、17名ほど殺されたことで、なんたる大騒ぎだ!」といっているのだ。(France divided despite uplifting rallies;By Hugh Schofield;BBC News, Paris;11 January 2015 ー ’Je suis Kouachi’;Over and again they express their anger at what they see as double standards: Why so much fuss over 17 dead when thousands have died in Gaza and Syria?)

これまでのヨーロッパ史においては、ユダヤ人とキリスト教徒との間でのユダヤ人問題であったが、これからはユダヤ人、キリスト教徒、イスラム教徒たちの三つ巴の複雑な対立関係が顕在化してゆく可能性がでてきた。

***

三つ巴の複雑な関係は、その内部の思想的面を考えると、さらに複雑になってゆくかもしれない。

それは、イスラム教徒の一部の過激派の問題とは異質だが、それ以上の難題が現代には山積しているからである。

***

マックス・ウェーバーは「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」(1905)を発表したが、かって初代教会としてのキリスト教会は、やがて東方教会(ギリシャ正教)と西方教会(ローマ・カトリック教会)とに分裂し、さらにローマ・カトリックからプロテスタントが批判的に成立してきたことは周知のことである。

「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」では、それまで金儲けというのは、高く評価されるものではなく、少なくとも積極的に肯定されるものではなく正当性を持たなかった、というのだ。そして結果としては金融業にかかわるユダヤ人への差別が理論化されたかもしれない。しかし「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」は、歴史的既成事実を後付けた論文に過ぎないようだ。(ちなみに、日本ではすでに鎌倉時代に「漁師も猟師も商売人も農夫も、みな平等だ」とは主張されていた(親鸞『歎異抄』「海・河に網をひき、 釣をして、 世をわたるものも、 野山にししをかり、 鳥をとりて、 いのちをつぐともがらも、 商ひをし、 田畠をつくりて過ぐるひとも、 ただおなじことなり」)

そして現代では、「資本主義の精神」は、ウェーバーの所論の意図するところにかまわずに、非倫理的な金融資本主義の発展につながっていることは縁起的事実である。

そして、この金融資本主義の非倫理的な発達に「自由」の理念が連動していることも事実である。

***

しかし、資本主義と自由の両者の精神は合い助けあって現代社会を呪縛しているのだ。

これは、どんな思想家でも抗し難い現代の政治と経済を動かしている精神である。

この精神は、オーウェルのいう裏側に隷属の可能性を秘めた二重思考の「自由」である。

しかし、ここにフランシスコ・ローマ教皇が全世界の12億人のカトリック信徒に対して行動ととるようにうったえたのだ。

彼は“人間の貪欲に搾取された地球上の気候変動と資本主義”に対して行動をとるようにうったえたのだ(*Democracy Now; WEDNESDAY, DECEMBER 31, 2014:Pope Francis Calls for Action on Climate Change & Capitalism on a Planet “Exploited by Human Greed”)。

「気候変動と資本主義」とを組み合わせて、それに異議を唱えたところに深慮があるようだ。

***

世界はいよいよ新しい世界史のはじまりに入ってきた。世界史の再定義がおこなわれなければならない事態である。

「テンペスト」(シェークスピア)で、魔法と学問の研究をしていた少女ミランダの台詞 “Oh brave new world”をもじった「Brave New World (1931)」(オルダス・ハクルレー)、すなはち「支配者によって、人々が情け容赦もなく設計されたように生きなければならない世界」の再認識をしなければならない時代に入ったようだ。

そして「すばらしい新世界 (Brave New World (1931)」と「 真昼の暗黒 (Darkness at Noon (1940) 」(アーサー・ケストラー)を取り込んだ「 1984年 (Nineteen Eighty-Four (1985)」(ジョージ・オーウェル)においては、ある支配層によって全世界の人間が情報管理される世界が提示されている。

***

「限りなく深い淵源をもつヨーロッパ史におけるユダヤ人問題」の世界から、イスラム教の再登場をまって、世界は一神教の三つ巴の情念のそれぞれに「自由」の問題が絡まってきた状況を呈している。

***

歴史は繰り返さない、諸行は無常である。さらに予想もしなかった歴史的勢力が西欧に対抗するようにあらわれてきた。中国だ。

かっては世界最大の都市・長安を中心として大帝国を築き上げた中華文明が――近代西欧にやられっぱなしであった中国が――しかも外来のユダヤ思想に淵源をもつマルクス・レーニン思想と無神論を政策の中枢にしている矛盾の中国が――神教の三つ巴の情念の渦巻く西欧の金融資本主義とインターネットに支配された「すばらしい新世界」に介入してきているのだ。

***

世界は宗教戦争(?)の時代に突入したのか?

この疑問にたいする解答は、識者の立場によって異なるだろう。

ある人は「宗教戦争(?)」の(?)のみをとるだろう。

またある人は「突入したか?」の(?)のみをとるだろう。

そして最後の人は、この疑問から二つの(?)をとるだろう。

(2015/01/18 記)

――――

*Democracy Now; WEDNESDAY, DECEMBER 31, 2014:

Pope Francis Calls for Action on Climate Change & Capitalism on a Planet “Exploited by Human Greed”――Pope Francis is set to make history by issuing the first-ever comprehensive Vatican teachings on climate change, which will urge 1.2 billion Catholics worldwide to take action. The document will be sent to the world’s 5,000 Catholic bishops and 400,000 priests who will distribute it to their parishioners. Given the sheer number of people who identify as Catholics worldwide, the pope’s clarion call to tackle climate change could reach far more people than even the largest environmental groups. “The document will take a position in favor of the scientific consensus that climate change is real … and link the deforestation and destruction of the natural environment to the particular economic model of which Pope Francis has been a critic,” says our guest, Austen Ivereigh, author of a new biography called “The Great Reformer: Francis and the Making of a Radical Pope.”

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