新宿区新大久保地域で行われる
外国人排撃デモについての声明・申し入れ
2013.3.30
 弁護士 梓澤和幸

  昨日、東京、神奈川の弁護士12名は新大久保地域における外国人排撃でもに関して、 周辺住民、外国人の安全を守るため警察が適切な行政警察権限を行使するよう申し入れ、東京弁護士会に対して人権救済の申し立てをした。
  以下関連の文書を掲載します。



声      明

1 本日私たちは、本年2月9日以来4回にわたって東京都新宿区新大久保地域で行われてきた外国人排撃デモの実態に鑑みて、 今後周辺地域に居住、勤務、営業する外国人の生命身体、財産、営業等の重大な法益侵害に発展する現実的危険性を憂慮し、 警察当局に適切な行政警察活動を行うよう申し入れた。
2 外国人排撃のための 「ヘイトスピーチ」 といえども、 公権力がこれに介入することに道を開いてはならないとの表現の自由擁護の立場からする立論があることは私たちも承知している。 しかしながら、現実に行われている言動は、これに拱手傍観を許さない段階に達していると判断せざるを得ない。
  このまま事態を放置すれば、現実に外国人の生命身体への攻撃に至るであろうことは、 1980年代以降のヨーロッパの歴史に照らして明らかなところである。
3 また、ユダヤ人への憎悪と攻撃によって過剰なナショナリズムを扇動し、 そのことにより民主主義の壊滅を招いたヒトラーとナチズムの経験からの重要な教訓を、この日本の現在の全体状況の中でも改めて想起すべきと考える。
4 以上のことから、私たちは当面の危害の防止のため緊急に行動に立ち上がるとともに、マスメディアや、 人権や自由と民主主義の行く末を憂慮する全ての人々に関心を寄せていただくよう呼びかける。
5 また、上記の集団行進や周辺への宣伝活動において一般刑罰法規に明白に違反する犯罪行為を現認確認したときは、 当該実行行為者を特定したうえ、当該行為者と背後にある者に対して、その責任追及のためのあらゆる法的手段に及ぶことを言明する。

  2013年3月29日
弁護士 宇都宮 健 児
弁護士 澤 藤 統一郎
弁護士 梓 澤 和 幸
弁護士 中 山 武 敏
弁護士 海 渡 雄 一
弁護士 中 川 重 コ
弁護士 渡 邉 彰 悟
弁護士 杉 浦 ひとみ
弁護士 殷   勇 基
弁護士 神 原   元
弁護士 中 川   亮




申入書

2013年3月29日
東京都公安委員会 御中
警視庁警視総監 殿

弁護士 宇都宮 健 児
弁護士 澤 藤 統一郎
弁護士 梓 澤 和 幸
弁護士 中 山 武 敏
弁護士 海 渡 雄 一
弁護士 中 川 重 コ
弁護士 渡 邉 彰 悟
弁護士 杉 浦 ひとみ
弁護士 殷    勇 基
弁護士 神 原    元
弁護士 中 川    亮

申入れの趣旨

  東京都新宿区新大久保地域で行われる外国人排撃デモにおいて新大久保地域に居住営業する韓国人、朝鮮人、 中国人ほか在日外国人への生命身体への害悪の告知、住居侵入、威力業務妨害等関係者の生命身体、財産、 営業に対する著しく重大な法益侵害につき、 明白にして現在の著しい危険がある行為についてはこれが関係者の重大法益を侵害しないよう関係法規に基づき、適切な行政警察活動を行われたい。

申入れの理由

1 2013年2月9日、10日、17日、3月17日に行われた在日特権を許さない市民の会(以下 「在特会」 という。)による集団行進においては、 「殺せ殺せ朝鮮人」、「韓国=敵、よって殺せ」、「朝鮮燃やせ、我々はソウルの街を火の海にするぞ」 等の参加者のシュプレヒコールが発出され、 プラカードが携行・掲出された。また、参加者の中には沿道の在日外国人経営の飲食店に入り、「韓国人は出て行け」 などの行為をするものもあった。
2 これらの行為により、付近の在日外国人は生命身体の危険を感じ、恐怖感を抱いた人たちも少なくない。
3 さらには異常な外国人排撃の表現や脅迫文言ととられる言動があったため、付近の在日外国人経営の飲食店、土産物店などの売上は著しく減少している。
4 従前のデモについては一部に脅迫、威力業務妨害などの行為やその実行行為直前の行為が見られたにもかかわらず、 現場に臨場していた警察官たちにおいて適切な警告、制止が行われたとは言いがたい。
5 ヨーロッパのドイツ、フランスなどにおいては外国人排撃運動に対し、社会のしかるべき対応が行われなかったことから外国人の生命が奪われ、 また放火等重大な犯罪に発展したことも銘記されるべきである。 事態が深刻な発展を遂げているのに警察の対応も充分とは言えず、また社会の批判的言論の発展も充分とはいえない。
  以上の事態を憂慮し、私たちは法律家としてここに前記の趣旨の申し入れを行い、また本日これを発表して大方の関心を呼びかける次第である。
以上



