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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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第73回「森と海はつながっている〜崩れていく海洋生態系の話(1)」

2017年2月20日

▼カバはなぜ海に入るか

 1989年以来、ぼくのこれまでのアフリカでの生活の大半は、海浜部とは無関係の内陸に位置する熱帯林地域である。ただ、2003年から5年間、ガボン共和国の海浜地域(写真281)に位置する国立公園の保全管理に関わった経験があり、アフリカの大西洋岸における海洋生態系とその保全について学ぶ機会があった。

画像1       写真281:ガボン共和国ロアンゴの海岸部©Richard Parnell

 ロアンゴと呼ばれるその国立公園は、約100kmに及ぶ、現在まったく人の住んでいない、これまで人の影響のほとんどなかったガボンの砂浜と、それに続く内陸のモザイク状に広がる草原地帯と熱帯林地域から構成される(写真282)。そこでの最大の話題の一つは、「海に入るカバがいる」というものであった。
画像2   写真282:ロアンゴの海岸部とそれに続く森林と草原地帯©Rombout Swanborn

 果たして、そこでは海を出入りするカバが観察された。ナショジオやBBCなど著名なメディアもその撮影に成功した。ぼくがコーディネートしたNHK番組の撮影隊も粘った末、それを映像に捉えることができた。砂浜のどこでも見られるというわけではなく、その足跡からおよその場所が特定された(写真283)。そして海への出入りが起こるのは日中よりは、薄暗い早朝か夕闇迫る時間帯、あるいは夜であった。そこで、暗い時間帯に、いくつかの場所で待ち伏せをしてその観察機会を待ったのである。
画像3          写真283:砂浜に見られるカバの足跡©西原智昭

 まずは、淡水性のカバが海に行くはずなどないと固定観念にとらわれている人は、この事実を受け入れがたかったようだ。しかし、事実、カバは海に出入りした。いったいなにをしているのであろうか。その詳細はわからない。ただ、砂浜から海に入り、波を超え数10m沖に向かい、そのあと波に乗りまた砂浜に戻ってくる。映像を拡大してみると、頭部を海水面下から上げたあとの口元に海藻が垂れ下がっていた観察事例があったので、どうも潜って海藻を食べていたことは推測される。実際、干潮時にカバがいたとされる場所を見ると、そこは岩場で、岩のりのような海藻が生えていたことが確認された。

 カバが海に入る理由はそれだけではないと考えられている。カバの主要な生息地は淡水域である。河川であり、湖であり、汽水湖(ラグーン)である(写真284)。海に近い場所では、このラグーンが雨量の少ない時期は海とつながっておらず、雨量の多い時期は海とつながっている。カバは、いくつも隣接しているこうした異なるラグーン同士の間をどのように移動するのであろうか。
画像4          写真284:ラグーンで見られるカバ©西原智昭

 その時の手段のひとつとして、カバは海を利用していると考えられる。もちろん、陸地沿いに、あるいは砂浜を歩いて、隣のラグーンへ移動することができる。しかし、その自らの体重と陸地を移動する際の機動力の弱さを考えると、陸地や砂浜を移動するよりは、ラグーンから直接海に入り泳いで移動する方がはるかに効率よいのではないだろうかと推察される。そこで、ラグーン同士の間を移動するための手段として海を利用したのだ。

 海を移動している時に、もし海藻があればそれも採食する、そうした光景が思い浮かぶ。ラグーン間の移動のためだとすれば、カバは海に入ることはごく日常的なもので、なにか特殊な行動ではなく、むしろわれわれがカバは淡水利用だという先入観にとらわれていただけにすぎないのかもしれない。

 そうしたもともとあったカバの海の利用が、いまやほとんど見られなくなった。それは人間が海浜部に進出したからにほかならない。様々な形での人間の過剰な海浜部利用のために、本来のカバの野生の姿は見られなくなったと言えるのではないだろうか。

 カバだけでない。ロアンゴの海岸には、マルミミゾウも訪れ、ゴリラも来る。
 アカスイギュウは波打ち際で走りときにはまどろむ(写真285)。海浜部に迫っている熱帯林から動物がやってくるのである。決して海に入るわけではないが、砂浜に続く草原部の草本類を食べ、季節によれば樹木の果実を食べに来たりする。アカスイギュウはときに何をすることもなく、砂浜に座り、いかにもくつろいだ様子である。風が気持ちよく、また風ゆえ虫にもたかられないのであろう。
画像5     写真285:砂浜でくつろいでいる様子のアカスイギュウ©西原智昭

