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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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米国によるシリア攻撃と北朝鮮威嚇―無法で危険な米トランプ政権の軍事挑発を許さない声を挙げよう

2017年4月18日

1 トランプ政権は、地中海上の米海軍駆逐艦からシリア空軍基地へ巡航ミサイル59発で攻撃を行いました。米中首脳会談中の4月6日(日本時間4月7日)のことです。
 米国がシリアに対する武力行使を行ったことについて、トランプはシリア軍がアドリブ県で化学兵器攻撃を行い、非戦闘員を無差別に殺戮した、化学兵器が拡散して米国の安全を脅かすことを理由としています。
 安倍首相は、4時間後に米国の決意を支持する、武力行使を理解するとして、シリアへの武力行使を支持しました。
 国連憲章第51条では、自衛権行使の場合には、国連安保理へ報告するとなっていますが、米国から今回の武力行使について安保理へは何らの報告はありません。

2 国連安保理緊急会合では、シリアによる化学兵器攻撃の証拠の有無や、この武力行使の国際法上の根拠が問題になり、15理事国の内5カ国が支持しましたが、他は批判的な意見を述べました。4月11日のG7では、概ね米国を支持したようですが、そこでは国際法上の観点ではなく政治的な観点での支持でした。トランプ政権は国際的に孤立していると言えます。

3 米国が武力行使の根拠としたシリア軍による化学兵器使用について、米国は証拠をしめしていません。また、この武力行使に際し、事前に安保理で議論してはいませんし、米国の同盟国に対しても事前に意見調整したものではなく、ましてや国連内でも一切事前に根回しした形跡はありません。つまり、あらゆる意味で、米国の独断かつ単独攻撃です。標的になったシリア空軍の基地にロシア兵がいるため、直前にロシアへ通告したくらいです。

4 この武力行使の国際法上の根拠は極めて怪しいものです。官房長官は、今になって米国に対して国際法上の根拠を照会していると述べました。
 私は国際法に照らせば、明白に違法の武力行使であると考えています。仮にシリア政府軍が化学兵器を使用したとしても合法化できるものではありません。まず、自衛権行使の要件がないことはいうまでもありません。シリア政府が米国に対する武力攻撃を行うわけではないからです。
 もう一つは、いわゆる「人道的介入」論で正当化できるのかという点があります。ある国内で破局的人道被害が発生し、中央政府がそれを有効に制止できない場合、国際社会は「保護する責任」があるといわれています。この点は2005年に国連で開催された世界サミットの成果文書で合意されています。問題は、そのために他国がその国に対して武力行使をすることが正当化されるのかということです。

5 いうまでもなく、国際法上武力行使が正当化されるのは、国連憲章第51条の自衛権行使と、安保理による軍事的措置の場合だけです。「人道的介入」論は、これ以外の第三の武力行使正当化論です。この点でも、2005年の世界サミット成果文書(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/unsokai/pdfs/050916_seika.pdf)では、あくまでも国連の目的と枠組みの中でのみ、武力介入が正当化されることをくどいほど述べています。従って、現在の国際社会の共通の認識としては、国連憲章をバイパスして行う「人道的介入」のための武力行使は違法です。
 国際法学者の中で「人道的介入」のための武力行使が可能だとする議論もありますが、その場合でも武力行使の要件は非常に厳しいもので、現実に行われる「人道的介入」のための武力行使(例えば99年のユーゴスラビアに対するNATO軍の空爆)は違法になります。ここでは国際法上の議論はこれ以上言及しません。

6 トランプ政権は、シリア攻撃を北朝鮮に対する軍事的な圧力という位置づけもしています。制裁措置を強化しながら、北朝鮮が核開発を放棄した後に、北朝鮮との交渉を行うというオバマ政権の北朝鮮政策(「戦略的忍耐」)を根底から変更し、単独行動主義とでもいうべき北朝鮮政策をとろうとしています。3月になってから行われている米韓合同軍事演習に参加した空母カールビンソンを、シンガポールからオーストラリアへ向かうのを,朝鮮半島近海へ呼び戻しました。攻撃型空母はそれ1隻だけではなく、護衛と攻撃のためのミサイル巡洋艦、駆逐艦、補給艦、攻撃型原子力潜水艦などからなる「水上打撃群」を構成します。北朝鮮に対する軍事的な圧力=武力による威嚇です。

