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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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安保法制の近未来-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-④

2016年3月6日

ガイドラインの実行とROE

2015年4月27日、新たな「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)が日米安全保障協議委員会(2+2)で成立しました。この新ガイドラインを実行するための施策が着々と進められています。安保法制が施行されれば、これまでの憲法第9条による制約が取り払われて、日米の軍事一体化がより強化できるからです。

2015年11月4日の新聞各紙は、日米両政府が11月3日「同盟調整メカニズム」、「共同計画策定メカニズム」の設置と運用開始が合意されたと報道しました。11月3日中谷防衛大臣とカーター米国防長官がマレーシアのクアラルンプールで会談して、同盟調整メカニズムの設置を歓迎するとの文書を発表しました。

「同盟調整メカニズム」と「共同計画策定メカニズム」は新ガイドラインのいわば「きも」になるものです。詳しくは、この連載で2月5日にアップされた「新ガイドラインと安保法制で米軍、米国軍事戦略との一体化を深める日本」をお読みください 。(http://www.news-pj.net/news/36837)

2016年1月24日の朝日新聞1面に「尖閣有事12年に研究案」との見出しの記事がありました。これによると、2012年9月尖閣諸島の国有化により日中間の緊張が高まり、小規模の部隊が尖閣諸島を上陸侵攻した場合に、日米が共同して奪還するという計画の研究案を作成し、97年ガイドライン改訂作業も開始したというものです。研究案は作戦計画ではなく、その前提となるシナリオ案のようなものとの防衛省幹部のコメントを引用しています。

しかしそもそも、尖閣諸島奪還での日米共同作戦は日本の個別的自衛権行使と安保条約第5条を発動する事態ですからガイドラインの改定を待つまでもありません。また日本が集団的自衛権を行使する場面でもありませんし、米艦防護のための自衛隊法改正も必要ありません。個別的自衛権で米艦防護ができるというのがこれまでの政府解釈ですから。

私はこれはガイドライン改訂の口実と思いました。それを裏付けるように同じ日の朝日新聞の3頁に関連記事があり、これは米国の対中軍事作戦に取り込まれ、米国の対中軍事作戦は東シナ海、南シナ海での中国の挑発でより大規模な中国の侵攻を想定したものであると指摘していました。

つまり、単独での中国軍の小規模部隊が尖閣を上陸侵攻するというシナリオは考えられていないこと、それは(仮に発生したとしても)より広範囲な南シナ海を含む米中の本格的な武力紛争の一部としての位置づけに過ぎず、尖閣奪回作戦を口実にして日本政府と自衛隊を、南シナ海での米中軍事対決へ加担させるものだという意味と理解しました。そのために集団的自衛権行使、米艦防護、周辺事態法改正によるより強力な後方支援を可能にするため、新ガイドラインを策定し安保法制を成立させたのでした。

新ガイドラインも安保法制も、米国の南シナ海での対中軍事衝突を想定して、日本が全面的に米国を支援する仕組みを作ることがその狙いであることをこの記事は示しています。私は、内心でこのような記事を安保法制法案が国会審議されているときに出してほしかったと思わずにはいられませんでした。

安保法制により改正された自衛隊法に基づき、日米物品役務融通協定(ACSA)改定がなされようとしています。日米物品役務融通協定とは、自衛隊と米軍とが共同演習や様々な軍事作戦(人道支援を含む)で共同行動をとる際に、互いの軍事物資を融通するための協定です。この協定により双方の軍隊はより一体化を強めることになります。

新ガイドラインでは、平時からの日米の軍事協力事項として、警戒監視活動、ミサイル防衛、海洋安全保障(機雷掃海も含むでしょう)、後方支援などを挙げています。日米物品役務融通協定はこの新ガイドラインの合意を実行するためのものです。

安保法制により自衛隊法第100条の6を改正し、日米間で新たに海賊対処、弾道ミサイル防衛、機雷掃海、警戒監視活動での物品役務融通が付け加えられました。新ガイドラインで合意した平時からの日米の軍事協力事項を自衛隊法改正に取り込んだのです。これはいずれも平時のものです。平時から自衛隊と米軍との協力関係を深めて、情勢緊迫、危機、戦時にわたり切れ目のない日米の共同軍事行動を可能にする改正です。とりわけ、弾道ミサイル防衛、機雷掃海、警戒監視活動は、日本海での対北朝鮮や南シナ海での中国軍に対する行動で活用し得るものです。

