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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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安倍首相の動揺と再転進~4月の安保法制懇答申に反対し、 集団的自衛権行使容認の閣議決定強行に反対する大運動を!

2014年5月7日

立憲主義を否定し、憲法第9条をないがしろにした、安倍内閣による集団的自衛権の行使に関する歴代政府解釈の変更の企てが、急速に進んでいる。

153号の 「私と憲法」 巻頭文で、筆者は以下のように指摘した。

……安倍首相は第一次政権以来、第9条に代表される平和憲法を敵視し、改憲を企ててきたが、多くの市民の改憲反対の世論によって阻まれ、 9条明文改憲に直ちに着手する道は阻まれた。迂回策として考えられた96条改憲という奇手も世論の前に失敗した。 そこで、安倍首相は明文改憲ができないままで、憲法を踏みにじり、この国が 「戦争する」 ことが可能な道をすすめようとしている。

……国家安全保障基本法は自民党の法案要綱では、その10条で 「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合、 自衛権を行使できる」 とし、11条で海外での武力行使を可能にしている。 「自衛権」 一般を行使可能とすることで、従来唱えてきた個別的自衛権は可能だが、集団的自衛権行使は駄目だという見解を清算しようとしている。

……昨今の安倍政権の動きで警戒を要することは、これが必ずしも国家安全保障基本法の策定を先行させるとは限らないことで、 1月11日の磯崎・内閣安保担当補佐官によれば、有識者懇談会(註・安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)が4月にも出す報告書にもとづいて、 法制化・立法改憲なしで、内閣法制局に命じて政府見解の原案を決め、与党との調整を経て、 通常国会中に集団的自衛権解釈変更・行使の結論をだすこともありうると言われていることだ。基本法策定を渋る公明党を考慮しての対応だ。

2012年7月に自民党が法案骨子を策定した国家安全保障基本法案。 以来、安倍晋三ら自民党は集団的自衛権の歴代政府解釈の変更をこの基本法の制定で正当化(立法改憲)しようとしてきた。 自民党は先の国政選挙でも、これを選挙公約に掲げた。しかし、集団的自衛権の解釈変更や、国家安全保障基本法には世論の動向は慎重だ。 そればかりか、繰り返し公明党の山口代表が慎重を表明している。 公明党の中でも太田昭宏国交相や、井上義久幹事長がそれぞれニュアンスの異なる発言をしている。 維新やみんなの党を 「健全野党」 などと持ち上げて公明党に脅しをかけるものの、自公連立は政権維持をはかる自民党にとって不可欠の要素だ。 自公連立政権を維持しようとすれば国家安保基本法は容易ではない。そこで、またも安倍政権の動揺となった。

従来から安保法制懇の北岡伸一座長代理は 「(集団的自衛権についての)解釈変更には (1)首相が談話などで宣言 (2)閣議決定  (3)安全保障基本法の制定-の三つの方法がある」 と説明してきた(雑誌 『中央公論』 13年10月号)。 『中央公論』 誌論文ではこのうち、(1)か(2)の方式がよいと述べている。 これは石破自民党幹事長らが進めてきた国家安全保障基本法は必ずしも必要ないという立場だ。

安倍首相はいま、この安保基本法の法制化なしに(1)(2)の道をとることを追求し始めている。 前記、1月に磯崎補佐官が語ったように、4月の安保法制懇の答申を受けて、内閣法制局に圧力をかけて確認させることで、その正当性を権威づけ、 与党と閣内で集団的自衛権行使についての政府解釈の変更の合意をとり、首相の 「宣言」 か 「閣議決定」 で変更してしまおうというのだ。 安倍首相は北岡氏の提言に沿って、自民党の選挙公約すら無視して、集団的自衛権の憲法解釈の変更という極めて重大な問題を、 極力、国会審議を回避してやってしまいたいという狙いが透けて見える。そのため、すでに病気の小松一郎内閣法制局長官を強引に職場復帰させた。

安保法制懇は2月4日に開かれた第6回会合で、すでに論点整理を終え、4月の報告書の準備に入った。 3月には報告書の原案が作成されるといわれている。

安倍首相はこうした方途をめざして、2月13日、衆議院予算委員会で 「(憲法解釈を変えて、集団的自衛権の行使を認めるかどうか)、 最高の責任者は私だ。私たちは選挙で国民から審判を受けるんですよ。審判を受けるのは内閣法制局長官ではない」 と発言した。 この発言は首相が憲法解釈の変更を行う、問題が有れば選挙で審判を受ければいいというもので、立憲主義の原則を破壊する極めて乱暴な発言だ。 歴代の内閣が踏襲してきた憲法解釈は、私たちから見ればその解釈改憲的見解に批判はあるが、 国権の最高機関としての国会が審議を重ねる中で打ち立ててきたものであり、 国会での議論もしないままに安倍政権という一内閣が勝手に変更して良いものではない。 それが許されるとする安倍首相の見解は、国会の行政に対する監督機能をないがしろにするもので、立憲主義に反し、憲法を破壊するものだ。 この発言は絶対に容認できない。

