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【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照

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一水四見(38)鑑真・日本と東アジアを結ぶ汎アジアの精神的価値

2016年10月16日

「打つ人も打たるる人も諸共にただひとときの夢の戯れ」 夢窓疎石

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本年11月8日に向かって、世界の耳目は米大統領選挙に集中している。

トランプ氏を心臓発作、クリントン女史を癌を抱える患者になぞらえている寸評にみられるように、両者のシンパは別として「どちらがなってもあぶなっかしい」という意見が欧米人の識者、世論の大半のようだ。(1)

トランプ氏があぶなっかしいのは見てのとおりだが、ネット上で暴露されている外国への不当な介入などの様々な暗い部分に関わってきたクリントン女史が大統領となれば、夫が元大統領であるから、軍産複合体と金融界の利権構造がさらに後戻りのできないように強固になるかもしれない。(2)

そうすれば、彼らによる強化された金融グローバリズムと情報の独占化の下に、カオス過程にある世界状況において、復活してきた様々な形の愛国主義や国民国家への再評価の動きなどが、再び戦略的に操作され、さらなる様々なカオス状況が世界的に生み出されてゆくだろう。

軍事超大国のアメリカ政治が、世界各国で大勢の無辜の民衆を犠牲にするカオス状況を作り出してきたことも、様々な独立系メディアが明らかにしていることだ。

もしクリントン政権ができたとすれば、良識あるアメリカの識者らの危惧を尻目に、世界の世論の中で、アメリカ政治の威信の低下は、さらに増大するに違いない。

そうなれば、さらに極端な右翼運動や反米の動きが世界各地に起こることになるかもしれない。

「アメリカ政治など、所詮、様々な金融エリートグループの下部組織に過ぎない」というさめた共通認識がインターネット上で、その情報の幅を広げているからだ。

アメリカ議会は正念場を向かえている。

一方、ロシアと中国の、政治・経済・軍事における影響力は益々増大していく状況にあり、現在は、第二次世界大戦後の新たな世界の覇権地政学が生まれつつある。

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しかし、現代起こっている現象にばかり目を向けて、それに翻弄されて一喜一憂しても仕方のないことだから、アメリカ政治の喧噪から一歩距離をおいて、日本に生まれた僥倖を噛みしめながら、守るべき日本の伝統とは何かを考えることも必要だろう。

というわけで、ここ数年、私は古代から現代にまで縁起的に連続していると考えられる日本の情念に関心をもって、春と秋に飛鳥、出雲などの地にある神社仏閣を訪れている。

神社仏閣では、建造物から樹木にいたるその隅から隅まで、 自然と一体になって、実に見事に掃除が行き届いている。
日本国民に「掃除の美」の範を垂れているようだ。

訪問先の各地では、地元の人々と 、少しでも多く言葉を交わす事にしている。
どこにいっても、売店の女性、各駅の駅員、列車の車掌、タクシー運転手と、みんな親切で礼儀正しい。

これが伝統ということだ。

今年の9月には、天皇の「御寺(みてら)」、京都の泉涌寺を訪問し舎利殿の縁側にただずんで、流れる斑の雲間から満月を仰いだ。

皇室の菩提所である泉涌寺の開山は、宋で12年間修道した俊芿(しゅんじょう)律師であり、北条政子と北条泰時も彼の下で受戒している。

泉涌寺には、1230年に宋より将来された「楊貴妃観音」像が安置されている。
玄宗皇帝が寵愛した楊貴妃の冥福を祈って造像したとの伝承のある像だ。

この像は、聖徳太子から鑑真を経て連綿として伝持されてきた中国王朝と日本朝廷の外交的絆の一つの象徴だ。

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私のささやかな歴史探訪は、伝統的神社仏閣に限定されない。

天理教の教会本部の神殿にも参って、その祭壇が暗示する宇宙観に新鮮な驚きを覚えた。

宗教法人大本のある亀岡や綾部も訪れた。
綾部にある、一千年の耐用を考慮して建造された木造の神殿の300畳敷きの拝殿広間に、秋の夕刻一人佇んだ。

そこでは、伊勢神宮、出雲大社、明治神宮などとも、ましてや靖国神社とも全然違う、また仏教寺院とも違う、いわく言い難いこころの暗示を感じた。

日本の神社仏閣に漂っている、この自然と一体の伝統、この安らぎを支えてきているものはなにか。

***

本年10月3日、私は奈良の唐招提寺を訪問した。
中国人の観光客が静かに切れ目無く訪れていた。

翌日、大阪港を出発して上海に向かうという20名ほどの日本の大学生たちと一緒だった。
律宗管長の西山長老から、鑑真和上のこと、故鄧小平が副主席の時( 1978年)唐招提寺を訪問した時の興味ある逸話などを拝聴した。

ここは、日本仏教文化の精神的礎石であり、当時世界最大の大陸文明帝国・唐王朝と列島の皇国・日本の媒介点としての聖地である。

鑑真和上は、仏教だけでなく、当時のすぐれた漢方医療、中華料理のレシピー、建築技術などを日本に伝えた。

鑑真の生きた時代は —群雄割拠の時代から、異民族と漢民族の対立していた南北朝の後、隋による中華帝国の統一を前段階にして豊穣な思想を開花させた—唐代の前半にまたがる。

