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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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参議院選挙の結果と「新たな戦前」、改憲(後編)

2016年8月17日

前編はこちらからご覧いただけます。

改憲勢力のプラン

安倍政権与党は秋の臨時国会から改憲の動きを強める構えだ。

選挙後、安倍首相は「いかにわが党の案をベースに3分の2を構築していくか、これがまさに政治の技術だ」「いよいよ憲法審査会に議論の場が移ってしっかりと議論し、どの条文をどのように変えていくかということに集約されていく」などと発言し、憲法審査会での議論に拍車をかけていく姿勢を露わにしている。

先の通常国会で憲法審査会の議論を中断させたのは政府与党であり、とりわけ昨年6月4日、参考人として出席した3人の憲法学者が安保法制違憲論を展開したことがきっかけだったことを忘れたとは言わせない。にもかかわらず、安倍首相は憲法審査会を自らの党利党略で扱い、自らの都合で再開させ、この憲法審査会の場で改憲論議と改憲項目の絞り込みを行い、改憲世論を高め、任期中に改憲発議と国民投票を実現させようという魂胆だ。

すでに先の通常国会期間中でも安倍首相らが繰り返し発言したように、改憲はまず本命の第9条からではなく、多段階戦略で行い、まずは憲法に緊急事態条項(国家緊急権)などを附加する改憲から手をつけようとしている。

改憲派は憲法審査会では、両院で一定の議論を経たのちに、「論議は尽くされた」と称して審査会の議論打ち切りを強行し、衆参合同憲法審査会などを開催して改憲原案をつくろうとするに違いない。

この場合、9条改憲に必ずしも熱心ではない公明党や、大阪維新、民進党の右派などを巻き込むネオリベラル的改憲論が浮上してくる危険に警戒しておく必要がある。

改憲国民投票について

審査会で作られた改憲原案は両院の総議員の3分の2以上の賛成で発議され、国民投票に付される。

この際の国民投票は憲法第96条の規定で「特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票」としておこなわれるが、この場合、与党に有利な「国政選挙と同時の投票」としておこなわれる可能性が高い。

これは憲法問題の民意を問う方法としては不適当なものだ。

これを実施する法律は2007年、第1次安倍政権によって作られた「改憲手続き法」であり、同法は問題点が非常に多い。そのいくつかを指摘しておきたい。

 メディアに対する広報や広告などのあり方が民主的に規制されていない。

広報は世論を決定的に左右する。資金能力で宣伝量に差ができる有料広告を認めてはならないし、国民投票について議席数で広報の量の配分を決めるのは妥当でない。

 この法律には国民投票運動の自由に関する問題がある(公務員や教育関係者の政治活動、地位利用の制限などによって、自由な活動が制限されている)。

 国民投票成立の要件をどうするか(有効投票の過半数なのか、投票総数の過半数なのかなど。また成立に必要な最低投票率規程がないため、低投票率でも成立となる、など)。

国民投票は直接民主主義の手段として、無条件に薦められるべきものではなく、民意を問う方法としては多くの危険性をはらんでいることに注意をしておかなければならない。

過去には欧州でのナチスやナポレオンによる国民投票の濫用(プレビシット)の経験がある。フランスではナポレオン1世・3世は国民投票で皇帝になったし、ナチス・ドイツでヒトラーは国際連盟脱退92%、総統就任90.5%,オーストリア併合99%など、国民投票を自己のファシズムの推進に活用した経験がある。

2016年の英国のEC離脱国民投票の結果も、有権者の正当な意志のありかを表明したものとは言い難いという経験をしたばかりである。

私たちは現行改憲手続き法のもとでの国民投票は容認できない。

私たちのたたかいと展望

まずもって必要なことは、今回の参院選が獲得した成果を生かし、国会外での市民運動を継続・発展・拡大し、衆議院議員総選挙に備えて、野党共同+市民連合の体制をさらに発展させることだ。
大連合・共同こそが展望を開くという立場に立って、全国の各地域に無数の「総がかり」的な共同の機関を形成・発展させること。

自衛隊による海外での戦争の可能性が強まっている。違憲の戦争法を発動させない闘いを作ること。このたたかいは長期戦になる。この年末にも戦争法の発動が予想される。この具体化を阻止するたたかい、とりわけPKO5原則にすら違反している内戦下の南スーダンのPKO派遣部隊の撤収をはじめ、戦争法廃止の運動を継続すること。

ひきつづき安倍政権との対決をすすめる。

沖縄の辺野古新基地建設阻止、海兵隊全面撤退、地位協定の抜本改定などの課題を全国的に発展させながら、原発や、アベノミクスが推進する新自由主義的政策の下での格差拡大に反対する課題に取り組んでいくことが必要だ。

(許すな!憲法改悪・市民連絡会会報「私と憲法」7月25日号所収高田 健)

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