 いまでもロアンゴは、海に入るカバを見られる地球上でも数少ない場所である。すでに述べたように、それは、隣のラグーンへ行くための移動手段と海藻食であり、実は、森と海を行き来するのはごく普通だったのである。

 大西洋を何千キロも渡り産卵に来るウミガメもこの砂浜を利用する。体調1mを越す巨大な希少種オサガメの世界有数の産卵地にもなっている(写真286)。オサガメだけではない。ガボンの海岸には、アオウミガメ、アカウミガメ、ヒメウミガメ、タイマイなどが生息している。カニ、ワニ、トカゲなどは、波打ち際の魚でも捉えようとしているのか、陸地と波打ち際を絶えず行き来している。カニを食べに砂浜にやってくるジャコウネコを狙って、ヒョウも砂浜に出てくる。
画像6       写真286:産卵のため砂浜に上陸したオサガメ©西原恵美子

 そこでは、陸地と海のつながりを強く感じるのである。というか、もともとそういう世界だったから、「つながり」は当たり前だったのだろう。たまたまロアンゴ国立公園の海浜部では人の影響がほとんどなかったため、いまでもこういう光景が日常的に見られるのである。森林と海は自然環境の続きであって、そこには隔たりがなかったのだ。われわれが便宜的に「海と陸地」という仕分け構造を作り、まるで別物のように扱ってきたからに過ぎない。否、本来、自然界はすべてつながっているのである。

 逆に言えば、われわれはそういう「つながりを感じることができる」世界の大半を失ってしまったのだろう。

 
▼人間の海浜部利用〜小規模な活動

 ロアンゴの海浜部でも、これまでの歴史で人間の活動が全くなかったわけではない。古い時代の海岸部での漁労採集生活を忍ばせる遺跡などがところどころで見つかっているからだ。それは、牡蠣などを中心とした貝塚(写真287)であり、模様の付いた土器の破片(写真288)からもわかる。しかし、それほどは人間の活動は発達しなかったはずである。海浜部付近では、淡水を獲得する難しさが容易に理解できるからである。淡水の確保できる限られた場所で限られた季節のみに、小規模な活動があったと推測される。
画像7          写真287:牡蠣の殻などから形成された貝塚©西原智昭

画像8         写真288:ロアンゴの海浜部で見つかった土器の破片©西原智昭

 奴隷貿易時代、植民地時代における人間による痕跡も見つかっている。欧米人が利用した陶器、パイプなど日用品の破片が、海浜部で見つかっているのである。しかし、その時代による人間の海浜部利用も一時的なもので、大規模なものだったとは思われない。

 
▼人間の海浜部利用〜大規模な活動

 しかし、時代とともに、次第に大規模に、人間は海浜部に進出していった。淡水の確保できる場所、あるいは淡水を確保する技術の発展に伴い、海浜部に大規模な開発が進められた。それに伴い、周辺に居住する人間の数も増え、したがって野生の海浜部が急速に失われていったのである。

 ウミガメが産卵した卵も乱獲されるようになってきた(写真289)。人口増加に伴い、その卵への食用としての需要が高まり、過剰な捕獲が広まってきたのである。
画像9       写真289:密猟者から押収されたオサガメの卵©西原智昭

 人間による大規模な進出の一つが商業漁業のための近代的漁港の設立である。もう一つが、リゾート地としての海浜部開拓と大勢の人々の訪問があげられる。それは、たとえば、海水浴場としての開発、リゾート地としてのロッジなどの建設、スポーツ・フィッシング(写真290)、クルージング、サーフィン、スキューバー・ダイビングなどの活動があげられるであろう。
画像10     写真290:スポーツ・フィッシングを楽しみ釣り人©Rombout Swanborn

 さらに大規模な開発としては、海の埋め立てであろう。これにより、海浜部の環境は激変する。

 いまの世界では、ほとんどの人口集中場所は、沿岸部にある。それくらい、もはや、野生の海浜部は地球上にもはやわずかしか残っていないのである。ロアンゴはその稀少な場所の一つなのである。

 
▼海浜部から遠くない沿岸部での人間の活動(1)〜海底油田

 海底油田開発は国際的な化石燃料への過度な需要に基づく(写真291)。ガボンの沖合では日本企業も進出している。絶えないのは、海底油田基地から陸地への製油所につながるパイプラインからの油漏れ汚染の問題である。汚染は一度起こると、波や海流により砂浜に押し寄せ、海浜部は油まみれになる(写真292)。結果的に、野生生物はそこを利用できず、ウミガメなどは産卵ができない状況となってしまう。
画像11         写真291:ロアンゴ沿岸部の海底油田基地©西原智昭

