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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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憲法9条改正と北朝鮮問題を考える

2017年12月5日

 憲法9条改正と北朝鮮問題について、井上弁護士が学習会で使用したQ&Aを掲載します

 
Q1 安倍政権は、北朝鮮の脅威と少子高齢化を国難として「国難突破解散」と称し国会を解散し、憲法9条改正を公約にして総選挙で勝利しました。憲法9条改正と北朝鮮問題とはどのような関連があるのでしょうか。

A1 北朝鮮問題は憲法9条改正と常に結びつけられて来ました。古い話では、昭和38年に実施された「三ツ矢作戦計画」がそうでした。1980年代の有事法制研究、1999年の周辺事態法、2003年、2004年の有事法制の制定と憲法明文改憲の動き、2015年安保法制制定は、いずれも北朝鮮との武力紛争を想定したものでした。
 1980年代の有事法制研究は、1978年日米防衛協力の指針を具体化するためでした。1999年周辺事態法は1997年改訂日米防衛協力の指針を具体化するものでした。2003年、4年の有事法制も97年改訂日米防衛協力の指針を具体化する内容です。2015年安保法制は2014年新日米防衛協力の指針を具体化するものでした。
 この様に見て行くと、憲法9条改正問題は、常に日米安保体制、日米同盟の強化と不可分の関係であったとも言えるでしょう。
 第一次安倍内閣(2006年9月に成立)は、北朝鮮による弾道ミサイル実験と初めての核爆発実験による北朝鮮脅威論の高まりの中で発足しました。第一次安倍内閣は、北朝鮮脅威論を背景にした9条改正を目論みましたが、2007年参議院選挙で大敗し、1年で退陣しました。しかし任期中に憲法9条改正につながる悪法を制定しました(自衛隊法と防衛庁設置法改正、教育基本法改正、特定秘密保護法制定の道筋を作った日米GSOMIA締結)。第二次安倍内閣は、第一次安倍内閣が短命に終わったため実行できなかった法案(国家安全保障会議設置法、秘密保護法案、集団的自衛権行使を可能にする9条解釈見直し)を実行しました。

 
Q2 9条を改正する大きな理由に北朝鮮の脅威が強調されますが、北朝鮮の脅威は9条改正の理由になるのでしょうか。

A2 北朝鮮脅威は憲法9条改正とは無関係なはずです。9条改正は我が国と日米同盟の抑止力を強化するためですが、そのような改正してみても、抑止が効かない北朝鮮の核・弾道ミサイル開発は解決しないからです。
 そもそも世界最大・最強の軍事国家である米国でも北朝鮮の核開発と弾道ミサイル開発を止めさせることが出来ませんでした。憲法9条を改正して日本がこれまで以上に軍事力を強化し、日米同盟の抑止力を強化してみても、北朝鮮を抑止できるはずはありません。
北朝鮮脅威論は憲法9条改正に都合の良い口実として使われているだけです。問題は憲法9条にあるのではなく、我が国の北朝鮮政策にあります。対話を拒否した制裁強化と軍事的抑止で北朝鮮の核開発や弾道ミサイル開発をやめさせることがでません。しかもこれは武力による威嚇を含む政策ですから、憲法9条に真っ向から反する政策です。

