NPJ

TWITTER

RSS

トップ  >  NPJ通信  >  連載「ホタルの宿る森からのメッセージ」第39回「森の中で生きるということ(その4)~ヘビ」

【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

過去の記事へ

連載「ホタルの宿る森からのメッセージ」
第39回「森の中で生きるということ(その4)~ヘビ」

2015年9月12日

▼ヘビとのいろいろな経験 ヘビについては多くの人が怖いものにちがいないと考えている。しかし、森を歩いていても、そうそう出会うものではない。森の先住民と一緒に歩けばまず大丈夫だ。彼らはたいへん目がいいので、数10m先の保護色のヘビにすら気付く能力を持っているからである。もちろん噛まれたら猛毒即死の種類もいる。毒針を含んだ唾液を吐き出す種もいる。また地面だけではなく、地上から数m上の枝にからみついているときもあるので、ぼんやり森の中を歩いているのは危ない。

森の中のヘビ©西原智昭

森の中のヘビ©西原智昭

ただ、注意していても気付かぬことは稀にある。ある日、ぼくはヘビを踏んでしまった。踏んでから動き出したヘビに、ぼくの後続が気付く。よく見るとヘビは片目がつぶれ、血を流していた。ぼくが踏んづけたせいだろう。このときヘビはとぐろを巻いて昼寝をしていたようだ。しかし下手に尻尾の方だけでも踏んでいれば、目を覚まし一瞬のうちに頭を上げてぼくの足首あたりを噛んでいたかもしれない。ヘビが小さかったことも幸いした。 別の事例。広域調査のときだった。ある小さい川を渡る。一部沼地状になっていて水面下が泥で見えないところがあった。先住民ガイドの一人は沼地から岸に上がるや否やうずくまる。水面下でヘビに咬まれたという。すごく痛がる。広域調査の途中だったので、すぐには村や町には引き返せない。 選択の余地はなかった。何としても、ヘビの毒が全身に回るのを回避しなければならない。彼の悲鳴も構わず、傷口の周囲をすばやくカミソリで切開し、いつも持ち歩いているエクストラクターという道具ですぐに毒が含まれていると思われる傷周りの血液を何度も吸いだす。そして蛇血清を打つ。人に注射したためしなど生まれてこのかたない。そして傷口を消毒。包帯を巻く。痛み止めの錠剤を与え、傷口化膿防止のために抗生物質も飲んでもらう。 すごい回復力だった。しばらく休むとだいぶよくなってきたようだ。もう歩けるという。われわれはしばらく歩いて、予定した地点まで移動しキャンプを張る。彼の様子はいい。食欲もふつう。たいしたものだ。夜は彼のことが心配でなかなか寝付けなかったが、翌朝にはすっかり元気になっていて、われわれは広域調査を続行することができた。 別の広域調査中の出来事。先頭を行く先住民の一人が突然地上に倒れこむ。首の周りをもぞもぞ動かす。首にヘビがからみついたのだという。違和感を感じたその一瞬、倒れこんで首だけを回しなんとかヘビは退散させたのだという。枝にいるヘビがからみついてきたのだ。通常は下を向いて森を歩いていることが多いので、盲点ではある。 次は村での事例。たまたまボマサ村に出ていたとき、村のある婦人がヘビに噛まれたという。畑で作業中だったらしい。噛まれてすでに数日たっているという。見に行くと、咬まれたふくらはぎの周囲が非常に腫れていた。前回と同様、蛇血清を打つ。そうすると見る見るうちに腫れは引いていった。 ぼく自身が目の前でヘビに出会った事例。ある日、ぼくは森の中に腰をおろして、木にもたれかかってノートに書きものをしていた。下生えのほとんどない原生熱帯林の森は、この世で最も美しい光景の一つだろうと思えるくらい静かであった。ふと前方に目をやると、ヘビだ。まさに青天の霹靂だ。それも大きい。頭が黄色く、胴体は黒光りしている。いかにも猛毒そうだ。2mくらいだ。とっさに立ち、ヘビを見る。目と目が会う。とびかかってきたらどうしよう、と思うや否や、じっとぼくを見つめていたヘビの方から退散してくれた。きっとヘビもびっくりして、最も恐い思いをした瞬間であったのかもしれない。

小動物を呑みこんだばかりで身動きの取れないニシキヘビの仲間©西原智昭

小動物を呑みこんだばかりで身動きの取れないニシキヘビの仲間©西原智昭

大型のヘビにも何回か遭遇したことがある。ニシキヘビの仲間は毒をもっていないが、小型動物ならそのまま飲み込んでしまうという代物だ。一度は腹をまるまる膨らませてその重さで身動きの取れなくなっているヘビに出会ったことがある。おそらく今しがた、ダイカーくらいの大きさの動物を飲み込んだばかりだったのかもしれない。

