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【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照

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日本の将来のためにオールジャパンで水を守れ!

2017年7月26日

「インドの「母なるガンガー」
[デバプラヤッグ(インド)12日 ロイター] – インドの聖なるガンジス川は、雪氷で覆われたヒマラヤ山脈のきれいな水を水源としている。だが、急成長する都市や産業拠点を流れる過程で、また大勢のヒンズー教徒が利用する中で、水は汚染され、有害なヘドロと化してしまった。・・・
13億人を超えるインド人口の約8割を占めるヒンズー教徒にあがめられ、流域に暮らす住民4億人の水源として重宝される「母なるガンガー」は、長年にわたる政府の浄化に向けた取り組みにもかかわらず、死にひんしている。」(REUTERSロイター;Blog | 2017年 07月 17日)

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観念的に、愛だ人権だ自由だと主張する以前の倫理の根源的思想として、一切の生命の母体である「水」を尊ぶ具体的信念が、現代ほど必要とされている時代はない。

水汚染の元凶は、人為性と反自然性の思考にもとづいた利己的利潤追求の結果としての放射能汚染であることは言うまでもない。

すべて生命は水から生まれ、すべての文明は水から発達してきた。

産業革命以来、我々は、水を尊ぶ信念を変質してしまって現代にいたっている。

中国の次はインドに商機があるとか考えて、国民から喜怒哀楽の顔を剥ぎ取って、彼らを顔のない購買者とみなす金融至上主義の政財界人に、もし一般民衆の安心できる生活を願う心があるならば、西欧思想を根本的に批判して現代世界を文明的な見地から点検する必要がある。

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大量生産、大量輸送、大量消費、大量廃棄物、大量電源、それらのすべてにかかわる大量情報(ビッグデータ)と、さらに以上のすべてに関わっている大量金融。

この現象を「大量物流」と総括すれば、それは同時に、産業の各分野でおこなわれている高速処理化(スピード化)と一体化している。

つまり「高速化された大量物流」ということが、現代の政治・経済・社会を動かしている実態の特徴である。

「大量物流」は、コンピュータの発明と発達によって飛躍的に拡大したが、基本的には、人間の行動能力を人力から機械力へ転換した産業革命を起源とする。

そして大量物流と高速化はグローバリズムに帰結するが、そこに流れる思想は、反自然志向と倫理性に配慮を欠いたエリートによる自然と人間に対する観念的人為的支配意識だ。

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しかし「大量物流」のスピード化の是非は、文明的な進歩の問題だから一概に単純化した判断はできない。

私は1968年横浜港を出航、貨客船で二十日間程かけてインドへ行ったが、乗客は数十人であった。
今日ではジャンボ機が500名以上の乗客を一度に短時間で遠距離まで移送する。

問題は金融ビジネスが、経済と産業の善循環に寄与して国民の生活に安定と安心を与えることから離れて、金融自体が自己目的化し金融が主導して経済を動かしていることだ。

さらに産業の各分野において欲望に根ざした富裕層による株と為替に関わる投機の問題がある。

そして大量物流に従事する多数の人間を動かしているのは、各国の伝統と生活実体から遊離した少数エリートによる反自然的観念的世界設計の思考である。

そのようなエリートによる観念的思考は、人間の支配欲と結びついた様々な装いをもったイデオロギー(資本主義・共産主義)として、時には人々に喜びを与えるが、 多くの場合、大規模な悲惨を国境を超えて地球上の無辜の人々のささやかな生活の安心を脅かしている。

大量物流の行き詰まりを解消する暴力的政策の結果が、カオス理論とか様々なレトリックとシンボル(カラー革命など)を用いた戦争や内戦であることは周知のとおりである。

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「そんなに毒々しい、恐るべき生温かい黴の感覚が、まるで深い内部の汚物から、一種の下水から生ずるように、なぜ K、B、D.G. のような男の深部から生まれてくるのか ―。
私には殆ど耐えられないのだ。

倫理的に是認できないからそうなのではない。私自身は、プラトンやオスカー・ワイルドが、どうしようもなく間違っていると考えたことはなかった。

K を見たとき、ケンブリッジで K を見たときに初めて、その正体が解ったのだ。
よく晴れた日の正午に、私たちは彼の部屋に行った。彼はいなかったから、ラッセルはメモを書き始めた。そのとき突然戸が開き、パジャマ姿の K が、寝惚け眼をしばたたせて立っていたのだ。

