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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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ホタルの宿る森からのメッセージ第60回
「アフリカの野生生物の利用(7)〜密猟の現場で」

2016年7月26日

密猟ということ

たとえばゾウを殺してはいけないということ、つまりゾウの狩猟は違法行為であるという根拠はどこにあるのだろうか。それは国際規約でも全人類の約束ごとでもない。ワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)も国際取引に規制を与える条約であり、密猟そのものやそれを禁止することについては何も直接は語っていない。ゾウの狩猟に関する取り決めは、ゾウの生息する各国が国内法によって規定される。そこでもし、ゾウの狩猟が犯罪である、と明文化されていれば、その国でのゾウの狩猟は違法行為となり、当国の一連の法令にしたがって狩猟者は罰せられる。そのときにはじめて、そうした狩猟行為を指して「密猟」と呼び、その狩猟者は「密猟者」と呼ばれる。

コンゴ共和国でも、ゾウの狩猟に関して法律が制定されている。以下のように、狩猟のみならず、コンゴ国内での象牙取引、また狩猟に使われる銃の売買・所有についても法律で定められている。コンゴ共和国などの国で密猟・闇取引が横行するのは、法制度が存在していないからではない。その点は了解しなければならない。ただ法律に基づいた取締が財政難、人材不足、装備の不十分さ、不正・汚職の蔓延などの理由から十全に機能していない場合が少なくないのである。たいていは裁判沙汰にも取り上げられない、仮に密猟や密輸の容疑者が有罪になっても牢屋からすぐに解放されたりすることもあるのが現状である。

コンゴ共和国の法制度の一例は以下の通りである。

ゾウの狩猟に関して:
コンゴ共和国は、1963年の独立以来ゾウ〜マルミミゾウ〜を保護するための法規制はとられなかった。このために、ゾウの個体数の大激減を招いたと考えられる。しかし1983年に、コンゴ共和国法において、野生生物の保護とその利用の条件を規定し、さらに、1991年の国家主権会議で、コンゴ共和国におけるゾウの狩猟を禁止することが議事に取り上げられ、その年に共和国全土においてゾウが全面的に保護されることになった。またゾウのような全面的保護種の狩猟は犯罪とみなされ、罰金刑または禁固刑に処せられる。密猟行為は森林省にて取締が行なわれる。必要であれば公安局(たとえば軍隊、警察、憲兵)の応援を頼むことができる。一般的に押収された象牙は公庫に保管され政府の所有となる。

象牙取引について:
1989年にワシントン条約にて象牙国際取引が全面的に禁止になってから、多くのアフリカの国々は象牙やその製品の売買を中止するようになった。コンゴ共和国もワシントン条約を批准しており、コンゴ共和国からの象牙(とその製品)の国際取引は一切禁止されている。国内でも象牙の売買は禁止されている。象牙の違法取引は密猟と同様、犯罪とみなされ、規定された刑罰に処せられる(写真233)。

写真233:コンゴ共和国北東部伐採区内のパトロール隊と密猟者から押収した象牙と銃©西原智昭

写真233:コンゴ共和国北東部伐採区内のパトロール隊と密猟者から押収した象牙と銃©西原智昭

銃の不法所持について:
コンゴ国には兵器、銃、銃弾を規定する政令があり、この政令を適用する役目をもっているのは防衛省と内務省である。コンゴ人は自動小銃(戦闘銃)を合法的に所持することはできない(写真234、235)。散弾銃などその他の銃に関して、合法的所持にいたるには正規の手続きが必要となる。たとえば、(1) 銃の売却は内務省の法令によって事前に許可された商人によって実施される;(2) 銃を所持したいコンゴ人は内務省によって交付された銃の購買許可証を事前に持たななければならない;(3) さらに購買後、銃の所持あるいは携行免許を手に入れなければならない、などである。合法的に取得された銃によって許可される狩猟は、狩猟期間内(毎年5月から10月)で、かつ、狩猟対象が保護対象に指定されていない動物種であり、しかも国立公園や保護区などに指定された以外の許可されている区域である場合に限られる。

