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まかり通る“三百代言”

寄稿:飯室勝彦

2016年6月9日

家族旅行のホテル、家族で食べた回転寿司、中華料理、ミステリー小説に子供向けの漫画本……東京都知事、舛添要一の政治資金の使い方にはだれだって驚く。公私の別なく生活をまるごと政治資金でまかなっているようにみえる。
一覧表を眺めると、都議会の代表質問で出たように、ケチ、セコイ、吝い、しみったれなどさまざまな言葉が浮かんでくる。

その使い方を政治資金規正法に照らして「精査」したという弁護士の報告書には驚きを通り越してあきれてしまった。

書道は趣味だが政治活動にも役立っている。書道の際、シルクの中国服を着ると筆をスムーズに滑らせることができる。現に中国服は墨汁で汚れていた。だから政治資金で中国服と書道用品を買ったのは問題ない。

こんな三段論法が許されるのなら、政治の場で趣味を話題にすれば費用を全て政治資金でまかなえることになりかねない。現に舛添はそうしていた。
調査報告では美術書や美術展カタログについては「画家や絵画についての知識を習得し理解を深めるために有用であり、それらの知識を政治活動に生かしている面もある」ので「使途として不適切とも言えない」という。
そば打ちの本の代金についても、さすがに適切とはしなかったが「政治家仲間とそばを打ちながら政治談義をしたから」という舛添の説明に「相応の合理性はある」と判定した。
そのほか、一般国民はもとより、たいがいの政治家も納得できない認定、評価が随所にみられる。

一読して思い起こしたのは「三百代言」という言葉だ。国語辞典には「詭弁を弄すること、また、その人」。明治時代に資格のない代言人(弁護士)をののしる言葉として使われたことから現代でも弁護士の悪口として稀に使われることがある。
調査報告書には、第三者として客観的、公正に判断したように装いながらも、依頼者である舛添を窮地に陥れないよう、肝心なところでの論理展開に腐心しているとしか思えない部分がある。これでは弁護士一般に対する社会の信頼も傷つくことにならないか。

趣味や教養が政治活動に有益であると言っても、教養は日頃の研鑽によって磨かれる人格からにじみ出るものであって、政治資金を使ったにわか仕込みの知識で深まったり磨かれたりするものではなかろう。
公私のけじめがまったくない政治資金の使途をみれば、舛添を教養ある政治家と言い切れる人は少ないはずだ。限定付きながら舛添を擁護する調査報告の論理を受け入れる納税者も多くはあるまい。それでも舛添は知事の座にしがみついている。

もっともこの問題で“三百代言”的な論理を最初に持ち出したのは舛添自身である。発覚後最初の記者会見から、家族旅行費用の支払いも、書道用具の購入も、美術品の買いあさりも漫画本もすべて「政治活動のため」と言いくるめようとしたのだから“詭弁政治家”と言われても仕方あるまい。

そもそも政治の世界では三百代言が弄するような詭弁がまかり通っている。内閣総理大臣の安倍晋三が、消費増税の再延期を「方針変更」ではなく「新たな判断」と言うのもその一つ。2014年11月「再び延期することはない」と断言して最初の延期に踏み切って以来、強行してきた経済政策の失敗を糊塗するために、「新しい情勢に対する新しい判断」と言い張っている。

さかのぼれば集団的自衛権の行使を容認した、憲法第9条の解釈に関する2014年7月の閣議決定がある。「集団的自衛権は行使できない」という、戦後一貫して守られてきて確立していた政府解釈を180度転換してしまった。
「日米安保条約に関しては一見明らかに違憲である場合の他は司法審査の対象外」としたに過ぎない、砂川事件の最高裁判決をあれこれひねくり回し、「最高裁は集団的自衛権の行使を認めている」とこじつけたのである。
その挙げ句が、自衛隊が米軍などとともに、しかも日本の領土外でも戦闘行為に参加できるようにした安保法制の強引な制定だ。平和憲法を根底から覆す閣議決定は詭弁に満ちている。

迫り来る参院選の争点が改憲とともに消費税、安保法であることは間違いないが、ここへ来て舛添問題も新たに争点として加わったと言える。舛添がこのまま首都の知事であり続けることが許されるかどうかは、都政に限らず日本の政治の問題である。
参院選への影響を危惧してのことだろう、舛添を支持してきた自民、公明両党も現段階では厳しい言葉で批判はしているが、最後までこの姿勢を続けるのか注目の的だ。

だれが、どの党が、舛添を徹底的に追及し、あるいは逆にかばうのか。表面的な言葉の厳しさにだまされてはいけない。追及がどれだけ真剣なのか見極めて参院選に生かすべきだ。

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