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加計学園問題

寄稿:弁護士 岸本 英嗣

2017年8月24日

1 はじめに(結論)

 本稿では,学校法人加計学園(以下「加計学園」)による獣医学部新設にかかる手続またはその認可が違法であることを概説する(なお,認可処分はまだなされていないが,本稿では,このまま認可処分がなされることを前提としている)。
 結論から言えば,現在政府によって公表されている資料等からは,これまでの手続において,平成27年6月30日に閣議決定された獣医学部新設の4要件(いわゆる「石破4要件」)が十分審議・検討されたとはいえず,当然ながら,石破4要件も満たされていないため,加計学園による獣医学部新設にかかる手続またはその認可は違法であると考えられる。

2 獣医学部の新設は一律禁止?

 大学または大学の学部を設置するには,文部科学大臣の「認可」という手続が必要になる(学校教育法4条1項一号)。
 しかし,獣医師養成に係る大学等の設置認可はしないとされている(「大学,大学院,短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準」第1条四号)。すなわち,獣医学部の新設は一律認めないというのが現在の政府の基本方針なのである。

3 国家戦略特別区域法による規制緩和と石破4要件

 このような基本方針の妥当性については議論があると思う。しかし,そのような基本方針がある以上,政府としては,その方針を踏まえて手続を進めなければならない。不適切な内容であるからといって,政府が法令を無視して良い訳がない。
 そのため,平成25年に成立した国家戦略特別区域法による規制緩和の一環として,獣医学部新設を認めようとする動きが現れ,政府内でも議論されるようになった。
 このような流れを受け,平成27年6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015―未来への投資・生産性革命―」の中で,獣医師養成系大学の新設については,4つの要件を満たす限りにおいて新設を認めることとなった。
 その4つの要件とは,
① 現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化すること
② 獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになること
③ 既存の大学・学部では対応が困難なこと
④ 留意事項として近年の獣医師の需要の動向も考慮して全国的見地から検討がされること
である(「石破4要件」)。

4 閣議決定の持つ意味

 このように,石破4要件は閣議決定された事項であるが,これは,法律上重大な意味を持っている。
 すなわち,閣議において決定された事項は,内閣の意思決定となる(内閣法4条1項)。また,「内閣総理大臣は,閣議にかけて決定した方針に基いて,行政各部を指揮監督する」こととなっている(同法6条)。要するに,閣議決定された事項は,内閣総理大臣を含む政府全体が守らなければならないルールとなるのである。したがって,国家戦略特別区域法による規制緩和のみならず,学校教育法による獣医学部設置認可においても,石破4要件が十分検討され,満たされていることが確認されなければならないのである。
 そして,現在政府によって公表されている資料等からは,そのような形跡は窺われない。

5 判例の裏付け

 行政処分の違法性について判断した最高裁判例からしても,石破4要件を検討せず,または石破4要件を満たさない処分は違法であると考えられる。
 最高裁判所第二小法廷平成19年12月7日判決(民集61巻9号3290頁)は,行政処分が,考慮すべきでない事項を考慮し,当然考慮すべき事項を十分考慮せずになされた場合には,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法であると判示している。そして,上記のとおり,石破4要件は,内閣の意思決定機関である閣議によって決定された要件であるから,獣医学部新設にかかる手続・処分において当然検討・考慮されなければならず,それがなされていない手続・処分は違法である。
 また,最高裁判所第三小法廷平成27年3月3日判決(民集69巻2号143頁)は,行政手続法12条1項により定められ公にされている処分基準につき,「特段の事情」がない限り,当該処分基準の定めと異なる取扱いは裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たることとなるものと解されると判示している。そして,上記のとおり,石破4要件は,閣議において決定され,公にされているものであるから,今回の獣医学部設置認可処分においても,特別な事情なくして石破4要件と異なる取扱いをすることは許されないはずである。そうすると,石破4要件を満たしていないにもかかわらず,特別な事情なしに,獣医学部新設の手続を進め,認可処分をすることは違法である。

6 おわりに

 以上のとおり,今回の加計学園による獣医学部新設にかかる手続またはその認可は違法であると考えられる。
 繰り返しとなるが,獣医学部の新設を一律認めないという現在の政府の基本方針の是非ではなく,あくまで今回の手続・処分が適法に進められたのかが問題とされなければならないことを再度強調しておきたい。
                                       以 上

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