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【NPJ通信・連載記事】メディア傍見/前澤 猛

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「アーロン収容所」 と 「真珠湾収容所」 に見る人間性

2014年5月7日

前号で紹介したオーテス・ケーリ(1921~2006)の遺著 「真珠湾収容所の捕虜たち」(ちくま文芸文庫)が近く3刷になるという。 原本は1950年刊行の 「日本の若い者」(日比谷出版社)で、この7月に筑摩書房から復刻出版されたばかりだから、かなりの好評といって良いだろう。 復刻実現に参画した一人として、嬉しい限りだ。

「真珠湾収容所の捕虜たち」 と対象的な本に、ミャンマー(ビルマ)の捕虜収容所を対象とした会田雄次著 「アーロン収容所」(中央公論新社)がある。 同書は話題のロングセラーで、1962年の新書版出版以来90刷に及び、その後1973年に初版が出た文庫本も、 ことし35刷 に達したという(同社編集総務部の話)。

実は、先日、東京・六本木の国際文化会館で、ケーリのご遺族主催の懇親会があり、筑摩書房の編集者・湯原法史氏や、 ケーリゆかりの同志社大学アーモスト・クラブの吉崎雅俊氏、そして小生も招かれた(ケーリは同会館の設立に参画し、理事としてその運営に貢献した)。 その席上、私は両書を取り上げ、要旨、次のような話をした。

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「アーロン収容所」 は英軍が管理した日本軍捕虜の収容所だった。同書の新書版には 「西欧ヒューマニズムの限界」 という副題が付いていて、 会田はこう書いています。
「この経験は異常なものであった。…すくなくとも私は、英軍さらには英国というものに対する燃えるような激しい反感と憎悪を抱いて帰ってきたのである」 (「まえがき」])。そして、さらに恐るべき言葉を発する。
「戦後十数年のその時点でも、 イギリス人には赤ん坊だろうが子供だろうが哀願されようが殺してしまいたいほどの憎しみを持ちつづけているという意味のことを書いた。 事実現在でも、ふと収容所の事件を思い出すと、寝ていても思わず床の上に突立ってしまうほどの憎しみとも怨恨ともつかぬ衝撃にうたれることがよくある」 (文庫版「あとがき」)。

一方、「真珠湾収容所…」 は、米軍が管轄したハワイの捕虜収容所で、所長がケーリだった。彼はこう書いています。
「離陸だけを教えられ、往きのガソリンだけを積んで日本を飛び出し、僅か数時間後に米軍の手に落ちた十七、八の少年もいる。 戦局の段階や、人の育ちによって、捕虜の性格は千差万別である。彼らが、ひしめき喚く〝沙漠″に私も裸で飛びこんでいった。 そして、むしりとられた雑草が時を経て、岩の間から芽を吹き出したのを見た。この雑草の芽の美しさを教えてくれたのは、彼ら捕虜だった」(「はしがき」)
こうした捕虜の一人は、戦争終結直後、日本に向けた放送で、深い感謝の言葉を述べています。
「私は深呼吸をした。そして、ゆっくりとマイクに話しかけた―戦争が終わりました。 いま、私のまぶたの裏には明るい光と暗い陰が、走馬灯のようにぐるぐると回っています。明るい光は米軍から手厚いとりあつかいを受けて、 不自由のない毎日を今日まで送り、いま祖国再建めために帰国しようと、その日を待ち受けている明るい捕虜たちの顔であり、 暗い陰は南海の島々に取り残されて餓死し、ジャングルの谷間に骨を埋めていった戦友たちの惨めな姿であります…」(1979年、 図書出版社刊 「投降」 の著者・小島清文)

会田は、「アーロン収容所」 から、凄まじいばかりの憎しみを抱いて帰国し、「やっぱり、とうとう書いてしまった…」(会田雄次)と、怒りをぶちまけた。 他方、「真珠湾収容所」 では、捕虜は収容所側に感謝し、明るい顔で 「祖国再建のために帰国しよう」 と日本に呼び掛けました。 「偏見と差別」 にあえいだ収容所と、「人間平等主義」 の恩恵をこうむった収容所と、その格差はあまりにも大きかったのです。 そうした両極端の偽らない実態を描いたこれら二つの本、「アーロン収容所」 と 「真珠湾収容所の捕虜たち」 を、 いまの日本の人々に是非読んで欲しいものです。

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「アーロン収容所」 についての評価はすでに定まっている。「真珠湾収容所…」 についても、かなりメディアで高く評価されているが、 ここでは、一般読者の感想を、以下 Web の Amazon から引用したい。

① 「国境を超えた人間主義の大切さを教えてくれる」
本当に素晴らしい内容でした。これほどまでに日本に尽力したオーテス・ケーリという人がいたことに驚きました。
捕虜たちと築く絆、彼らの行いに対する感動、また自分が知らない本当の歴史に触れられた気がして、物語に魅了されますが、 ケーリ氏の目を通じて、時代は違えど、現在に共通する憂いや危機感も同時に感じさせられました。
僕らのように戦争を知らない世代には、本書の客観的な視点は、戦争の悲惨さだけを伝える記録よりも、リアリティを感じさせてくれます。
解説者が危惧するように、昨今の世論には、戦前の臭いが漂い始めているように感じます。 60代くらいの初老のタクシー運転手から 「今の日本の装備なら中国と戦争をしても負けないから、やってしまえばいい」 と言われ、閉口したことがあります。 「さっき別のお客さんと盛り上がった」 とも言ってましたが、見も知らぬ他人に面と向かって、そんな話題ができる風潮があるのだと実感させられました。
昨今のキナ臭さに疑問を抱かせるためにも、多くの人に本書を読んで頂きたいです。

② 「とても満足しました」
以前から第2次大戦関連の日米関係の書籍に興味があるので、購入しました。 昭和25年出版の復刻版ということですが、今の日本にもそのまま当てはまることが多く書かれており、日本人は、戦後すぐから全然進歩していないのだな、 ということを痛感しました。本質的には、戦前から精神的には何も変わっていないのかもしれません。 内容的には著者の日本人に対する愛情が強く感じられ、こんな人たちが多ければ、日米関係もずいぶん変っていたのではないか、と感じました。 それにしても、言葉の面で現地で生まれ育ったバイリンガルの人というものはうらやましい限りです。

① のレビュー者の名前 「小枝祐基」 を見て、びっくりした。大学で私のゼミにいた教え子だった。 確かに、彼の言うように、オーテス・ケーリは、「国境を超えた人間主義の大切さを教えてくれる」。
同時に、ケーリは、今日の日本人が目を逸らしがちな戦中、戦後の日本に染み付いた本質的な問題を、鋭く衝いている。 そのことによって、読者は、現在の日本と日本人のあり方に対しても、多くの示唆を得ることが出来るに違いない。

(2013年11月28日記)

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