唐王朝の時代は、長安(現在の西安)を都に、東は遣唐使を通じて日本と交流し、西はシルクロードを通じてローマとも通商していた。

その大唐から来日した鑑真には、異国の精神的伝統を破壊するような西欧流の征服的宣教の意図は、まったくなかったし、政治に介入する意図もなかった。

鑑真は、皇帝に命じられたのでもなく、自ら発案したのでもなく、当時在唐していた日本の僧侶に乞われるままに、そして来日を決意した後は命がけで行動し、5度の渡航に失敗して6度目の渡航で失明して来日した。

当時、唐と日本との間を遣唐船が頻繁に往来していたが、日本側は中国文明の余慶を一方的に享受していた。

唐の皇帝と日本の天皇との外交的信頼関係がなければ、皇帝が、自国の政治情報と優れた技術を外国に持ち出されることに徹底した対策をとっていたはずである。

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752年4月9日、東大寺大仏殿で開眼供養が行われた。
日本列島に初来日したインド人僧・ボーディセーナ師が導師を勤めた。

しかし大伽藍は建造されたが、正式な仏教のサンガ (教団組織)は未だに成立していなかった。

753年12月20日、揚州を発って帰朝に向かう4隻の遣唐船の第三船に乗った鑑真一行は現在の鹿児島県坊津町秋目浦に漂着した。
その後、一行24名は太宰府に滞在後、船で瀬戸内海を通って難波津に翌年2月1日到着。

一行は、僧14名、尼僧3名、ソグド人(イラン系)、インドシナ出身者らを含む在家信者ら7名からなっていた。

754年4月初め、東大寺大仏殿の前に築かれた戒壇で、鑑真によって仏教徒となるための正式な授戒がおこなわれた。
最初に聖武太上天皇、ついで光明皇太后、その娘の孝謙天皇が順次、菩薩戒(在家の仏教信者のための基本的戒律)を受戒。その後、440人余が正式の受戒をした。

かくて鑑真和上の下に、男性僧、尼僧、男性在家信者、女性在家信者の四衆からなる仏教の教団組織の基礎が、天皇家の参加の下に成立した。

755年9月、大仏殿の西に正式な戒壇院が造営された。
この年、中国大陸では安禄山の反乱が起き、唐は全盛期から混乱期に入ってゆく。

***

鑑真なくしては、聖徳太子が基礎を築いた仏教の和の精神の下に、仏教教団の基礎は築かれず、仏教は歴史的に日本に根付かなかっただろう。
東大寺は大伽藍のままで、やがては朽ち果てたことだろう。

もし鑑真に仏教によって日本を精神的に支配しようとする意図があれば、日本に固有の神道的なるもの、自然に対する豊かな感性は否定されていたことだろう。

最澄も空海も、夢窓疎石も東大寺で鑑真が伝えた具足戒を受戒して正式の僧となった。

最澄(先祖は後漢(劉氏)孝献帝の末孫登萬貴王)が比叡山延暦寺を建立しなければ、そこで修学した栄西、道元、日蓮、法然、親鸞などの鎌倉仏教の祖師たちは生まれえなかった。

飛鳥期、奈良期、平安期、鎌倉期へと発展していった仏道がなければ今日伝えられている様々な「道」の文化は成立しえなかった。

日本文化の「道」とは、具体的な身体行為をもって一定の理念を不断に追求していく自己修練のシステムのことだ。

仏教が仏道として「道」の原型を与えたことにより、中華文明より与えられた素材を洗練された日本文化なるもの -茶道、香道、華道、能、剣道、歌舞伎、俳道など - が生まれていった。

和食も、中華のレシピーを学んでこそ、中国大陸では得られない日本列島の豊かな清水と多様な魚貝類を素材として洗練された美味が工夫されていった。

***

鑑真は具足戒を受戒した仏僧であるから、南方アジアの仏僧とも仏教的行動規範を共有している。

鑑真という人格は、インド、中国、南アジア、東アジアを包む汎アジアの精神的価値である。

自己矛盾する二元的対立を前提として、大量生産・大量消費の経済循環を支えるための金融主導の資本主義の、その根底にあるものは非情の闘争史観である。

欧米の分断・対立・偽善のレトリックの戦略思考の愉悦に泥んでいる人々には、鑑真の人格的価値がわからず、夢窓疎石の「夢」の心境にはなれないだろう。

世界中に進行しているカオスの状況にあって、日本人は、西欧文明の価値観の功罪と日本自身をも含めて歴史を相対化し、しかも日本の世界に誇る「和」の文化性に目覚めなければならない。

これが、夢窓国師の心境だ。

鑑真という仏教宗派をも超えた人格を、政治と国籍を超えて、日中の両国民が学ぶことは、アジアの平和の精神的基礎となることである。

(2016/10/08記)

(1)TIME: Charles Koch Compares Hillary Clinton and Donald Trump to Cancer and a Heart Attack;
Katie Reilly@katiemacreilly; July 12, 2016 — Charles Koch, head of Koch Industries, talks about his new
book on Feb. 26, 2007. “If I had to vote for cancer or a heart attack, why would I vote for either?”
Conservative billionaire Charles Koch on Monday likened the choice between Hillary Clinton and Donald
Trump to a choice between cancer and a heart attack.
(2)The 4th Media: Turkey Coup Arrests Bury the Soros-Clinton Migrant Crisis; Yoichi Shimatsu |
Wednesday, July 27, 2016, 16:27 Beijing.
Trueactivist.com —Julian Assange: This Is The REAL Reason Bernie Sanders Dropped Out Of The Race;
Amanda Froelich ; Posted on September 5, 2016. など。

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