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2020年改憲への賛否を問う

寄稿:弁護士 大城 聡

2017年10月17日

1 安倍首相の悲願-2020年改憲

 安倍晋三首相は、2017年5月3日、読売新聞のインタビューで、①憲法改正2020年施行を目指し、②自衛隊を認める条文を9条に加えること、③教育無償化及び④緊急事態条項について憲法を改正することに前向きな姿勢を示しました。

 現職の首相が、自民党総裁の立場であるとしながらも、憲法改正2020年施行を目指すと明言したことは大きな衝撃を与えました。改憲は、祖父である岸信介元首相から受け継いだ安倍首相の悲願です。安倍首相の公式ホームページには「戦後レジームからの脱却を成し遂げるためには憲法改正が不可欠です」と明記されています。※1

 都議会議員選挙での自民党の惨敗とその後の内閣支持率低下という状況の中で、安倍首相は2017年8月3日の記者会見で、秋の臨時国会に自民党の憲法改正案を提出し、2020年に新憲法を施行するとの目標について、「一石を投じたが、スケジュールありきではない」と述べ、必ずしもこだわらない考えを示し、改憲への流れは一度止まったように見えました。※2

 
2 再び現実味を帯びる2020年改憲

 しかし、今回の解散総選挙によって、再び2020年改憲が実現する可能性が出て来ました。

 2017年9月18日朝日新聞では、次のように報じられています。※3

  安倍晋三首相が年内解散を決めた背景には、悲願とする憲法改正への公明党の慎重姿勢が
  あった。野党側の態勢が整わない間隙を突くことで、改憲の主導権を取り戻す筋書きだ。
  首相ら改憲推進派は、細野豪志・元環境相ら民進党離党組や、小池百合子・都知事に近い
  若狭勝衆院議員らでつくる新党の協力を期待。ある自民幹部は「彼らを含めれば、いちか
  ばちかで3分の2に届く、という首相の見立てだ」と語る。

 「新党」は、この後、「希望の党」になります。希望の党は、「憲法9条をふくめ憲法改正論議をすすめます。国民の知る権利、地方自治の分権を明記します」という公約を掲げ、憲法改正に積極的な姿勢を明確にしています。新たな改憲勢力で3分の2を確保できれば、2020年改憲が実現する可能性が飛躍的に高まります。

 
3 想定される憲法改正のスケジュール

 憲法改正のためには、衆議院と参議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が憲法改正を発議し、国民投票で過半数の賛成を得る必要があります(憲法96条1項)。

 国会による改正の発議から国民投票までの期間は、60日以上180日以内で定められています(日本国憲法の改正手続に関する法律2条)。憲法改正が国民の承認を得た場合には、天皇は、直ちにこれを公布する」と定められています(憲法96条2項)。公布から施行までは早くとも6ヶ月と考えられます(参照:憲法100条)。

  憲法96条
  1 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、
   国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国
   会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

  2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を
   成すものとして、直ちにこれを公布する。

 ここで重要になってくるのが2019年夏の参議院選挙です。改憲勢力が3分の2以上を占めている状況ですから、選挙前に国会の発議がされる可能性が高いと考えられます。

 2018年1月から2019年春までの間に国会で憲法改正の発議をすれば、2019年夏の参議院選挙の前あるいは参議院選挙と同時に、憲法改正の国民投票を行うことができます。

 多くの人は実感がないかもしれませんが、あと1年から2年で憲法改正が実現するかもしれない政治状況にあります。

 
4 “液状化”する政党と国会議員

 希望の党の小池百合子代表は10月6日の記者会見で「(9条1、2項に)三つ目(自衛隊明記)を加えるのはある意味、屋上屋にならないか」と首相提案に疑念を呈しています。しかし、明確に反対を表明しているわけではありません。先に紹介したように希望の党は公約で憲法改正に積極的な姿勢を見せています。日本維新の会も「国民の生命・財産を守るための9条改正」「教育無償化」「道州制」を掲げています。一方、公明党は9条改正には消極的だと報じられています。

