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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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あらためて現行改憲手続き法下での国民投票への幻想を払拭するよう呼びかける

2017年8月18日

 安倍晋三首相は、2017年5月3日の改憲派集会(日本会議系の第19回公開憲法フォーラム)へのビデオメッセージと、同日の読売新聞で、従来の安倍氏の改憲戦略を大きく転換した「9条3項附加」による9条改憲論を打ち出した。6月24日には産経新聞系の神戸「正論」懇話会で、次期臨時国会で自民党の改憲案を提出すると述べた。
 その後、安倍首相は東京都議会選挙で自民党が歴史的惨敗を喫したにもかかわらず、意固地になっているかのように、「改憲前のめり」の発言を続けている。
そして7月に入ると、各メディアの内閣支持率調査が軒並み急降下し、調査機関によっては、すでに危険水域の2割台に落ち込んでいる。頼みの8月はじめの「内閣改造」にしても、支持率回復のためのウルトラXはなくなっており、大きな効果は期待できそうにもない。
 もはや安倍首相の切り札としての衆院解散をしても、改憲発議に必要な3分の2議席をとれる保障はなくなった。安倍首相としては改憲発議をするなら、ますます衆院解散前に(両院で3分の2を持っているいまのうちに)やるしかなくなった。
安倍首相の改憲のための日程選択の幅が狭まってきている。安倍首相の改憲策動は追いつめられつつある。

 本連載前号に「安倍改憲~極右勢力の改憲論の起死回生の奇手・9条改憲論を打ち破ろう」を掲載した。多くの読者に関心を持って頂いたが、筆者は、この課題での市民運動の戦略的方向を提起したつもりだ。
 私たちの基本的スタンスは、「いま改憲は必要ない、それどころか、憲法3原則の理念をはじめとして憲法を生かし実現すべき課題は沢山あり、政治はそれに真摯に向き合うべきだ」というものだ。
 私たちの「対案」は日本国憲法だ。
 当然、私たちの側から改憲国民投票に期待し、その運動を推進するという立場はとらない。なぜなら、現行改憲手続き法(いわゆる憲法改正国民投票法)は重大な欠陥立法であり、それは権力者に有利なように仕組まれている法律で、民意を正当に反映できるものではない、という重大な問題があるからだ。
 このまま国民投票にもっていかれたら、極めて危険だ。
 この点では市民運動の内部にも異論があるのを知っている。
 そこで百歩譲って、万が一、改憲が発議された場合、国民投票を実施するための改憲手続き法がいかに危険なものであるかについて、改めて論じておきたい。

 筆者は2006年5月に改憲手続き法が与党から出されて以来、10年以上にわたって、同法の問題点を指摘し、運動を積み重ねてきた。たとえば筆者はNPJ通信「緊急事態条項からはじまる改憲」2016年9月6日掲載の「安倍改憲と憲法審査会、改憲国民投票について」でこう書いた。
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 なぜ私はただちに改憲国民投票に賛成しないのか。それは現在ある改憲手続き法(国民投票法)が民意をただしく反映できない重大な欠陥立法だからだ。国民投票の有料宣伝は資金・組織力の多寡によって大きな差が生じるし、公務員の憲法に関する国民投票運動に不当な差別・制限があること、国民投票運動期間が極めて短かく、有権者の熟議が保障されていないこと、国民投票の成立の条件としての最低投票率が定められていないことなどなど、多くの点で国民投票を提起する議会多数派(一般的には政府与党)に有利な制度設計なのだ。
 これはプレビシット(為政者のための人民投票)の危険がある。ナポレオンやナチスはこうやって国民投票を利用した。最近では英国のEU離脱の国民投票や、タイの軍事政権がつくった憲法草案の承認の国民投票の経験がある。これを見ないで、単純に国民投票が民意を正しく反映するなどと思ったら、大間違いだ。
 戦争法などに反対し、憲法審査会を監視し、民意を正しく反映しない「国民投票」やプレビシットに反対する運動を通じて、民主主義をいっそう根付かせ、憲法を守り、活かす民意を強化することこそ、焦眉の課題だ。
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 一般に、とりわけ安倍政権の下で、政治が民意を反映しないがゆえに、市民の中に間接民主主義への疑念が生じ、国民投票のような直接民主主義に期待する空気が生まれるのは当然だ。それだけではない、憲法第9条をはじめ、憲法の3原則(基本的人権の尊重、主権在民、非武装平和主義)と現実社会の極度の乖離から、それを国民投票で再確認し、為政者に強制したいという願望が生じるのもまた当然である。
 問題は、いま安倍政権が企てている改憲と、改憲国民投票がこうした期待に添うことができるものかどうかである。
 筆者は、それどころか、現在進められようとしている改憲国民投票はこれに全く逆行するもので、民意を正しく反映せず、安倍政権(あるいは改憲派)のための国民投票であり、プレビシットそのものだと考えている。

 改憲手続き法が自民・公明両党によって国会に提出されたのは2006年5月で、安倍政権下の2007年5月に3つの附則と8項目の付帯決議を付けて強行採決された。この法律は18歳投票権問題など投票主体や、一般的国民投票など投票対象、国民投票運動の内容などもあいまいなまま強行された欠陥立法だった。
 第2次安倍政権の下で、2014年6月、同法は18歳選挙権との関係や、公務員の「政治的行為」に関する部分を改定した。しかし、同法が民意を正しく反映しない悪法であるという本質は変わらなかった。

