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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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ホタルの宿る森からのメッセージ
第54回「アフリカの野生生物の利用(1)〜ブッシュミートの是非」

2016年4月17日

<この記事は、よこはまの動物園機関誌ZooよこはまNo. 93 P. 16-17(2015年6月)に掲載された拙記事「アフリカの野生生物の利用とその行方1 野生動物の生存を脅かすブッシュミートの問題」より転載し、一部加筆修正したものです>

アフリカ熱帯林地域で騒がれる事例:ブッシュミート

アフリカ熱帯林地域は、アフリカの中央部に位置する。関連する国としては、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、ガボン、カメルーン、赤道ギニア、中央アフリカ共和国などである。この地域で従来から取りざたにされていた問題は、「ブッシュミート」である。つまり、地域住民が野生動物を殺して、その獣肉を食べることが問題視されてきた。

狩猟されたブルーダイカー©西原智昭

狩猟されたブルーダイカー©西原智昭

狩猟されたオオハナジログエノンとそれを獲ったハンター©西原智昭

狩猟されたオオハナジログエノンとそれを獲ったハンター©西原智昭

密猟されたゴリラの肉と手;肉は食用、手は乾燥させたのち灰皿などとして売られる© Jean-Claude Dengui

密猟されたゴリラの肉と手;肉は食用、手は乾燥させたのち灰皿などとして売られる© Jean-Claude Dengui

ブッシュミートの対象となるのは、主にレイヨウ類(ダイカー)、イノシシ、昼光性のサルなどの小型・中型動物が対象である。場合によってはゾウ、ゴリラ、チンパンジーもそうである。

多くの人が血だらけの野生動物の死体を見て、アフリカ人はなんて残酷で野蛮だ、動物はかわいそうだ、といったたぐいの言動が10年以上もの間討議されてきた。たいていの人は、アフリカ人の日常の生活やその伝統文化を無視する形でブッシュミート問題を見てきた。

長期保存させるために森の中で燻製にされるブッシュミート©西原智昭

長期保存させるために森の中で燻製にされるブッシュミート©西原智昭

市場にてナタで切られる前のブルーダイカー;ごく日常の光景である©西原智昭

市場にてナタで切られる前のブルーダイカー;ごく日常の光景である©西原智昭

市場で黒焦げに燻製にされて売られているサルの死体;ごく日常の光景である©西原智昭

市場で黒焦げに燻製にされて売られているサルの死体;ごく日常の光景である©西原智昭

市場では最終的にこうした切り身で売られることが通常である©西原恵美子

市場では最終的にこうした切り身で売られることが通常である©西原恵美子

ぼく自身はまさにその地域での野生生物の研究や国立公園の管理、野生生物の保全に関する業務にすでに25年以上関わってきた。その点、現地での実情や歴史を多かれ少なかれ知っている。いったい、何が起こっているのだろうか。答えは単純である。現地の人は長い歴史の中で、野生動物が主要なタンパク源であったのだ。日常食べるのに必要なのである。食べるためには殺さなくてはいけない。殺せば血が出る。それだけのことである。もし食べるなと言えば、熱帯林地方のアフリカ人の多くは路頭に迷うしかない。

日本人も野生の獣肉を食べないわけではない。シカやイノシシである。それに、一昔前までは、クジラ肉は主要なタンパク源であった。クジラは海洋に生息するが、無論「動物」なのである。しかし昨今では、せいぜい日本ではブッシュミート食は、お笑い番組の対象か、単に好奇心の的でしかない。あるいは、アフリカに行ってレストランで物珍しげに食べるのが落ちであろう。考えてみるに、人類の長大な歴史の中で、家畜が普及するごく最近までは、野生動物の肉が人類の食物の主要対象であったのであり、肉としての利用なしでは、人類は生きながらえてこなかったわけである。したがって、ブッシュミート食を一方向のみの否定的な見方で敵視すること、あるいは好奇の対象でしか見ないことは尋常とは思えない。

ブッシュミートの根本的な問題

とはいえ、ブッシュミートに関し、大きな問題は横たわっている。アフリカ熱帯林地域の住民は、もちろん魚、特に河川で獲れる淡水の魚もタンパク源としているが、どうしてもブッシュミートに頼りがちであることは確かだ。問題は、ブッシュミートに代わり得る家畜などの代替タンパク源が不足している点である。ニワトリやヤギなども村で飼われていることはあるが、その数は多くなく、主要なタンパク源となりえない。いずれ、規模の大きな養鶏場や飼育場とそこでの飼育技術の発展が期待されるところだ。また、もし肉牛を大々的に飼うとなると広大な開けた土地が必要となる。しかし、熱帯林でそうした土地は期待できない。むしろ、熱帯林を開発することになるので、森林環境保全の立場からも容易には容認できない。

燻製にされた違法のブッシュミート(手前の黒い塊)を押収したパトロール隊©西原智昭

燻製にされた違法のブッシュミート(手前の黒い塊)を押収したパトロール隊©西原智昭

しかし、ブッシュミートも従来のように自家消費のみであれば、地域の野生生物保全に多大な影響を及ぼすとは思えない。無論、コンゴ共和国であれば、その法律の規制のもと、猟期のみに、許可された区域に限り、許可された手法のみで、保護種でない動物を対象に狩猟を実施することができる。またそれには商業取引が伴わないという条件が伴う。残念ながら、いまや、ブッシュミートは商業ベースに乗り、多大な量が消費されるにいたった。それは、大規模な野生生物の狩猟が、しかも違法に行われるようになったのである。結果的に、熱帯林の生物多様性保全まで危ぶまれている。現地のパトロール隊も尽力し、過剰なブッシュミート取引を監視しているが、違法行為は後を絶たない。なぜ、こうした「ブッシュミート・ビジネス」が横行するようになったのであろう。

人口の急激な拡大と熱帯林伐採業

ひとつは、近年、人口が爆発的に増え、上記のように代替タンパク源がほとんど存在していない状況で、より多くのタンパク源が必要とされている点である。また、地方から大きな都市に集まった人々が、自分の生まれ育った故郷でのブッシュミートをほしがるようになり、それが大規模なブッシュミート・ビジネスを引き起こした。しかし、従来森で多数の野生動物を一度に殺害し、またその大量のブッシュミートを運び出すことはこれまで不可能であった。森の中は、基本的には徒歩でしか移動できなかったである。

ところが、その森の中での移動を容易にする出来事が生じた。熱帯材の木材需要に応じた森林伐採業の到来である。近年、世界各地からの需要は増す一方、伐採手法も組織的になり大規模化してきた。切り出した大型の樹木を近郊の製材工場に運び出す、あるいは積み出し港につながる幹線道路まで運び出すため、森の中に道路を作る必要が生じたのだ。それまで、徒歩でしか行けなかった場所へ、トラックを用いて容易に短時間で到達できるようになった。それは、同時に、密猟者や武器の移動を容易にし、大量のブッシュミートを村や町に運び出すことも可能にしたのである。

そうであれば、これはアフリカだけの問題なのであろうか。熱帯材の需要はどこからきているのであろうか。その需要こそが、過剰なブッシュミート取引を可能にしたと言えるのではないか(続く)。

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