【NPJ通信・連載記事】練馬自衛隊基地ウオッチング~ダイコンと基地の街~/坂本 茂
平成25年版東京都兵役準備計画 こんな高校生に誰がする その2
大暑! 田無工業高校生徒34名 陸上自衛隊朝霞駐屯地体験入隊 最終日
7月28日(日)。教育庁は、うるさい「ハエ」は追っ払えとばかりに、新聞記者に対して、すべての日程の取材禁止を宣告していた。
私は早朝から朝霞駐屯地に汗を拭き拭き出かけ、高校生が宿泊しそうな外来隊舎を目指した。
午前5時42分、私の目の前に飛び込んできたのは高校生が戦闘迷彩服の自衛官と行進する姿であった。私は夢中でシャッターを押し続けた。
駐屯地のフェンスの先では、既に長袖の作業着姿で汗だくになった高校生たちがタオルで顔を拭き、ぐったりしながら班ごとに行軍、いや行進訓練をしていた。
「右むけ~右」と、戦闘迷彩服姿の自衛官のでかい叫び声が聞こえてくる。隊員は生徒たちの両脇に囲むように配置され、隊列の後から、教育庁の職員や教員たちがタオルを首にかけ、半袖とジャージ姿でよたよたとついて来た。
「敬礼!」と、またまたでかい声で迷彩服の自衛官が叫んだ。
連日熱帯夜が続いた後の最終日。生徒たちは朝5時に非常呼集としてたたき起こされたらしい。10人部屋にたった1台の扇風機では寝不足なのか、あちこちであくびが目立つ。
生徒たちは班ごとに外来隊舎前の広場に整列を始めた。
高校生の「秘密の体験入隊」を撮影されては不都合なのだろうか、自衛隊車両の大型ライトバンが2台横付けにされ、私と生徒たちの間を遮断した。
しかし、自衛隊車両の下からちゃんと軍靴と生徒たちのスニーカが並んで見えていた。
立春 第2弾
2014年2月3日から5日(平日で授業扱いとされた)まで、BumB東京スポーツ文化館(東京都江東区夢の島)で行われた「防災宿泊訓練」は、都立田無工業高校2学年全員(2013年11月27日の東京都議会文教委員会報告によると合計155名、うち女子20名)を対象として実施された。
教育庁は訓練内容を明らかにしないまま実施しようとしたが、市民団体やマスコミの批判を受けて訓練内容の一部を渋々公開した。
しかし、教育庁は、記者たちが出入りする会場の入り口やガラス戸に、シーツや衝立などで目隠しを施し、外から訓練の様子が見えないようにした。
訓練では、イベント屋さんのようなつくり笑顔のリクルート自衛官たちが生徒たちに三角巾や救急担架の使い方の指導をした。自衛官は生徒たちにリーダー役を決めさせ、そのリーダー役の命令で他の生徒を動かすように指導した。
さらには、東日本大震災のDVDを上映して、自衛官や米軍の活躍をクローズアップした。昨年7月に朝霞駐屯地で実施した体験入隊でも陸上自衛隊中部方面隊が制作した阪神・淡路大震災のDVDが上映され生徒たちの頭の中に活躍する自衛官像をすり込んだ。
なお、2013年7月の朝霞駐屯地での体験入隊では、参加した生徒たちは訓練中の携帯電話持ち込みを禁止されていたが、今回は携帯電話、ゲーム、マンガなど持込が自由になった。このため、他の生徒が訓練している間、他の班では訓練を横目に休憩時間を利用してゲームを楽しんでいる姿が見られた。
2014年5月13日、「自衛隊をウォッチする市民の会」は、防衛省と交渉した。昨年8月に着任した東京地本渉外広報室長、滝澤健二3等陸佐は、高校生の体験入隊(ただし、「体験入隊と呼称される方もいるが、正式には隊内生活体験だ」と念を押した)に関して以下の回答をした。
「着隊式」 教育庁が実施した宿泊防災訓練の開始に伴う様式に従い、全般的な進行は教育庁が実施した。自衛隊東京地本としては、その式に引き続いて要員の紹介や隊内生活体験の全般について生活上の注意事項を説明した。
「しつけ」 衛生管理としての手洗いの励行、食事の注意事項としての配膳の要領、食堂での整列、並び方、入浴場所の入浴要項、駐屯地内での団体行動移動要領、その他ルールやしつけ事項を説明した。
「基本教練」 朝霞駐屯地で実施している隊内生活体験でも必要な基本的動作の教示を行った、具体的には整列、方向転換、右向け右隊列を組んだ移動の要領など。
「ベッドメイク」 自衛隊のベッドはシーツが2枚と毛布5枚があるが、それらの敷き方たたみ方、これらを指示するための号令について教示した。
「離隊式」 教育庁が実施した宿泊防災訓練の終了にともなう行事である。全般的な進行については教育庁が実施した。自衛隊東京地本として修了証と記念品の授与をした。
この防衛省交渉から2週間後の5月28日、市民ら約20名が、東京都庁において自衛隊と連携した防災訓練を中止するよう申し入れるため、第1回の教育庁交渉を、生活者ネットと共産党の都議同席で行った。
教育庁側からは、教育委員会の事務方の課長などが4人も勢ぞろいした。
自衛隊東京地本は私たちに対し、田無工業高校の生徒たちは「体験入隊」したと堂々と言い切るのだが、教育庁は体験入隊や教練であることについては終始否定した。
不都合な真実を暴露された教育庁は、嘘をつき続けるしかなかったのであろうか。
2回にわたる訓練で、教育庁と自衛隊東京地本はのべ200名近い生徒の名簿、生徒の体力や忠誠心の状況に関する情報を入手した。生徒の「自衛官への道」への資質チェックに励んだといえる。防衛省にとっても、「戦争する国づくり」のためのビックチャンスだったろう。
このあと生徒たちの携帯電話が鳴り響くかもしれない。「ようこそ平和を守る自衛隊へ。安定の公務員ですよ」と。
かつてこんな俳句があったのを思い出した。「戦争が廊下の奥に立っていた」。
(了)
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