 
Q3 北朝鮮脅威論にどう向き合えば良いでしょうか。

A3 北朝鮮の脅威として語られているのは、弾道ミサイルと核兵器の脅威です。しかしこれらは北朝鮮問題から派生した問題に過ぎません。本当の脅威は、朝鮮半島での大規模武力紛争です。さらに、トランプ政権と安倍内閣の北朝鮮政策も脅威を構成します。さらに核兵器の存在が現実的な脅威となっています。核抑止力・拡大抑止力(核の傘)が、平和と安全を維持するのではなく、真逆の核兵器使用の脅威となって現れています。
 私たちが北朝鮮の脅威に向き合う場合に、大前提に置くべき条件は、絶対に武力紛争にしてはならないとの強い意志です。朝鮮半島で大規模武力紛争が発生すれば、朝鮮半島は核兵器による被害を含めて、破滅的な被害を受ける可能性があります。日本は米軍の後方支援と前進基地として、自衛隊と日本の総力を挙げた米軍支援がなされます。その結果北朝鮮からの核攻撃を含む弾道ミサイル攻撃も想定しなければなりません。
 北朝鮮の脅威を軍事的抑止力と制裁の強化で解決するのか、それとも北朝鮮との外交交渉で解決するのかという二つの路線の対立があります。どちらの途も北朝鮮の脅威を削減する、なくすることを目指しているはずです。その選択肢としては以下の三つをあげることができるでしょう。
(1) 北朝鮮の脅威を物理的に破壊、一掃する。
 この方法は国連憲章と現代国際法の下ではとりえません。北朝鮮がいかに脅威であっても、米国や日本に対して武力攻撃を行っていないので、自衛権行使はできません。中国との武力紛争のリスクもあります。さらに、金正恩政権崩壊後の朝鮮半島やその周辺での混乱が北東アジアの国際関係に及ぼす想定外の影響もあります。
(2)軍事的抑止力を高めて北朝鮮の脅威を封じ込める。
 安保法制と憲法9条改正の立場です。これが成功する見込みはありません。失敗すると武力紛争になるリスクが高いものです。軍事的緊張が高まる中で、双方が互いの意図を読み違えた結果偶発的な軍事衝突から本格的な武力紛争になることが懸念されます。
(3) 外交手段(「安心の供与」を含む)で相手の脅威を削減する。
 経済制裁は外交手段の一部です。しかしこれだけでは成功する見込みはありません。北朝鮮との対話を通じて北朝鮮にたいする「安心の供与」で解決しなければなりません。「安心の供与」とは、こちら側が北朝鮮の脅威にはならないと確信をさせる外交のことです。
 北朝鮮の核・弾道ミサイル開発はすべて米国の軍事的脅威に対して対抗するためです。その目的は北朝鮮の国家と金正恩政権の存続です。決して戦争を望んでいるわけではありません。

 
Q4 では北朝鮮問題とはどのような問題ですか。

A4 決して弾道ミサイルと核兵器開発問題だけではありません。これらは派生的な問題です。
 北朝鮮問題の最大の要因は、朝鮮戦争です。3年1ヶ月の朝鮮戦争では、200万を超える犠牲者を出しながら停戦し、その後平和条約締結もなく、64年間にわたり戦争状態が続いていることをまず挙げなければなりません。
 朝鮮戦争時、米国は北朝鮮を原爆攻撃しようとし、アイゼンハワー大統領は沖縄と航空母艦へ原爆を配備する命令を出しました。休戦協定締結後、間なしに米韓相互防衛援助条約が締結され、在韓米軍が駐留し、92年に撤去されるまで、韓国には北朝鮮を標的にした戦術核兵器が30年以上配備されていました。北朝鮮の核開発への衝動にはこの歴史的経験があるのです。
 朝鮮戦争休戦後も、非武装地帯(DMZ)をはさんで、南北で膨大な戦力(北朝鮮側70万人、韓国側50万人)が対峙しています。
 日米同盟も北朝鮮を最大の標的にする軍事同盟となっています。米韓同盟では、92年以降第二次朝鮮戦争を想定した作戦計画(OPLAN5027、5029、5015)があり、日米同盟には2001年9月策定された、第二次朝鮮戦争を想定した作戦計画5055があります。この二つの作戦計画は、朝鮮半島での武力紛争で連動します。毎年春と秋には米韓合同軍事演習が行われ、軍事的緊張を高めています。更に、日朝、米朝間には国交がありません。
 北朝鮮問題とは、冷戦崩壊後も北東アジアにおいて冷戦の遺構を根強く残し、北東アジアにおける分断と対立、軍事的緊張関係を作り出す最大の要因です。この取り扱いを失敗すると、大規模地域紛争となり(米韓連合作戦計画5027では、湾岸戦争規模の戦争を計画しています)、その際には核兵器使用の危険性もあります。
 私は、朝鮮半島の隣人として、絶対にこのような事態は避けなければならないと考えます。このことが、北朝鮮問題に取り組む際の不可欠の前提です。日本政府には残念ながらこのような前提も、包括的北朝鮮政策はありません。その時々の場当たり的な脅威対抗措置をとっているだけです。
 半世紀以上にわたる北朝鮮と、米・日・韓の間に横たわる不信と対立、脅威感情は根が深いのです。このことを直視することから、北朝鮮政策を組み立てなければなりません。私たちが、金正恩は何を考えているかわからない、怖い、信用できないと考えると同じように、彼は日・米・韓を同じように見ているはずです。
 脅威論を強調する論者やそれに同感する人々は、自分たちは脅威ではないし信用できると考えているのではないでしょうか。北朝鮮脅威論を強調すればするほど、北朝鮮もこちらに対して不信と脅威を感じます。北朝鮮脅威論を強調する前に、こちら側が北朝鮮にとって脅威となっていることを自覚しなければなりません(脅威の相対化です)。例えば、北朝鮮が弾道ミサイルを発射すれば、日本国内のマスコミは「北朝鮮の新たな挑発」と報道しますが、米韓合同軍事演習や、その際のB1-Bランサー戦略爆撃機が朝鮮半島上空を飛行しても「挑発」とは報道しません。
 北朝鮮問題を解決するためには、根気強い交渉が必要ですし、政治家にも私たちにも平和的解決への強い意志が求められます。「強い意志」と強調するわけは、北朝鮮の行動や発言に対して、脅威論が強調され、対北朝鮮強硬路線が声高に主張されても、それに流されてはならないという意味です。
 北朝鮮の核・弾道ミサイル開発問題は、北朝鮮問題という全体状況の中の一部にすぎません。これだけを単独に切り離して解決することはできません。拉致問題も同様です。