 2016年12月25日掲載の本連載「ホントに民主的? 国民投票の落とし穴」では、市民運動の側は、もともと改憲が民意でないのだから改憲手続き法はいらないという原則的立場を前提に、以下のような多くの問題を指摘した。

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 この法律が①最低投票率が定められておらず、低投票率でも改憲が成立するおそれがあること(国民投票が成立するためには、100歩ゆずっても、過半数、ねがわくば3分の2が必要です)、②国会で改憲が発議されてから、国民投票までの期間が60日から180日と極めて短期間であり、有権者が熟議する期間が短すぎること(私たちは1年でも2年でも当然と主張)、③有権者を20歳に定めるのは憲法という未来に責任をもつ最高法規の成否に若者を加えないのは間違いであること(私たち市民運動は18歳どころか、義務教育終了年限が過ぎた人びとに付与して当然だと主張しました。後に18歳投票権で自民党や民主党が合意しました)、④在日韓国・朝鮮人など、定住外国人に投票権を付与しないのは誤りで、外国にはそうした例があること、⑤TVのCMなど、マスコミなどを使った国民投票の有料コマーシャルを原則、投票日の2週間前まで容認するのも間違いだ(当初案はこの制限すらなかった。年がら年中、有名タレントが私たちの明日のためにも改憲に賛成しましょうとか、あるいはこの2週間の制限期間でも、私は改憲に賛成ですと語りかける事は可能です。)、これでは資金力によって宣伝力が決まってしまい、圧倒的な宣伝力の前に、ゆがんだ国民投票が実施されかねない、テレビ・ラジオ・新聞などの有料コマーシャルは一切禁止すべきだ、⑥公務員や教育者の国民投票運動について、不当な制限が多すぎること、議員を選ぶ公選法と異なり、憲法の将来にわたる選択に際しては、地位利用などの禁止はやむをえないとして、もっと大幅に自由にするべきだ、⑦憲法が定める「この過半数」とは何か、分母は有権者総数なのか、あるいは投票総数なのか、自公案は有権者の意見を最も反映しない「有効投票の過半数」にされ、棄権、白紙、他事記載などは意見の表明と認めないことは正しくないこと、などなど、さまざまに主張しました。
 これら指摘した点が変えられないままに、もし「国民投票」がおこなわれたら、その結果は民意を正しく反映するものとならずに、国民投票の発議者、議会の多数派、政府に極めて有利な結果を招くおそれがあります。
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 雑誌「通販生活」2017年盛夏号(7月発売)は、「国民投票が近づいてきた」「憲法改正国民投票とテレビCM」という巻頭特集を組み、「いまの『憲法改正国民投票法』はおカネのある改憲派に有利。まことに不公平だ」と指摘した。
 同誌は憲法改正国民投票法第105条の主旨は「国民投票の期日前15日以前は広告放送は100億円でも200億円でも、賛成、反対のテレビ広告、ネット広告を、出したいだけ出すことができる」と指摘する。さらに、10年前の同法が決められた当時は問題にならなかった「ネット広告」についての決まりがなく、ネット広告は投票日まで無制限だ、と指摘する。
 同誌で映画監督の森達也氏は「映像は『感情を動かすメディア』で、……一番簡単なのは『九条を変えないと、こんな怖いことになりますよ』という形で不安や恐怖感を煽ること」と述べる。
 また同誌で元広告代理店の営業マンだった作家の本間龍氏は「大量のテレビCMによる影響力は想像以上に大きいので、公平を期すためには全面禁止にすべき」「おそらく憲法改正に『賛成』『反対』が短いワンフレーズで連呼されることになるでしょう。それが大量に流れると、テレビをつけている人たちの耳にくり返し届く(ながら視聴)ことになり、その効果は想像以上に大きいのです」という。
 ジャーナリストの津田大介氏は「『災害救助などでこんなに頑張っている自衛隊を“違憲だ”と否定されていいのですか。憲法を変えて、大手を振って彼らを応援できるようにしましょう』というのは、国民感情に訴えかけるという点で効果的です」「よく考えられていると思ったのは、この主張が『自衛隊を合憲に』というわかりやすいワンフレーズで訴えやすいからです。このフレーズ自体に反対できる人はなかなかいません」と指摘する。
この特集記事は「通販広告」を専門にしている(株)カタログハウスが社の威信を賭けて以前からくり返し特集しているもので、非常に優れた内容である。ぜひ読んで頂きたい。

 そのうえで「通販生活」の記事には、ひとつ、気になることがある。
 同誌が「『国民投票のルール設定を考える円卓会議』の公開討論会も、マスコミや、民放連から無視されている、自民党主導でこのままいきなり九条国民投票の本番に突入してしまうのだとしたら、おそろしい。国民投票を楽しみにしている本誌としてはとても悲しい」として、憲法審査会の委員に同法105条の改定を呼びかけている点だ。
 筆者は「円卓会議」のみなさんをはじめ、この法律改定への努力に対して支持を惜しまない。しかし、安倍政権与党が多数を占める憲法審査会にその実現の可能性がどれほどあるだろうか。筆者は、安倍改憲阻止の運動を盛り上げ、改憲国民投票を阻止するために奮闘することこそ、この「悪法下での国民投票」を阻止する、可能で有効な道ではないかとおもうのだが。
                       (「私と憲法」2017年7月号所収 高田健)

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