改定される日米物品役務融通協定の締結は、新ガイドラインと安保法制で改正された自衛隊法第100条の6に対応するもので、日米両政府間で調印して通常国会へ条約承認案件として提案されると見られています。

現在防衛省、自衛隊は安保法制で可能になった自衛隊の任務や活動に関する部隊行動基準を作成しているはずです。安保法制で新しい任務に就く自衛隊員に対しては、それにふさわしい訓練、演習を行わなければならず、そのためにも部隊行動基準が必要だからです。繰り返し教育訓練を行って、自衛隊員一人一人に部隊行動基準を徹底させる必要があります。

部隊行動基準とはRules of Engagement(ROEと略称される)の防衛省用語です。交戦規則と訳す方が一般的です。憲法第9条2項で交戦権を放棄しているので「交戦規則」との用語を使えないため部隊行動基準という用語を使っているのでしょう。ただ防衛省が英語に訳するときにはRules of Engagementを使っているそうです。では部隊行動基準=ROEとはどのようなものなのでしょうか。

米陸軍の「野戦法務ハンドブック」によれば、「(ROEとは)資格ある軍事当局によって発せられる命令で、米軍部隊が、遭遇した他国部隊に対して戦闘行為を開始し、継続するか、またはそのいずれかを行う状況と限度を明記する命令」と定義されています。現在各国の軍隊がROEを定めています。

ROE制定の目的は、政治指導部と兵士を繋ぐ絆であり、シビリアン・コントロールの重要な手段と説明されています。ROEは、部隊に与えられる任務(PKO活動、人道復興支援、多国籍軍の軍事行動など)ごとに、作成されているようです。「○○作戦のROE」です。兵士一人ひとりには、ROEを徹底させるためにROEのダイジェスト版のような「ROEカード」が配布されることもあります。米国は統合参謀本部が標準交戦規則(SROE)を作成しています。

ROEの内容は、それぞれの軍隊の行動を規定する国内法と、武力紛争法、国際人道法など国際法により規定されます。そのため各国の国内法や、それぞれの政府が理解している国際法の解釈(たとえば自衛権行使の要件など)により、現場の兵士に与えられるROEの内容が異なります。例えば「敵対意図」に対して武力行使するのか、それとも「敵対行動」に対して武力行使するのかという違いです。「敵対意図」に対して武力行使を可能とすれば、先制的自衛を容認していることになるでしょう。NATO諸国には「敵対意図」に対する武力行使を制限する国が多いと言われています。米国のSROEは可能としています。

ROEカードには兵士が武器を使用する場合の細かい規定を定めています。武器を使用する場合の条件(状況)、武器を使用する前の警告の仕方(現地語での警告の言い方を書いたものもあります)、警告射撃の仕方、標的を狙う射撃方法(たとえば単発の照準射撃を原則とし、連射は避けるようになど)などです。

防衛省・自衛隊は現在ROEを作っているのでしょうか。ROEには特定秘密として厳重な秘密指定がされているので、詳しいことは分かりません。防衛庁は2000年12月に日本有事を想定した包括的なROE作成を3自衛隊に指示をしました。あくまでも日本への武力攻撃の際の自衛権行使=武力行使のためのROEです。武力行使任務ではありませんが、自衛隊は国際平和協力活動や人道復興支援で数多くの海外任務を遂行しています。それに対応するROEがどうなっているかも私にはわかりません。それを推測させる記事が朝日新聞にありました。

2015年2月17日朝日新聞に、イラクサマーワへ派遣された陸自部隊が、現場で独自に隊員向けの戦闘対処手引を作成し、派遣部隊が変わるごとにそれが引き継がれて更新されながら6版まで改訂を重ねた(全文84頁)との記事がありました。防衛省が公認したものではないので「私文書」としています。朝日新聞はこの文書を入手して記事を書いたのです。記事によると、「非戦闘地域」での活動であるため、防衛省は隊員向けのものを作成せず、指揮官向けの「国内法令の運用要領」をROEとして作成したとのことです。