 
Q5 北朝鮮の脅威を解決するために、安倍政権は経済制裁強化と軍事的圧力の強化をはかっていますが、本当に有効な対処でしょうか、それに変わる政策はないのでしょうか。

A5 安倍政権の北朝鮮政策は有効なものではなく、かえって私たちを戦争の危機にさらすことになることは既に述べたとおりです。
 北朝鮮問題を解決するための我が国の包括的北朝鮮政策には、憲法9条こそが生かされるものです。金正恩政権が最も望んでいることは、北朝鮮の体制保証と経済発展です。そのためには、日朝・米朝の国交正常化、朝鮮戦争終結のための平和条約の締結、米国による消極的安全保障の法的誓約(北朝鮮にたいして核兵器使用をしないとの条約による誓約)、不可侵条約締結、経済制裁解除と経済支援などです。
これらの問題はこれまで六者協議の中で多くは合意され、一部は実行されてきたものです。六者協議は2008年12月に中断したまま現在まで再開されていません。しかしこれらの北朝鮮を巡る問題の解決のためには六者協議再開は不可欠です。今年8月6日に日本政府を含む全会一致で採択された安保理決議2371号は、六者協議再開を要請し、2005年9月の共同発表文で定めた合意事項やその他すべての関連する約束を支持するとしています。
北朝鮮は国連加盟国の中で我が国が唯一国交を結んでいない国です。国交正常化を目指す交渉の中で、歴史問題、拉致問題、文化財の返還問題などを解決することが可能です。北朝鮮との国交正常化にあたり日本政府が北朝鮮にたいして行う経済援助は、日韓国交回復後に日本政府が行った経済援助と同じとすれば、現在の貨幣価値に換算して1兆円を超えると言われており、北朝鮮にとっては強いインセンティブになるはずです。
これらの日朝間の諸問題を包括的に解決を試みたものが、2002年9月の平壌宣言です。小泉首相と金正日委員長との首脳会談で合意された平壌宣言は、日朝国交回復を目的にして、その交渉過程において、拉致問題や不審船問題を含む諸問題を解決に導き、他方で日朝間での安全保障対話の仕組みを構築するというものでした。日本政府の包括的北朝鮮政策を定めたすぐれた合意文書です。
 核開発問題は、日本の安全保障政策の要である米国の核抑止力に日本の安全を依存する政策の転換を迫られるでしょう。なぜなら、米国の核抑止力に依存する政策は、いざとなったら日本の安全を守るために北朝鮮を核攻撃してくれと要求している政策だからです。米国が北朝鮮にたいして消極的安全保障の法的誓約をしようとすれば、日本に対する米国の核の傘はそれだけ弱まることになります。日本政府が米国の核抑止力依存政策にしがみつけば、米国が北朝鮮にたいして消極的安全保障の法的誓約をしようとした場合、日本政府がその足を引っ張る恐れがあります。
 Q7で説明しているように、六者協議で合意された事項の中に、北東アジアの安全保障の枠組み構築がありますが、この構想が進んで行けば、軍事同盟の役割も変化せざるを得ません。日本の外交の基本とされる日米同盟基軸論を維持するかどうかが迫られてくるはずです。
 この様に北朝鮮問題を解決するためには、日米同盟の在り方自体を再検討しなければならない事態が必ず来るはずです。私達が相当に腹をくくる必要がある問題なのです。
 現在の北朝鮮をめぐる軍事的緊張状態を武力紛争にしないためには、日本政府が北朝鮮との対話のイニシアチブを取ることが重要です。トランプ政権につき従うだけで軍事的圧力を高めるよう米国に要求するのではなく、米国に対話を促す、日本政府が持っている独自の北朝鮮との対話のチャンネルを活用する、国連外交により国連事務総長の仲介外交を求める、韓国と対話路線で共同歩調を取る、中・露・韓国と六者協議再開の話し合いをするなど多彩な外交が可能なはずです。
 北朝鮮の脅威に対して私たちがどのように向き合うかを考える場合、私たちの憲法9条を守るという気概の本気度が問われています。

