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【NPJ通信・連載記事】時代の奔流を見据えて─危機の時代の平和学/木村 朗

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第四〇回「憲法違反の秘密保全法案は国民監視法案に他ならない─解散・総選挙で国民の信を問え!」

2014年5月6日

いまの日本では信じられないような異常な事態が世界注視のなかで静かに進行中である。
国会内外では慌ただしく緊迫した空気が続いている。 政府・与党が会期末の12月6日までに特定秘密保護法案を何が何でも可決させようと躍起になっているからだ。

現在国会(参議院)で審議中の秘密保全法案(特定秘密保護法案)は明らかに憲法違反(19条の 「思想及び良心の自由」、 21条の 「結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」、31条の 「【法定の手続の保障」、 37条の 「公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利」 などに反する)の内容を含んでいる。 また、その本質は、国民の監視と言論の統制であり、現行憲法の人権規定の停止と自民党改憲案の先取りである。 そのことを如実に示したのが、石破茂自民党幹事長の 「デモはテロと変わらない」 発言である。 この発言は、本人がブログに書いた軽はずみの発言というよりも、 この法案を成立させようとする政府与党(権力者)側の本音がはからずも露呈したものといえる。

特定秘密保護法案の第12条はテロリズムを 「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、 又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動」 と規定している。 しかし、このテロリズムの定義は、複数の解釈を許す曖昧なものであり、権力者の恣意的な拡大解釈の余地を残す危うさを持っている。 というのは、後半の 「社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動」 だけでなく、 前半の 「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し」 ようとする活動も、 テロ(あるいはテロリズム)として認定される可能性と危険性があるからだ。

これに対して、石破幹事長が口を滑らせたと問題視されているブログ(11月29日付)は 「主義主張を実現したければ、民主主義に従って理解者を一人でも増やし、支持の輪を広げるべきなのであって、 単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われます」 と述べている。 これが 「主義主張に基づき、国家もしくは他人にこれを強要」 という規定と具体的に重なり、 この法案によって市民活動が場合によってテロ行為と同一視される危険性があることに多くの人々が気付くところとなったのである。

これとの関連で注目されるのが、自民党の改憲草案21条第2項の存在である。 そこには、「公益および公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的とした結社をすることは、認められない」 と書かれており、 「公益とは何を想定しているのか」 「現行の法秩序に異を唱える政党や市民団体も含まれるのではないか」 など表現の自由への制約を懸念する声が多くの人々から上がっていたのである。 このことから、今回の法案がまさに自民党改憲案の先取りであり、 「結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」 を認めている現行憲法21条と真っ向から対立する性格をもっていることが明らかである。

また、有事関連法制の中でも、「緊急対処事態」 を挿入することによって平時においても 「本来テロなど治安や犯罪に関わる部門まで戦争法で対応させて、戦争法が日常的に運用可能な、“臨戦態勢社会”へ組み替えることを可能に」 した、 いわゆる 「国民保護法」(正式名称は、「武力攻撃事態における国民の保護のための措置に関する法律」)がそれと連動していることも注目されます (上原公子・元国立市長 「有事法は戦争憲法への準備だった」 木村 朗・前田 朗共編著 『21世紀のグローバル・ファシズム ~侵略戦争と暗黒社会を許さないために~』 耕文社、2013年12月刊行、を参照)。

石破発言には、「市民のデモをテロ行為呼ばわりすることは民主主義破壊の暴言」 として、多くの市民から抗議・批判の声が当然のごとく殺到した。 これに対し、石波幹事長は、12月2日付の公式ブログで、『「一般市民に畏怖の念を与えるような手法」 に民主主義とは相容れないテロとの共通性を感じて、 「テロと本質的に変わらない」 と記しましたが、この部分を撤回し、「本来あるべき民主主義の手法とは異なるように思います」 と改めます。』 と書いて先のデモ=テロ発言を一部修正した。 しかし、これは先の自分の発言その物は完全に否定せずに、言い逃れをしただけのもので、 本心が依然として変わっていないことを示していると解釈・評価できます。 そこにあらわれているのは、特定秘密保護法案に反対する市民運動に対するあからさまな敵意であり、 デモに示される大衆の底知れぬ力・エネルギーへの恐怖である。

そのことを見事に説明してくれているのが、童子丸開氏(スペイン在住の国際問題評論家)は、 「スペインの支配階級にいる者たちが民衆の直接民主主義に対して口を滑らせた罵倒の言葉を、我々は軽く見るべきではありません。 それは単なる感情任せの妄言でも政治思想に対する道や誤解でもなく、世界中の支配階級に属する者たちが共通して持っている、 自分たちの真の敵に対する本能的な恐怖感の表れなのです」 という言葉である(童子丸開 「虚構に追い立てられる現代欧米社会」 木村 朗・前田 朗共編著、前掲 『21世紀のグローバル・ファシズム 』 に所収、を参照)。

それにしても、昨年の野田政権における秘密保全法案の浮上や今年4月の安倍政権による特定秘密保護法案国会提出の閣議決定以来の経緯を考えても、 この間野党各党やマスコミがこの 「稀代の悪法」 を本気で廃案に追い込む気概・覚悟があったとは到底見受けられない。 本来ならば、慎重審議や徹底審議を求めるのではなく、当初から野党が一致して憲法違反であることを指摘して審議拒否を貫き、 即時廃案を要求して解散・総選挙に追い込まなければならなかったのではないか。 この点で、政府・与党が法案の会期内成立に向けて急遽独断で開催を決めたさいたま市での公聴会に、 他の野党が出席を拒否する中でただ一党だけ参加した共産党の対応は、 結果的に中身の無い茶番の公聴会開催の 「アリバイ作り」 の協力したことになったのではないかと大いに疑問である。

