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改憲隠し・・・メディアの使命

寄稿:飯室勝彦

2016年3月30日

集団的自衛権を行使できるようにする安全保障関連法が施行された。戦後の日本が守り続けた「専守防衛」は破棄され、自衛隊の海外での武力行使や、他国の軍隊への支援が可能になり、「国のかたち」は「戦争をしない国」から「戦争も出来る国」へと大きく変わる。

内閣総理大臣の安倍晋三と彼の政権は、選挙を前にした改憲隠しで「国のかたち」の変容を憲法上も確かなものにしようと策している。

有権者は「国のかたち」を決める主権者として「改憲狙いの憲法隠し」に厳しい目を向けなければならない。そのためにマスメディアは踏み込んだ報道でジャーナリズムの使命を果たすことが求められる。

今年7月の参院選で自民党は改憲発議に必要な3分の2超の議席獲得を狙っている。「おおさか維新の会」に秋波を送ったり、改憲賛成の小グループを「責任感ある」と持ち上げたりするのはもっぱら「3分の2超」のためだ。衆院解散、衆参同日選を狙うのはその方が有利だと計算しているからである。

他方で憲法、安保法隠しに懸命である。安保法で自衛隊が新たに出来ることとなった、国連平和維持活動での「駆けつけ警護」や、平時でも米艦船などを守る「武器等防護」など、きな臭い任務の付与は参院選後に先送りした。

憲法第9条の廃止、安保法は国民から支持されているとは言えないのが実情だけに、なるべく選挙前に「寝た子を起こす」ようなことはしたくないわけだ。

同一労働同一賃金、保育所の拡充・待機児童解消、春闘の後押しなどリベラル色の政策も次々打ち出し、野党は振り回されている観がある。作成中の自民党の“公約集”では憲法問題は後順位だ。選挙で憲法を重視されないための目くらまし作戦と言ってよかろう。「改憲目指して憲法隠し」である。

選挙の公約は憲法問題だけではない。有権者にとって魅力的な事項もそうではないものも、さまざまな公約がパッケージで打ち出される。有権者の選択、投票行動は必ずしも憲法だけで決まるのではなく、自民党に投票しても憲法観は自民党とは違う人が少なくないはずだ。それでも勝てば「まるごと支持された」「憲法問題でも賛成を得た」と言うのが普通である。

マスメディアはこうした一種のからくりを詳しく伝えることをしない。解説記事の片隅にこっそり書き添えてジャーナリズムとしての責任を果たしたかのように装うことはあるが、電波メディアに至っては物事の表面をなでる報道が主流だ。

大事な争点を隠し、選挙に勝つと隠し争点が支持されたかのように言い張るのは自民党の常套手段で、ごく近い過去にも国民の目を欺いた事実がある。特定秘密保護法も安保法も正面には出さないで選挙に臨み、選挙に勝つと「国民に支持された」と国会を強行突破したのだった。

有権者は新聞の解説記事をなめるように読んでもこれらのいきさつをなかなかつかみきれない。客観報道の呪縛から抜け出せず、目に見える事実を伝えるだけの報道が多いからだ。

マスメデイアには個々の事柄を事実として報じるだけでなく、その背後に隠された意図、思惑などを掘り起こしてきちんと伝える責務がある。前例にてらすと、今回も隠そうとしていることこそが真に大事な争点は憲法問題であることを物語っている。それを掘り起こし有権者に判断の選択肢を提示する課題設定はメディアに課された重要な使命だ。

アメリカ大統領選の候補者選びをめぐって、一部有力メディアが共和党のトランプに対する批判を明確に打ち出した。課題設定機能を重視する米国ジャーナリズムの伝統が生きているのである。

これに対して日本のジャーナリズムは権力批判や課題設定機能が弱く、最近は安倍政権の恫喝、懐柔の効果もあってますます低下している。「客観報道」と称して事実を伝えるだけで深層をえぐる報道は少ない。

ジャーナリストとして求められる客観報道とは主観を排除することではない。どっちつかずの中立でもない。情報は伝え手の正しい視点、問題意識を通すことで命を吹き込まれる。それなくしてジャーナリズム、ジャーナリストを名乗る資格はない。

歴史、とりわけ日本の現代史と憲法を胸に、強者より弱者、支配者より被支配者の側に軸足を置きながら大量の情報の中から自分の問題意識にもとづいて情報を選び、掘り下げ、分析して伝える。それが優れたジャ-ナリズム活動である。

こんどの選挙では政治家や政党が試されるだけではない。ジャーナリズム、マスメディアも存在意義を問われている。

 

 

 

 

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