 
Q6 北朝鮮との外交交渉、話し合いは本当に可能でしょうか。

A6 金正恩とトランプ政権、安倍政権は軍事的対決を強めており、外交交渉や話し合いは決してたやすいとは考えられません。今必要なことは、本格的な外交交渉に入る前に、最低限双方の武力紛争を起こさせないための交渉です。
 この交渉では、双方の不信と対立が根深いものである以上、話し合いを始める条件を設定すべきではありません。無条件の話し合い、武力紛争を回避するための外交が求められます。

 
Q7 六者協議とはどのようなものですか。北朝鮮問題を解決する上で、現在も有効な方策でしょうか。

A7 6者協議は2003年8月から開催されました。米国クリントン政権の最後の年に、国務長官が訪朝し、米朝首脳会談の寸前までいきましたが、時間切れでブッシュ政権となりました。ブッシュ政権は北朝鮮にたいする強硬な封じ込め政策を始め、2001年1月年頭教書で北朝鮮にたいして「悪の枢軸」と呼びました。その後北朝鮮は使用済み核燃料からプルトニューム抽出を始め、核不拡散条約(NPT)から脱退宣言をしました。その結果ブッシュ政権は北朝鮮政策を修正し、米・中・露・日・韓・北朝鮮との六者協議へとつながりました。
 2005年9月には画期的な合意文書を発表し、2007年2月には「初期段階の措置」という合意に達しました。「初期段階の措置」は、①朝鮮半島の非核化②米朝国交正常化③日朝国交正常化④経済エネルギー支援⑤北東アジアの平和及び安全のメカニズムという5つの作業部会を立ち上げることを合意しました。これに加えて朝鮮戦争終結のための平和条約締結交渉も約束しました。
 北朝鮮はその後黒鉛原子炉の一部を破壊し、核関連施設の膨大な検証リストを提出しましたが、検証方法を巡る対立から2008年12月以降中断したままです。
 北朝鮮の核開発問題を解決するための有効な仕組みとすれば、現在でも六者協議しかありません。

 
Q8 憲法へ自衛隊を書き込むとの9条改正論(9条加憲論)とはどのような内容ですか。

A8 安倍首相が今年5月3日に改憲団体である日本会議の集会で発表したもので、9条1項、2項をそのままにして、自衛隊の存在を憲法に規定する条文を9条に付け加えるというものです。その後現在まで自民党憲法改正推進本部内で条文化作業が続けられていますが、条文案の発表には至っていません。
 共同通信が報道した自民党案は次のような条文です。

 「第9条の2 前条(第9条1項、2項)の規定は、わが国を防衛するための必要最小限度の実力組織として自衛隊を設けることを妨げると解釈してはならない。
  2 内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有し、自衛隊は、その行動について国会の承認その他の統制に服する。」

 自民党は、憲法9条に自衛隊の存在を書きこむだけだから、9条2項は変わ
らないと説明しています。しかし、自衛隊の存在は、その任務や装備、運用と
そのための安保法制があって初めて実際の自衛隊の存在になるので、任務や装
備、運用とは切り離された自衛隊などあり得ません。また、存在自体を任務や
装備、運用と切り離して条文化することは不可能です。そうなると、憲法条文
へ書きこまれる自衛隊の任務によっては、9条2項は死文化されるでしょう。
 以下は、上記自民党案を前提にした説明をします。