7 朝鮮半島有事に備えて、米韓連合作戦計画が既に策定されています。OPLAN5027,5029,5015です。「OPLAN」とは米軍用語で「作戦計画」のことをさしますが、統合参謀本部議長が裁可した作戦計画の中で最も詳細な内容で、時系列兵力展開データを含むものと言われています。
 5027の存在は、94年朝鮮半島第一次核危機の際に韓国国会で公表されたことから明らかとなりました。これは朝鮮半島での全面戦争=第二次朝鮮戦争を前提に、湾岸戦争規模の大規模戦争を想定した作戦計画です。2年ごとに改訂されています。
 5029は、北朝鮮が内部崩壊した場合を想定した作戦計画です。北朝鮮が保有する大量破壊兵器と運搬手段を米艦連合軍が速やかに押さえてコントロール下に置くという内容と思われます。
 5015は、北朝鮮の核施設や弾道ミサイル基地、大量破壊兵器を先制的に破壊する攻撃を行うと共に、金正恩を殺害する(「断首作戦」とも称されています)作戦のようです。

8 トランプ政権が検討している「あらゆる選択肢」の中で、軍事的措置が前面に出ているのではないかと思いますが、OPLAN5015を検討しているのではないかと想像しています。しかしその場合でも、速やかに全面戦争に移行するでしょうから、そのリスクと代償は極めて大きいものです。
 94年朝鮮半島第一次核危機の際に、米国は北朝鮮との戦争を決意していました。しかしながら国防総省による被害想定のあまりの大きさに、当時のクリントン政権は攻撃をためらう間に、カーター訪朝により事態が急展開して、米朝枠組み合意に至ったのでした。このとき国防総省が提出した全面戦争での被害想定では、死者100万人、米国人死者8万から10万人、米国が負担する戦費2000億ドル(当時は1ドル200円台)、周辺諸国の受ける被害1兆ドル以上(これには日本も含みます)というものでした。
 94年当時と比べても、中国は世界第2位の経済大国です。中国と米、日、間の貿易額はそれぞれの国にとり、最も重要なものとなっていますので、被害想定はさらに大きいものになるでしょう。

9 安倍政権は米国のこの動きに対して、安保法制を活用して全面的に支援する構えです。北上してくるカールビンソン空母打撃群と海上自衛隊の共同訓練を計画しています。対潜水艦作戦を含む共同の警戒監視活動とその際の後方支援(改正自衛隊法と改正日米ACSA)、米艦防護訓練、弾道ミサイル対処訓練などでしょう。
 万一北朝鮮軍が挑発的な動きをした場合には、米艦防護のための武器使用=北朝鮮軍に対する攻撃を行う構えです。北朝鮮が攻撃してくれば、重要影響事態、武力攻撃予測事態を認定して、安保法制をフルに活用することになります。

10 防衛省、自衛隊は朝鮮半島有事を想定した日米共同作戦計画を作っています。作戦計画5055です。2001年9月ころまでには制服組間で調印され、2002年12月16日日米安保協議委員会(2+2)で報告されています。内容は判りませんが、当時の周辺事態法と,その後作られた有事法制を活用して行われる後方支援を内容としているのであろうと推測しています。
 この様に既に日本は、朝鮮半島有事の際には米軍に対して全面的に協力する仕組みが出来ています。安保法制はそれまで制定していた防衛法制,有事法制をバージョンアップしたのです。

11 日米共同作戦計画とは別に、朝鮮半島有事を想定した日本政府の対処計画は2006年から2007年にかけて橋本内閣で作られました。在外邦人保護、大量避難民対策、沿岸・重要施設警備、対米協力措置です。これはマニュアル化されており、現在内閣官房や国家安全保障会議で検討されているはずです。

12 カールビンソン空母打撃群が現在北朝鮮周辺海域を目指して北上を始めました。4月中旬には到着するといわれています。それに併せた海上自衛隊との共同訓練は、北朝鮮に対する抑止と威嚇目的の共同演習になります。不測の事態も想定されます。既に外務省は11日、韓国に滞在、渡航する人に対して最新の情報に注意するよう促す海外安全情報(スポット情報)を出しました。韓国に滞在したり旅行する人への外務省の「旅レジ」
(http://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcspotinfo_2017C074.html)への登録を呼びかけています。
 戦争システムが動き始めたようです。安保法制はまさに戦争システムであることが今回の事態からよく理解できると思います。
 しかしこの戦争システムは、私たちに甚大な被害と悲劇をもたらすものになるでしょう。沖縄と日本本土に対する直接攻撃や、ゲリラ・コマンドー攻撃による人的・物的被害、多数の死傷者と共に韓国の経済に破滅的被害が及び、中国も紛争当事者になるおそれもあり、日本の経済に対して破壊的な影響も考えられるからです。安倍内閣による北朝鮮に対する武力による抑止政策を阻止しなければ、私たちの平和と安全は護れません。

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