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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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安保法制の近未来①-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-

2016年2月9日

南シナ海でプレゼンスを増す自衛隊

1 安保法制は本年3月末までに施行されます。政府、防衛省、米太平洋軍との間では、施行に向けて既に着々と既成事実の積み上げが進んでいます。

安保法制を私たちは「戦争法」と断じてその危険性を訴えてきましたが、安保法制が施行された場合の具体的な危険性は、現在進行している安保法制施行準備の中ではっきりと浮かんできます。

安保法制は2015年4月に日米間で合意された新しい日米防衛協力の指針(新ガイドライン)を実行するための法制です。新ガイドラインで合意された日米の軍事協力には、安保法制施行を前提にしなければ、公然と実施できない内容が多く含まれているからです。安保法制施行準備の動きをフォローしてゆく上では、新ガイドラインがどのように実行されようとしているのかということも見てゆかなければならないでしょう。そのことから安保法制の問題がより明らかになると思います。

2 新ガイドラインと安保法制は南シナ海での日米共同の軍事行動を目指しています。2012年8月に発表されたアーミテージ・ナイ第3レポートは、集団的自衛権行使を強く勧奨しながら、日米同盟の軍事的協力関係拡大の可能性がある分野として、ペルシャ湾の機雷掃海と南シナ海での共同の警戒監視だとし、ホルムズ海峡の封鎖と南シナ海での武力紛争は、日本の安全保障と安全に深刻な影響を与えると述べています。

3 南シナ海を巡る中国との紛争については、2015年11月のASEAN関連の国際会議を舞台に大きな展開がありました。

11月19日マニラでの日米首脳会談で、安倍首相は同年10月27日に行われた米海軍駆逐艦ラッセン(佐世保を母港にしています)による南沙諸島の中国の人工島12海里内(中国が自国領海と主張している)での航行(「航行の自由作戦」)への支持を表明し、南シナ海での対中警戒監視活動を念頭に置いた自衛隊の派遣について、「自衛隊の活動は日本の安全保障に与える影響を注視しつつ検討する。」と述べました。それに先立ち、菅官房長官は11月5日の記者会見で「航行の自由作戦」に関連して、「南シナ海での自衛隊の活動について、我が国の安全保障に与える影響というものを十分注意しながら、今後十分に検討していくべき課題だ。」と述べています。

11月6日中谷防衛大臣はベトナム国防相との会談で、南シナ海をにらむ戦略的要衝のベトナムのカムラン湾へ海自護衛艦を寄港させることで合意しました。

4 2015年6月2日、フィリピンのアキノ大統領が国賓として来日しました。6月4日の日比首脳会談で発表された共同宣言には日本政府が防衛装備品を移転するための協定締結交渉を行うことが合意されていました。外務省のHPに掲載されている首脳会談の概要によると、海洋安全保障の分野で巡視艇の供与を含めて引き続き協力を進めるとしています。海洋安全保障とは、この場合中国に対するフィリピンの海上での警戒監視能力を強化する意味です。

ところが、離日前の6月5日、アキノ大統領の記者会見で、驚くべき発言が飛び出しました。ロイター通信東京支局記者が、大統領に対して「訪問軍協定」締結について質問したところ、大統領はすかさず「その件は昨日の首脳会談で議論した。今後訪問軍協定について日比間で交渉を始める。」と発言したのです。まだ日本滞在中の大統領の発言ですから、これは大変な内容でした。訪問軍協定とは、フィリピンへ外国軍隊が一時的に駐留することを合意する政府間協定です。フィリピンは米国と結んでいます。それにより、米軍はローテーションと称して、常時米軍部隊をフィリピンへ駐留するようになっています。これを日本政府と締結交渉を始めるというのです。

訪問軍協定が日本政府と締結されれば、海上自衛他のP3C対潜哨戒機がフィリピン空軍基地へ駐留することが可能になります。P3Cは滞空時間や航続距離から、沖縄から南シナ海へ飛行しても、十分な警戒監視活動はできないと言われています。フィリピンへ駐留すれば、フィリピンを中継拠点として南シナ海での自衛隊による中国潜水艦への警戒監視活動は飛躍的に強化されるでしょう。

