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国民が緊急事態条項を考えるために必要なこと

寄稿:斎藤 悠貴(弁護士)

2017年3月19日

「憲法のいちばん重要な役割」
 連日、森友学園の問題が世間をにぎわせています。この問題が報道されるようになってから、政治に対する国民の見方が変わってきたかもしれないと感じる出来事がありました。それは、「長期政権は危険なのでは?」という声が多く聞こえてくるようになったことです。現政権の政策に反対している人はもちろん、現政権を支持している人からも、このような声が聞こえてきます。
 政治家も人間ですから、一般的には、政権が自分たちだけの利益になる政策を行ってしまうことは十分に考えられます。安定した長期政権であればなおさらです。
 このように、権力が暴走してしまったとき、実は『憲法』がその暴走を止める役割を持っています。国家権力を制限して、国民の権利・自由を保障するという意味での憲法は、「立憲的意味の憲法」ということばで説明され、政府は、憲法が定める人権や自由を不当に侵害するような政策を行うことができないことになります。そのため、緊急事態条項を憲法に規定するかどうかを考える際には、権力の暴走を止める役割を果たせているか、という視点が重要になってきます。

「緊急事態条項ってなに?」
 憲法改正の議論の際に話題に上がる「緊急事態条項」とは、どのようなものなのでしょうか。
 自民党憲法改正草案によると、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害などがあった場合に緊急事態宣言が発せられ、緊急事態宣言が発せられた場合には、内閣が法律と同一の効力を有する政令を制定することができたり、何人も国や地方公共団体の指示に従わなければならなくなったりします。これは、内閣に権限が集中することを意味しますので、権力が暴走したときの危険性が極めて大きくなります。

「憲法に緊急事態条項は必要?」
 では、そもそも、このような緊急事態条項は必要なのでしょうか。
 自由民主党憲法改正推進本部が出している「日本国憲法改正草案Q&A(増補版)」を見ると、憲法改正草案に緊急事態に関する規定を置いた理由を、東日本大震災における政府の対応の反省も踏まえて、緊急事態に対処するための仕組みを憲法上明確に規定したと説明しています。戦争の際に緊急事態条項がなぜ必要なのかという説明はほとんどありません。
 災害の際に緊急事態条項が必要だという説明に対しては、様々な反論がなされているところですが、憲法に規定する必要があるか、という点については、上記のQ&Aが、現行法にも、災害対策基本法などの緊急政令があり、必ずしも憲法上の根拠が必要ではないと説明しています。
 それにもかかわらず、憲法に緊急事態条項を規定する必要性はあるのでしょうか。
 憲法に緊急事態条項を規定することは、法律に緊急事態条項を規定することとは大きな違いがあります。つまり、法律に定められた緊急事態条項であれば、憲法に定められた人権を不当に侵害することはできませんが、憲法に定められた緊急事態条項の場合には、国民の人権よりも緊急事態条項が優先すると解釈する余地が出てくる可能性が高まります。憲法に緊急事態条項を規定することに賛成する側からは、そんなことは考えられないという反論があるかもしれませんが、権力の暴走を止める役割を考えたときには、権力の都合の良いように解釈される余地があること自体が問題なのです。

「国民が憲法改正を議論するための情報を!」
 この緊急事態条項に対しては、すべての弁護士が登録している日本弁護士連合会が、2017年2月17日、「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」(http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2017/opinion_170217_03.pdf)を出しています。国家権力による国民の権利の侵害があったとき、国民の権利を守るために国家権力と戦うことが、弁護士に求められる重要な使命のひとつです。そのような戦いの中に身を置いてきた弁護士が所属する団体からこのような意見書が出ていること、それは、緊急事態条項が持つ危険性、これまでの憲法や法律の解釈から見た自民党憲法改正草案に定められた緊急事態条項の条文の文言の持つ危険性を示すものだといえます。現時点で緊急事態条項の創設に賛成している方も、緊急事態条項の持つマイナスの側面も考慮した上で検討をするために、一度日弁連の意見書をご覧いただければと思っています。
 私としては、緊急事態条項そのものもそうですが、何より、自民党から、緊急事態条項の持つマイナスの側面について十分な説明がないことが問題ではないかと考えています。緊急事態条項が必要だと説明するときに、災害の話ばかりが出てきて、戦争の話がほとんど出てこないことが良い例です。
 権力の暴走を止めることが憲法の重要な役割であること。これを考えたときに、権力にとって都合の悪い側面を十分に説明せずに憲法改正が議論されることは危険というほかありません。政府には、日弁連をはじめ、緊急事態条項の創設に反対する立場の人々の意見を真摯に受け止め、それを踏まえても緊急事態条項が必要だというのであればその理由をしっかりと説明することが求められるでしょう。その時にはじめて、国民が憲法改正の議論をするスタートラインに立ったと言えます。

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