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トランプ気取り?「とにかく改憲」

寄稿:飯室勝彦

2016年3月4日

参院選を意識したのか一時は慎重だった首相、安倍晋三の改憲発言がまた活発化した。

改憲に前向きな勢力を「責任感の強い人たち」と呼び、慎重な人を無責任呼ばわりするかのような言い方をしたかと思えば、「私の在任中に成し遂げたいと考えている」と期限まで切った。まるでアメリカ大統領選候補の指名争いにおける共和党ドナルド・トランプの勢いに勇気づけられたかのようだ。

しかし、安倍とトランプの間に共通点はあるが安倍には重大な勘違いと思い上がりがある。

トランプは、経済的格差拡大、社会の閉塞状態に不満を持ち、現状をなんとか切り開きたい共和党員の大衆的熱気に乗って候補指名レースを優位に進め、安倍は世論調査での高い内閣支持率を頼りに暴走を続ける。

自分のような富める者からの富の再配分、あるいは経済社会における富の平準化ではなく、貧しいメキシコ難民、貿易相手国を攻撃することで民衆を引きつけているトランプ。中国、北朝鮮の脅威を強調することで「戦争ができる国」の実現に向かって突き進んでいる安倍。政治手法は似ている。挑発的物言いも似ている。

国の外に敵を想定し、敵と味方を截然と区分けして、排他主義のもとに愛国心をかき立て国内矛盾を覆い隠す。安倍が敬愛する祖父の岸信介が活躍した、あの戦争の時代の日本を想起させるではないか。

異なるのは、アメリカでは共和党内のいわゆる良識派からトランプ排除の動きが出てきたのに対し、自民党内では良識派の声が表面化せず大きな流れにならないことだ。

こうしたなかで安倍はフリーハンドを得たかのように振る舞っている。アメリカの世界戦略には最大限協力することを「積極的平和主義」と言い換え、実質的に米軍の一部となって戦争に参加することを「集団的自衛権の行使」と言いくるめて平気だ。

その安倍が目指す究極の目標はもちろん日本国憲法の解体、とりわけ第9条の全否定だ。9条改憲がすぐには難しいと分かって安保法制という形で実質改憲し、最近では「できることから改憲」に転換、非常事態に関する規定の整備を視野に入れている。「とりあえず、とにかく何か改憲」だ。

それでも9条のことになると力が入る。2月20日のラジオ番組では「(現憲法に)自衛隊の存在自体が明記されていない。実力組織、海外では軍隊だが、その記述がないというのはおかしい」と力説した。

9条改定も非常事態法制の創設も思想的根っこは同じである。最大の人権侵害である武力行使で国際紛争に対処し、異論を封じるために政府に権限を集中させて権力機関が“公益”と考えることを最優先する。国民の人権は名目だけのものになる。

国家総動員法、国民精神総動員の標語のもと、自己を犠牲にしてすべてを国家と戦争遂行のために集中させられた時代がかつてあった。安倍は岸が前半生においてそのような時代を支えていたことは語らない。

安倍の改憲論には現憲法の全体系を分析評価した形跡がうかがえない。2012年に発表され「復古調で時代錯誤」の評価が定着した自民党改憲草案が頼りで、理論的展開はない。普段は野党の追及を「レッテル貼り」とかわしながら、追い詰められると「(野党は)思考停止だ」と逆レッテル張りで逃れる。

安倍は高い内閣支持率は安倍政治への支持を示すと勘違いしているが、世論調査では9条改憲論などは内閣支持率の数値より格段に小さい。内閣支持率は声が大きい、勢いの良い方に支持が傾きやすい大衆社会、特に閉塞感の漂う社会の現象にすぎまい。

この勘違いは、参院選で改憲を打ち出しても世論はついてくる、改憲に必要な3分の2超の議席は獲得できる、という思い上がりを産んでいる。

政治家、安倍の目的意識は、日本の未来構築ではなく、改憲という祖父、岸信介の遺業を成し遂げることにあるように見える。

遺業を継承したいのなら、岸が明治憲法下で果たした役割の検証は欠かせない。それは現行憲法が果たしてきた役割、実現してきたことの分析評価とも切り離せない。

「なんでもいいからとにかく変えたい」では順序が逆だ。まして9条撤廃の底意が見え見えで「頭隠して尻隠さず」になっている。

「国のかたち」に大きな影響を与える憲法は、政治家が「決める」ものではなく、多様な国民のなかから沸き上がった声、活動で「決まる」べきものである。まして個人的感情、情緒の影響を受けている政治家が声高に改憲を主導するのは許されない。

7月の参院選は改憲勢力が3分の2を超えるかどうかが焦点。それは「国のかたち」を決める主導権を安倍に委ねるのか、それとも主体的な国民が確保し続けるかという争いである。

前者なら本来権力を拘束するのが役割の憲法が国民を縛るものに逆転しかねない。日本と日本人にとって戦後最大の分岐点を迎えている。

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