新聞労連 「記者会見の全面開放宣言」 を発表
2010.3.4

  日本新聞労働組合連合(新聞労連)新聞研究部は4日、提言 「記者会見の全面開放宣言 〜記者クラブ改革へ踏み出そう〜」 を発表した。 新聞労連は94年と02年に記者クラブ改革に関する提言をまとめたが、今回は、フリーランスの記者などへの会見開放を改革の第一歩と位置づけ、 実行のための具体的な手引きを作成したのが特色だ。
  宣言では、不況による収入減など新聞業界の危機の中で、閉鎖的との批判が強い記者クラブの改革を率先して進め、 新聞再生や市民の信頼確保に努める意義を強調。昨年9月の政権交代後に、外務省や総務省などで大臣会見開放の動きが広まっていることについて、 「公権力が主導する形で開放されたのは残念」 と指摘した。
  実行のための手引きでは、「記者会見は記者クラブへの加盟に関係なく、知る権利に奉仕する限り、すべての取材者に開放されるべき」 と記し、 取材センター(記者室)に開放スペースを設けたり、記者クラブの開放に向けて規約見直しを議論したりすべきであることなどを呼びかけた。
  新聞研究部は9日、提言を東京・内幸町の日本新聞協会に提出する予定。 4月25日には、第53回新研中央集会を東京・文京区民センターで開催し、提言内容を報告。国会議員やジャーナリストなどを招き、 記者クラブや記者会見の開放などメディアのあり方について討論する。


「記者会見の全面開放宣言 〜記者クラブ改革へ踏み出そう〜」
日本新聞労働組合連合(新聞労連)新聞研究部
2010.3.4

【総論・前文】
  「新聞の危機」 が拡大しています。インターネットの隆盛やメディアの多様化で新聞の土台は大きく揺さぶられ、不況による売り上げ減、 読者離れや新聞不信が根深くなっています。しかし、危機の時代にあっても、市民の知る権利に奉仕し、 権力を監視する新聞ジャーナリズムの意義はいささかも薄れてはいません。むしろ逆境にいるからこそ、後ろ向きにならず、改革すべきところは改革し、 新聞再生に努めることが求められています。日本新聞労働組合連合(新聞労連)新聞研究部はこのため、 閉鎖的・排他的であるとの批判に長くさらされてきた記者クラブの改革を率先して進め、まずは記者会見の全面開放に向けて努力することを宣言します。

  記者会見については、昨年9月の民主、社民、国民新の3党による連立政権の発足後、外務省や総務省などの省庁で 「大臣会見のオープン化」 が広がっています。 本来ならば記者クラブ側が主体的に会見のオープン化を実現すべきでしたが、公権力が主導する形で開放されたのは、残念であると言わざるをえません。 さらに、政府の動きに比べて、記者クラブ側は総じて積極的に素早く対応しているとは言えません。 一般市民、記者クラブに加入していないメディアやジャーナリストからみて、記者クラブ、ひいては私たち新聞人自身が開放に抵抗していないか、 問いかけなければなりません。

  記者クラブに対しては、「権力との癒着の温床」 「発表ジャーナリズムへの堕落」 などの批判も向けられてきました。 そればかりか、インターネットによって情報を発信したり受け取ったりする手段が発達したことに伴い、 記者クラブの存在自体がその閉鎖性・排他性によって報道の多様性を阻害しているとの批判も強まっています。 多様な価値観を認め合う豊かな民主主義社会を築くためには報道の多様性が不可欠な条件であるにもかかわらず、その阻害要因とみられているのです。

  新聞労連は1994年に 「提言 記者クラブ改革」、2002年に 「21世紀の記者クラブ改革にあたって──私たちはこう考える」 を発表し、 いずれにおいても記者会見と記者クラブのオープン化を掲げました。今、求められているのは、批判に謙虚に耳を傾け、94年、02年の提言を踏まえて、 いかに実行に移すかということです。

  まず、記者クラブに所属していない取材者にとってニーズが強く、 記者クラブ側にとっても取り組みやすいと思われる記者会見の全面開放をただちに進めることから始めましょう。 私たちはそのことが、より実効性のある記者クラブ改革につながると考えています。

  そもそも報道の自由は知る権利に奉仕するためにあり、市民の信頼があって初めて成り立ちます。 市民の信頼がなければ、公権力による報道規制や表現の自由を制約する動きに対抗することもできません。 記者会見や記者クラブの開放によって広く市民の信頼を勝ち取ることは、権力監視のために独立した公共性の高い新聞ジャーナリズムを支える基盤になると考えます。

  私たち新聞人一人ひとりがジャーナリスト個人としてのあり方を見つめ直すことが重要であることを確認したうえで、 確実に記者クラブ改革を実行するための手引きを提示します。

【実行のための手引き】

(1) 記者会見への参加を拒んでいませんか?