画像12     写真292:海底油田基地から漏れた石油によって汚染された砂浜©西原智昭

 
▼海浜部から遠くない沿岸部での人間の活動(2)〜違法漁船

 違法漁船の問題はさらに深刻である。国際法で、三海里内での商業漁労活動は禁止されているにも関わらず、大型漁船がその領域に日常的に立ち入る(写真293)。しかも、漁船は淡水魚と海水魚の交差点でもある河川と海の交わる河口部に集中している上、トロール漁法に基づいているので、ウミガメやサメ、イルカも含め、ありとあらゆる種類の海洋生物を根こそぎ捕獲していく。
画像13     写真293:三海里内に違法に侵入したトロール漁船©Richard Parnell

 これまでのデータでは、そうした漁船は中国人の乗ったものであることが多い。船には中国の国旗もはためいていた(写真294)。一度だけ、ガボンの取締官とともに、そうした違法漁船を差し押さえ、その船内に潜入したことがある。それは、適切な許可証などを持っていない韓国人の乗る違法漁船であった。甲板上にはあちこちにトロールで捕獲したものと思われる大小多数の種類の魚が散乱していた。
画像14           写真294:中国の国旗が見える違法漁船©西原智昭

 それだけではない。担当官とともに、船倉へ入っていく。そこは大型の冷凍庫のようなものになっていて、そこには捕獲後すでに冷凍された小さな魚が束になって積まれていた。さらに、捕獲されたばかりのマグロのような大型の魚やサメ、ウミガメなどが所狭しと大きな籠の中に収容されていた(写真295)。
画像15           写真295:船倉に積まれた海産物©西原智昭

 こうしたアジア人の乗った漁船で捕獲された海産物は、いったいどこに流通していくか。すでに、大半は冷凍化されているところを見ると、そのまま遠距離に移送される可能性も大きいであろう。それは、世界中の海産物の過剰需要に応じた供給源なのかもしれない。そうした違法漁労による大量の海産物は、安価なものとして世界に蔓延しているとも考えられる。

 日本国内の老舗の寿司屋さんは、たとえば回転寿司などに見られるような安価な魚はあり得ないとぼくに語った。いったい、そうした格安なネタはどこから仕入れられるのであろうか。正規なルートを辿っていないのかもしれない。

 
▼海浜部から遠くない沿岸部での人間の活動(3)〜ゴミ投棄

 ロアンゴ国立公園の100kmに渡る砂浜。古い時代以来、いまや人は生活していない。にもかかわらず、大量のゴミが見られる(写真296)。これは、海流や波で、沖合から運ばれてきたものだ。
画像16          写真296:ロアンゴの砂浜のゴミ©Ian Nichols

 われわれはプロジェクトの活動の一環として、100kmに及ぶロアンご国立公園の砂浜の一斉清掃を一年半かけて実施した。集められたすべてのゴミは集積されて、特定の場所へ運ばれたか、その場で穴を掘り、燃やした後埋められた。それだけではなく、ゴミは処分される前に、ひとつひとつ記録された。可能なものはそのラベルの情報も記載した(例:大きさ、商品名、生産国など)。必要であれば、写真撮影もした。

 このデータを処理した結果、ゴミとしてもっとも数が多かったのは、空のペットボトル、ついでビーチサンダル(あるいはその破片)であった。麻薬のような白い粉の入った入れ物が見つかったり、手紙入りの空の瓶が発見されたこともあった。製品としてわかる物品としては、その国の起源はさまざまである。「ママレモン」という日本製洗剤の空瓶も見つかっている(写真297)。
画像17     写真297:ロアンゴの砂浜で回収された日本製品のゴミ©西原智昭

 重要なことは、こうしたゴミの投棄による製品の由来が、多様な国籍であった点である。想像されるのは、沖合の船舶、海底油田基地、内陸の河川などで投棄されたものが、主としてベンガル海流に乗り、アフリカ大西洋岸の南半球側から赤道の方へ流されてきたということであろう。その半数以上はガボンとは無関係な物品なのである。

 こうした点から、海浜部へのゴミ問題は、国際問題であるといえる。このときの資料をもとに、ゴミ問題の実情を伝えるポスターを作成(写真298;299)、ガボンの関連省庁を始め、ガボンに存在する石油会社や船舶会社、各国大使館あてに、そのポスターを配布した経緯がある。
画像18 写真298:沖合から世界各国のゴミがロアンゴの浜に漂流してくることを説明した教育普及
     ポスター©Operation Loango

画像19 写真299:ロアンゴの浜に漂流してくるゴミとしてはペットボトルとビーチサンダルが多いこ
     とを示す教育普及ポスター©Operation Loango

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