・・・腐肉のようなものの感覚、禿鷹が連想させるあの感じだ。それを思いだすと気が狂いそうになる。」(1)

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文中の K は、世界に名だたるイギリスの経済学者・金融の専門家、官僚であり、貴族であったジョン・メイナード・ケインズ (1883-1946) 。

彼はマクロ経済学を確立させ、戦後の外為体制(ブレトン・ウッズ体制)の成立にも関わった人物である。

上記の文は D.H. ロレンス (1885 – 1930) の書簡の一部であるが、ケインズの死後 1979年まで公開されなかった。

プラトンやオスカー・ワイルドは、西欧知識人の間では周知の同性愛者の典型である。

プラトンは、肉体労働を担う奴隷制が是認されていたギリシャの哲学者であり、裕福なエリート貴族であり、彼の哲学はキリスト教神学の基礎を提供し、今日まで西欧エリートの様々な観念形成に無意識的に最大限の思想的影響をあたえている人物だ。

都市生活者のプラトンは、貴族的エリート志向に根ざした、

<ユートピア思想・ 観念的思考・大衆の階層化・計画的家族設計・全体主義国家・エリート的享楽志向・男性優位の同性愛志向と秘密結社>

など、西欧のエリート知識人の一部に今日まで伝承されている情念と思考のプロトタイプである。

プラトンによれば、彼の尊敬する師であるソクラテスは “民主主義” によって殺されたのだ。

因に、唯物「論」の本質は実は観念論である。

文中のラッセルは、これもまた世界的に著名なイギリスの貴族・哲学者・数学者・ノーベル文学賞受賞者だ。

ラッセルとロレンスと「パジャマ姿で寝惚け眼をしばたたせて立っていた」ケインズとどのような会話があったのだろうか、興味あるところだ。

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今日までつづく西欧人の生活の傾向は、概して幼児を自然のままの生長にまかせないで、急激に、つまり人為的教育によって大人の世界に参加させようとする。

そのような傾向も、プラトン的な思考にその源流をたどることができる。

複雑な人類史において、プラトン一人が今日の西欧知識人の思考と情念のすべてを決定したわけではないが、現代世界を思想的・政治的・経済的に支配している西欧の情念と思考を熟視してみると、プラントン的なる情念と思考があざやかに浮かび上がってくる。

あえてプラトンを、現代につながる西欧エリートの思考のプロトタイプとして想定したまでだ。

キリスト教神学はプラトンによって根本的な影響を受けて成立し、その教理のもとで、それ以前に森に息づいていた原ヨーロッパの様々な部族情念が抑圧された状態で今日の複雑な西欧の情念が蠢いているように見える。

ナチズムのような情念と思考も、原アングロサクソンの情念が抑圧されたために歴史的意識の表面に異様な形で出現したものだろう、という一面も推察される。

逆ユートピア(dystopia )の思想 は、もちろん観念論としてのユートピア思想の前提があってこそ成立しうることは、矛盾した二つの対立観念の絶対的自己同一性を説く仏教の縁起観からみれば当然に理解できることである。

仏教は、現世のユートピア性を超越した彼岸を説くから、東洋においては現世の逆ユートピアの成立も思想的にはありえないし、諸行無常を説く仏教に終末論はない。

以上は、政治的・社会的背景との関連において西欧哲学史を明解に叙述したラッセルの「西欧哲学史」 (1946)にもとづいて西欧的知性の情念を自己流に咀嚼したものである。

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ラッセルは晩年、核兵器廃絶の運動に身を投じた。

1967年には、ベトナム戦争を告発した書を発表 ( 「War Crimes in Vietnam 」)。

ロレンスが毛嫌いしたからといって、ケインズが極端に性的な異常性があるわけでもないだろうが、ラッセルのようなエリートたちによって、西欧のエリートたちの知性はかろうじて全体として正常が保たれているのだろう。

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ヨーロッパ大陸で育まれたプラトン的観念思想と、ユダヤキリスト教的情念の混在した意識を秘めた父に反抗するアングロサクソンの情念をもって、原住民の征服とアフリカ黒人の奴隷の使役(1860年国勢調査の奴隷人口400万人)の経験を経て、広大な新大陸で顕著に発達してきたのがアメリカ的グローバリズムの情念である。