政府・与党が今日(5日)中にも参議院特別委員会だけでなく、本会議での強行採決でさえ行う構えを見せているのはまさに歴史的な暴挙であり、 いまが日本の将来を決定づける歴史的瞬間なのだ。時代を逆行させる秘密保全法案を何としてでも廃案にしなければならない。

2013年12月5日 秘密保全(特定秘密保護)法案の強行採決を直前に控えて

※ 現在、国会内外だけでなく日本内外でこの法案の廃止を求める声は次第に大きくなっている。 すでに弁護士、ジャーナリスト、研修者だけでなく、芸能人や演劇人など国民各層が立ち上がり、 各種の専門組織や市民団体が数多くの反対決議・声明文を発表している。
下記に評者も参加している日本平和学会理事会有志一同による緊急反対声明文をご紹介する。

歴史に逆行する 「特定秘密保護法案」 に反対し

即時廃案を求める緊急声明
日本平和学会第20期理事会有志一同

私たちは、国際社会における戦争の原因・背景を解明し平和を実現する条件・方法を探求する研究者として、 今国会に政府与党が早期成立をめざして提出し、現在参議院で審議中の、特定秘密保護法案に対して強い危惧の念を持っています。
以下に、この特定秘密保護法案が持つ深刻かつ危険な問題点を列挙します。

1.法案の作成過程が不透明で国会での審議が拙速なこと
法案の中身を定めた有識者会議の議事録が作成されておらず、 国民の意見を聴取するパブリックコメントの期間も通常の半分(15日間)という短期間でした。 また、そこで出された9万件のパブリックコメントの約8割を占めた反対意見も完全に無視するかたちで国会に法案が早急に提出されたのも異例でした。 衆議院特別委員会および本会議での超短時間での審議打ち切りと強行採決も非民主的といわざるを得ないやり方でした。

2.「特定秘密」 の定義と範囲が曖昧なこと
「何が秘密かも秘密だ」 と指摘されているように、「特定秘密」 が明確に定義されていないために、 その範囲が恣意的に拡大される危険性がぬぐえません。具体的には、外交・防衛関連の情報(TPP交渉の内容、 米軍や自衛隊の装備・訓練・作戦活動など)だけでなく、 原発事故関連の情報(汚染・被曝の実態など)や刑事司法分野での捜査・裁判関連情報なども秘匿されることが大いに懸念されます。

3.「特定秘密」 の指定・判断を行う者が 「行政機関の長」 とされていること
主権者である国民の代表者である政治家ではなく官僚によって恣意的に 「特定秘密」 の指定・判断が行われるおそれがあります。

4.処罰の対象が広範囲で、処罰を受ける者が国家・地方公務員に限定されていないこと
処罰の対象者は、公務員の他に、メディア関係者(特にフリージャーナリスト)や政治家、裁判官、弁護士、研究者などの専門家、 そして一般市民にまで及ぶ可能性があります。 その結果、取材報道の自由だけでなく、国民の知る権利や国会の国政調査権まで侵害・制約される危険性が生じかねません。

5.「特定秘密」 の指定期間が事実上無限定であること
国民・市民による監視や後世の歴史家による検証が不可能な 「永遠の秘密」 が作り出されてしまう危険性があります。

6.「特定秘密」 の指定・判断の是非を問う独立した第三者機関の不在
独立した外部機関による審査手続きを欠いているため、当該 「行政機関の長」、実際には外務・防衛官僚だけでなく、 法務官僚(公安警察や公安調査庁の役人を含む。)らが広範な裁量権を独占し、その権限行使を規制することがきわめて難しくなります。

この他にも、「特定秘密」 を取り扱う者の適否を判断する適性評価制度が事実上の 「思想調査」 となって公安警察などによる国民の監視が行われる危険性や、国民への情報秘匿が徹底される一方で、 外国や国際機関への 「特定秘密」 の提供が妨げられないことなどの問題点があります。

この法案は、今国会に提出されてすでに参議院で審議中の国家安全保障会議(NSC)法案とセットになったもので、 集団的自衛権行使の政府解釈の変更(来年の通常国会に提出される予定の国家安全保障基本法案)も含め、戦後平和主義を逆転させ、 常に戦争に備える 「安全保障国家」 をめざす安倍政権の政策の一環といえます。
また、外交、防衛だけでなく、特定有害(スパイ)活動の防止、テロ活動の防止など4分野に関する情報を 「特定秘密」 として指定し、 その漏洩・取得を行なう行為を重い処罰によって禁止しようとするものでもあります。

現在の日本では情報公開と文書管理における制度上の不備が放置されながら、国民の個人情報が国家によって一元的に管理されやすくなっており、 個人のプライバシーを守ることが著しく困難となっています。そうした状況の中で、特定秘密保護法案を導入することは、 政府・行政機関の情報公開の強化・拡大に向かう世界の大きな歴史的流れに逆行するものであると言わざるを得ません。

この法案が成立すると、取材・報道の自由が制限を受けるばかりでなく、国民の知る権利を深刻に損なう重大な事態が生じることが懸念されます。 それは、息苦しい戦前のファシズム国家・暗黒社会への回帰にも等しいものです。 私たちは、戦前戦後の歴史、あるいは自国が明治維新以来歩んできた道をもう一度批判的に学び直す必要があります。

この法案は、言論と思想を統制し、戦争・警察国家への移行を促すことで、 国民の基本的人権と憲法の掲げる平和主義を根本的に否定するおそれを有しています。 私たちは、このような内容を持つ特定秘密保護法案に反対の意思を表明するとともに、その廃案を強く求めます。

2013年11月28日  日本平和学会第20期理事会有志一同

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