人権救済申立書
2013年3月29日

東京弁護士会 会長 殿
申立人 弁護士 澤藤統一郎
申立人 弁護士 梓澤 和幸
申立人 弁護士 海渡 雄一
          他9名

申立人らの表示 別紙申立人目録記載のとおり

〒100-8929
 東京都千代田区霞が関2丁目1-1
相手方  警視庁 警視総監

申立の趣旨

  相手方は、東京都新宿区新大久保地域で行われる外国人排撃デモにおいて新大久保地域に居住営業する韓国人、朝鮮人、 中国人ほか在日外国人への生命身体への害悪の告知、住居侵入、威力業務妨害等関係者の生命身体、財産、営業に対する著しく重大な法益侵害につき、 明白にして現在の著しい危険がある行為についてはこれが関係者の重大法益を侵害しないよう関係法規に基づき、適切な行政警察活動を行われたい。

申立の理由

第1 申立の概要
  本申立は、2013年2月9日、10日、17日、3月17日に行われた在日特権を許さない市民の会(以下 「在特会」 という。)による集団行進において、 「殺せ殺せ朝鮮人」、「韓国=敵、よって殺せ」、「朝鮮燃やせ、我々はソウルの街を火の海にするぞ」 等の参加者のシュプレヒコールが発出され、 同趣旨のプラカードが携行・掲出されたこと、また、沿道の歩行者や店舗の店員に罵声が浴びせられ、危険な状態が生じたことについて憂慮し、 適切な行政警察活動を求めるものである。

第2 申立に至る経緯
1 「在日特権を許さない市民の会」 及び 「行動する保守運動」 の性格
(1) 在特会とは、“在日特権” を許さないことを目的とする等と称して、2007年1月20日頃、桜井誠(本名:高田誠)を会長として設立された。
(2) 同会のホームページ(甲1)によれば、“在日特権” とは、「何より特別永住資格」 であり、「1991年に施行された入管特例法を根拠に、 旧日本国民であった韓国人や朝鮮人などを対象に与えられた特権」 だとのことであるから、 要するに、同会は、本邦に居住する韓国籍や朝鮮籍の人々や、 朝鮮半島にルーツのある日本人(以下、「在日コリアン」 という。)を非難攻撃することを主たる目的とした団体だということになる。
  同団体は、上記目的のために各地で街頭宣伝活動やデモを行ってきたが、 その際、「朝鮮人を殺せ」 「ゴキブリ」 「叩き出せ」 「朝鮮人はウンコ食っとけ」 などの汚いヘイトスピーチ (暴力と差別を煽る表現を伴う言論)を使用し続けている。
(3) 同会は、2009年12月4日には、京都府南区にある京都朝鮮第一初等学校校門前において、拡声器によって 「朝鮮学校、こんなものは学校でない」 等の罵声を約1時間に渡って同校に向かって浴びせるという事件を起こした。
  また、同会は、2010年4月14日には、徳島県教組事務所に乱入し、 「朝鮮人の犬」 「こら非国民」 等とトラメガを使って叫ぶ事件(徳島事件)を引き起こしている。
  京都事件については、10年8月10日、同会より4人の逮捕者を出した。 また、その一ヶ月後、徳島事件で同会より7人の逮捕者を出している(以上、「安田浩一 「ネットと愛国」 93頁以下参照 甲2)。
(4) 「行動する保守運動」 とは、在特会とデモ日程などを共有し、ともに行動している一群の政治団体と考えられる。
  「行動する保守運動」 との表題があるホームページの 「行動する保守運動のカレンダー全国版」 には、 後述の 「新社会運動」 「日本侵略を許さない国民の会」 「湘南純愛組・優さん」 等のグループが名前を連ねる(甲3)。
  「行動する保守運動のカレンダー全国版」 の説明書きには、「このカレンダーは在日特権を許さない市民の会が管理する 『行動する保守運動』 の活動予定表です。行動する保守運動に賛同する団体なら誰でも参加出来ます。 参加をご希望の方は以下のカレンダー管理担当宛てに参加申請をお送りください。」 とある。
  この記載から、「行動する保守運動」 は、在特会が中心になって運営し、これに賛同する有象無象の団体が、一緒になって行動しているものと考えられる。
  以下、「行動する保守運動」 に所属する 「在特会」、「日本侵略を許さない国民の会」、「新社会運動」 等の団体を総称して、「本件団体」 と称する。

