原発検閲NHKラジオ
2014.2.25
 弁護士 杉浦ひとみ

  2014年2月9日の東京都知事選挙を目前に控えた今年の1月に、 原発問題についての発言がラジオ局から発言者に対して事前に抑制されるという事件が明らかになった。

  報道によれば、ピーター・バラカン氏(英国出身のフリーキャスター、ピーター・バラカン氏(62))がDJを担当するFMラジオ番組 「Barakan Morning」(InterFM)(月曜から木曜午前7時から10時)内で、ピーター氏自身が 「まだ告示もされていないのに、東京都知事選が終わるまでは原発に触れないよう、他の2つの放送局で言われました」 と語ったとのことで、 大勢の聴取者がこの問題をネット上でツイートしているということである。 また、これを受けた日刊ゲンダイは、ピーター氏自身に問い合わせたところ 「放送局から原発に触れないよう言われたのは事実ですが、 命令口調ではなかったのです。スタッフから “あまり触れないでくださいね” と言われた程度だった。」 と答えたとの報道をしている。

  ピーター氏は、制限された番組や局名を明かすことはなかったものの、「InterFM」 以外にも、NHK−FM(「ウィークエンド サンシャイン」)、 TOKYO FM(「Tokyo Midtown presents The Life MUSEUM」)でレギュラー番組を持っていることから、そこでの制限であるとの推測ができるが、明確ではない。 しかしながら、原発は、3.11の東日本大震災によって未曾有の放射能事故をおこしたのであって、 そのことを考える機会を公共に流れる放送をつかって提供することは、むしろ報道機関としては国民の知る権利に資する重要な活動である。 これまでも原発に反対する意見を表明しているピーター氏に対して、そのいい方はともかく、そのような内容の発言を抑制することは、 報道の自由に名を借りた報道機関による個人の表現の自由の事前抑制であり、聴取者の知る権利の侵害である。 ましてや、都知事選挙においては、原発問題も争点になり得るものであり、これを視野においての制限であるとすれば、 政治的な判断の基礎になる有権者の知る権利の大きな侵害となる。

  他方、NHKラジオ第一放送で1月30日朝に放送する番組で、中北徹東洋大教授(62)が 「経済学の視点からリスクをゼロにできるのは原発を止めること」 などとコメントする予定だったことにNHK側が難色を示し、 中北教授が出演を拒否したことが1月29日に分かったと報道されている。 中北教授の予定原稿はNHK側に29日午後に提出されたが、NHK側からは中北教授に 「東京都知事選の最中は、原発問題は絶対にやめてほしい」 と求めたという。
  中北教授は、特定の立場に立った内容ではなく、趣旨は変えられない旨伝えたとのことだが、NHKの対応が誠実でなく、 問題意識が感じられないとして、約20年間出演してきた 「ビジネス展望」 をこの日から降板することを明らかにしたとのことである。
  選挙期間中であればなおさらのこと、争点となる事項については報道機関はそのような報道を行うべきであり、 発言者の自由を事前に制限するべきではない。内容に異論や問題があるのであれば、別の発言者による発言を保障すべきである。

  インターネットが発達し、個々人が流通する情報を得られるようになってきたとはいえ、マスメディアの報道力は極めて大きいものである。 マスメディアが自らの報道の自由を理由に、発言者の発言の自由を制限することは、個別の表現の自由の制限であるだけではなく、 市民の知る権利の大きな制限になるのである。特に今回のようなマスメディアの有する力の大きさに鑑みれば、 制限をしたマスメディアは憲法上の権利侵害に匹敵するものである。

  ラジオ放送であっても、その聴取者は多く、テレビなどのマスメディアと変わることはない。 したがって、不当な事前の制限を行った各メディアは、発言者の表現の自由と聴取者の知る権利を侵害したものとして、違法である。 事の重大性について自らの役割を自覚し、対応を改めるべきである。
  また、聴取する私たちは、このような報道機関の操作により、必要な情報から遠ざけられてしまえば、表現の自由の主体であることも、 有権者であることも、画餅に帰すことになる重大性を認識し、真剣に憤るべきである。

<BPOについて>
  BPOには申し立てられると思います。
  BPOが下記のような内容のものとすると
  今回は、視聴者の基本的人権(知る権利、政治的な事柄について知る権利)を侵害するような放送のあり方であって、 報道の自由による知る権利の侵害の問題として訴えられるのではないでしょうか。

  BPOとは
  放送における言論・表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情や放送倫理の問題に対応する、 非営利、非政府の機関です。
  主に、視聴者などから問題があると指摘された番組・放送を検証して、放送界全体、あるいは特定の局に意見や見解を伝え、 放送界の自律と放送の質の向上を促します。