猛毒のガボンバイパー©西原智昭

猛毒のガボンバイパー©西原智昭

一方、猛毒のヘビもいる。ガボンバイパーと呼ばれる。万が一咬まれれば、5分ともたず、即死だという。 ▼ベブチの救出劇 最も困難であったケース。ある朝、国立公園基地にいると、先住民の一人が森から戻ってきたという。険しい形相をしながら彼は、ベブチという名の仲間が毒ヘビに咬まれたという急報を持ち帰ってきたのだ。「早く森に来てくれ」とぼくにいう。選択肢はない。基地での用事を瞬時に済ませ、一泊分の食料と装備を準備し、別の先住民の早足について12㎞離れている森のキャンプ地へ歩きだす。ベブチに処方をするためだ。 途中、別の先住民と森で出会う。咬まれたベブチの様態はよくないという。しばらく歩くと、別の男に肩を担がれ歩いてきたベブチに出会う。ベブチは、傷の方の足を血だらけにし、つえをついて歩いてきた。彼はやや興奮気味だったが、まず落ち着かせ、エクストラクターで傷口から血と毒を吸い出す。そして、蛇血清の注射を、傷口のまわり、足に数箇所筋注、尻にも一発、打つ。あわてない。もし注射器に空気が入っていると、それが血流に流れ、心臓に重大事をもたらすからだ。最後に傷口を消毒し、軽く抑え、ガーゼで巻く。 ベブチが少しでも歩きやすいように、先住民のガイドたちに、われわれの歩くゾウ道の前方の草本類などを切ってもらう。村にだいぶ近くなった時点で、先住民の一人を村へ早足で送る。ベブチの歩行を補助するための応援隊の依頼と、彼が村からすぐに病院のある町へ移動できるよう、40馬力の船外機とボート、必要な燃料を用意しておいてもらうためだ。足から全身に毒が回りかねない可能性を最大限回避するために、ベブチの足のふくらはぎと腿のあたりはつる性植物でかなりきつく縛っている。ベブチはこれが痛いという。少し緩めると、それで動きやすくなったのか、何とか二足歩行ができるようになる。 やがて、応援に来た人々に会う。村から4㎞離れた地点にあるワリという名の沼地を渡るのはベブチには不可能だった。思うように足が動かないからだけではなく、傷口にバイ菌が入りかねないからだ。そこで、応援隊が交代で、彼を担ぎ、沼地の水に濡らさぬようにした。村に着けば、ボートも周到に用意されていた。 先住民の伝統的民間療法では、ヘビに噛まれたときにその患部に貼る樹皮がある。おそらく体液の吸引力や消毒の効果のあるものなのだろう。これは限定された植物種であまり頻繁に発見できる種でない。また町では「ブラック・スト-ン」と呼ばれる小さな石が売っている。これを患部に当てよというのだ。これも吸引力の強いものだと想像される。ベブチの事件のときは先住民はその樹皮を探したが見つからなかったため、このブラック・ストーンを併用し、ガーゼと共に患部に当てた。 町の病院に運ばれたベブチはその数週間後、無事に村に生還した。ベブチは救われたのである。 ▼ヘビ食 実はヘビは数回食べたことがある。1mくらいの長さで3cmくらいの直径を持ったヘビをどう調理するかを一度つぶさに観察したことがある。まずからだを開く。

ヘビの腹を引き裂く作業©西原智昭

ヘビの腹を引き裂く作業©西原智昭

ヘビの内臓を取り出す作業©西原智昭

ヘビの内臓を取り出す作業©西原智昭

そして身をたたき、軽くあぶる。あとは適当な大きさに切って、ほかの料理と同様に塩とトウガラシをベースに煮込む。ウナギに似た食感だった。

ヘビの内臓を取り出す作業©西原智昭

ヘビの内臓を取り出す作業©西原智昭

叩いたのちヘビの肉を火にあぶる作業©西原智昭

叩いたのちヘビの肉を火にあぶる作業©西原智昭

一度はニシキヘビを食べたことがある。解体すると、中央の骨と表皮との間にものすごい量の脂肪が含まれていることがわかった。それはひとつひとつ数cmくらいの玉状になっていて、いわば「あぶら袋」のようなものだ。地元の人はこの「あぶら袋」もそのまま煮込みに入れる。これが脂っこくとても食えたものではなかった(続く)。

こんな記事もオススメです!

米中露三大軍事大国に囲まれた日本ー「1984年」の全体主義世界における日本の立場 ー*

馬鹿げたウォーゲーム

防衛力抜本強化予算 = 5年間43兆円を上回る軍拡の兆し

国立大学法人法成立 : その先に見える景色と私たちの課題