2 新大久保駅周辺の状況(甲4)
(1) 新大久保駅周辺には、東西に二本、「職安通り」 と呼ばれる通りと、「大久保通り」 と呼ばれる通りが存在している。
  両方の通りの間には、南北に細い通りが複数通じており、そのもっとも賑やかな通りが 「イケメン通り」 と称される。
(2) 職安通りの北側、とりわけ北新宿百人町乃至東新宿までの区間には、韓国料理店、食材店などが密集している。
  また、大久保通りの北新宿1丁目乃至大久保2丁目までの区間にも韓国料理店、食材店などが密集している。
  これに加えて、新大久保駅周辺及びイケメン通りには、韓流スターのグッズの店や、韓国風化粧品などを売る店が並んでおり、 多くの韓流ファンが集まる空間になっている。
(3) また、大久保通りには、中央教会キリスト教(神父が在日コリアン)、日本キリストルーテル教会の2つの教会のほか、区立大久保小学校、 区立柏木小学校、区立柏木こども園があり、閑静な住宅街が広がっている。

3 本件団体による新大久保駅周辺のデモ実施状況(甲3)
(1) 2月9日、在特会東京支部その他の協賛、「新社会運動」 なる団体の主催で、 新大久保駅周辺において、「不逞鮮人追放!韓流撲滅 デモ in 新大久保」 と称するデモ行進が行われた。
  2月10日、「日本侵略を許さない国民の会」 なる団体の主催で、新大久保駅周辺において、 「北朝鮮は拉致被害者を即刻返せ! in 新宿」 なるデモ行進が行われた。
  2月17日、「湘南純愛組・優さん」 なる団体の主催で、新大久保駅周辺において、「韓国を竹島から叩き出せ!in 新大久保」 なるデモ行進が行われた。
  さらに、3月17日、在特会東京支部の主催で、新大久保駅周辺において、「春のザイトク祭り 不逞鮮人追放キャンペーン デモ行進 in 新大久保」 なるデモ行進が行われた。
  なお、上記 「行動する保守運動」 のカレンダーによれば、本年1月12日にも、在特会東京支部主催で、新大久保駅周辺において、 「韓流にトドメを! 反日無罪の韓国を叩きつぶせ 国民大行進 in 新大久保」 と称するデモ行進が行われている。
(2) これらからすれば、在特会及びその周辺の 「行動する保守」 のグループは、新大久保駅周辺においては、今年に入って実に5回、 類似のコースでデモ行進をしていることになる。
  前述のとおり、新大久保駅周辺には、韓国人料理店や 「韓流」 の店、韓国食材の店など、韓国にまつわる商店が多く、 在特会及びその周辺の 「行動する保守」 は、これらの店及びその客をターゲットとして、いわば、「韓流」 ブームに対する攻撃として、 新大久保駅周辺でデモを行っていることが明らかである。
  この点だけとらえても、新大久保駅周辺の店舗が、いかに本件団体の被害に遭っているかが明瞭である。
(3) 本年3月31日、新大久保駅周辺において、新日友会、神鷲皇國會の主催、在特会、新社会運動等の共催で、 「特定アジア粉砕新大久保排害カーニバル!!」 と称するデモが予定されている。