 今回の衆議院選挙の各報道機関の序盤情勢をみると、どの情勢分析を見ても、自民党、公明党、希望の党、日本維新の会を合わせれば、衆議院465議席の3分の2にあたる310議席を大幅に超えている状況です。

 例えば、自民党と希望の党が、9条改正と緊急事態条項追加で合意すれば、政権の枠組みにかかわらず、憲法改正の発議が可能になります。

 選挙結果によっては、さらに政党の離合集散があるかもしれません。安倍改憲に反対していた民進党から憲法改正に積極的な希望の党に移った国会議員がどのような行動をとるかも予想できません。あたかも「液状化」しているような不安定な政治状況から一気に憲法改正の発議がなされることも考えられます。

 
5 私たち主権者が議論し、納得して判断することが大切

 日本国憲法は、前文で「ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」と高らかに謳い、国民主権を宣言しています。ここで重要なことは、憲法改正は、主権者である国民の権利だということです。

 憲法は、天皇や内閣総理大臣を含む国務大臣、そして国会議員に憲法を尊重し擁護する義務を負わせています(憲法99条)。このことは総理大臣といえども憲法を改正する権利はなく、あくまでも憲法を改正する権利を持っているのは、主権者である私たち国民一人ひとりなのだということを意味しています。

 2020年改憲は、安倍首相や政治家の側から見れば十分に可能な状況です。今の政治状況では、安倍首相の悲願が実現する可能性が高いと思われます。しかし、それは、主権者である私たち国民が願っていることでしょうか。

 今回の選挙では各党が公約で、憲法改正の論点をたくさん出しています。

 主な論点だけでも、自衛隊の明記、教育の無償化・充実強化、緊急事態対応、参議院の合区解消(自民党)、一院制、知る権利・地方分権の明記(希望の党)、教育無償化、道州制(日本維新の会)、解散権の制約(立憲民主党)などがあげられます。

 私たちは主権者として、十分にこれらの論点を理解し、議論しているでしょうか。

 あと一年余りで、十分に議論し、納得して国民投票に臨めるでしょうか。

 私は、憲法改正は国民の権利ですから、改正することも含めて多事争論いろいろな議論をすべきだと考えています。しかし、2020年改憲では、私たちが議論する時間もなく、憲法改正するかどうかの判断を迫られる危険が大きいと思っています。だから、私は2020年改憲には反対です。

 憲法は、私たちが生きる社会の土台です。その土台を作り直す時には小手先の議論ではなく、本当にじっくりと時間をかけて、腹に落ちるような納得をして賛否を決めたいと思います。2020年改憲では、そのような時間がないのです。

 
6 主権者である私たち一人ひとりが問われている

 安倍首相が2020年改憲を掲げ、再び現実味を帯びてきた今だからこそ、この衆議院選挙で、各政党と全ての候補者は2020年改憲に賛成なのか反対なのかを明確にすべきではないでしょうか。

 そもそも憲法改正に反対という立場だけではなく、憲法改正に積極的な姿勢を持つ政党や政治家でも、国民的議論の時間が足りずに2020年改憲には反対ということも考えられます。

 2020年改憲に向けて憲法改正の議論を進めていくのか、それとも、2020年改憲に反対するのか。

 各政党と全ての候補者は、このいずれかを明確にすべきです。

 報道機関には、曖昧なまま選挙戦が終わることがないように、各政党、各候補者にこの問題について切り込んでもらいと期待しています。

 そして、何よりも2020年改憲への賛否を問われているのは、主権者である私たち一人ひとりです。

 2020年の東京オリンピックの前に、日本国憲法を改正することを望むのか、それとも望まないのか。

 今、この衆議院選挙で、私たちに問われているのです。

※1 安倍晋三公式ホームページ-「基本政策-憲法改正」

※2 時事ドットコム2017年8月4日

※3朝日新聞デジタル2017年9月18日

           (HUFFPOST「2020年改憲への賛否を問う」大城聡 2017.10.14掲載)

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