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主権者としての自覚と責任

寄稿:飯室勝彦

2015年7月20日

政権のトップ二人が「民意に反しても突っ走る」と宣言したのも同然なのだから驚く。それを異常と思わない感覚の政治家に国の舵取りを任せておくわけにはゆくまい。平和憲法、民主主義を守る戦いはまだまだ続く。

安倍政権は建設費高騰が問題になった新国立競技場の建設計画を白紙に戻した。たった一ヶ月前には内閣総理大臣の安倍晋三が計画見直しに否定的だったのに急転である。憲法違反との厳しい批判を無視して、新安保体制関連法案を強引に成立させようとする安倍らの政治姿勢と、競技場建設費が激増した無責任に対する国民の怒りのダブルパンチを受け、内閣支持率が急降下したので慌てた――この見方はごく常識的だろう。

集団的自衛権の行使を否定から容認に変えた憲法第9条の新たな政府解釈が誤りで、それに基づく新法案が憲法違反であることは大多数の国民に定着した理解である。にもかかわらず安倍政権と自民党は法案を無理矢理に成立させようとしている。国民が離反するのは予想された通りで当たり前の事態だ。

政権側は「一ヶ月前から建設計画見直しの検討を進めてきた」と周到、熟慮を装った。だが、支持率急低下が分かったとたんの白紙撤回は、低下に歯止めをかけようとする泥縄式決定であることを物語る。巨額の公金をつぎ込むとはいえ、たかが競技場の建設問題で政府の最高権力者が乗り出し、「政治的決断」「関係者に指示」と宣伝して安倍のリーダーシップを強調したことも、計画見直しが政権浮揚策として行われたことを物語る。

しかし、建設計画見直しを安倍政権が世論尊重に転じた兆しと受け止めるのは早計だ。国立競技場問題で妥協して国民の怒りをかわす一方で、新安保関連法案については依然として強行突破を狙っている。競技場問題をいわゆる“ガス抜き”の材料に使ったわけだ。

むしろ政権側は新安保法案では民意には従わないことを明言した。

安倍は、法案が衆議院を通過する直前、特別委における質疑で、国民の理解が深まっていないことを認めながら強行採決を正当化した。自民党副総裁、高村正彦は7月19日のNHK番組で「支持率を犠牲にしても、国民のために必要なことをやってきたのが我が党の誇るべき歴史だ」と民意無視の歴史を自慢した。

自民党副総裁は閣僚ではないが、高村は集団的自衛権を容認する論理を編み出した張本人である。法案は高村の見当外れの憲法解釈にしたがってつくられ、安倍や防衛大臣の中谷元らは国会における野党の追及を高村の指導でかわしている。高村は政府権力者に等しく、その発言は政権保持者の発言と評価していい。

言ってみれば政府の最高権力者二人が、自分たちの政治的行動が国民の意に反することを自認しながら、改める気はないことを公言したのである。

いったい主権者たる国民を何と思っているのだろう。ファシズムの時代ならともかく、少なくとも戦後の70年間に、これほど異常な政権が存在しただろうか。

有権者は選挙で白紙委任しているわけではない。政党は多数議席を得たからといって何をしてもいいということではない。いわゆる戦争法案は直近の選挙で具体的な公約になっていなかった。まして政府が解釈で憲法を恣意的に改め、憲法に反する政策を進めるのは立憲主義の否定である。

内閣法制局長官が政治主導の名のもとで政治任命され、内閣内部における「憲法の番人」としての機能が失われて、安倍の暴走が本格化した。そのうえ与党自民党の人材が多様性を失うと同時に劣化が加速し、国会は内閣の追認機関に過ぎなくなっている。司法も多くの場合、権力を監視するのではなく権力に頼りにされる機関に堕している。

日本では民主主義の基本である三権分立制が、「権力のチェックと暴走防止」という機能を正しく発揮していない。このままでは民主国家とは名ばかりになりかねない。

だからこそ多くの国民が危機感を募らせ、立ち上がった。無謀な戦争、敗戦から得た教訓を生かし、この70年間で築きあげた平和憲法、立憲主義、民主主義という財産を守り抜こうとさまざまな方法で戦っている。

 法案審議の舞台は参議院に移った。国立競技場建設計画の白紙撤回という目くらましに惑わされず、法案の衆議院通過という既成事実に落胆したりもせず、国民の間で深まった立憲主義、法治主義、そして日本国憲法に対する理解をさらに浸透させて安倍政権の暴走を止めなければならない。

日本の将来、国のあり方を決めるのは政治家ではなく主権者たる国民である。主権者が主権者であることを自覚し、主権者としての責任感をもって行動し展望を開きたい。

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