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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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ホタルの宿る森からのメッセージ 第52回「メガトランゼクトへ〜5」

2016年3月17日

●森林伐採業者との出会い

メガトランゼクト中、ぼくは一度だけ、マイク・フェイのチームと森を歩いた。ガボンの中央部の森だ。そのときわれわれは、アクティブな熱帯林伐採区の中を歩いているのは明らかだった。常に聞こえてくるチェーンソーの音。ときおりゴウゴウとした大きな音-トラックかブルドーザーか。そして、埋木調査に使われているらしい森のなかに人工的に切り開かれたまっすぐの人道が、左右前後に見られる。

マイク・フェイ一行が到着した最終地点・ガボンの海岸部©Rombout Swamborn

マイク・フェイ一行が到着した最終地点・ガボンの海岸部©Rombout Swamborn

こちら方面に出れば、木材搬出路に出会うはずとマイク・フェイはいう。そして、果たしてわれわれは道路にあたった。建設したての道-しかも幅が広い。車がくる。トヨタ・ランクルに乗った白人一人、車を止めて降りてくる。森の中を歩いて調査をしているわれわれに驚いたのだろう。マイクはその白人に挨拶に向かう。白人はわれわれをねぎらい、マイクとぼくには今晩の宿と食事、ワインまで提供するよといっていたが、マイクはにべもなく、断る。

メガトランゼクトの最中、森林伐採業者と酒を飲んでいる暇はない。

●伐採道建設現場

ブルドーザーは、道路上になるはずの大木を次々と『根こそぎ』倒していく。まさに『次々と』である。こうして道は作られていく。切り出した樹木の搬出路として。

これが第一の破壊。そして、目当ての木の伐採。そのブルドーザーのみの搬出路。これが第二の破壊。そして、労働者の流入。森のど真ん中へ基地の設営。これが第三の破壊。そして、労働者の食料用としてのそれまでその地域に存在しなかったブッシュミート目的の狩猟。これが第四の破壊。土砂流によるブルドーザー道沿いの倒木。これが第五の破壊。

現場監督らしい30歳くらいのガボン人の男がとてもすがすがしい顔をしていた。夕日の中、汗と埃にまみれつつ、懸命に働く姿とその生き生きとした顔が印象的だった。そして、この男にもきっと妻子や家族があろう。彼には他に現金を得る手立てがない。白人のもと、伐採業で懸命に働くだけ。職種は関係あるまい。

森を『搾取』しているのは、熱帯材の需要の高い先進国の人々に他ならない。ガボンという国の利益やガボンに存在する豊かな熱帯林の保全は、二の次である。

●伐採道路と動物

翌日、歩くに従い、木材搬出道路の幅が狭くなってきた。古い道路だ。伐採、騒音など環境破壊で追われ、しかも労働者のための狩猟の対象となった動物たち。森から動物が消え、伐採によって樹木の消えた森は二次林の深いヤブになる。動物が消えたため、そのヤブは開かれぬままである。なるほど動物の痕跡も少ない、きわめて、少ない。動物もこんな二次林の棘の多いブッシュを歩きたくなかろう。その証拠に道路上にはいくつもの動物のフンが見つかる。ブッシュの中よりも、多少広い道路で、のびのびとウンコもしたいもんだ。

写真194:古く狭くなった木材搬出路に現れたゴリラ©WCS Congo

しかし、そこは、まさに動物にとって自殺に行くようなものだ。なぜなら、ハンターが今もなお、伐採活動後も、そうした道路沿いにやってくるからだ。その証拠に、多数の殻の銃弾が動物のフンと並んで地面に落ちているからだ。

 古く狭くなった木材搬出路に現れたゴリラ©WCS Congo


古く狭くなった木材搬出路に現れたゴリラ©WCS Congo

森は山がちになる。各丘の頂上には樹冠がない。そこにあるのはヤブだけだ。4〜5年前に伐採が行なわれたのだろう。あたりは完全に二次林だ。尾根沿いに道が作られたのだろうか。動物の気配は一つもない。

伐採現場のいまと過去を垣間見た思いだ。

●かすかに流れる川

旧木材搬出道路を歩き続ける。古い橋の下の川は流れていない。これは、伐採会社が川の流れをせき止めるような形で、橋を作ったからである。これも森林生態系の破壊のひとつといえる。河川生態系は大きなダメージを受け、魚も壊死している。

かすかに流れている水は冷たい。水浴びをする。水量は少ないがとても気持ちいい。マイクも川にくる。歯をみがき、履いていた短パンを手ぬぐいがわりに使い、気持ちよさそうに水をかぶっている。

●ジャングル・サウンド

遠くでマシーンの音。車かブルドーザーか、とにかく森林伐採活動の音だ。と同時に人の声のようなものが聞こえる。否、メンバーの一人はマンドリルだという。マイクも、マンドリルを追うような形で森に入っていく。音がはっきりしてくる。そして、ぼくははじめて野生のマンドリルを直接観察した。声がいい。いかにも熱帯林、ジャングルという感じで、しかも調和している。低音と高音のハーモニー。森をこだまする。

しかし、マンドリルの棲むその森の崩壊も決して遠くない。

●消えていくゾウ道

いいゾウ道がつづく。伐採業者によって作られた山道もない。ゾウ道があるということは、いい森が残っているということである。ゾウが常住しているということ。ゾウの食物があるということ。逆に、ゾウ道がないということは、ゾウがほとんどいないということ。何かの理由でその地域から消失してしまったということだ。密猟、伐採による生息域の縮小。伐採と道路建設によるゾウにとっての食物樹の減少。それに伴なう二次林の台頭で、ゾウも歩きにくくなる。同時に、騒音、人の侵入により、ゾウはその場所からから去ってしまった。他の動物も然り。

