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【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照

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一水四見  
イラク戦争、ブレア氏の謝罪、そして集団的自衛権

2015年11月4日

ブレア氏は、彼の政権の三大優先課題に「教育、教育、教育」をスローガンに掲げてイギリス首相として登場した。

その当人が、最近イラク戦争について謝罪を表明した(CNNインタビュー;2015年10月25日)。

しかし、彼の行動については、以前から様々な疑惑が指摘されていた。

ほんとうに「教育」が優先課題だったのか疑わしく思えてくる。

「イラク戦争でブレア氏謝罪」の事件をきっかけに改めて考えなくてはならないことは、国際政治において、一国の最高権力者が、誤った判断で他国の無辜の国民の生命を奪ったことにたいする「謝罪」とは、いったいどういうことかということだ。

最高権力者が他国人に対して過ちを犯した場合の「謝罪」は、外交的辞令で済む問題なのか。

さらにブッシュ前米大統領の場合にも適用されるが、ブレア氏を問題事例として、謝罪はブレア氏政権下の、1)自国民に対してなされるのか、2)彼の誤った判断によって引き起こされた他国民の被害者に対してなされるべきなのか?

それぞれの場合の謝罪とは、言葉での表明の後、具体的な補償がなされるべきではないのか。

***

ブレア氏いわく:‘I apologise for the fact that the intelligence we received was wrong. I also apologise for some of the mistakes in planning and, certainly, our mistake in our understanding of what would happen once you removed the regime.’。

実に巧みな「弁解」であると断定したいが、本質的責任が断定的に追求されえないような政治的文体のようだ。

因に英語の「apology」は、「謝罪」も「弁解」も意味し、時には「代用品」も意味する。本心では陳謝に過ぎないかもしれない。政治家の「apology」には要注意だ。

西欧の、いわゆる普遍的価値として民主主義・表現の自由・人権・法治がいわれるが、一般化して考えるのではなく、元イギリス首相としてのブレア氏の「謝罪」という個別事例を改めて考えるべきではなかろうか。

***

ブレア氏の「イラク戦争と謝罪」にかかわる多数の論評・批判のわずかな一部を以下時系列的に紹介する。

◯ 2012年3月26日= BBCは、イラク戦争にいたる様々な事件の調査をまとめた番組「イラク戦争・ブレア氏そして真実」を公開。

◯ 2012年5月16日=「ブレア氏は戦争犯罪人である。」( The Stanford Daily ;Op-Ed: Tony Blair is a war criminal)。

◯ 2015年10月25日=「ブレア氏の問題を孕んだイラク戦争の謝罪は、見せかけの誠実であり狡猾な言辞に満ちている」( Daily Mail)。

◯ 2015年10月25日=「ブレア氏は陳謝している、すこしだけ・・・ブッシュ氏は自分の所業のすべてに自信をもっているかに見えるが、一方ブレア氏が今週、危険極まりない程の現実に直面したのは、2003年のイラク侵攻がーーその侵攻にかかわるその他の壊滅的な結果の中でもーー ISIS が台頭した最重要な原因であるという見解に”幾分かの真実”があると認めた時だ」( Washington’s Blog;David Swanson:Tony Blair Is Sorry, A Little)。

◯ 2015年10月28日=「ブレア氏は戦争犯罪にたいして裁判にかけられるべだ。・・・彼の言い訳半分の謝罪はホワイトハウスの爆弾的なメモが露見された直後になされた。」( Free Malaysia Today;By Kua Kia Soong)。

◯ 2015年10月29日=オボーン氏(ジャーナリスト, Peter Oborne)は、イラク戦争を検証する独立調査委員会(チルコット委員長)の報告が2017年まで用意されないことを懸念して、BBCとチームを組んで独自の調査を行い、ブレア氏の所業を告発する(Daily Mail)。

そして、はっきりと結論づける、「イラクへの侵攻は国際法の下で違法であった」(It is clear that the invasion of Iraq was illegal under international law.)

日本のジャーナリストがNHKと共同で重要な政治事件の調査を行うことは期待できそうにない。

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「イラク戦争は、アメリカ合衆国が主体となり2003年3月20日から、イギリス、オーストラリアと、工兵部隊を派遣したポーランド等が加わる有志連合によって、イラク武装解除問題の進展義務違反を理由とする『イラクの自由作戦』の名の下に、イラクへ侵攻したことで始まった軍事介入である」(ウィキペディア)。

当初アングロサクソンのみの有志連合に、なぜポーランドが自発的に参加したのか。「積極的な平和主義」などではない。

伝統的に国民に支持されているポーランドの国防に命をかける軍隊の具体的充実のためである。

ポーランドは、2008年10月31日にポーランド分遣隊(工兵部隊)の任務を終えた。

当時のポーランド防衛大臣(Bogdan Klich)はポーランド兵士たちに感謝を述べ、ポーランドはその軍隊に誇りをもっている、と述べた。

そして、5年間、イラクに駐屯した兵士たちはポーランド軍の「現代化の推進力」となるだろう、付け加えた。

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日本に関しては、2003年11月29日、在英国大使館参事官(45歳)と在イラク大使館三等書記官(30歳)が、イラク・ティクリート近くを車で移動中襲撃を受けて死亡した。

その後、12月9日、「イラク人道復興支援特措法に基づく対応措置に関する基本計画」)が臨時閣議で決定、同月19日、航空自衛隊の先遣隊に派遣命令がでた。

ポーランドと日本とでは、戦争体験の歴史と認識がまったく違う。ポーランドはあくまで自国防衛、つまり徹底した、「国民を守る自衛のため」の軍隊であることの認識が国民に徹底している。

イラク戦争において、22名のポーランド兵士が殺されたが、それに対してポーランド国民からの批判は聞かれない。

***

二名の日本人公務員が殺害されたために「基本計画」が臨時閣議で決定されてしまったのだろうか。

「基本計画」において、どこまで大局的に自衛隊の国際的任務について深く考えられていたのだろうか。

それとも、機会があれば自衛隊を外国へ派遣して、軍隊化したいという目的の実現のためなのだろうか。

***

ブレア・ブッシュ両氏が関わったイラク戦争を日本も総括すべきではないのか。

ブレア・ブッシュ両氏の闇の関係に切り込んでいく欧米の果敢なジャーナリストたちによる情報を一瞥するだけで、 イラク戦争を引き起こした利害関係者の闇の底は限りなく深まってくる。

西欧政治家の冷酷なる打算は、日本の政治家の国益を守るとする日本語的思惑などは歯牙にもかけない。

集団的自衛権は、死守すべき貴重なる「自衛権」に他国の干渉を許容させることにならないのか。

(2015/11/02 記)

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