NPJ

TWITTER

RSS

トップ  >  NPJ通信  >  複数国籍第一回

【NPJ通信・連載記事】二重国籍 いまとこれから/殷 勇基

過去の記事へ

複数国籍第一回

2016年11月14日

1 複数国籍はどうして生ずるか。
 赤ちゃんが複数国籍で生まれる場合と、「帰化」のときに複数国籍となる場合があります。
 たとえば、父日本人、母韓国人のあいだの赤ちゃんは日本と韓国の二重国籍となります。
 この子がアメリカで生まれると、日韓米の三重国籍となります。日本や韓国では、赤ちゃんの国籍は父母の国籍によって決まるのが原則とされているからで(例外あり)、アメリカではアメリカで生まれたかどうかが原則とされているからです(例外あり)。
 なお、このように国籍については三重、四重がありえますから、用語としても「重国籍」や「複数国籍」という用語を用いるべきでしょう。
 「帰化」のときに複数国籍となるのは、たとえば、イギリス人がアメリカに「帰化」(アメリカ国籍を取得)した場合に英米の複数国籍となります。
 イギリスでは、他国に「帰化」したときでもイギリス国籍を失わないとされているからです。
 他方、アメリカでも、アメリカに「帰化」するときでもイギリス国籍を放棄することを求めていないからです。
 なお、「帰化」という用語は日本の国籍法が用いている用語です。ただ、「帰化」というと、「化外(野蛮)の人が王の徳をしたって帰順する」ようなニュアンスがありますから、民主国家での用語としてふさわしくない、という意見があります。
 
2 蓮舫党首についてはなぜそれが生じたのか。
 報道によると、蓮舫さんは1967年の生まれで、お父さんは台湾人、お母さんは日本人とのことです。
 1985年1月1日に日本の国籍法は改正され、これ以降は父外国人、母日本人でも赤ちゃんには日本国籍があります。
 しかし、それ以前はこの赤ちゃんには日本国籍を認めていませんでした。「国際結婚」のカップルの場合、父日本人、母外国人のときに限って赤ちゃんの日本国籍を認めていたからです。これが男女差別であるということで、1985年に国籍法が改正されました。
 さらに、この改正の際、1965年~84年生まれの人に限って特別措置が規定されました。
 蓮舫さんのような、父外国人、母日本人の人についても、届出をすることで日本国籍を認める、としたのです。
 蓮舫さんは1985年より前に生まれていますから、出まれたときには日本国籍がなかった、ということになりますが、1985年の改正の際に届出をしたので、この届出によって日本国籍を取得し、(台湾と日本の)複数国籍となったということと思われます。
 
3 複数国籍者は国会議員、総理大臣になれないか。法的問題の所在はどこにあるか。
 日本の場合、複数国籍者は国会議員や総理大臣になれます。
 もっとも、一部野党が、複数国籍者を国会議員になれないようにする法律案を国会に提出しました。憲法は、総理大臣は国会議員しかなれない、と定めていますから、この法律案が制定されれば複数国籍者は総理大臣にもなれなくなる、ということになります。
 他方、複数国籍者は現在、日本の外交官になれません。
 このことは外務公務員法という法律で定められています。さらに、少し前までは、この法律は、本人が日本の国籍を持ち、(かつ、複数国籍でない)場合であっても、配偶者が外国籍だと外交官にはなれないと規定していました。ただ、この規定は現在では削除されています。
 法的問題としては、憲法の平等規定に違反しないかが問題となります。同じ日本国籍を持ちながら、複数国籍だということを理由に(国会議員などを含めた)公務員になることを禁止することになるからです。
 なお、1950年までの旧・国籍法には、帰化人とその子などについての差別規定がありました。日本に「帰化」した人やその子などについては、国会議員などになれないという規定があったのです。ただ、この規定は、憲法の平等規定に反するということで1950年の現・国籍法を制定する際に削除されました。
 

4 複数国籍者から議員資格を奪うとする論の根拠と反論、愛国心について

 「裏切り者」または「裏切り者予備軍」だということでしょう。他国籍を持っている人の忠誠心には疑問がある、たとえば戦争の時にはどちらの国につくのか、ということでしょう。そこまで言わないとしても、「利益相反」のおそれがありうる。たとえば、弁護士なら、原告と、被告の両方の代理人になることはできません。原告と被告の利益が対立(相反)することがありうるので、という理由です。
外交官については制限がされているのは先に見たとおりですが、この制限の理由も外交官の場合、弁護士の立場と似ているということでしょう。
 国会議員は日本の国家意思をつくる立場であるので、特別の制約があってもしかたがない、というものだと思います。
 これに対する反論としては、特にヨーロッパ諸国では複数国籍を広く認めるようになってきているということや、また、外交官と国会議員とは立場が違う(さらに、そもそも外交官についてもこういう制限はするべきではない)という反論がありえます。
 複数国籍者については政府はキチンとした統計を取っていませんが、おおむね100万人前後くらいになるのではないかと推計されます。複数国籍者は今後も増加が見込まれ、このような立場の人の利害も反映するのが国会だという反論です。
両国の利害が対立することがありうるからといってすぐにはなしを戦争に短絡するべきではないし、ムリにひとつを選ばせるのではなく、ダブル・アイデンティティを認めていいではないか、そういう人がいることも含めて「日本」と考えるべきではないか、ということでしょう。
 なお、他国の国籍を放棄しろといっても、特に兵役の関係などで世界には国籍の放棄を認めない国もあることを考えに入れておくべきでしょう。日本も100年ほど前は国籍の放棄を認めていませんでした。
 これに対して、在米の日系移民などから日本国籍の放棄を認めるようにして欲しいという要望があり、この要望を容れて日本も日本国籍の放棄を認めるようになりました(1916年国籍法改正)。
 当時、アメリカは日本や中国などからの移民を排斥するような人種差別がひどく、日米複数国籍のままだとまさに「忠誠心」を疑われてしまう、という時代でした。
 ただ、アメリカはその後、人種差別を反省しましたし、また複数国籍についても容認しているのは上記のとおりです。

こんな記事もオススメです!

クラシック音楽の問題点(21) 「風の時代のクラシック音楽   ~音楽史を神棚から降ろして」(2)

クラシック音楽の問題点(20) 「風の時代のクラシック音楽   ~音楽史を神棚から降ろして」(1)

ビーバーテール通信 第18回  反戦キャンプが閉じられた後に平和を求める声はどこへ向かうのか

鈴木大拙と西欧知識人との深層関係 (下)