4 本件団体によるデモの問題点
(1) 本件団体によるデモは極めて粗暴かつ暴力的であり、暴力や差別を煽り、とりわけ新大久保駅周辺の環境に絶大な悪影響を与えている。 具体的には以下のとおりである。
(2) 粗暴な言動、ヘイトスピーチ
  在特会をはじめとして、本件団体はいずれも在日コリアンに対する攻撃を目的としている。 そのため、本件団体のデモ参加者は、在日コリアンを攻撃するため、 いずれも、以下のような言動を大声でしながらデモを行っている(3月16日付朝日新聞 甲5)。
  「朝鮮人を殺せ!」
  「朝鮮人を叩き出せ!」
  「朝鮮人を射殺せよ!」
  「朝鮮人はゴキブリだ!」
  「朝鮮人は犯罪者だ!」
  同時に、本件団体のデモ参加者は、次のようなプラカードを掲げてデモ行進に参加している。
  「よい朝鮮人も悪い朝鮮人も、みんな殺せ」(甲6)
  「韓国≠悪、韓国=敵 よって殺せ」(甲7)
  「朝鮮人、頸つれ、毒飲め、飛び降りろ」(甲8)
  以上のような発言及びプラカードは、明らかに常軌を逸しており、とりわけ、大量殺人の煽動は刑法の騒乱罪(刑法106条)、 営業妨害は威力業務妨害罪(234条)、歩行者や店員に対して向けられた発言は、脅迫罪(刑法222条)、侮辱罪(231条)を構成する。 また、刑法の問題を離れても、周囲の環境に与える影響は計り知れない。
(3) 通行上の危険を誘発し、暴力的事態を生じさせていること
  同団体のデモ行進参加者は、しばしば道路からはみ出して歩道に入り、商店や歩行者と衝突している。 このため、機動隊員が周囲を取り囲むために歩道上の通行が不能になり、通行人の通行に重大な支障を生じさせている。
  また、同団体の過激なヘイトスピーチは、当然、周囲の怒りを買い、抗議する者が殺到している。 一度は、同団体のデモに抗議する女性が道に飛び出して警官隊に取り押さえられたり(甲9)、 主催者の桜井誠(高田誠)自身が沿道の罵声に激高して暴れ出し、警官隊に取り押さえられるという事態もあった(甲10)。
  さらに、同団体は、しばしば、沿道を歩く市民に対し、「こら、そこの朝鮮人」 等と罵声を浴びせたり、脅迫的言質を行っている。 このため、沿道では、若い女性が泣き出したり、逆に沿道の市民とデモ参加者との間で罵声の応酬が始まることもあり、 本件現場周辺は一触即発の事態になっている。
  このように、同団体の激しいヘイトスピーチの結果として、新大久保駅周辺は毎週週末になると騒然とした状態になり、 一部には暴力的事態まで発生しているのである。

第3 本件申立に至る理由
1 以上のとおり、在特会による集団行進においては、暴力や差別を煽る言動が行われ、沿道に大混乱を引き起こしている。 これらの行為により、付近の在日外国人は生命身体の危険を感じ、恐怖感を抱いた人たちも少なくない。
2 さらには異常な外国人排撃の表現や脅迫文言ととられる言動があったため、付近の在日外国人経営の飲食店、土産物店などの売上は著しく減少している。
  従前のデモについては一部に脅迫、威力業務妨害などの行為やその実行行為直前の行為が見られたにもかかわらず、 現場に臨場していた警察官たちにおいて適切な警告、制止が行われたとは言いがたい。
3 ヨーロッパのドイツ、フランスなどにおいては外国人排撃運動に対し、社会のしかるべき対応が行われなかったことから外国人の生命が奪われ、 また放火等重大な犯罪に発展したことも銘記されるべきである。事態が深刻な発展を遂げているのに警察の対応も充分とは言えず、 また社会の批判的言論の発展も充分とはいえない。
4 以上の事態を放置すれば、デモの実施場所の沿道に位置する飲食店や土産物店、その従業員、沿道の住民、買物客や観光客、 そして一般の外国人などの基本的人権を侵害する恐れが極めて強い。
  これを適正に排除するためには、現場に臨場する警察官らが適切に警告を発し、また、場合によっては犯罪的行為に対する制止を行うべきである。

第4 結論
  よって、デモが通過する沿道の店舗、住民、買物客、一般外国人(とりわけ在日コリアンに属する人々)の基本的人権を擁護するため、本 申立に及んだ次第である。
以上

証 拠 方 法

甲1 在特会ホームページ
甲2 「ネットと愛国」
甲3 「行動する保守」 ホームページ
甲4 新大久保駅マップ
甲5 新聞記事
甲6 写真
甲7 写真
甲8 写真
甲9 写真
甲10 写真