写真234:パトロール隊によって押収された違法所持の自動小銃(AK47)©WCS Congo

写真234:パトロール隊によって押収された違法所持の自動小銃(AK47)©WCS Congo

写真235:自動小銃(AK47)の銃弾。コンゴ共和国北東部伐採区内のパトロール隊が密猟者から押収したもの©Jean-Claude Dengui

写真235:自動小銃(AK47)の銃弾。コンゴ共和国北東部伐採区内のパトロール隊が密猟者から押収したもの©Jean-Claude Dengui

絶え間ない密猟との絶え間ない戦い

しかし、彼ら現地の人々の密猟への動機は単純なのである。お金がほしいということだ。日常生活に必要な現金が入り用なのである。就職先のほとんどない現状で、それなくして、十分な日常の食、石ケン、塩、油、電池など必需品をどうやって手に入れられようか。またどうやって子供を学校に送り出すことができよう。農産物、魚、肉などと同様、象牙も現金収入の手段のひとつなのである。とくに象牙は、いい値がつくのである(2016年現時点では一本15kg相当の象牙一対を売ることに成功した人は標準の給与所得者のほぼ一年分に相当する現金を獲得することができる)。だから、金銭獲得として魅力がある。それゆえ、追う、殺す、取る、売る、送る。その「ライン」が存在しているからだ。しかし、そもそも「ライン」がなければ、何も起こるまい。少なくとも密猟や違法取引の数は激減しよう。それなのに、現場の密猟者であるアフリカ人だけが悪者扱いされるような風潮はなんなのだろうか。実際、現場のアフリカ人、たとえばゾウの密猟者やゾウが頻繁に訪れるバイの発見者などに出会っても、彼らに「悪気」はひとつも感じない。むしろ、いい奴らに見えることもある。

首都ブラザビルに出荷されたあと果たしてどこへ輸送されるのかは不明である。一つの可能性はいまだにブラザビルの一角に存在する象牙加工品の骨董屋に回される可能性である。1997年の調査では象牙によるアクセサリーや彫刻品が主として外国人向けに売られていたことがわかっている。1999年の再調査では、象牙ストックの量は減少していたようだが、「日本人が頻繁にキンシャサから象牙を買い付けに来る」など、依然闇取引は横行しているようであった。

そのほか、闇ルートはいくらでもある。コンゴ共和国の北部であれば、川を隔てたカメルーン側に渡る、あるいはコンゴ民主共和国側に渡り、そののち、陸路で大きな港町まで運ばれ、最終的に海外に違法に輸送されるのである。

消えていくゾウ道

いいゾウ道がつづく。人為的な山道も道路もない。ゾウ道があるということは、いい森が残っているということである。ゾウが数多く常住しているということ。ゾウの食物があるということ。逆に、ゾウ道がないということは、ゾウがほとんどいないということ。極端なケースでは何かの理由でその地域から消失してしまったということ。密猟、伐採による生息域の縮小。伐採業とそれに伴う道路建設による食物樹の減少。伐採後の二次林の台頭。ブッシュ。そこではゾウも歩きにくくなる。同時に、騒音、人の侵入により、ゾウは去ってしまった。他の動物もしかり。その結果、動物による種子散布がぐっと減る。ゾウ道、ゾウによる明るい場所がない。そのため発芽にふさわしい場所も消失する。森は再生しない。熱帯林全体の生態系の崩壊につながる。

すでに述べたように(連載記事第56回)、ゾウの存在こそが、森を維持し、再生していくのにきわめて重要である。湿地性草原といった他の生きものの生活空間をも作り維持していく。場所によってはトラック一台がゆうに通れるくらい、大きなものとなるゾウ道。縦横無尽に走るゾウ道が森の中に存在する限り、ゾウの活動がアクティブであることを示している。これは、熱帯林の生態系システムが正常に動いているということを意味している。逆にいえば、ゾウ道が消えていく過程は、熱帯林が崩壊していくプロセスでもある。

地球の財産でもある熱帯林とそこに棲む多種多様な生き物たち。その生存を象徴するのが「ゾウ道」だといえる。しかし、象牙の闇取引流通路が現実的に存在するため、今もゾウの密猟は絶えることなく、日常的に起こっている。その生息環境である森林の伐採も急速に進んでいる。ゾウが安心して棲める場所がなくなっていく。月下で黒光りするゾウももはや存在しなくなっていく。そしてそのことは、「ゾウ道」はわれわれ人間の活動によって、この地球上の多くの場所で消えていきつつあることを意味する。

熱帯林の場合、その存亡にはゾウがキーを握っているといって過言ではない。ゾウの存否、そしてゾウ道の有無が熱帯林の存亡を象徴するといってもよい。ゾウ道が消えていく前に、何かをしていかなければならない。