2月21日、日本記者クラブで会見した北岡伸一安保法制懇座長代理は 「『報告書』 提出後のプロセスについて、政府が行使容認を閣議決定し、 自衛隊の行動を定める自衛隊法や朝鮮半島有事などへの対応を定めた周辺事態法、国連平和維持活動協力法(PKO法)の改正に着手するとした。 集団的自衛権の行使を法的に担保するため自民党が選挙公約に掲げた国家安全保障基本法の制定については 『二度手間になる』 と述べ、 個別法改正を急ぐべきだと訴えた」(産経新聞2月22日)という。

こうしたことからみて、安倍政権は、今期通常国会を延長してでも、憲法解釈の変更を閣議決定の形で行い、 次の臨時国会では、国家安全保障基本法からではなく、まず、武力攻撃事態法と対になるような 『集団自衛事態法』(仮称)の策定、 あるいは 「周辺事態法」 の改定、および、いわゆる自衛隊活動のグレーゾーンへの対応も含めて自衛隊法における 『集団自衛出動』 的任務規定を導入する同法の改定や、国連平和維持活動協力法(PKO法)の改定などの法制化を追求するという方途をとろうとしている。

4月に提出される報告書の詳細は不明だが、前記 「北岡記者会見」 によれば、(1)在外邦人の救出を含む個別的自衛権 (2)集団的自衛権  (3)集団安全保障-の3本柱で構成される。 そのなかで、漁民に偽装した武装集団が尖閣諸島(沖縄県石垣市)に上陸した場合といった武力攻撃に至らない 「グレーゾーン」 の事態にたいする領海警備体制の必要性にも言及する、という。

すでに、安倍政権は安保法制懇に対して従来から検討させてきた4類型~(1)公海上で米軍艦船が攻撃された際に、自衛隊艦船が反撃  (2)米国を狙った弾道ミサイルを自衛隊のミサイル防衛システムで迎撃 (3)国連平和維持活動(PKO)参加中、 攻撃を受けた他国軍隊を救援する武器使用 (4)戦闘地域における他国軍への後方支援~だけでなく、 新たに、米国を攻撃した国に武器を供給する船舶への強制調査(臨検)や、 近隣有事での集団的自衛権行使や集団安全保障への参加など5事例を検討させている。

2月4日の安保法制懇では、具体的に、(1)潜没航行する外国の 「潜水艦」 が日本の領海に侵入し、退去要求に応じないケース、 (2)日本の領海内の海上や離島で、武装集団が日本の船舶や民間人に対し 「不法行為」 に及び、海上保安庁では対応できないケース、 が新たに検討されたという。いずれも、現行の政府解釈を前提とすれば、 わが国の自衛権発動の3要件の一つである 「急迫不正の侵害」(武力攻撃の発生)を充たさず、 自衛隊の出動=個別的自衛権を行使することはできないが、これの突破もはかろうとしている。

北岡氏は 「集団的自衛権使の要件」 として以下の5つを挙げている。 「密接な関係にある国が攻撃を受けた場合」 「放置すれば日本の安全に大きな影響が出る場合」 「当該国からの明示の要請」 「第三国が領域通過を許可」 「首相が総合的に判断し、国会が承認」 だ。

安倍首相はこれらの集団的自衛権の解釈変更を行い、 年末までに見直しを終える予定の日米防衛協力指針(日米ガイドライン)の再改定に反映させようとしている。

これについて、2月20日、安倍首相は衆議院予算委員会で、集団的自衛権の行使容認を巡る憲法解釈の見直しについて、 「政府の有識者懇談会の検討を受けて、与党とも協議しながら最終的には閣議決定する方向になる。 実際に自衛隊が活動していくためには根拠法が必要だ。閣議決定して案が決まれば、国会でご議論をいただく」 と、その方向性を述べた。

これら安倍首相の企ての先には 「戦争をする国」 がある。戦後68年余にわたって、日本の軍隊が海外で人を殺さず、 戦争で殺されることもなかったのは、曲がりなりにも平和憲法が機能してきたからだ。 安倍首相はしゃにむに突っ走ることで 「戦後レジームからの脱却」 を果たし、 「日本を取り戻」 し、自らに課した 「歴史的使命」 であるこの憲法を壊そうとしている。

いま、重大な事態が迫っている。私たちはかつてない規模での憲法闘争を展開することで、安倍首相の野望を打ち砕かなくてはならない。

(「私と憲法」 154号所収 高田健)

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