外務省HPの首脳会談概要には訪問軍協定締結の話は出ていませんし、大統領のこの発言について日本政府が公式に否定したとの報道を私は知りません。真相は今後明らかになるでしょう。自衛隊はすでにフィリピン軍との共同軍事演習を行っています。

自衛隊が徐々に南シナ海でのプレゼンスを増大させようとしていることは疑いの余地はありません。中国もそれに対して身構えているかもしれません。

5 憲法第9条に違反するような自衛隊の活動は、防衛法制の改正、制定の際に大きな問題になってきましたが、実際にはそれを先取りするような既成事実が積み重ねられているということの繰り返しでした。今回の南シナ海への自衛隊派遣問題でも同じことが行われていたことがわかりました。

2014年10月から11月にかけて32日間、護衛艦さざなみが米空母機動部隊と西太平洋から南シナ海で「日米共同海外巡航訓練」を行っていたことが判明したからです(2015年12月28日付しんぶん赤旗、2016年1月26日付同紙でも続報)。この共同訓練で日米は対潜戦、対水上戦、対空戦の共同訓練を実施し、海上自衛隊が作成した成果報告書には「南シナ海の海洋特性に習熟することができた。」と評価しているのです。

対潜戦、対水上戦、対空戦の共同訓練は、中国軍を想定したいずれも集団的自衛権行使や米艦防護を含むものであることは間違いないでしょう。これまでも海上自衛隊と米海軍は毎年晩秋に「日米共同統合演習」(演習コード名「キーン・ソード」日米共同演習では最大のものです)を行っており、私の手元にある2007年度演習の基本計画書、実施報告書によると、海自護衛艦は米海軍と共同して対潜戦を行ったり、米空母部隊や輸送艦隊を護衛する演習を行っています。この時は東シナ海、日本海、西太平洋での共同演習でしたが、2014年の「日米共同海外巡航訓練」は南シナ海まで拡大したのです。

6 昨年11月の南シナ海を巡る安倍首相、菅官房長官、中谷防衛大臣の発言や動きは、安保法制成立により浮上したものではなく、それまでに積み重ねられた日米の軍事協力を踏まえて、安保法制の制定によりこれをさらに進展させることを表明したものと考えるべきでしょう。

日米の共同演習は、防衛省設置法第4条(防衛省の所掌事務)第9号「所掌事務の遂行に必要な教育訓練」を根拠に行われてきました。しかしながら、そこで行われている共同演習の内容は、集団的自衛権や米艦防護を前提にしたものです。2014年の「日米共同海外巡航訓練」での対潜戦、対水上戦、対空戦の共同訓練は、南シナ海で中国海軍の原子力潜水艦の索敵、威嚇や、中国海軍戦闘艦に対する威嚇、攻撃、防護、中国空軍戦闘機に対する威嚇、防空、攻撃の演習が含まれていたのかもしれません。海上自衛隊の対潜哨戒能力は世界トップレベルです。

キーン・ソード演習や「日米共同海外巡航訓練」の内容は、憲法第9条に違反するものです。安保法制で米艦防護や、いざというときには集団的自衛権行使、戦闘地域での後方支援にも踏み込むことが可能な法制度ができましたので、今後の日米共同演習の内容は、これまで以上に実戦的なものになるのではないでしょうか。7 中国は「航行の自由作戦」に対して抗議をしましたが、総体的には抑制を効かせた対応をしました。米中の軍事交流はその後も続いています。しかしながら、自衛隊が南シナ海での共同演習や警戒監視活動などの軍事行動をとる事態となればそうはいかないと思います。

7 日中間には歴史問題が横たわっており、自衛隊が南シナ海で軍事活動を行えば、中国にとっての核心的利益、いわば「裏庭」とも言うべき地域ですから、対中軍事挑発と受け止められかねず、中国国内での反日ナショナリズムの高まりから(「日本にだけはぜったいに譲れない」!)、米国に対するような抑制的な対応は期待できなくなるでしょう。とりわけ南シナ海はアジア太平洋戦争期には日本の侵略に対して激戦が戦わされた地域です。

8 自衛隊が米軍とともに南シナ海での軍事行動を行うことの危険性はとても大きいものがあります。米艦防護や自衛隊自身の武器等防護活動が、中国との大規模な武力紛争に発展することを懸念せざるを得ません。(続く)

 

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