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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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安保法制の近未来 ―狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ―③

2016年2月24日

これからも自衛隊派遣の主要舞台になる中東

16 ISに対する攻撃作戦への自衛隊の後方支援が安保法制で可能になりました。現在イラクではイラク軍とIS部隊、シリアではシリア政府軍とIS部隊との地上戦闘が行われ、ロシア、米国、フランス、イギリス、アラブ諸国などがそれぞれの政治的思惑をもって空爆作戦を遂行しています。米国は少数の特殊部隊を派遣して地上戦闘を支援しています。

ISに対して国連安保理はこれまでいくつかの決議を採択しています。2014年9月24日決議2178号は、ISへ参加目的での渡航禁止措置を国連加盟国へ要請するものです。2015年2月12日決議2199号は経済制裁決議です。2015年11月13日のパリでのテロ事件を受けた2015年11月20日安保理決議2249号はIS非難決議です。

いずれの安保理決議も加盟国に対して武力行使権限を付与するものではありません。しかし、安保法制の一部として成立した国際平和支援法では「当該事態に関連して国連加盟国の取り組みを求める決議」を受けて、当該事態に対処する活動をしている外国軍隊への後方支援が可能となっています。上記の国連安保理決議がこれに該当します。

ISに対する空爆作戦だけでISを敗北させてその支配地域を奪還し、ISを消滅させることは不可能であることは、国際社会の共通認識です。ISに対する地上戦闘に米国が参加する事態にでもなれば、米国政府が日本政府の後方支援を要請してくることは十分考えられます。国際平和支援法で可能となっている後方支援を日本政府が拒否することはありえないでしょう。

現在ISによるテロ活動は拡大しています。パリに続いて1月21日インドネシアの首都ジャカルタでも起きました。さらにドイツやイギリスでもテロ攻撃を狙っていると報道されています。パリのテロ事件を受けてフランス軍が地中海へ空母を派遣して空爆を強化したことで、ドイツはフランスに対して軍事支援を行っているからです。日本がISとの戦闘行為の後方支援活動を行えば、日本もISによるテロ攻撃の標的にされると考えておかなければなりません。

17 ここでISへの各国による空爆作戦の意味を国際法の観点から考えておかなければなりません。なぜなら、シリア領土内への空爆はシリアの主権侵害ですし、シリアへの武力行使でもあるからです。シリア政府が要請しているのであれば、主権侵害になりません。ロシアの空爆がそれに該当します。しかしその他の国による空爆には国際法上の根拠はないと思われます。

国連安保理決議による武力行使権限の付与はありません。パリでのテロ事件はフランスに対する武力攻撃ではありません。テロ事件はあくまでも犯罪行為にすぎません。他国による武力攻撃ではないので、これに対するフランスの個別的自衛権行使との正当化は不可能ですし、EU諸国による集団的自衛権行使もできません。

そうするとシリア領土への空爆作戦は国際法に違反する武力行使になります。ましてやシリア領土内へ各国が地上軍を派遣して地上戦闘を始める事態は、明白な国際法違反を構成します。安保法制でISに対する軍事作戦の後方支援を行うことになれば、日本は国際法違反の武力行使に加担することになります。そのことも私たちは十分に認識しておかなければならないと思います。

18 1990年代から自衛隊は海外へ派遣され始めました。最初は湾岸戦争が終結した後にペルシャ湾へ掃海母艦を含む6隻の掃海部隊が派遣されました。自衛隊法第84条の2の機雷掃海規定を拡大解釈して行われたのでした。その後1992年にはPKO協力法が制定されました。その前身は、湾岸戦争で多国籍軍への後方支援を意図した国際平和協力法案でした(廃案になりました)。2001年の同時多発テロを受けて、同年にテロ対策特措法が制定され、アラビア海へ海上自衛隊の給油艦と護衛艦が派遣されました。2003年にはイラク特措法が制定されて、イラクのサマーワへ陸自部隊とクゥエートへ航空自衛隊が派遣されました。2012年には海賊対処法が制定されて、ソマリア沖やオマーン湾での海賊対処のために護衛艦とP3C対潜哨戒機2機が派遣されました。そして南スーダンです。こうしてみると、自衛隊の海外派遣は中東を中心にして行われてきたことがわかります。

今後も中東地域へ自衛隊派遣の動きは続くでしょう。

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