それは何か。

それは、次回以降の連載記事に譲るが、ここではゾウにまつわる深刻な問題を一つ話題提供しておきたい。

作物荒らし補償

通常、ある地域を保護区化あるいは国立公園化することによって、その周辺地域に居住していた住民が締め出される結果になることがある。それだけでなく、たとえば彼らが伝統的狩猟・採集によって獲得していた日常生活に必要な食物や薬など森の産物へのアクセスが奪われてしまう。そこで、何らかの形で生活を保障していかなければならない。ンドキの場合はその必要がほとんどなかった。設立された国立公園に人が定常的には住んでいなかったからだ。それは、当地域のいたるところに大スワンプが広がっており、人の進入を困難にしていたからである。まさに、ンドキの森を文字通り原生林に保ってきた自然の障壁にほかならなかったのだ。

ただ、国立公園に近いボマサ村では、部分的には従来から生計の源となっていた野生肉の供給源が一部絶たれたことになった。しかし村と国立公園との間にある緩衝地帯で生活に必要な分の野生動物の狩猟は合法的な範囲であれば可能であるし、川から魚が手に入るので、生活上の蛋白源には事欠かない、というのが現状だ。幸い、人口も少ない。それに国立公園プロジェクトから魚網の安価な提供というシステムもある。むろん緩衝地帯での動物猟は、森林省の監視の下で実施される。狩猟禁止でない動物種に限ること、違法所持でない銃を使用すること、定められた狩猟期のみに行なう、狩猟許可区域内でのみ狩猟する、狩猟後、国立公園事務局に報告することなどが義務付けられている。

しかし保護政策を進めていった結果として、ゾウは村の近辺で密猟におびえる必要もなくなった。そしてとうとうゾウが村近辺に現れ、キャッサバやバナナ、パイナップルなどの畑の産物を荒らすようになったことは、村の住人にとって深刻な問題をもたらした。主食のあてが減少してきたからだ。ゾウによる典型的なクロップ・レイディング(作物荒らし)問題である。

こうした問題を解決するのは本来は国家の仕事である。コンゴ共和国の場合担当省庁は国立公園や野生生物の管理に関わる森林省である。そこが中心となって、村人と話し合い、畑を被害から守るあるいはゾウを追い出す方法を模索するなり、荒らされた作物の被害に対して補償するなどの対策を講じることになる。しかしコンゴ共和国政府の場合、実際には資金難である。そこでヌアバレ・ンドキの場合森林省のパートナーであり国立公園のマネージメントに資金サポートをしているWCSプロジェクトも介入することとなったのだ。

森林省スタッフの立会いのもと、村人とWCSとの間で何度も協議を行なった。畑の作物を荒らしにくるゾウを間引きする、少なくとも村側からのこうした主張を受け入れるわけにはいかなかった。間引きということばを盾に、密猟を助長しかねないし、なによりもこれまでの保護努力がすべて無に帰す可能性すらある。それに、一頭殺害したところで、二頭目三頭目も畑荒らしにやってくるかもしれない。歯止めが効かない可能性もある。

話し合いの結果、最終的に、ゾウによる被害のあった作物量に相当する経済的補償をWCSが一度に限り実施する、WCSで雇われているボマサの人々相手に販売している村人の主食源でもあるキャッサバやブッシュミートの代替となる鶏肉や牛肉を通常の定価よりも安値で売るなどの提案で、村人の合意・納得を得た。

補償金については、WCSの研究者が被害作物の量をひとつひとつ丹念に計算し、それに相当する金額を畑や作物の所有者ごとに厳密に算出した。これはコンゴ人研究者によりレポートとともに提示され村人たちの納得を得た。さらに、村付近にゾウが出入りすることが今後ツーリズムを誘致するのにひじょうに有利な条件となる、それにより村の経済振興はいっそう期待できるだろうとの予測についても、村人の合意を得られた。

しかしこうした解決方法を、単純に一般化することはできないし、またそうしてはいけない。地域にはそれぞれの事情があり、その事情に応じた人・野生動物関係の解決法が当然必要とされてくる。特に、サバンナゾウの生息する幾つかの地域では地域住民の日常生活が野生ゾウの存在により深刻に脅かされている事例もある。上記のボマサ村の例では、もともと村人口が少ないことと、その村人の各家族の家長などほとんどがプロジェクトの仕事に関わっているため、自分らの稼いだお金で安い主食をプロジェクトから手に入れることができるのである。したがって、ゾウによる作物被害があろうが基本的な生活様式に大きな支障をきたさないという事情があったのである。

一方で、ゾウの間引きが即解決とはならないことも同時に認識しなくてはならない。

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