【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭
第78回「野生のヨウムは救われるのか(2)」
※本稿は、特定非営利活動法人アフリカ日本協議会の会報『アフリカNow』(第107号 pp. 14-17
2017年3月)に掲載された記事「野生のヨウムは救われるのか」より転載し、執筆者が一部加
筆・修正したものです。
▼ワシントン条約決議とヨウム保全教育の実践
2016年9月24日から10月5日まで南アフリカ共和国で実施されたワシントン条約締約国会議では、ペット需要のために急激にその数を減らしている野生ヨウムの輸出入を一切禁止する提案が提出され、それが圧倒的多数で可決された。したがって、ヨウムはワシントン条約附属書Iに掲載されたことになる。これは、野生のヨウムの生息数はわからなくても、従来のように附属書IIのままで限定条件付きであれ輸出入が許可され続けても、その管理が不徹底であったという経緯があっただけでなく、ヨウム一羽確保の背景には、その何倍にも上るヨウムの死があることが、これまでのデータで明らかになったからである。これまでの統計などを考慮すると、確保された1羽の生きたヨウムの裏には、約20羽に及ぶヨウムの死が予想されている。
決議に反対を唱えた国もあった。たとえば、ヨウムの人工繁殖を試みてきた南アフリカである。しかしヨウムは、イヌやネコのように長い年月に渡って歴史的に人工繁殖が確立されてきたペット種ではなく、その人工繁殖には野生種の移入が不可欠なのである。ヨウムの輸出入管理が不十分である現状では、さらなる輸出入は回避すべきなのは明らかである。ヨウムの生息数が不明であるとの観点から、日本政府も反対に回った。しかし、上記に記したような禁止の理由が明らかになる中では、その立場は国際的コンセンサスに反するものであったといえる。
問題はこれからである。附属書Iに格上げされたことで、コンゴ共和国などアフリカ現地でのヨウムの違法捕獲や輸出に対して検挙は容易になった。だからといって、違法行為がすぐに終焉するものでもない。むしろ、そのため捕獲や輸出が困難になったがゆえ、ヨウムの希少価値が上がり、違法捕獲と密輸がさらに助長される懸念もある。それはひとえに、日本を始めヨウムへの需要が継続しているためである。実際、コンゴ共和国では、2016年12月に短期間に連続して大きなヨウムへの違法行為が検挙された。合計で200羽以上のヨウムが押収されたのである。現地の末端価格はヨウム1羽あたり数ヶ月前より4〜5倍に高騰していた(1羽約2,000円から約10,000円へ)のもその理由のひとつであろう。需要のあるものに対する希少価値への反映と言える。現在、200羽を超えたヨウムは所定のケージに収納され、獣医の手当てを受けながら野生復帰への日を待つしかない。ただ、押収数がさらに増加していくのであれば、現在のケージでは手狭となり、ケージの拡張工事が危急の課題となってくる。
こうした事態を避けるために、ヨウム生息国での違法行為に対する監視体制の強化を図ることは言うまでもない。しかし、それ以上に大事なことは、ワシントン条約決議でヨウムの国際取引が一切禁止となったいま、ヨウムの需要がありその売買が実施されている国々における各国内でのヨウムの管理システムを構築することである。
日本の場合も、国外から日本国内への新たなヨウムの移入は完全な違法行為となるのは当然であるが、ペットで飼われている、動物園で飼育されている、ペットショップで売られている、ペット業者が保管しているなど、現時点で国内に存在するヨウム個体の管理(たとえば、1羽ずつの個体識別に基づいた登録制度によるすべてのヨウムのリスト作成と、売買や譲渡など国内取引における厳格な管理システムなど)が必要不可欠となってくる。これは、新たに移入される違法ヨウムとの混在を回避するための方途である。残念ながら、象牙管理制度などを見ていても、日本の省庁における管理システムは透明性に欠け、厳格でなく、違法物移入の可能性を多く残しているのが現状であるため、こうした管理制度を厳格に構築し、ヨウムの移入を防止する手立てが肝要となってくる。
