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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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ホタルの宿る森からのメッセージ
第31回「虫さん、こんにちは(その5)」

2015年5月15日

▼「ブンブンブン」というかわいい世界ではない

アフリカミツバチ。大きさも見た目も日本のミツバチと変わらない。ただすこぶる強暴だ。また刺されると強烈に痛い。だいたい汗や水分を求めてわれわれにまとわりついてくる。

汗をかいた背中にたかるミツバチとハリナシバチ©西原智昭

汗をかいた背中にたかるミツバチとハリナシバチ©西原智昭

はじめは一匹や二匹だ。うっとうしいと思い追い払う。すると相手は攻撃力を増してこちらに向かってくる。下手に殺すとそのにおいのせいか、仲間が次々とやってくる。そうすると対処しきれなくなる。それは、すでに述べたハリナシバチと同じだ(第27回参照のこと)。

中には袖口やシャツのボタンとボタンの隙間から服の中に入ってくる。なぜか知らぬが、暗くて狭い場所に入るのが好きなようだ。蜂の巣に入るときの習性なのだろうか。しかし、服の中に入り下手に刺激すれば刺される。慎重にかつゆっくりと服を脱ぎ、そうっと追い払うしかない。

またキャンプによってはハチの巣が近いこともある。そうしたところでまだ日のあるうちに食事をしようとすると、皿の中の汁物にたかってくる。食事のスープの中に溺れた哀れなハチも多々見てきたが、こっちは食事どころではない。

うっかりすると口の中にも入ってくる。ハチがスープの中に入ったことに気づかず、その溺れ死んだハチも一緒に口に入れたこともある。一度は下唇を刺され、口がタコのように腫れたことがある。まぶたをやられたときは、顔がお岩さんのようになった。

キャンプ地によっては偶然ハチの巣に近いと思われる場所に遭遇することがある。キャンプに着いて一休みどころではない。汗だくのわれわれを目指して猛襲してくる。日暮れまでとはとてもその場所に入れたものではない。疲れた体を横たえることもできず、そのまま日の入りを待つしかない。また翌朝は、朝日とともに彼らは活動するので、4時起きで5時前には食事を済ませ、テントなどもたたみ終えてキャンプを去らなければならない。あたりが明るくなると同時に、ミツバチはわれわれを目指してくるので、キャンプをたたむどころではなくなるのである。

対策はない。構わないことが第一だ。数匹くらいにたかられても、一切相手にしないことだ。うっとうしいけれども、腕などに止まって汗を吸っているようだったら最後までその状態で汗を吸わせたらよい。そうしたら相手もおとなしく去っていく。ただ、大便をしているときにお尻の周りをたかられるのはかなわない。このときもうっかり相手にしてしまったばかりにお尻を刺された人もいる。気持ち悪いが放っておけばいいのだ。ただし、お尻を拭くときにご用心!ハチもろとも拭こうものなら、ハチは怒り、お尻の穴を刺しかねない。

「ミツバチ、ブンブン」などというかわいらしい世界。現実はそういうおとぎの世界から程遠い。しかし、さすがはミツバチ、このアフリカミツバチのハチミツはひじょうにうまい。森の先住民の大好物でもある。彼らは花の蜜を吸っているだけではない。上記の通り汗もふんだんに吸う。成分の近い尿も吸いに来る。それだけでなく、糞にもおおいにたかるのだ。そうしたいろいろなエキス(?)から生成されるハチミツだからこそ、上等な絶品といえるのかもしれない。

▼飛べなくなるくらい血を吸うハエたち

通常は眠り病を媒介するといわれるのがツェツェバエだ。ただし眠り病があるのは牛という家畜のいる地域に限られている。森の中にはもちろん牛はいない。したがって刺されても眠り病にはかからない。だから、刺されても心配する必要はない。われわれの血を吸っていくだけである。ただ、刺す針は太く長いので、刺されるとチクリとする。ただこのハエは森の中を歩いても、ずっと追いかけてくる。うっとうしいこと、極まりない。

ただ刺されたあと、かゆい。動きがこざかしい。人の目を盗むようにして目の付かないところを刺そうとする。蚊をたたくようにしても、すぐに逃げられてしまう。ひじょうにすばしっこい。うっとうしいこのハエを叩くには、それなりの技術と訓練が必要だ、うまくツェツェバエの背後から瞬時に手のひらをかぶせるようにつぶす必要がる。しかしつぶすときには注意を要する。かなりの血を吸っているのでつぶした勢いで血が飛び散るのだ。それくらい血の量が多い。中には、吸いすぎてお腹が膨らみすぎ、飛翔のできなくなったツェツェバエも見かけることがあるくらいだ。

同じように、大量の血を吸う虫として、アカアブが挙げられる。これもツェツェバエ同様のうっとうしさがある。動きに敏捷性があり、血を吸い、大きなかゆみを残す。ただしこのアブはフィラリア原虫を媒介するといわれており、長期滞在する人は大事に至る前に念のため治療薬を飲む人もいる。薬の副作用は強いらしい。ぼくはたぶん何万回と刺されているだろうが、フィラリアにはかかっていない。

大量の血を吸うわけではないが、刺されると強烈なかゆみを残すものに、ブユがある。大きさは数ミリにも満たない。川沿いに多い。はだかになって川で水浴びをしているようなときに、とくに足元などをやられる。殺すのは簡単だが、吸血性で、とにかくかゆい。足元をかきすぎてそれがもとでその場所が膿んでしまった例も知っている。それほど掻きたくなるくらい、かゆいのだ。

▼ときに起こるハエの大発生

何年かに一度ハエの類が大発生することがあるようだ。いったいハエがどのような色視能力を持っているのかは知らないが、なぜかハエたちは青い色のものに群がるようだ。自然界には青色のものというのはきわめて稀なはず-空の青色を除き-なのに、ひじょうに奇妙な現象だ。ある時期ハエが大発生して、テントのフライが青色であったぼくのテントのフライに大量に群がったことがあった。群がるだけならいい。フライを取り払うと、なんとそこに卵を産みつけていた。一つや二つではない。何百という数だ。そのにおいのたまらないこと。木の葉などでなんとか掃除をするが、いやなにおいは残る。最良の掃除は大雨だった。それが気持ちよくテントのフライを洗い流してくれる。

テントに群がったハエの集団©西原智昭

テントに群がったハエの集団©西原智昭

また別の年にはそれとは種類の異なるサシバエが大発生した。まさに皮膚に刺すのだ。これが痛い。かゆみを残さないだけましだが、とにかく数が多い。森を歩いていれば大丈夫だが、森の中で休んですわっているときや、キャンプでじっとしているときなどに、刺される。だからとにかく日中は歩き通しでいることを余儀なくされる。

サシバエの大発生した同じ年、これまた他種のハエが大発生。体長1cmくらいの細長いハエ。これは汗かやはり水色のものに群がるようだ。とくに悪さはしない。ただテントなどこれらのハエで一面が埋まり、まるで黒いテントに様変わりしたようになる。汗などでぬれたザックも放っておくとそうなる。とにかく数が尋常でなかった。この年ボンゴがあちこちで大量死した。どうやらこの2種類のハエが原因であるらしい。何か病原菌を移したのでなければ、数の多さで窒息死させたともいわれている(続く)。

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