そのようなグローバリズムの情念は、同朋のアメリカ国民の民情とは異質のエリート主義であって、今日いわれる<1% vs 99%>の構図の前者を構成する。

そのようなエリート主義にもとづくグローバリストと、民族主義・国民国家主義とが、それぞれの側で様々な変容した形でせめぎあって対立しているのが、現在の世界的風潮ではないのか。

そして、エリート主導のグローバリズムの超国家主義は「自由」を第一義的にソフトパワーとして信奉し、一方民族主義・国民国家主義派は「オーダー(秩序)」を第一義的に国民統制のソフトとしているから、保守的家族主義を擁護している。

後者に属するのは、西欧から一方的にその後進性を批判されている中国とロシアである。

中国とロシアは、それぞれの国内における非民主制や人権の欠如を西欧から非難されているが、西欧諸国によって自国外で世界的植民地化の過程で犯されてきた非人道的な行為と、現在もおこなわれている行動は、中国とロシア内での行われてきた悲惨と比べてどうなのだろうか。

問題は、西欧のグローバリストの政治家や企業人らと、西欧の多数の知識人たちや学生たちとに共用されている「自由」の理念が、それぞれに異なった用法で使われていることだ。

そして両者が、民族主義や家族主義を過剰に批判していることと、グローバリストが民族主義を批判し、多数の知識人たちを巧みに「自由」の理念で取り込んでいるように見えることだ。

ジョージ・オーウェルは「動物農園」で指摘する:

「すべての動物は平等である。しかし一部の動物は「より」平等である ( All ANIMALS ARE EQUAL BUT SOME ANINALAS ARE MORE EQUAL THAN OTHERS ) 」

グローバリストのエリート集団の一部は、政治と金融の支配によって平等を寡占する自由を先導し、時に人権を政治的に巧みに操作する。

そして、人々の生活の安定と安心に配慮する精神を当初から欠如したグローバルリストのエリートたちの目的が、支配それ自体の維持となり、結社的に結ばれた彼らの生活に性的な退廃と自己保存のために時として破壊的支配を実行するようになる。

ケインズとラッセルとはアングロサクソンの貴族的エリートであるが、その志向は異質である。
そしてロレンスとオーウェルは庶民派であり、反エリート主義であり自然尊重派を代表する。

近代西欧知識人の情念の性格と知性の傾向の本質は、西欧人自身にとっても複雑で理解しがたい。

これを理解しなければ、現在のトランプ現象、脱EU思想、そしてエリート主義にもとづくNWO ( New World Order ; 新世界秩序) や中国の儒教的秩序の意義も理解できないのではないか。

そしてロレンスとオーウェルは、西欧のエリート知識人の欺瞞を見抜いた人物であろうと思う。

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水の話から初めて、西欧知識人の性格にまで話題が飛んでしまったが、西欧の観念的計画的社会設計の思考はこれからも持続して行くだろう。

貴重な水の争奪戦でも、一部のグローバリストたちは長期的かつ計画的にその寡占化を目論むのではないだろうか。(3)

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日本の将来に希望を求めるならば、 現時点では、憲法改正などを論じている状況にはない。

水は、自由や平等や愛などの観念の根底にある人間の根源的価値観を支えている。

国家神道とも国粋主義とも非なる「水と森を尊重するエコロジーとしての神道」と、その是認のもとに生育してきた「仏教的日本文化」の根底には、水尊重の思想がある。

いま日本国民が一致団結してなすべきことは、水と日本文化の深い関わり合いを洞察し、具体的に日本列島の水の状況を総点検して、新たな禊(みそぎ)の蘇りをすることである。

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(1)井上義男『新しき天と地 評伝 D・H・ロレンス』
(2)「A History of Western Philosophy and Its Connection with Political and Social Circumstances from the Earliest Times to the Present Day)」 (1946)
(3)(参照動画)
 *【水道民営化】麻生太郎副総理兼財務相が言及 2013年4月19日 G20財務相・中央銀行総裁会議 CSIS戦略国際問題研究所。
 *【イントロ】食い物にされる水道民営化・ダム・治水――国富を売り渡す安倍政権の水政策の裏を暴く!岩上安身による拓殖大学准教授・関良基氏インタビュー2017.4.25。
 *橋下徹 『議会の水道事業民営化反対が理解できない!』 2014/04/30 に公開。橋下徹さんが水道事業民営化について語っている動画です。議会が民営化に反対している理由が理解できないと話しています。国にとっても国民にとっても水道局自身にとってもメリットがあると橋下さんは主張しています。橋下徹さんの主張を報道する動画です。

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