NPJ

TWITTER

RSS

トップ  >  NPJ通信  >  一水四見(24)―「すばらしい新世界(Brave New World)」から「1984年・ビッグブラザー」へ―

【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照

過去の記事へ

一水四見(24)―「すばらしい新世界(Brave New World)」から「1984年・ビッグブラザー」へ―

2015年9月8日

「効率性を高めるために大規模化をおこない、少数の人間への富と権力集中を図っている“巨富の悪人たち”」の問題を、セオドル・ルーズベルト大統領(任期:1901-1909)は1907年にマサチューセッツ州で行った演説で指摘した。

最高権力者が、 “巨富の悪人たち” を自らの目で確認しているのであるが、ではルーズベルトがそれらの “悪人たち”の存在自体を否定していたのだろうか。

国家権力の中枢のある者の人格を考える時 ――ヒトラーやスターリンのような異常な人格は措いて―― 一般に正常な人物と考えられる権力者の同一人格における善悪の同居性について忘れてはならないだろう。

***

ルーズベルト家はユダヤ系オランダ人が起源の移民で、セオドル・ルーズベルトはノーベル平和賞を受賞しているが、ネイティブ・アメリカンについてどのような態度をとっていたのだろうか。

「ルーズベルトが大統領職に就いた時代は、すでにインディアン民族が保留地(resavation)に強制移住させられ、表立った軍事衝突は終わった後だった。1901年の大統領就任祝賀パレードにはアパッチのジェロニモが見世物として連れてこられ、コマンチ族のクアナが騎馬参列している。

女・子供を含む無抵抗のシャイアン族のバンドが米軍によって徹底虐殺された「サンドクリークの虐殺」については、次のように賛辞を送っている。

これほどまでに、まさしく正当で、有益な行いが、フロンティアで起こったのです。」(「ウィキペディア」参照)

「無抵抗の原住民が徹底して虐殺された」ことが「正当で、有益な行い」として、当時のアメリカ人大統領の “常識”であった。

もちろんルーズベルト大統領以前に、1860年代頃から未開の原住民を征服してゆく白人たちを英雄として魅力的に描いている西部劇が流行していたことは、周知のとおりである。

チェコ人のドヴォルザークは滞米中の1893年に故郷のボヘミアに向けて「新世界より(From the New World)」を作曲した。

そして「新世界」アメリカには黒人の問題が現前している。

***

一般のアメリカ市民は別として、ひとたび超覇権国のアメリカの権力の中枢を占めた大統領者が、アメリカの代表者の義務であるかのように他国の政治体制に問題点を見つけて、執拗に “人権”を訴える情念の深層になにがあるのか。

それはアメリカ人一般ではなく支配層となったアメリカ人の人格と思考とにかかわる両義性の問題である。

戦略と謀略の政治の実際において、権力者の人格と彼の言葉との両義性――倫理的には偽善性――は、アメリカ人に限らないことは当然だが、問題はアメリアが超軍事大国であることだ。

そして、大統領自らが “巨富の悪人たち”の結果として是認していることである。

“巨富の悪人たち”は、いわゆる通常の犯罪者とか、病的人格ということではない。

彼らはすべて英米の高等教育をうけた人々であり、アメリカ政府の要路に深く関与した大企業の役員や、社会的名士や、そして慈善事業家であるかもしれない人々であり、しかも大統領と政府さえも支配しかねないグループを構成している。

さらに彼らはすべて、ファシズムと共産主義を批判する自由と人権を主張するエリートたちである。

しかし、彼らの言う「新自由主義」は結果として「少数の人間への富と権力集中」をもたらす思想的根拠となっている。

これは近代西欧の思想的問題である。

「「新自由主義」を発展させたのは、ある思想家の集団である。その中で特に知られているのはオーストリア人のフリードリッヒ・フォン・ハイエクとアメリカ人のミルトン・フリードマンだ。・・・

フリードマンはレーガン大統領の顧問となり、ハイエクは一九九一年にジョージ・W・ブッシュから大統領自由勲章を授与された。」(『こうして、世界は終る――すべてわかっているのに止められないこれだけの理由』訳・度会圭子)

フリードマンとハイエクは共にノーベル経済学の受賞者であり、「新自由主義」自体は、学問的裏付けのある経済理論として非難されるいわれはないという主張もある。

しかし問題は、この理論が経済理論の思惑を超えて、金融支配の集団を育てる結果となっていることである。

抑圧された人々の理想社会としての共産主義が、新たな計画的人民の抑圧につながるのと同様である。

***

“巨富の悪人たち” が生まれてきた思想的な系譜を、それを予見していた内容をもつ、オルダル・ハクスリーの「Brave New World(すばらしい新世界)」(1932)から始めてみたい。

ハクスリーは、イギリスの著名な科学者を輩出した名門に生まれた。

彼は、インド哲学者のクリシュナムルティとも長年家族ぐるみの交際関係をもってインド哲学に親しみ、鈴木大拙にもニューヨークで面識をもっていて禅にも関心をよせていた。

そこでユダヤ・キリスト教の情念で支配された西欧の知的世界と、イギリスを中心としたヨーロッパの秘密結社を含めた支配層の情理をも客観視できうる立場にいた。

***

Braveをどのように訳していいのかわからないが、「Brave New World(力強いすばらしい新世界)」というタイトルは、シェイクスピアの最後の作品「嵐(TheTempest)」に登場する愛らしい少女ミランダの語る言葉に由来する。

「なんとすばらしいこと!

この世には、たくさんの善良な人々がいるわ!

人間は、美しい!

そういう人々がいる、力強いすばらしい新世界になるのよ!」

純真なミランダの語る「すばらしい新世界」の言葉に、すでに「ジギル博士とハイド氏」が潜んでいた。

そして「すばらしい新世界」には、様々な歴史上の有名人まがいの人物が登場する。

G.B.Show, Ford, Bernard Marx, Sarojini Engles, Lenina Crowne, Dr. Wells, Freud, Benito Hoover, Morgana Rothschild, Herbert Bakunin。

すべてパロディー風の名前であるが、共産主義と資本主義とを問わず、現代史を動かしてきた思想家と国際金融家らの大立て者たちをあらわしていることは一目瞭然である。

(2015/09/05 記)

こんな記事もオススメです!

(50)米・中・露の戦略下におかれた自立もどきの日本外交

第7話 約95%の医者は「排除」の作用だけに目を向けている

威嚇を牽制と言うまやかし―日米合同訓練と憲法

トランプ米国大統領の日韓訪問に関する共同声明