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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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参議院選挙の結果と「新たな戦前」、改憲 (前編)

2016年8月15日

2016年参議院選挙~私たちが獲得した成果と足がかり

7月10日投開票の第24回参議院議員選挙の結果は、議席数で「改憲勢力」が77(自民56、公明14、維新7)で、「立憲勢力」が44(民進32、共産6、社民1、生活1、無所属野党統一4)となり、非改選の議席と合わせて、自公与党を中心にした改憲勢力は3分の2に達した。

しかしながらこの参院選の歴史的な特徴となった「野党共闘+市民連合」で闘った32の1人区では11人が当選し、前回の参院選挙で野党が31選挙区中2人しか当選できなかったことと比較しても一定の成果をあげた。

1人区も含めて3年前の参議院選挙(野党4党で28名)と比べて、議席数でも一定の前進(野党4党で44名)を獲得した。また重要な政治的焦点である福島、沖縄の選挙区では安倍政権の現職閣僚を落選させたことや、前回に比べてわずかながら全国の投票率がアップし、1人区で無党派層の6~8割が野党統一候補に投票(朝日出口調査、11日)したことなど安倍政権に反対し、政治の変革をめざす市民運動の今後の展開への重要な足がかりが獲得され、今後のたたかいへの希望が見えた。

多くの論者が指摘するように、野党が「惨敗」せずに、一定程度踏みとどまったのはひとえに「野党共闘+市民連合」の成果である。

その意味するもの、最大の課題だった改憲の行方

新聞各紙は11日のトップ見出しで、「与党大勝 改選過半数、改憲派2/3超す」(読売)、「改憲勢力3分の2、与党で改選過半数」(日経)、「改憲3分の2発議可能に 自民1人区21勝11敗」(産経)などと書き、あたかもこの選挙で改憲が有権者に承認されたかのように印象づけた。

しかし、安倍政権と自公与党は選挙戦全体を通して姑息な「改憲隠し戦術」をとり、首相は街頭演説でただの1度も改憲について触れなかった。

自民党が参院選公約で「憲法改正」について触れているのは、26ページの冊子の末尾のわずかな部分のみだった。

政策パンフレット「この道を。力強く、前へ。」という冊子の本文ではアベノミクスと安倍外交の「成果」を宣伝するだけで、改憲についての言及は全くない。要するに主要な政策で改憲は掲げられなかった。

つづいて極小文字の「政策BANK」というのがあるが、全文27500文字のうち、憲法については末尾にわずか270字の「国民合意の上に憲法改正」という項目があるだけだった。中身は「わが党は結党以来、自主憲法の制定を党是に掲げています。憲法改正においては、現行憲法の国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3つの基本原則を堅持します。(改憲には衆参の3分の2議席と国民投票が必要で)衆議院・参議院の憲法審査会における議論を進め、各党との連携を図り、あわせて国民の合意形成に努め、憲法改正を目指します」と空疎なものだけだ。

さらに参院選そのものが有権者から隠された。

毎日新聞によると、テレビの報道は前回比3割減であり、舛添問題など都知事選関連ニュースが前面に出された時期が異常に長かった。こうした選挙戦の経過なのに議席数が3分の2を確保したから「改憲3分の2発議可能に」(産経)はないだろう。

この選挙で改憲問題を徹底して争点化して闘ったのは野党側だ。

岡田代表の民進党は大胆に「2/3 を取らせない」というポスターを掲げた。他の3党も改憲問題を第1に掲げた。こうしたスローガンを掲げた「野党4党の共同+市民連合」が現在、考えられる限り可能なベストな布陣で闘った結果、「改憲4派」対「立憲4派」の対立構図が鮮明になり、改憲問題を選挙戦の重要な争点に押し上げたのである。

ストレートに議席数には現れなかったが、ほとんどのメディアの世論調査を見ても改憲反対は民意の多数派である。

今後、安倍政権は容易に改憲に踏み出せないはずだ。民意がそれを求めていないことははっきりしている。

安倍首相は国会の憲法審査会の議論を通じて改憲項目を絞り込むなどと言っている。憲法審査会を隠れ蓑にして改憲にすすもうというのだ。

しかし、与党の公明党は大きく動揺している。

公明党の斉藤鉄夫幹事長代行は7月15日、「民進が『ダメ』というものはダメ」といい、改憲項目については「3、4年かけては憲法審査会の議論に間に合わないので、個人的には、半年から1年かけてまとめたい」と述べた。これは安倍政権の下ではほとんど可能性がないことを自白したようなものだ。

私たちの到達点

この間、再三指摘してきたことだが、2015年安保の運動は、新しい「市民革命運動」の始まりと言ってよいものだ。

その特徴は4つある。①「総がかり」が切り開いた新しい共同の運動(分裂と対立の歴史に終止符をうったこと)、②自立した分厚い市民層の登場(動員型に止まらない、多様多彩な形態での自立した個人の自発的参加型)、③非暴力抵抗闘争(これによって参加者の多様性と運動の持続性が保障された)、④野党との共闘・野党の共同(「政治を変える、選挙を変える」のスローガンに見られるような市民運動の政治的成長)がそれだ。

民進党の岡田克也代表はこう言った。「市民を中心にして各党が集まったのは今までにないことで、これは新しい日本の民主主義が始まったと私は思っている」。彼の発言がこの間の到達点を表している。

2015年9月16日、民主党(当時)の枝野幹事長の呼びかけで、「戦争法」に反対して国会前行動など全国で行動した5つの市民団体と野党5党は、国会内で最初の意見交換会を開き、次期参院選で与党を過半数割れにして、戦争法(安保法)を廃止に持ち込むため、野党共闘や各種団体との連携強化を目指し、定期的に協議していくことを確認した。 

意見交換会に参加した団体は、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」、「安全保障関連法に反対する学者の会」、「安保関連法に反対するママの会」、「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)」、「立憲デモクラシーの会」。

その後、この懇談会は数回開催されたが、市民団体側はこの方向をいっそう促進するため、12月20日、新しいプラットフォームとしての「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)を結成し、野党各党への活動を強めた。

2016年2月19日には野党4党首が参院選に向け選挙協力の推進、とりわけ4月の衆院補選や1人区での統一候補擁立にむけての努力などで合意し、さらに6月7日には市民連合と野党4党の政策合意が成立した。これらの野党共闘の成立は戦後政治史の中での画期的な事件であり、戦争法と改憲に反対し、立憲主義の擁護と安倍政権の暴走を阻止しようとする運動の大きな可能性をしめした。

この状況をつくり出したのは市民運動の力であり、後押しであった。

共産党の志位委員長はこれについて以下のように述べた。「(共産党が)この方針(野党共闘)に踏み出したときに、ここまで野党共闘の体制ができるとは、想像もしていませんでした。これも市民の運動の後押しがあったからです」「『自公と補完勢力』対『4野党プラス市民』という選挙戦全体の対決構図がはっきり浮き彫りになりました」と強調した。

2015年9月19日の戦争法強行採決に際して、政府や右派の論客などからは「デモでは政治は変わらない」というデモ無用論のキャンペーンが展開され、国会外での市民行動の意義を低め、瓦解させようとする動きが強まった。しかし、この間の市民連合+野党共闘の経過と参院選はこれに対する明確な回答となった。

古今東西、歴史は民衆のエネルギーと行動が政治を変えてきたことを示している。私たちの社会変革の運動は市民の大衆行動と、選挙などの議会での運動によって政治を変える闘いという「車の両輪」を進めることで展望が開けることを示した。

(後編へつづく)
※ 後編はこちらからご覧いただけます。

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