安保法制の下で作成されようとしているROEは、米軍等他国軍隊の武器等防護を行う際の条件(どのような状況下で武器使用ができるか)、警告を発するかしないか、警告射撃や標的を狙った射撃の方法、相手方が反撃してきた場合の応戦の仕方など、駆け付け警護の条件やその際の武器使用の方法(警告の仕方、警告射撃の要領、標的を狙った射撃の方法など)、活動を中断すべき場合の状況とその際相手が攻撃してきた場合の応戦の仕方、任務遂行のための武器使用の条件や、その際の妨害勢力に対する攻撃の程度など細部にわたるものになるのではないかと想像しています。

新ガイドラインで自衛隊と米軍との一体化を深めるためには、自衛隊のROEと米軍のROEとのすりあわせが必要です。双方のROEが異なると、共同作戦行動に差し障りが出るからです。例えば米艦が攻撃を受けた際に、自衛隊が米艦防護を行う場合、米軍は自分の部隊を守るために反撃しても、自衛隊のROEではいまだ反撃できないのであれば、有効な米艦防護が出来ません。いくら米軍と自衛隊との一体化といってみても、現場の双方の部隊の武力行使がちぐはぐでは一体化したとは言えません。

万一自衛隊員、現場指揮官がROEに違反して武器を使用して、相手を殺傷した場合、または非戦闘員を殺傷した場合どうなるのでしょうか。殺人罪や傷害致死罪(いずれも裁判員裁判になります)で捜査起訴されることになるのでしょう。ROEに違反していることは違法性を根拠づける事由になるのではないかと思います。

そうすると、罪を犯したとされる自衛隊員は、日本へ送還されて自衛隊員が所属する師団を管轄する警察や検察庁が身柄を拘束し(あるいは在宅のまま)取り調べをするのでしょう。現場検証は事件の発生した海外の現場で行われるのでしょう(武装勢力が跋扈しておればできるかどうかは分かりませんが)。被疑者の自衛隊員だけではなく、傍にいた同僚自衛隊員や現場指揮官の取り調べが必要です。日本へ帰国させて取り調べるのかもしれません。そうなると現場指揮官がしばらくは現場を離れなければならなくなります。指揮官が不在の現場の自衛隊部隊は困るでしょう。

起訴された自衛隊員は否認するかもしれません。そうするとROEの解釈が刑事裁判の争点になります。有罪にせよ無罪にせよ判決が確定するまでかなりの期間を要します。そうすると、それまでの間現場ではどこまでが合法でどこから違法になるのかが定まらないこととなり、ROEに基づく自衛隊員の活動は消極的にならざるを得ないでしょう。派遣部隊の任務の遂行に悪影響も予想されます。

そもそも武力紛争やその現場の様子、兵士の行動や武器に関する専門的知識のない裁判官や市民から選ばれた裁判員にROEの解釈を委ねることには、自衛隊には強い抵抗があるのではないでしょうか。

以上のように考えると、自衛隊が海外で危険な任務に就けばつくほどROEの必要性は高くなり、他方でそれに違反した自衛隊員を裁くうえで、現在の憲法下で行われている司法制度ではもはや現場の要請に到底答えられないとの声が大きくなるでしょう。私は安保法制により自衛隊の海外活動が増え、それに対応するROEが作られてくれば、必ず軍事法廷を作るべきだとの要求が強くなると考えています。

派遣された現地で派遣部隊司令官や自衛隊法務官が裁判長や検察官となり、迅速に判決を出すことを可能にする軍事法廷は、自衛隊が海外で危険な任務を遂行しようとすればするほどその必要性は高くなるでしょう。

しかしそのためには憲法改正が必要です。戦前の軍法会議を否定するためと、憲法第9条で軍隊を持たないと定めた結果、憲法第76条2項で「特別裁判所は、これを設置することができない。」と、例外を許さない明確な規定を置いているからです。


 

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