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日韓にみる「世論と政治との距離」

寄稿:飯室勝彦

2016年12月13日

 韓国国会で朴槿恵大統領の弾劾訴追案が可決され、大統領罷免の是非は憲法裁判所に委ねられた。朴氏の大統領権限は停止され、名目だけの大統領となった。一強多弱といわれる党内情勢でやりたい放題の安倍晋三首相とは対照的である。

 朴氏は書面による報告を好み、側近と言われる人たちや閣僚らと顔を合わせて協議することは少なかったという。「不通」と呼ばれるこうした政治手法は不透明だとして、政権運営への批判が就任以来くすぶり続けていたが、2016年10月24日、テレビの「機密文書が親しい知人に流出していた」というスクープ報道で火がついた。
 その後、知人が政治に介入した、知人に特別な便宜を図ったなどの疑惑が浮上し、検察の捜査も始まって国民の怒りは頂点に達し、大統領は窮地に追い込まれた。

 韓国では、政権末期の大統領や退陣間もない元大統領が疑惑を指摘されたり捜査対象とされたりして、権威失墜に至ることが続いている。
政治的な不安定を招きやすいこの悪循環を冷ややかに眺め、シニカルな論評をする雰囲気が日本の一部にはあるが、「対岸の火事」のようにみているのは大きな誤りだ。
 韓国でまた起きた政権疑惑は「権力は腐敗する」という教訓を思い起こさせる。政治家はこの教訓をかみしめ、自戒し、有権者は権力に対してさらに厳しい視線を注がなければならない。その意味では韓国の混乱は“他山の石”なのである。

 さらに積極的な教訓も得られる。大統領が弾劾訴追される事態は国民にとって不幸と言えるにしても、世論の盛り上がりに国会が速やかに対応したことに「民意と政治との距離」の日韓格差を感じざるを得ない。「世論などどこ吹く風」といった安倍政治が罷り通る日本より韓国の方が健全であり、民主主義が成熟していると評価できよう。

 韓国ではテレビの疑惑スクープ報道から2ヶ月足らずで国会による弾劾訴追となった。このスムーズな運びは民意と政治との距離が短いことを意味しよう。世論調査では朴大統領の退陣を要求する声が80%、訴追決議には議員の78%が賛成した。与党議員も約半分が賛成している。
大統領の対応が後手続きで適切ではなかったとはいえ、政治が世論に寄り添っているといえよう。

 翻って日本はどうか。安全保障関連法制の問題だけでも一目瞭然だ。世論調査で過半数が制定に反対あるいは疑問を呈したり、何万、何十万という人々が国会議事堂周辺や全国各地で反対を訴えたりしても、与党国会議員は反応しなかった。安倍政権と与党は強引に成立させ新しい日米蜜月関係に入った。
 南スーダン派遣の自衛隊には血を流すことになるかもしれない「駆けつけ警護」の任務を早速与えられ、隊員は戦闘の場に引き出される可能性が出てきた。
 その後も年金切り下げ法案、TPP(環太平洋経済連携協定)とその関連法などについて数を頼みにした強行採決が衆院で相次ぎ、カジノ法案の衆院審議ではろくに議論もないままいきなり強行採決だった。

 韓国と日本では、大統領制と議院内閣制という制度の違いがある。しかし、もっと大きな違いは、世論に対する政治家の感度、国民に対する責任感だろう。日本の政治における民意無視は、議員が自分の基盤が国民、有権者であると自覚しないことから生まれる。

 民主政治とは民意に基づく政治である。議院内閣制では議会が民意を背景に行政府の長を決め、やはり民意をもとに監視し続けてコントロールする。
 ところが日本では、反対に行政権が議会をコントロールしているのが現実だ。提出から3年間も審議されなかったのに突然急浮上したカジノ法案はその典型である。

 大阪万博との関連でカジノ実現に執心する維新の党の意向を汲んで、安倍政権が成立を急ぎ、菅義偉官房長官が根回しした結果だという。安倍政権は将来の改憲を睨んで維新を味方に引きつけておきたいからである。自民党が多数を握る議会は多くの反対論を顧みず、政権の思惑に従った。
 議会が政権の補完役となり果て、チェック、コントロールする使命を忘れている裏には権力の座につきたい政治家の期待、憧憬がある。
 しかし権力の座につくと、個々の議員だけでなく政党の意思決定や行動も不透明になりがちだ。公明党は幹部自身がカジノ法案に慎重で、支持者の間でも反対論が強かったのに、衆院における採決では自民、維新に抵抗しないで自主投票として、お茶を濁すような道を選んだ。
 これは、支持者の民意を尊重するより与党として権力に寄り添うことのメリットを優先させた、としか思えない。その点を安倍政権に見透かされているからか、公明党は安倍政権が打ち出す、支持者には不評な政策、法案も次々容認し「下駄の雪」との批判も受けている。

 「不透明」「恣意的」との批判は安倍政治にもあてはまる。日本の国会は政権をコントロールするどころか政権に主導権を握られている。安倍首相の率いる政権側に議会が引きずられているこのような状況は、日本国憲法が想定している民主主義とはほど遠く戦前とさして変わらないのではないか。
 安倍首相が目指す「戦後レジームからの脱却」は「戦前レジームへの回帰」が狙いと分かる。

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