その結果、動物による種子散布がぐっと減る。ゾウ道、ゾウによる明るい場所がない。そのため発芽にふさわしい場所もない。森は再生しない。まさに、生態系の崩壊だ。

いままさに、森の状況は『消えていくゾウ道』なのだ。

寝床に入ったところで、ゾウがいると呼ばれる!月夜であった。月を背景に、ゾウがすぐそばにいる。3mくらいまで近よる。みずみずしく、はかなく、うつくしい光景。いったい、いつまで、このマルミミゾウは生存が可能なのであろうか。

●二回目の空からの食料投下

コンゴでも実施したセスナからの物資投下(連載記事第50回を参照のことhttp://www.news-pj.net/news/37500)。二回目の空からの物資補給の時が来た。ガボン中央部の山岳地帯だ。徒歩でもボートでも車でも行ける場所ではなかった。

フライト予定日の天候は怪しい。特に補給地点の山の方には雲が垂れ下がっている。しばらく様子を見るしかない。前回と同じ要領で、12個のバッグを用意した。

多少の悪天候もついてでも、出発せざるを得なかった。森のなかにいるマイク・フェイのチームにはいま食料や物資が必要なのだ。セスナのパイロットの腕を信用するしかない。雨であれば風を伴う。山岳地帯の中、視界も良好でないかもしれない。

パイロットも、安全のため、二回の飛行に分けようと提案。一回の飛行による重量を軽減するためだ。ただ距離は遠いため、二回の飛行と荷物の数の応じた旋回の数に十分な燃料があるかどうか、パイロットは危惧していた。

しかし、実効あるのみだ。案の定、山の地帯は雨模様だった。ぼくの座っている座席の横のドアは、物資投下を容易にするために取り外してあるので、雨は当然、ぼくに吹き付けてきた。しかし、セスナの中、どこにも逃げようがない。

一回目の飛行と6つのバッグの投下は無事完了した。またもとの滑走路に戻り、残りのバッグを詰め、二回目の飛行へ飛び立った。やるしかないのだ。山の中の13人の命をつなぎとめ、メガトランゼクトを継続させるためだ。そのための任務は重い。

一度、バッグを機体の後方から座席の方へ引き寄せるとき、ぼくのシートベルトに触れ、そのシートベルトが外れたハプニングもあった。ぼくの右側にはドアはない。吹きつく風雨の中、地上に落下しないよう、必死でシートベルトを締め直しもした。

二回目の飛行も終え、無事生還した。パイロットに感謝。ぼくもパイロットもまだ生きていた。それはいいことだ。あとはチームが今日の12個のバッグをすべて無事に回収できたこと。というのも、投下地点は一回目の時のように開けた場所ではなく、山地林の真ん中であったからだ。そしてそれぞれの物資の状態がすべて問題ないことを祈るのみだ。前回のように缶詰が潰れたりしないように、工夫はした。準備、入念な梱包、重量とバランスを考えたパッキング、ひもとゴムによるパッキング。そして、落下時のクッションになるように、各バッグの外側には、パンを所狭しと詰め込んだ。いちばん気がかりだったのは、前回の投下で失敗した電池が潰れずに着地したかどうかだった。

しかし、後日談で、それがすべてうまく行ったことを知る。缶詰も電池も潰れず、しかもクッション代わりに入れたパンも食料として利用できたと。

これは、メガトランゼクト・プロジェクトのぼくの担うべき任務の中で、<メガ」級の仕事だった。結果的にすべての物資も問題なくチームに届いたのだ。これをおけば、他のしんどかったこともまるで小さくみえる。

ぼくには”GO”しかなかった。「戻る」ということばはない。それに「戻る」といって、いったいどこに戻るのだ?

●メガ・チーム到着

1999年9月にコンゴ共和国北東部を出発したマイク・フェイのメガトランゼクト・チームが、2000年12月のこの日、最終地点であるガボンの海岸地点に到着する。信じられないというか、あまりにもあっさりと、予定通り、しかも1日早く実現することに、ぴんとこない。15ヶ月の日々がこれほど早くすぎるものか。

もう、物資補給でハッスルすることもない。ボートに何日もかけて移動することもないし、悪路を車で移動することもない。20kmもの森のなかを物資を担いで歩く必要もなければ、危険を承知で空からの物資補給をすることもない。買い物にかけ回ることもない上、物資補給地点の日付や地点にやきもきする必要もない。思うに、ぼくもマイクも驚いたことだが、20箇所以上の補給地点で、マイクのチームもぼくの物資補給のチームも、ほんの30分か一時間の違いで板買い到着したという事実だった。奇跡としかいいようがない。これこそ、まさにメガトランゼクトが予定通りスムーズに励行された理由の一つだ。

メガトランゼクト無事終焉を迎え、がほっとするというより、寂しいという感触だ。この種の仕事は、人生で果たしてもう一度あるのか?

ぼくは、最終到着地点に近い海岸のガケの上からひょっと顔を出した。と、人だ!ポーターらしい。本当に彼らは到着したのだ。マイクも後方から続いてくる。ぼくは、砂浜に急ぐ。

マイクと握手。ついに到着したのだ!ついに終わったのだ。ついにメガトランゼクトは完遂したのだ(写真193)。

しかし、ドラマではない。何も劇的なことは起こらない。“It took long time”(終わるまでずいぶん長かったな)とマイクはぼくにつぶやく。“You’ve done it.”(しかし、最後までやったぜ)とぼくは答える。その瞬間をニックはカメラで捉える。

そして、ぼくはマイクと並んで、しばらく海岸を歩いていった。

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