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甦ってくる「スパイ防止法」の危険性 ~ 今を新たな戦前としないために ~
10月20日、自民と維新の会の連立協議の合意内容に、以前から両党が狙っていたスパイ防止関連法制を、「25年に検討を開始し、速やかに法案を策定し成立」すると明記されました。これが成立すると大変です。ぜひこの危険性を一緒に学び、阻止しましょう!!
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10月、自民党の総裁選が行われ、高市早苗氏が総裁に選出されました。同氏は、総裁選候補者の中では安倍元首相と最も思想的に近い関係とされ、中国や北朝鮮との間での緊張関係が心配されていますが、それ以上に憲法との関係で懸念すべきことがあります。
それは、「スパイ防止法案」です。この悪法が今にも提出され、自民党だけでなく多数の野党も賛成して成立しそうな状況にあるのです。
しかし、この法案はかつて成立した悪法「秘密保護法」をさらに悪化させるもので、我が国を戦前の状態に戻すようなものなのです。そこで、今回は「スパイ防止法案」とは何か、その問題点は何か、をお伝えしたいと思います。
Q: 「スパイ防止法案」、以前に聞いたことがありますが。
A: そうですね。1985年の中曽根政権時に国会に議員提案され、1988年に廃案となった「国家機密スパイ防止法案」がありました。
この時、当時の統一協会・勝共連合がこの法案の制定運動を強力に推進したことは有名で、勝共連合は「戦後初めて全国民に国家に対する忠誠心を問う法律」と明言していました。
Q: 廃案になったことは覚えていますが、そうでしたか。ところで、高市氏と、この法案がまた出てくることとの関係は。
A: 高市氏が会長を務める自民党「治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会」が、本年5月28日、「『治安力』の強化に関する提言」を取りまとめ、石破首相に参院選公約にこの提言を盛り込むよう求めたのですが、その提言の中に、「諸外国と同水準のスパイ防止法の導入に向けた検討を推進すべき」との内容が入っていたのです。
Q: そうすると、その高市氏本人が総裁になったことで、今後その要請が現実化することになるわけですね。
A: そうです。また、国民民主党の公約にはG7諸国と同等レベルの「スパイ防止法」が、日本維新の会の参院選公約にも「インテリジェンス」機関を創設するとともに、諸外国並みの「スパイ防止法」の制定が書かれています。
また、参政党も同様ですが、代表の神谷宗幣氏は、本年7月、松山市であった参院選の街頭演説で、公務員を対象に「極端な思想の人たちは辞めてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法です」、「極左の考え方を持った人たちが浸透工作で社会の中枢にがっぷり入っていると思う」とも述べたとのことです。
これから見ると、自民党だけでなく、多数の野党も一致して成立に邁進するでしょう。
Q: それにしても、神谷代表の発言は怖いですね。ところで、今度の「スパイ防止法案」の内容はどんなものになりそうでしょうか。
A: まだ提案されているわけではないので予測になりますが、2013年に制定された特定秘密保護法の罰則の最高刑が10年で、以前の「国家機密スパイ防止法案」の場合は死刑と無期懲役でしたので、今回の法案は罰則が死刑と無期懲役とされると予測されます。
また、特定秘密保護法では、公務員や民間企業社員に対しての適性評価で、政治的な思想信条の調査などはしないしできないものとされていますが、神谷氏の発言にあるように、この歯止めを取り去り、思想信条の自由を侵害する制度が企図されている危険があります。
さらに、内閣情報局などを統合する、アメリカのCIAのような中央情報機関(JCIA)の設立も考えられます。
Q: それは恐ろしいことですね。まさに戦前の逆戻りの感じがします。私が特に恐ろしく思うのは、罰則で死刑・無期懲役があることです。
A: その通りですね。この問題に詳しい海渡雄一弁護士は、この問題の本質をズバリ指摘し、次のように述べています。
「スパイ防止法は、世界を味方と敵に二分する考え方である。A国のB国に対するスパイ行為が成功した場合、この行為は、A国においては、英雄的行為として称賛され、対象とされたB国で検挙されれば死刑などの厳罰に処せられる。しかし、外交的な交渉が成功すれば、スパイ交換によって生還することもできる。各国の情報機関が行う行為は、自国の安全保障戦略のために必要とされる。しかし、それは「敵国」からみれば、スパイ行為なのである。このように、スパイ防止法において罪に問われようとしている行為は、人間社会において普遍的に罪とされるような行為ではなく、時と立場によって簡単に逆転してしまう性質の行為である。つまり、スパイ防止法は簡単に逆転する正義を厳罰で守ろうとする法律なのです。」、このような行為に死刑を適用するとは恐ろしいですね。
Q: よく分かります。しかし、推進側が、諸外国にもある法律なのに反対するのはおかしい、先手で情報危機管理をすべき、現代の国際社会において情報戦の重要性が増している、サイバー攻撃の対応が必須、などと言ってくると、国民の大多数は賛成してしまうのではないでしょうか。
A: その懸念はありますね。ですので、私たちはそれにしっかり反論出来るものを持っておく必要があります。いま以上の外国通報目的の厳罰化の必要性はないということです。
秘密漏洩の厳罰化は、すでに上記のように大きな問題を内包する特定秘密保護法により厳罰化が実現しており、これ以上の厳罰化の必要性はないのです。
特定秘密保護法の適用事例は、海上自衛隊1等海佐が退職していた元海将に対して最新の安全保障情勢に関するブリーフィング説明を行った際、特定秘密を洩らしたとされた事例などがありますが、いずれも外国通報目的やスパイの問題ではなく、自衛隊における特定秘密の取扱いの運用が問題とされた事例です。
なお、特定秘密保護法の初の適用事件では、何が特定秘密であったのか、説明を受けた自衛隊の元海将もわからなかったというお粗末さでした。
Q: また、仮想敵国を作って外国との対立を煽るようなことになっても困りますね。
A: そのとおりです。秘密保護の強化は、日中間など国際緊張をはらむ外国と日本の間の平和構築についての議論そのものをタブー化し、戦争の危機を深めることにもなります。
また、秘密警察活動によって冤罪が生まれ、弁護活動にも大きな障壁となります。実際に、経済安保法の制定のため、実例をでっち上げるためにえん罪(大川原化工機事件の)が発生し、長期拘禁と無実の相嶋氏の獄死という悲惨な結果につながったことの教訓を忘れてはなりません。
Q: 「スパイ防止法」にはたくさんの問題があることが分かりましたが、私は、日本国憲法が保障する思想・良心の自由(19条)が侵害されることが強く心に残りました。
A: その通りですね。反対を表明している上記の海渡弁護士にはSNS上で「スパイの断末魔だな」などとのひどい書き込みがされています。私たちは一致団結して反対の声を上げていかねばなりません。
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