 
Q9 安倍政権、自民党は9条加憲でも政府解釈はこれまでと何も変わらないと説明しますが、本当にそうでしょうか。

A9 決してそのようにはなりません。まず、自衛隊違憲論は完全に排除されます。さらに現在の9条に関する政府解釈では、他国に対する武力攻撃が我が国の存立を脅かし、国民の生命、自由、幸福追求権が根底から覆される明白な事態(存立危機事態)では、集団的自衛権が行使できるというものです。いわゆるフルスペックの集団的自衛権ではなく、個別的自衛権の延長との位置づけです。
 ところがこの9条加憲により、安保法制の合憲化が図られるだけではありません。「我が国の防衛のため」ということから、フルスペックの集団的自衛権行使が可能になります。その結果9条2項の戦力不保持、交戦権否認が死文化する恐れがあります。「必要最小限度」という条文の解釈も、これまでより拡大解釈される可能性があります。

 
Q10 自衛隊はほとんどの国民が憲法違反ではないと考えており、災害救助や人道支援活動により、多くの国民の支持を得ています。憲法に自衛隊を規定しても何も変わらないのではないですか。

A10 安倍首相や自民党、9条加権を主張する論者がこのように説明していますが、この説明はごまかし、国民騙しの類です。この論は、憲法に自衛隊を書きこんで位置づける意味を過小評価しているか、誤魔化しています。
 憲法は国家の基本法として、国の在り方を決め、国内法制定の根拠となるものです。
 憲法9条は、我が国の在り方として、国際紛争を武力で解決しないという非軍事平和主義を規定しています。そのため、自衛隊を合憲とする政府解釈でも、憲法上は戦力不保持と交戦権が否認されているため、軍事力行使に様々な制約を課しています(専守防衛政策)。しかし、憲法9条に自衛隊を位置づけてしまうと、非軍事平和国家という国の在り方の基本が変えられてしまいます。
 憲法9条に自衛隊を規定しても今と何も変わらないという主張は、憲法に自衛隊の存在を書きこむことに対する過小評価か無知、もし分かって主張しているとすれば確信犯的な嘘つきであることを示しています。憲法9条に自衛隊を書きこめば少なくとも次のようなことが考えられます。
①これまで自衛隊が保有できる兵器に制限を加えてきたが、その制限がなくなる。攻撃型空
 母、ICBM,戦略爆撃機、核兵器など。敵基地攻撃能力の保有も合憲化される。
② 徴兵制が合憲化される。
③ 安保法制、有事法制が一層強化される。
④ 軍刑法、軍事法廷を作る根拠になる。
⑤ 軍事的公共性により基本的人権が制限される。緊急事態法制定の根拠となる。
⑥ 軍事秘密保護法制が制定される。
⑦ 自衛隊の基地を建設するための土地収用を可能にする。
⑧ 基地被害に対する損害賠償や差し止めができなくなる。
⑨ 軍事予算が増大して軍拡となる。他方で社会福祉が削減される。
⑩ 軍産学共同体が作られて、経済や学問研究が軍事化される。
⑪ 自衛隊による災害救助活動が疎かにされる。
 以上のことを裏返して考えると、憲法9条は単に我が国が平和国家であることを示しているだけではなく、日本社会の自由と民主主義、基本的人権を下支えしていたものであることが分かります。自衛隊を憲法に規定するだけで、社会の在り方を含めて大きな変化をもたらすものです。戦争のリスクを感じることなく、旅行、スポーツなどの娯楽を楽しむ、日々の生活を平穏に過ごす、ハロウィーンだとお祭り騒ぎするなどすべて憲法9条により、私たちの平和な暮らしが守られているからこそ出来るのです。これらの生活が、軍事優先の政治により、軍事優先の社会構造へと変化させられるでしょう。