また、ヨウム保全へ向けた教育普及活動の継続はいうまでもない。いまペットとして、もしくは動物園などで飼われている、またはペット業者に保有されているヨウムの野生復帰は不可能であるので、まずはそれらのヨウムに関しては適切な飼育を要請するしかない。ただ、これ以上、ヨウムを新たに購入しないなど、需要を逓減させるような教育普及活動は不可欠である。
教育普及活動の手法として、新規で参加型の「フォトブック」(イベントの履歴を残せる博物館体験のパスポートPCALi [Passport of Communication & Action for Literacy] プログラムに登録されている)を積極的に使用していきたい。これまでの保全教育のあり方は、動物園であれば来園者へのガイド中の説明であり、あるいは講演会のような場がほとんどであった。これらは、基本的に「一対多」の型であり、「参加者を選べない」ばかりか、質疑応答なども盛んに行われず、そのあとの「理解度の評価」も容易でないという欠点がある。
保全教育ツールとしてフォトブックが従来のものと異なる特徴は、まずテーマに関心のある「特定の参加者」を期待できる上、単に一対多の講義を聞くだけでなく、自ら「参加」して独自の「ストーリー展開」で「メッセージをクリア」にしながらフォトブックを作成していくところにある。そしてそれは参加者同士で「協議」しつつ「修正」が可能であり、「より正確な情報」を満載した写真付きの「ビジュアル」版であるゆえ、小学生でも、あるいは専門分野でない人にも「わかりやすい」保全の教材が完成される。そして、各参加者がその出来上がったフォトブック最終版をもとに、さらに家族・知人・友人など身近なところから「メッセージを広げていく」ことが可能になる。その輪の広がりから、保全内容に関する「普及効果」への「評価」もしやすくなる。フォトブックには、これまでになかったこうした画期的な教育ツールとしての利点がある。
2016年にフォトブックを提案しヨウムの保全教育に協力を得た帯広動物園では、2回ほどそのテーマで、フォトブックのイベントが実施された(写真319)。この試みは、3日に分けてイベントが行われた。初日に専門員からの講義とそれに関する質問、2日目はその講義を元にして各参加者自らが与えられた写真を自由に選択して保全に関するストーリーを作りながらフォトブックを作成、そして3日目にそれぞれできあがったフォトブックを、専門家からのコメントなども取り入れながら参加者全員で協議・修正し、最終版を完成させた。
写真319:ヨウムのフォトブック最終版の一例©杉本加奈子
野生ヨウムはアフリカ熱帯林にのみ生息する鳥である、集団で生活する社会性鳥類である、人工繁殖が容易でない、ペットにされた1羽のヨウムの背後には数多くのヨウムの犠牲があることなど、正確な情報が流布されていないのが現状である。筆者は2015年から、こうした情報を広めるために、ヨウムに関する日本人向けリーフレット(1)を作成し、AJFの協力を得て、動物園、ペットショップ、学生などに配布してきた。今後もこの改訂版を作成・配布したい。まずは、事実、そして正確な事情を知ってもらうためだ。
保全教育を謳っている動物園には、このリーフレットなどを通じた実りのある教育普及活動を進めていただきたい。ヨウムを飼育している動物園では、敷地の限界などから、野生のように複数羽では飼えない、大きなケージで飼えないなどの限界があるであろう。しかも、ヨウムが賢いことを利用して、客寄せのための手段としてショーなどエンターテインメントに利用されているかもしれない。しかしそうした限定された条件であっても、何かできるはずであると確信する。むしろ、エンターテインメントを通じて、来園者の関心を引きつつ、その中に野生ヨウムの事情やその他正確な情報を伝えることは不可能ではないので、そうした工夫がより一層、強く求められる。
毎年6月15日は、日本動物園水族館協会の奨励で「オウム・インコの日」が指定されており、オウム・インコ類を飼育する園館に、その保全教育活動を実施するよう通達している。ヨウムを保有していない動物園でも、ヨウムの仲間であるインコは飼育されている園は多く、インコとの関連でヨウムの保全教育をしてほしい。
さらに、鳥に関わる日本のNGOなどとも連携し、こうした情報の流布をさらに強力に展開していけないといけない。
すべては、野生ヨウムの地球上からの消滅を防ぐためである。
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