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「丁寧な説明」は誰に
  国民不在の“軍拡宣言”

寄稿:飯室 勝彦

2017年8月24日

 北朝鮮情勢が緊迫するなかで2017年8月17日、日米の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)が開かれた。翌々日の19日付け朝日新聞朝刊の川柳欄にこんな句が掲載された。
 「媚びを売りお荷物を買う二人連れ」
 「このチャンス待ってたような防衛相」
 作者は大和田淳雄さんと下永功さん。一読して膝を打った人は多かろう。北朝鮮の脅威を好機として装備拡充を目指す自衛隊と、「アメリカ第一」を掲げて各国に米国製兵器を売り込む、トランプ大統領に迎合する安倍晋三政権――日米関係および「2プラス2」の本質を鋭く突き皮肉っている。
 
 閣僚会合で河野太郎外相と小野寺五典防衛相の日本側はさまざまな言質を米側に与えた。
・米国製の陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を自衛隊が導入する。
・安保関連法制で可能なさらなる日米協力の形を追求し、情報収集、訓練など新たな行動も探
 求する。
・向こう10年間の防衛力のあり方を示す防衛大綱、中期防衛力整備計画を前倒しして改定す
 る。
――などと米側に説明し、共同声明には「同盟における日本の役割拡大と日本の防衛能力の強
  化」が明記された。
 まるで日本がなし崩し的にさらなる軍拡を進めることを宣言したようなものである。小野寺防衛相は先に国会の閉会中審査で、グアムが北朝鮮のミサイル攻撃を受けた場合には安保法制の「存立危機事態」として集団的自衛権行使の対象となり得る、との考えを示した。
 小野寺氏の考えや「2プラス2」での合意を考え合わせると、自衛隊には米軍の補完どころか肩代わりを可能にする、強大な軍事力整備を期待されているといえよう。

 加えて安倍首相である。閣僚会合の翌18日、首相はダンフォード米統合参謀本部議長と会談し、日米の防衛体制と能力の向上のために具体的行動を取ることで一致した。
 いかに米軍のトップとはいえ、制服の軍人と一国の首相が1時間も直接話し合うのは異例の厚遇である。閣僚会合で防衛相らが振り出した約束手形に首相が直ちに裏書きする形となった。

 大多数の国民にとって合意内容は「聞いてないよ!そんなことは…」であろう。
 首相は都議選で惨敗した直後、国会を閉じるにあたって自分の独裁的政治手法を反省し、「これからは国民に丁寧に説明する」と約束したばかりである。
 しかし説明したのは米側に対してだけだった。国内的には何の説明もなく、自衛隊を肥大化させ、米軍の肩代わりを進めようとしている。やはりあの反省はポーズに過ぎなかった。
 
 弾道ミサイル発射を繰り返し、脅迫し続ける北朝鮮に備える必要性は理解できる。だがこんな重要なことを主権者たる国民に知らせず、国会で議論することもなく、米国との約束という既成事実を先行させるのは、国民主権や、「国権の最高機関」と規定されている(憲法第41条)国会の権威と優位性など憲法の諸原則に反する振る舞いと言わざるを得ない。
 安倍内閣は、野党の憲法第53条に基づく適法な要求を無視して国会の臨時会を召集せず、違憲状態のまま放置している。軍事大国化、自衛隊と米軍との一体化に向かってひた走る安倍政権の本質について、主権者の代表である国会議員が追及しようと考えても、主舞台は政権によって開かれないままである。安倍政権の反立憲主義的体質はますます明瞭になった。

 イージス・アショアは1基が約800億円、日本全域をカバーするには最低2基が必要だといわれる。防衛庁内では海上配備型ミサイル搭載のイージス艦を現在の4隻から倍増させる計画もあるという。このままでは既に5兆円を超えている防衛費が際限なく膨らんでいくのは必至だ。
 他方で政権は医療費その他の福祉予算の圧縮に腐心している。学費が工面できず進学をあきらめたり、多額の「奨学金」という名の借金を抱えて苦しむ、若者に対する支援は予算不足を理由に遅々として進まない。そんななかで防衛費だけが増えてゆく国家像は日本国憲法の意図する「国のかたち」とは大きなずれがある。

 アメリカも日本も北朝鮮に対して「非難」「圧力」「軍事的牽制」を繰り返してばかりいる。政治家も国民一般も「安全保障環境の緊迫化」「北のミサイルの恐怖」という決まり文句の前に思考停止に陥っているようにみえる。“軍拡宣言”はその機に乗じてなされた。
 軍事衝突を避けるためには軍事力による威嚇ではなく、幅広い国際社会を巻き込んで多様な方策を探るべきではないか。

 元フランス大使の小倉和夫さんは著書『吉田茂の自問』のなかで書いている。
「それしか現実に選択肢はない。この言葉は、感情に走らず、冷静な計算と戦略によって物事を決めるべき事を諭す上では最上の殺し文句である」「しかし、この殺し文句こそ、日本を日米開戦に追いやり、あの戦争の悲劇を引き起こした時に最も多く使われた殺し文句であったことも忘れてはなるまい」
 北のミサイルに目を奪われて見るべきものを見失ったり、「安保環境の緊迫化」などの殺し文句に惑わされたりすることのない冷静さを保持しながら、政権を厳しく監視しチェックする―――それが日本国憲法下で主権者に期待される姿勢であろう。

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