  記者クラブに所属していない取材者から 「記者会見に出席したい」 と言われた経験はありませんか? 記者会見は広く市民の知る権利に応えるのが目的です。 記者クラブへの加盟いかんに関係なく、知る権利に奉仕する限り、すべての取材者に開放されるべきです。 どのような記者会見でも、すべての取材者が出席できるよう努めましょう。

(2) 記者会見の開放に抵抗していませんか?

  2009年の政権交代後の外務省や総務省などの大臣会見に代表されるように、公権力側が記者クラブに記者会見の開放を打診するケースがみられます。 そもそも記者クラブ側から先に開放するべきですが、結果的に公権力側からの開放要請を受けた際、 記者クラブが自ら記者会見への参加に条件や基準を設けてハードルを上げていませんか? 記者クラブが市民の知る権利を阻んでいるとみられかねません。 全面的に開放するよう努め、公権力側から条件設定の要請があったとしても断りましょう。

(3) 記者クラブ員以外の質問を阻んでいませんか?

  記者クラブに所属していない取材者が記者会見に参加した際、記者クラブ側が質問の機会を不当に奪ったり、制限したりしていませんか?  原則として質問をする機会はすべての取材者に与えられるべきです。公権力側が特定の取材者にだけ質問を認めたり、一方的に会見を打ち切ったりするなど、 恣意的な運用をした場合は抗議しましょう。

(4) 記者クラブへの加入を阻んでいませんか?

  記者クラブへの加入に際し、「日本新聞協会加盟社の記者であること」 「会員の推薦が必要」 といった条件を設けるなどして門前払いをしていませんか?  雑誌やフリーランス、ネットメディア、海外メディアなどの取材者にも原則的にオープンでなければなりません。 なお、記者クラブの幹事業務は平等負担が原則ですが、業務の完全遂行が難しい取材者の負担には配慮するよう努めましょう。

(5) 記者クラブ内で不当な制裁を科していませんか?

  「黒板協定」 (しばり)の解禁を破ったことなどを理由として、記者クラブからの除名、記者会見や取材センター(記者室)への出入り禁止、 謝罪文の提出といった処分や処罰を行っていませんか? そもそも自由な報道を規制するような協定はなくすべきですし、 取材者同士で制裁を科し合うことは、知る権利に奉仕するという本来の役割を記者クラブ自らが放棄することになりかねません。 不適切な制裁は取りやめるとともに、例えば公権力への単独取材を不当に阻むなど、記者クラブの慣例的ルールや横並び意識などにより、 取材や報道の自由を妨害するようなこともやめましょう。

(6) 取材センターに開放スペースがありますか?

  取材センター内に、記者クラブ員が専有しているスペースのほか、記者クラブに所属していない取材者がいつでも自由に使えるスペースを用意していますか?  取材センターは公権力を内側から監視するための公共のスペースであり、記者クラブへの加入いかんに関係なく、広く取材者に開放されるべきです。 スペースに限りがある場合などは、公権力側にスペースの拡大を要請したり、記者クラブ員の専有スペースを縮小したりするなど、改善に努めましょう。

(7) 取材センターの経費負担に努めていますか?

  取材センターを維持するために必要な経費を、公権力側と記者クラブ側がどのように分担しているか知っていますか? 取材センターは公共のスペースですが、 取材者が使用する電話代やコピー代などの実費は取材者が支払うべきです。取材センターの維持経費にかかわるすべての収支の公開に努めましょう。

(8) まずは規約を読み、議論してみませんか?

  記者クラブには、それぞれ規約がありますが、一度でも読んだことがありますか? 規約は記者クラブによって異なりますが、目的や幹事業務の内容のほか、 記者クラブへの加入条件や黒板協定、罰則、記者クラブ員が取材センターを優先的に利用する権利といった項目が明記されています。 記者会見や記者クラブ、取材センターを広く開放することは、取材者間の健全な競争や報道の多様性を確保し、 市民の信頼を高めるうえで極めて重要な意味を持ちます。一連の改革に向け、まずは規約を手に取り、見直しについて議論することから始めてみませんか?
以上

    問い合わせ先
       新聞労連新聞研究部
       TEL 03-5842-2201