 
Q11 このような憲法9条の改正をする必要性はあるのでしょうか

A11 憲法は国の基本法として、国内の法制度と社会の仕組みやありようを規定するものです。従って、高度の安定性を持たせなければなりません。法律改正で対処できる問題では憲法改正の必要はありません。また、憲法は基本法として条文は極めて抽象的なものですから、時代に応じて解釈や憲法判例の積み重ねで柔軟に対処できます。それでも対処できない問題が生じた場合に初めて憲法改正問題となります。憲法を改正するにしても、いったん改正すれば長年にわたり国家と社会のありようを規定しますので、将来の国や社会のありようを慎重に見定めながら議論しなければなりません。9条加憲により何も変わらないと説明する政治家は、改憲後の将来につき責任を持たないと述べているようなものです。目先の改憲願望を満たせばそれで良いというものです。「食い逃げ改憲」と呼ぶべきものです。
 改正論者は、北朝鮮の脅威、中国の脅威をあげ、抑止力強化が必要であると説明します。北朝鮮の脅威が9条改正の理由にはならないことはすでに述べました。
 改憲論者が根拠にする抑止力論の問題について、ここで基本的な問題を整理しておきます。
①抑止力とは多分に主観的なものであるため、どれだけの対処力で相手を抑止できるか、抑止
 されているのかを客観的に計測できない。その意味で極めて不確実だ。抑止力と紛争予防の
 因果関係は立証不可能だ。
②抑止力がどうしても効かない場合、相手国の脅威を抑止する手段がなくなる(現在の米国の
 北朝鮮への圧力政策が行き詰まっているように)。
③抑止は破れやすい、破れたときにどうするかの答がない。抑止力の基盤はかなり脆弱であ
 る。
 相手国もこちらと同様に理性的に考え行動すると信頼できること、相互に軍事力と意図につ
 いて正確に分かること
④どうしても抑止が効かないときには軍事力を行使するのでなければ、抑止力は「張り子の虎」
⑤日米同盟の抑止力は万全か、尖閣諸島防衛で米国は一緒に闘ってくれるのか(新ガイドライ
 ンを参照)、それとも「安定・不安定のパラドックス」にならないか?新ガイドラインでは、
 米国は日本と一緒に戦ってくれない。
⑥抑止力を強化することは、相手に対するこちらの脅威を高めて相手を封じ込めようとする
 こと。相手がこれに対して対抗的に抑止力を強化すれば、双方の軍拡と互いの安全が脅か
 される(安全保障のジレンマ)。

 冷戦を克服してグローバルな国際社会となった現代では、国際紛争を抑止力強化により解決するということはもはやできません。
 その他、6割以上の憲法学者が自衛隊違憲論だ、自衛隊は違憲だが自衛隊員にいざとなったら命を掛けろというのは失礼だ、自衛隊員士気を高めて抑止力を強化できる、などと感情的な議論があります。1954年自衛隊が創設されて以来、政府は自衛隊が合憲であると一貫して説明しており、大半の国民はこれを受け入れていますので、今更こんなことで憲法9条を改正する理由にはなりません。
 憲法で規定されている国家機関は、国会、内閣、裁判所、天皇、摂政、会計検査院くらいしかありません。自衛隊が憲法に規定されれば、これらの機関と並ぶ地位になります。自衛隊はかねてより、統合幕僚長、陸・海・空の幕僚長を認証官に格上げさせようと目論んでいます。認証官とは、憲法第7条5号で定めている天皇の国事行為により天皇から信任される官職です。国務大臣、副大臣、人事院人事官、最高裁裁判官、高裁長官、検事総長、検事長など極限られた高官が認証官です。
 自衛隊を憲法に規定すれば、自衛隊員の士気が高まりすぎて、私たちの社会の中で軍事的なものの価値が高まり、軍事優先社会になりかねません。幹部自衛官が認証官にでもなれば、「天皇の軍隊」という悪夢が再来することが懸念されます。

 
Q12 新ガイドラインと安保法制で、現在の自衛隊は専守防衛を超えた憲法違反の存在になっているのではないでしょうか。

A12 専守防衛とは、「相手からの武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限度にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限度のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢」と定義され、1970年第1回防衛白書から一貫して我が国防衛政策の基本とされてきました。自衛隊が合憲であることの根拠にもなっています。
 専守防衛政策を前提にして、自衛隊には様々な制約を課していました。「敵基地攻撃能力保有」禁止、専ら相手国を壊滅させることを目的とした攻撃的兵器(攻撃型空母、戦略爆撃機、ICBM)の保有禁止、自衛権行使の地理的限界(敵国領域までは及ばない)、海外での武力行使禁止などです。
 安保法制が施行されたのちの2016年度防衛白書、2017年度防衛白書でも専守防衛政策を維持するとしており、その字面もそれまでと何ら変わりがありません。しかし内容は大きく転換させました。「相手からの武力攻撃を受けた時」は、安保法制以前は「我が国に対する武力攻撃」の意味でしたが、安保法制制定後は「我が国と密接な関係にある国に対する武力攻撃」を含む意味となったのです。同じ専守防衛という言葉を使っても、その内容は大きく変質しており、7・1閣議決定までの専守防衛ではありません。
 現在の自衛隊が9条2項「戦力」の該当性が問題です。そのためには自衛隊
の装備とその運用構想から判断する必要があります。装備の能力と運用構想は、
米軍と一体となって既に我が国から遙か離れた南シナ海までも作戦行動半径に
含めつつあり、後方支援(協力支援活動)ではグローバルな行動、戦闘地域で
の後方支援が可能であることから、9条が想定している専守防衛政策を逸脱して
おり、9条2項で禁止されている「戦力」であると考えざるを得ません。

 
Q13 安保法制が運用されていますが、現在はどのようになっていますか。

A13 南スーダンPKOでは、「駆けつけ警護」と「宿営地共同防護」任務が付与され、そのための武器使用も可能にしましたが、実際にはそのような活動を行うことなく施設部隊は撤収しました。
 9月になってから明らかになりましたが、すでに4月から日本海で弾道ミサイル防衛任務に就いている米海軍イージス艦へ自衛隊の補給艦が給油していました。これは安保法制で改正された自衛隊法に基づく米国との物品役務融通協定(2017年4月改正)による補給活動です。
 5月1日海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」が呉基地の護衛艦と共同して、米海軍補給艦の防護活動を行いました。改正自衛隊法第95条の2外国軍隊の武器等防護活動です。
 いずれの活動も、米軍が攻撃された場合自衛隊は自動的に参戦せざるを得ない活動です。特に外国軍隊の武器等防護活動は集団的自衛権行使の裏口となるものです。しかも、「自衛隊法第95条の2の運用に関する指針」(国家安全保障会議決定平成28年12月22日)では、「自衛隊又は合衆国軍隊等の部隊に具体的な侵害が発生した場合等、本条による警護の実施中に特異な事象が
発生した場合」以外には国民へ情報を公開しないとしています。つまり国民や国会の知らない間に、日本は戦争に巻き込まれる仕組みです。存立危機事態での自衛隊の武力行使のように「重たい手続き」はありません。実に「簡単に」戦争に巻き込まれてしまいます。

 
Q14 総選挙の結果、改憲を標榜する政党の議席が8割に達しています。安倍9条改憲を阻止するにはどうしたらよいでしょうか。

A14 自公で衆参それぞれ3分の2を占め、希望の党、維新の会も9条改正の立場を表明していますので、今後衆参の憲法審査会で議論が進むでしょう。しかし、以下のようにそれぞれの党の改憲項目についてはばらつきがあり、9条加憲での発議に至るかは見通せていません。
 
政党  憲法改正への姿勢・改正事項等
自民  憲法9条,緊急事態条項,高等教育無償化,参議院選挙区合区解消
公明  加憲の立場から,環境権,地方自治の拡充。9条は1項・2項を堅持した上で加憲。
    山口代表は安倍総裁の9条加憲論に消極的見解表明。
希望  9条含め憲法議論を進める。知る権利と地方自治の分権明記。安倍総裁の9条加憲論に
    疑問を呈する。
維新  教育無償化,統治機構改革,憲法裁判所の設置,憲法改正国民投票で現行憲法が未だ
    に国民投票を経ていない等の問題点解消,国際情勢の変化に対応し,国民の生命・財
    産を守るための9条改正
立憲  専守防衛を逸脱し、立憲主義を破壊する憲法9条の改悪には反対。解散権の制限,知
    る権利などについて憲法論議を進める。
共産  9条改正に反対
社民  9条改正に反対

 また、改憲原案を発議しても国民投票で否決されれば、内閣は崩壊するリスクを抱えていますし、何よりも、否決されたことによる安保法制の運用に障害が出ることも想定されます。
 未だ9条加憲の問題点、狙い、危険性への認識があまり広がっていない段階ですが、それでも各種世論調査でも、9条加憲に賛成と反対は拮抗しています。
 安保法制法案反対運動の中で広範な市民の連合体である「総がかり行動実行委員会」が作られましたが、安倍改憲を阻止するために、9条の会も参加してさらに幅広い市民の連合体「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が結成されました。来年5月3日までに3000万人の署名を集める運動を開始しました。この運動の趣旨は、安倍9条改憲の危険性を市民に広げながら、国民の多数が9条加憲に反対していることを3000万署名で示して、発議すれば確実に否決する構えであることを理解させて、発議自体を阻止しようというものです。
 今日の学習会を出発点にして、この運動に積極的に参加されることが重要と思います。

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